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113話 僕はそろそろ大人の階段を昇った方がいいのかも

 僕の我慢はもう限界です。


 あの後ヘーゼルカお姉ちゃんを町まで連れ帰り、宿屋さんで休ませることになったのですが、今もって面会謝絶。

 それどころか連れ帰るまでの間、ラシアさんはヘーゼルカお姉ちゃんに目隠しをし、腕まで縛り上げていたのですから。


「どういうことなんですかっ!?」


 隣の部屋にヘーゼルカお姉ちゃんを運び終え、僕達がいる部屋に戻って来たラシアさんに、僕は飛び掛る勢いでしょうか。

 ちなみにお姉ちゃんを一人にしておくことは出来ないと、今は何故かリヒジャさんが着いているようです。


「リヒジャ様は監視や密偵、それに暗殺などの技術も仕込まれておりますから。人を殺す技術を知るということは、人を活かす技術を知るということ。とくに毒物や薬の知識に明るいのです」


「毒!? やっぱりお姉ちゃんは毒に侵されているとっ!?」


「それよりも尚悪いかもしれません」


「お願いですラシアさん。はっきり言って下さい」


 ラシアさんの返答を固唾を呑んで見守る僕達。

 彼女は勿体つけて……というわけではないのでしょうけど、言い辛そうにしていました。

 しかしやがて決心したのか。

 顔を上げ、真っ直ぐ僕を見たのです。


「ディータ様はこの間十三歳になったと仰いましたよね?」


「えぇ。でもそれに何の関係が?」


「十三と言うと、地方によっては大人と見なされる年齢です。働き手として、戦う者として、家族を守る者として。そして新しい家族を作る者として」


「そう、ですね。ポードランでの成人は十五歳ですけど、確かにそういう地域もあります」


「私としては甚だ遺憾なのです。ディータ様にはもうしばらく純粋なままでいて欲しいですし、なんなら一生そのままでも良いくらいだと思っております。仮に大人になるのだとしても、それはもっとロマンティックで、ムードがあって、甘美な一時を過ごしながらであって欲しいのですが……」


 全然分かりません。

 ラシアさんは一体なんのお話を始めたのか。

 けど一緒に聞いていたリルゼさんは、何かに気付いた様子で「あぁ」と頷いていました。


「やっぱりアレってそういうことなんだ……」


「リルゼは何か分かったのっ!?」


「う、うん。実際どういう状況だったか見たからね。けどちょっと信じられなくて……」


 なんでしょうかこのモヤモヤは。

 彼女達の様子から察するに、ヘーゼルカお姉ちゃんの容態は急を要するわけではなさそう。

 それどころか、危険なものではないようです。

 なのに面会謝絶なうえ、その理由も言い辛いもの。

 賢者の知識がこれっぽっちも働いてくれません。


 すると突然コンコンと控えめなノック。

 リヒジャさんが戻ってきたようです。


「リヒジャ様大丈夫なのですか? 彼女を一人にしても」


「う……ん……。眠……らせ……た……」


 起きているのは辛いだろうからと、リヒジャさんは鎮静剤や睡眠導入剤をヘーゼルカお姉ちゃんに与え、今ようやく眠りについたとのことです。


「容態はやはり?」


「うん……。淫の……気が……酷く……乱れて……る……」


「なんですかそれは? どういうことなんですか?」


 納得し合うラシアさんとリヒジャさんに辛抱堪らず、僕は問い詰めます。

 答えてくれたのはラシアさん。

 大きく息を吸い、なるべく感情を押し殺したような声で説明し始めました。


「分かりやすく言いますと、ヘーゼルカ様は今、とってもエッチな気分になっております。少し言葉を崩すとムラムラしっぱなしとでも言いましょうか」


「エッチ……イケナイこと……」


「ディータ様はそのような知識に乏しいので理解し辛いと思いますが、ヘーゼルカ様は大人の女性ですので、そういう感情をちゃんとお持ちなのです」


 た、確かに僕にはまだ早いことかもしれません。

 エッチな(イケナイ)ことは大人になってからと、さんざん義母(おば)さんに言われていましたから。

 あぁ、だからさっき僕の年齢について言及したのですか。


「で、でも、だからってあんなになるもの? 私もたまに……あの……そういう気分になることもあるっていうか……で、でもっ! あんなにはならないわよっ!?」


 あ、ナティも大人なのですね?

 ひょっとして僕だけ良く分かっていない感じ?

 最後の砦シフォンは……あ、良かった。お菓子食べてます。


「普通ああなることなどありません。今のヘーゼルカ様は自分で自分を律することも出来ず、異常な衝動に苛まされております。ですので毒や薬の可能性を懸念し、リヒジャ様に調べてもらったのですが……」


「アレ……は……そういう……もの……じゃ……な……い。たぶ……ん……呪い……の……類……」


 だから治す手立ては今のところないと、リヒジャさんは唇を噛んでいました。


 しかし僕は、引っかかるものを覚えます。

 治せぬ呪い。そしてムラムラ。


 そうです。

 どこかで聞いたことがあると思えば、これは神獣さんと同じ症状じゃないでしょうか?

 いやでもちょっと待って下さい。

 確か神獣さんの症状は、ミリアシス様でも治せないとか。

 なぜなら従神とはいえ、神獣さんにそんなことが出来るのは同じく神の力を持つものだけだから。

 治すなら呪いをかけた本人に治させるか、もしくは倒すか……。


『魔神の動向』


 もしかして、これってそういうことですか?

 何故ヘーゼルカお姉ちゃんが標的に?

 分からないことはありますけど、そうとしか……。


「あ、それとディータ様。ヘーゼルカ様からこれを預かっております」


 考え事をしていると、不意にラシアさんが見覚えのない物を取り出していました。

 小さな小瓶が七個連なった不思議なオブジェ。

 小瓶の一つ一つには、キラキラと眩く光る何かが浮いていました。

 小瓶は一つだけ空なので眩く光る何かは全部で六個。

 いったい何なのでしょうかこれ。


「分かりませんが、これを壊して欲しいとヘーゼルカ様は仰っていました」


「壊して、ですか? こんなものヘーゼルカお姉ちゃんなら簡単に壊せそうですけど」


 綺麗な細工なので壊すのはもったいないですが、丈夫そうには見えません。

 武王の力なら簡単に壊せると思うのです。

 けれどリルゼさんが首を振りました。


「さっき私も見せて貰ったから壊そうとしてみたんだけどね」


 ガックリとうな垂れながらそう言い、リルゼさんはもう一度実演してみるとオブジェを受け取り床に置いたのです。

 その上に小さな石を乗せ、彼女は拳を振り上げます。

 ここまで数多の魔物を軽々葬ってきたリルゼさんの拳。

 それが


「はぁぁぁっ!!」


 全力で石の上から叩き込まれました。

 当然……というのもおかしいですが、石は砕けるどころか粉々。

 とんでもない破壊力です。


 なのに


「え……? 壊れないどころか無傷……?」


 そうなのです。

 石を粉々にするほど威力のあるリルゼさんの突きを受けても、オブジェは傷一つついていませんでした。

 それどころか僕は気付いてしまいます。

 あの力で床にあるオブジェを殴りつけたのだから、オブジェがとてつもなく硬いものだとしても、その衝撃は床に伝わるはず。

 木製の床にヒビ一つ入らないというのは、どう考えてもおかしいのです。


「どういうことですか?」


「う~ん……。なんか手応えが変なんだよね。まるで雲でも殴ったみたいな」


 となると対物理衝撃魔法アンチショックフィールドでも付与されているのでしょうか?


「なら僕がやってみます」


 リルゼさんからオブジェを受け取り、それに両手を翳します。

 ヘーゼルカお姉ちゃんでもリルゼさんでも無理なら、恐らく物理的に壊すことは難しい。

 けど魔法なら。


「レシビルっ!!」


 一瞬部屋の中が真っ白になるほど強烈な閃光。

 かなり力を込めたとはいえ、ちょっと自分でもビックリな威力です。

 これ上級雷魔法(レシスービルデ)級の威力がありましたよ?


 なのにそれでも


「駄目ですね。まったく無傷です。神伝えの石に撃った時とも感覚が違うので、吸収というより無効化でしょうか。そんな手応えでした」


 いったいこれは何なのでしょうか。

 ただのオブジェじゃないことは確定。

 だいいちヘーゼルカお姉ちゃんがあんなになってまで僕に託した物ですから、きっとこれを壊すことはとても意味のあることなのでしょう。


 ひょっとしたら、お姉ちゃんが呪いを受けた理由もコレなのかもしれません。

 それに七つの小瓶。

 何か嫌な符号を覚えつつ、僕達は途方に暮れたのでした。


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