プロローグ
「中級雷魔法っ!」
勇ましい掛け声と共に、魔法使いのお姉さんが指から電撃を放ちました。
ジグザグの軌跡を描いたそれは見事に氷の巨人、アイスジャイアントの巨躯を貫きます。
――しかし
「く……っ!! 効いてないのかっ!?」
巨人の進行は止まらず、そのまま剛腕がディアトリさんに襲い掛かってしまったのです。
ですが、勇者候補であるディアトリさんを守るのはパーティーメンバーの役目。
僕の義姉である、武道家のヘーゼルカお姉ちゃんがその剛腕を受け止めました。
「お姉ちゃんっ!!」
ズシンという衝撃で、お姉ちゃんの足元が陥没。
それだけで、巨人の攻撃がどれだけ脅威なのか分かります。
けど心配の声をあげた僕は、逆に怒られてしまいました。
「いいからっ! 私に構わず攻撃しなさいディータっ!!」
そうです。
こんなところでまごついている暇はありません。
僕とお姉ちゃんは、ディアトリさんを本物の勇者にするために頑張ってきたのですからっ!!
「初級雷魔法っ!!」
魔法使いさんとは違い、初級までしか魔法を使えない僕。
しかし一日も鍛錬を休まなかったおかげか、自分で言うのもなんですが威力には自信があります。
バリバリっと空気を引き裂く音を発し、その雷はアイスジャイアントの胸部へ命中。
着弾点には爆ぜるような亀裂が走り、やがて轟音とともに巨人が崩れ落ちていきました。
「よし、今だっ!!」
するとすかさずディアトリさん。
勇者候補らしい勇ましさで駆け出し、落ちて来た巨人の頭に剣を振り下ろしたのです。
「そりゃあぁぁぁぁっ!!」
ガキンという鉄と氷のぶつかる衝撃音。
それを最後に、付近の町を恐れさせていたアイスジャイアントは討ち果たされたのでした。
勇者候補のディアトリさんによって。
……。
町の人々から泣くほどのお礼を言われた僕たちは、ご厚意に甘える形で町長宅で食事をご馳走になっていました。
話が弾み始めると、その内容は必然的に今日の武勇伝へと移行します。
「そこでディータ君の魔法が炸裂しましてねっ! 彼はまだ幼く見えますが、なんと世界最年少で賢者になった少年なんですよっ!」
「ほほぅ! さすが勇者様! 人望がなければ、こうも有能なパーティーは組めないでしょうな!」
ディアトリさんの話に、町長さんが感心したように聞き入ってます。
でも僕の話はやめてください。
恥ずかしいじゃないですか。
「しかしこんな少年の魔法があの巨人を貫くなど、俄かに信じがたい話です」
「もちろんトドメはディアトリ様の剣に決まってますぅ。私たちはそれをお助けするのが精いっぱいですからぁ」
さっきまでヘーゼルカお姉ちゃんの腕を治療していた僧侶さんも、意気揚々と話に加わってきました。
彼女の言うことはもっともですね。
さすがはディアトリさんなのです。
「それはそうでしょうとも! いやぁ心躍るお話ありがとうございました! 私は席を外しますが、どうぞごゆっくりお楽しみください」
宴もたけなわ。
十分に満足したのか、ニコニコ笑顔で町長さんが席を立ちました。
すると今まで静かだった魔法使いさんが僕の横に座り直し、敵意ともとれる視線を向けて来たのです。
「ふん。あまり調子に乗らないことね。私の魔法で弱っていたから、ディータの初級程度の魔法でも効果があったんだから」
「いやいや、ディータ君の魔法を侮ってはいけないぞ。それに彼は、僕があげた指輪をしているのだしね。外してはいないんだろう?」
即座に僕をフォローしてくれたディアトリさんが、いつものように確認してきました。
なのでそれに応え、僕は指輪の嵌められた右手を見せます。
「うんうん。この指輪は魔力を高めてくれるけど、一度外しただけで効果が無くなってしまうからね。ちゃんと付けておかなきゃ駄目だよ?」
「はい、分かってます」
賢者だからと慢心せず、武器や道具で力を補うべき。
そう言ってディアトリさんがくれた指輪は、その日からずっと僕の指に嵌められているのです。
それを誇らしげに掲げたのですが、なんとなく僧侶さんと魔法使いさんの目に嘲笑が浮かんでいるような……。
いえ、きっと気のせいでしょう。
だって僕たちは、いがみ合うことがあってもパーティー。
勇者候補のディアトリさんを補佐する仲間なのですから。
……。
宿に戻ると、僕とヘーゼルカお姉ちゃんは一緒の部屋に入ります。
部屋割りはいつも僕とお姉ちゃんが一緒で、他の三人はもう一部屋。
きっと向こうは手狭でしょうけど、一番子供である僕を気遣ってくれているのでしょう。
申し訳なくなってしまいますね。
「ねぇ、ディータ」
ベッドに腰を下ろし、傷の具合を確認しながらヘーゼルカお姉ちゃんが声をかけてきました。
でもどうしてでしょう?
なんとなく、その声は少し沈んでいるように聞こえます。
今日はアイスジャイアントを倒した、お目出度い日だというのに。
「どうしたのお姉ちゃん? 傷が痛むなら、僕も初級回復魔法をかけるけど」
「そうじゃないわ」
ゆっくりと顔をあげたお姉ちゃんは真っすぐ僕を見据えていて。
その瞳には、決意のような固さがありました。
「新しい魔法やスキルは覚えた?」
一番触れて欲しくない話題。
グサッと心にナイフが刺さったようです。
「ま……まだ……」
きっと怒られる。失望される。
そう覚悟して目を瞑った僕ですが、しかし罵声は飛んできませんでした。
「そう……」
遠くをみつめるお姉ちゃんが何を考えているのか、今の僕には知る由もありません。
「そのほうが良いのかもしれないわね」
僕に聞こえないほど小さく呟かれた言葉。
それを最後に、会話は途絶えたのでした。
新しい魔法やスキル。
今の職業を維持するためには、これを習得する必要があります。
なので魔物との戦闘はもちろん、来る日も来る日も僕は魔法の鍛錬を欠かさず行ってきました。
しかし一向に新しい魔法が使える気配はなく……。
ついに職業更新の日を迎え、僕は足取りも重く職業更新所へと向かうことになったのです。