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107話 僕はゴドルド大陸でお姉ちゃんを探します

 長い船旅を終え、ようやく僕達はゴドルド大陸へ到着しました。

 辿り着いた港町の名前はビヒバハ。

 ゴドルド大陸にはもう一つ港町があるのですが、他大陸から訪れる場合はこちらの港を使うのが一般的です。

 というのも


「凄い冒険者の数ねっ! どっちを向いても冒険者ばっかりよっ!」


「本当だね。なんか腕が鳴るって感じかも」


 ナティとリルゼさんがワクワクしているように、冒険者ギルドの頂点ともいえるギルドがこの町にあるからなのです。


 もともとゴドルド大陸は凶悪な魔物が多く、危険地帯として知られる場所。

 それゆえに冒険者の数も多く、世界中から腕に覚えのある冒険者がこの町に集まっているというわけです。


「数が多いだけでなく、皆様歴戦の猛者といった風体ですね」


「そうねっ! ほら、あそこにいる戦士っ! 胸に竜伐章を付けているわっ!」


「わーっ! ドラゴンを倒したことがあるなんて、名の知れた戦士なのかな?」


 それだけの人材が集まる町ですから、危険なゴドルド大陸とはいえここは安全地帯。

 もっともそれだけの人材が居てもなお、危険な大陸とも言えるのですが。


「ゆっくりしたいところですけどごめんなさい。さっそくヘーゼルカお姉ちゃんの情報を集めに行ってもいいですか?」


 皆さんは観光気分になってしまっているみたいですけど、ここに来た理由はヘーゼルカお姉ちゃんを探すためですから。

 逸る心を抑えながら、僕はそう切り出しました。

 まぁ皆さんが観光を望むなら、僕だけで探しに行くというのもアリなんですけど。というかその方が安全な気もしますし。

 しかし


「えぇもちろんよっ! その為に来たのだしねっ!」


 やっぱりというか、ナティは着いて来る気満々。


「人手は多い方が捗るかと。私もお手伝いさせて頂きます」


「うん、そうだね。皆で探そう!」


「……んっ!」


 有難いことに、ヘーゼルカお姉ちゃんをさっそく探すという案は満場一致で可決。

 ということで、全員で情報を集めることになったのです。


 とはいえ全員一緒に行動するのも無駄なので、町からは出ないという約束をして一度解散。

 それぞれがヘーゼルカお姉ちゃんの話を聞いて回り、夕食の時間になったらご飯も食べれる酒場『ドラゴンの丸焼き亭』に集合ということになりました。


 安全な町中といえど当然シフォンを一人には出来ず、彼女は僕と一緒に行動。

 ラシアさんもナティから離れるわけにはいかないので、三グループに分かれての捜索となりました。

 僕はシフォンと手を繋ぎながら、道行く人に訊ねていきます。


 最初に声を掛けたのは、武器屋の前で唸っている戦士さん。

 大きな体を包み込む鈍色のフルプレートからは、激戦の爪痕がいくつも伺えます。


「すいません。ヘーゼルカお姉ちゃんを知りませんか?」


 あぁん? と大仰に振り返った戦士さんは僕とシフォンを交互に見てからしゃがみこみ、視線を合わせてくれました。


「迷子か? 子供が遊びに来るような大陸じゃねぇんだがな」


「迷子というか人探しで。ヘーゼルカお姉ちゃんが来たと思うんですけど……」


「だから、それを迷子ってんだろ? ギルドにでも行きゃなんか分かるんじゃねぇか?」


 うぅむ。

 左手にシフォンを装備した状態だと、ただの迷子扱いになるようです。

 かといって手を離すわけにもいきませんし……。


 背を向けて歩き去る戦士さんから教訓を得て、次なるターゲットに声を掛けます。

 今度は優しそうなお婆ちゃん魔法使いさん。


「すいません。人を探しているんですけど」


「おやおや。妹さんを肩車にして観光かい? 妹思いのお兄ちゃんだねぇ」


「観光ではなく人探しなのですが……」


「なぁるほど。遠くまで見えるように肩車してるってわけだぁね。賢い子だよぉ」


「え、えぇ。それでヘーゼルカお姉ちゃんを見かけま――」


「肩車と言えばねぇ。この間倒したギガフロッガーって魔物は背中に子供なのかねぇ。乗っけながら襲ってきたんだよぉ。魔物にも親子愛のようなものがあるのかねぇ。最大火力で一緒に送ってあげたけれどさ。ありゃあ後味が悪かったもんだよぉ……」


 結局よく分からないうちに、お婆さんは武勇伝と飴を置いて立ち去って行きました。

 人探し。全然捗りません。

 とりあえず手を繋ぐと迷子扱いなので肩車にしたのですが、これも意味がなさそうだとシフォンを下ろ――


「……やっ」


 せません。

 ガッチリと頭にしがみつき、足で首まで絞めてくる始末。


「シ、シフォン……。苦しいんですけど……」


「……おりるの、やなのっ」


「いやそうじゃなく……。お兄ちゃん死んじゃう……」


 ていうか、いつの間にシフォンはこんなに力強くなってたのでしょう。

 将来ムキムキさんになる妹の姿は……ちょっと嫌なんですけど。

 ホワイトアウトし掛ける脳内で、これでもかと広背筋を見せ付けるシフォンの未来を幻視し、僕はげんなりなのです。

 兄妹喧嘩、絶対勝てそうにありません。


「こほっ……危うく本当に死に掛けました……」


 僕の様子がおかしいことに気付いてくれたようで、ようやく首を絞めていたシフォンの足から力が抜けてくれました。

 けれど結局降りてはくれず、そのまま人探し続行。

 ここは大人しく、冒険者ギルドに行ってみることにしましょう。


 町の一番大きな通りを真っ直ぐ北へ向かうと、四階建てで石造りの建物。

 世界で一番強い冒険者達が集まるという、ビヒバハ冒険者ギルドがありました。


 長方形の建造物ですが、横幅だけで普通の民家が十棟分くらいでしょうか。

 近くで見ると、その大きさに圧倒されます。

 入り口も四つあり、一般冒険者用、専属冒険者用、依頼人用、スタッフ用と分かれているようです。

 僕達はどれでしょう?

 用途的には依頼人用な気がしますけど、別に依頼を出すつもりはないですしね。

 ならば一般冒険者用かなと、その入り口をくぐろうとして


 ――ゴンッ


「あ……」


 シフォンを肩車したままでした。

 どうやら彼女は入り口の天辺に、頭をぶつけてしまったようです。


「だ、大丈夫ですかシフォン?」


「…………」


「シフォン?」


 僕の頭を掴んでいたシフォンの手が、握り拳を作って僕のこめかみを挟み込み


「いだだだだだっ!! シフォンっ!! それ痛いっ!!」


 グリグリと捻りを加えながら締め付けてきやがったのです!

 痛いです!

 半端なく痛いです!


「ギブっ! ギブですシフォンっ!」


 あまりの痛みに膝をつくと、トンッとシフォンが地面へ着地。

 額に出来た真っ赤な横筋に手を当てながら、半泣きで僕を叱責でしょうか。


「……なんでいっつもゴンするのっ!」


 いやいや。

 いっつもってなんですか。

 なんなら肩車だって今日が初めてなんですけど?

 泣きたいのは僕のほうです。

 けれど


「ご、ごめんなさい」


「……もうっ! まったくもうっ!」


 プンプンのシフォンには言い返すことも出来ず、僕は頭を押さえながら謝罪一辺倒なのでした。

 そんな様子を見兼ねたのか、ギルドのお姉さんが近付いてきたようです。


「はい初級回復魔法(ルオナ)。どう? 痛みはとれた?」


 ポワッとした優しい光に癒され、たちまち痛みが和らいでいきます。

 そういえば僕も回復魔法くらい使えるのですが、こういう場面で使用することを思いつきませんでした。


「ありがとうございます。おかげで楽になりました」


「……ん。ありがとー」


「どう致しまして。ところで君達はどうしたのかな? 冒険者っていう風にも見えないけど……」


 白いブラウスの胸元には青いリボン。

 どうやらギルド職員の中でも中堅どころの方のようです。

 ちょうど良いのでこの人に聞いてみましょう。


「実は人探しをしていまして」


「ん~、それなら依頼人用の入り口かなぁ」


「あ、いえ。依頼を出すつもりはなく自分で探すつもりなのですが」


「あ~なるほど。それで情報はないか聞きに来たのね?」


 ようやく話の通じる方に会えたみたいで、嬉しくなってしまいます。


「はいっ! ヘーゼルカお姉ちゃんを探しているんですけど、何か知りませんか? ディアトリさんと一緒に魔王を討伐しに来ていた筈なのです……が……お姉さん?」


 初めはニコニコと優しい笑顔で聞いてくれていたギルドのお姉さんでしたが、途中から態度が一変。

 凄く難しいお顔に変化してしまっていたのです。

 そしてそれは周りにいた冒険者の方々も同じようで、なにやら睨みつけるような視線まで感じます。


「ど、どうしたんですか?」


 ちょっと怖くなって、恐る恐る聞いてみると


「あのね……? その名前、あんまり出さないほうがいいよ……」


 予想外の忠告をされてしまったのでした。



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