ep.3 乱入者
設定はいいと思うんですよ。
何分構成力が足りないので。
えぇ。
『気をつけるんだよ。いくらゲームとはいえ相手も私のようなAIが積んであるんだ。単純な思考回路では動かないから留意するんだぞ』
昌疾と聖の駆るAMの脚部に衝撃が入った直後、ミントが追加で警告を入れる。
たしかにそれは厄介だな、と考えつつも昌疾はマップと実地を照らし合わせ、バリケードの位置などを大雑把に把握する。
「逃げ道を確保する、目に付くバリケードは壊していくぞ」
『了解』
工場に関してはどれだけ破壊しても問題はないとこのことで、ミント曰くいくら壊しても作り直せばいいとの談である。いくら企業庁の所持物だとはいえ市政庁もやりすぎなのではないのだろうか。
(まあいいか、考えるのは後だな)
『バリケードの奥に敵性反応を確認』
『「了解」』
2人はバックブーストを点火しバリケードへと突入する。使い方は……ゲームの補正なのだろうが、いつの間にか理解していることに気がつく。
「突撃後、片っ端から敵を掃討するぞ」
『おーけぃ』
AMの突撃のみによってバリケードの封鎖が崩れ落ちる。それほどに有り合わせのバリケードは脆く、弱かったのだ。
「くそぉぉ!!」
「撃て! 全弾あいつらにぶつけてやるんだ!」
「よし、……やるぞ」
『気は進まんが、仕事だしな……』
Armの弾はそれほど痛いものではなく、このAM自体の装甲ではじけるほどだ。それほどに遺物と新世代の兵器の格差を示している。
どれだけ足掻こうともこの工場員たちだけでは勝てる未来などない。
「何なんだこいつ、兵器としての、質が、違いすぎる……!!」
「一旦、引けるものは引け! こちらの体勢を立て直すぞ!」
流石に序盤で損失に気がついたのか引き上げていく。
『チッ、待ちやがれ!』
「よせ、深追いするな!」
実体刃のブレードを取り出し、飛び出そうとする聖を昌疾は静止する。
歯痒そうに唸るも聖は飛び出していくこともなかった。
「予定より弾数の減りが多い。そしてあれだけやって敵の数が減ってない」
『正しい判断だよ、昌疾くん。敵の数が情報よりも多いことに気がついてるよね?』
「嵌められた?」
『察しがいいね。ほんとあの父親とは比べ物にならないよ』
「そして、これはミントさんにとっても想定外ってことだよね」
『そりゃそうさ。インストラクターがチュートリアルに無理難題を押し付けたらクビどころじゃ済まないよ。それこそ物理的に。いやデータごとやられちゃうさ』
サラリとミントがとんでもないことを口走っているが、おどけているので想定外だということなのだろう。
信じても良さそうだ。
『いやー、まさか何者かがこちらの定めたシナリオに介入するとはね』
「当然、切り抜けなきゃならないんだろ。なら、返り討ちにしてやるさ」
『おい、ちょっと昌疾!?』
『はは……何者なのーとか聞かないのね……』
昌疾の突然の豹変ぶりに焦る親友であるが、ミントは雰囲気に合わぬ軽い口調で言う。
『ミントさん……分かるんですか?』
『あー、わかんにゃい。まあ、昌疾も珍しくやる気を出してるし? そこらはどうにか切り抜けた後にでも調べるつもり』
『えぇ……』
ふと隣を見るとその瞬間に轟音が鳴り響き、目の前を進んでいた昌疾の機体が見えなくなった。
(昌疾……、そんな。いや、まさか……)
焦り、辺りを見渡すと壁には穴が2つ。その穴と穴を線で結ぶと、先程まで昌疾がいた所と重なる。
つまりは強襲だ。
『昌疾くん!!』
『昌疾!?』
『てめえの相手は俺たちだぜ……!!』
『……ッ!?』
外部音声が拾われて機内へと流れ込んでくる。
聖は気づくことは無かったが、この声は先程撤退を指示していた男と同じである。
『聖くん、気をつけてくれ。この工場の奥より何かが出てくる! 熱源、巨大……! その上周囲に昌疾くんの反応どころか機影のすら見えん!!』
『くそっ、何だってんだよ!?』
奥から出てくるのは黄色いゴテゴテとしたブルドーザーらしき何かだ。大きさは言うまでもない、AMの二倍は優に超えている。
簡単に言えば、破壊兵器である。
『傭兵さんよー、ここで武器を下ろしてくれたら中身の四肢をもぐだけで許してやるぜ! ケケケッ!』
嫌な笑い声が周囲に響く。
全面には巨大な回転刃が8枚ほどが、AMを地面のコンクリートと混ぜこまんとばかりに高速回転している。
左右にはアームとして取り付けられたドーザーのシャベルが取り付けられている。技術力を考えると、このような工場で開発できるような代物ではない。
明らかにどこからが持ち込まれた代物だ。
『ミントさんは昌疾を、……頼みます!』
『だけど……』
……勝ち目はない。言葉を詰まらせるミントに意を決して聖は言う。
自身がこのドーザーと戦うよりもどこかに連れていかれた昌疾のことを心配してのことであった。
『昌疾を、頼みます』
『分かった。でも敵の解析は続ける、期待はしないでほしい』
『はい……!』
・
「うぅっ、ぐぁっ、ここは?」
不気味な赤茶色に錆びたような空。
その下で不気味に揺らめく黒い機体。
『へっ、気がついたか。一つ教えてやるが、ここは工場の敷地外』
「黒い、AM……!!」
何が何だかは分からない。
わかることはただ一つだ。
まともに戦えば、死ぬ。
『その分だと俺のことはよく知らないようだな……。ある意味、新鮮だな』
言葉の後で男の声色が高まり、クヒヒと笑う。何が、楽しいのだろうか。
『おうおう、黙りちゃんか。折角俺が話してやってんだ。少しくらい楽しくやろうぜ?』
「……!」
男は尚も声色をあげたまま話しかけてきている。気持ち悪いというのもあるが、何よりも恐怖が先立って声が出ない。
『……と、…………るか、まさ……!!』
輸送機からの無線が入るがノイズが激しく聞き取るのも困難だ。
「ミント……!」
『んァ? ああ、参戦領域外に小型の機影か。空中待機してるのを見るに輸送ヘリか。いいだろう撃ち落とさないで置いてやる』
つまらなさそうに男は鼻を鳴らす。
だが男はその直後に面白そうに笑い、再びその口を開く。
『……いや、折角だ。この俺が慈悲をかけてやろう。ヘリは見逃してやる』
あちらから急に襲っておいて、突然この男は何を言っているのだろうか。
『代わりに、あそこにAMが見えるだろ? ガラ空きな背中を撃ってみろよォ。そんな満身創痍じゃ俺とやりあうのも無理だろォ?』
(このままだと、殺される……)
『ハッ、そんななりたてほやほやの新入りちゃんだとオトモダチを撃つのも億劫なもんかァ』
男の声は笑っていた。そして嗤っている。まるで人のようで、昌疾は仮想世界だというのに冷や汗が止まらないような錯覚に陥る。
『新入りちゃんにはちょっとシゲキが強すぎたかァ。やりすぎたァ失敬失敬』
『メルクーリオ、依頼の内容を大きく逸脱している我々が殺しては意味がない。ただ、これも丁度いい機会だ』
『わァーッたよ。しかたねェなァ』
突然、目の前の機体が会話を始める。
ガゴッ、何かの衝撃音と共に広範囲に土煙が舞う。機体のブースターの推力を支えにバランスを崩さず、昌疾は無意識に残されていた腕と両足で地面を強く弾いていた。
「あぁっ!?」
刹那。紛れ当たりだろうか。
『そんな、バカな!?』
鋭く突き出した小型ブレードが黒い機体を刺し貫く。
『ランカーAM、NO.15、【メルクーリオ】、機能停止を確認。各部損傷が甚大。戦闘機能を停止します』
システムAIの音声が機内に響く。そして昌疾の機体も機能を止めた。動きはするがブレードが抜けない。
これ以上らなにをしても意味がないと悟ったのか、それとも上空に見える言い知れぬ安心感からか。
昌疾の意識は奥へ奥へと沈んでいった。
ep.3乱入者、完ッ!!
にゃんこ先生の次回作にご期待ください!!




