プロローグ的なもの
人間と魔族。
それは、世界に存在する二つの種族である。
人間は世界で一番繁栄している種族である。比較的に他の種族と比べて弱いが、多くの文明を作り出してきた事もある。
魔族は人間と敵対している種族。魔物を生み出し、種族の中では一番強大とされていた。
ある日、人間と魔族は大規模な戦争を起こした。
人間は三人の勇者と七人の賢者が率い、
魔族は十人の魔族長が魔族と魔獣を率いて戦った。
そして、三人の勇者は魔族王を封印する事に成功した。自らの王を封印された事により、魔族達は人間に従った。
十人の魔族長は世界の至るところに封印され、魔族王が生み出した災厄、神滅魔獣は厳重な術式による封印を受け、今もなお眠っている。
だが、魔族王は封印される直後、とある事を仕組んでいた。
肉体と魂を分離させて、肉体を封印させて生き残ろうとしたのだ。
だが、魂だけでは消滅するので魔族王は人間を依り代にすることにしたのだ。だが、普通の人間の身体では、魔族王の魂は耐えきれない。
そして、魔族王は決めた。絶対の禁術である魔法を使う事を。それは、この世界とは別の世界から人間を呼び出すという魔法なのだが、かつて人間が一人の勇者を呼び出す際に使ったとされている。そして魔族王は、とある事を思い付いた。
──その勇者の末裔を呼び出し、我が依り代としてやろう。
自らを封印した勇者の末裔を肉体としてやれば、かの勇者も怒り狂うはずだろう。魔族王は笑いを隠しきれなかった。
──成功した!成功したぞ!!
「ん?これが異世界転移なのか?」
魔族王は目の前に立っている青年を見ると歓喜の声(死んでるから周りには聞こえないが)をあげた。力はそこそこあり、魔力も眠っている。人間にしてはいい肉体だ。周りを見渡している人間を見て魔族王は憐れんだ。これから自分がどうなるかも知らないとは、そう嘲笑を浮かべた。
──さぁ!貴様の肉体を、我の為に捧げるがいい!!
魔族王は青年に向かって突っ込んだ。青年の肉体を手に入れる為に。そして、魔族王は想像した。復活した自分が勇者達に報復できる事を。
ガシッ
──え?
「さっきから何喋ってんの?あんた」
青年の腕は魔族王の魂をガッシリと掴んでいた。魔族王は魂となってから、自分から武器に憑依したが、触れられたのはこれが始めてだった。
──いや、待て待て待て!おい、貴様!何故、我に触れられるのだ!?
「いや、手を伸ばしたら何か捕まえられた」
魔族王の当然の疑問に、青年はそう簡単に説明し、何を言ってんだ、こいつ?みたいな顔をした。
「んー、どうすればいい?おっさん」
──我が知るか!後、おっさんだと!?我を誰だと思っている!?
いや、知らないからと言い、青年は魔族王の魂を掴んで、周りを散策した。その間も魔族王はギャーギャーと騒いでいたが。
──ッ!まずい!おい、人間!時間はない、我を何らかの物に押し当てよ!!
「え!?あ、あぁ、わかった!………これにするか!!」
魔族王の異様な慌てっぷりに、戸惑った青年は近くに置いてあった剣に勢いよく押し当てた。
すると、どうした事か、普通の剣がその形を変えて、歪な黒い剣になったのだ。おぉ、凄いなと青年は感嘆していた。
──ふぅ、何とか助かった………だが、不味いな……
「ん?何がだよ?」
剣から出てきた魔族王の困ったような声を、青年は気になった。
──我は今、剣に宿ったのだ。もう一人では動けん………………。
「そっか、んじゃ行くか」
魔族王の苦悩を無視して、青年は部屋の外へ歩き出した。
魔族王の宿る剣を担いで。
──おい!貴様!我を連れていくのか!?
「あぁ、だって一人でいるのは嫌だろ?」
剣から困惑した声が聞こえるが、青年は当然だろ?と言ってそのまま歩き出した。扉を開けて出ようとした時、青年は立ち止まった。
「そうだ、おっさんの名前は何?」
──おっさんではない、我が名前は…………
魔族王ヴァルグレア・クレムウェルだ。
魔族王いや、ヴァルグレアの名前を聞いた青年は、少し考え込むと、思い付いたように言った。
「長いから………ヴァルでどうだ!?」
──良いわけあるか!!?
ヴァルグレアは無論、青年の意見を否定した。自分の名前を省略された事もあり、少し苛立ったようだった。
「じゃあ、行くか!ヴァル!」
──おい!貴様に聞きたい事がある!!
剣は彼の手から離れ、地面スレスレに浮いていた。そして、青年に向かって剣先を向けた。
──名乗れ
「え?」
──お前の名前だ、我と共に動く者の名前を知りたい
青年は呆然として硬直したが、ヤハハと大声で笑った。剣はその事に不安がり直立不動になっていた。そして、その剣に向かって拳を突きつけた。
「俺の名前は、神凪 秋斗。よろしくな!ヴァル!」
彼の言葉に魔剣は不満そうに刀身を震わしていたが、何故か少し嬉しそうだった。
──ヴァルグレアだ。……………よろしく頼むぞ、人間。
秋斗だよ!と言う青年の言葉を無視して剣は、彼の目の前に移動した。彼は近くからベルトを少しいじり、剣を掛けておく鞘を作った。
──おお!これなら楽だな!
剣の嬉しそうな言葉に苦笑いを浮かべて、青年は建物の外へ出た。青年は建物の出口に立つと、扉に手を当てた。
「行くぜ!相棒!異世界だろうが、やってやろうじゃねえか!!」