ep.1 キャッチアンドセールス?
ほんの少し書いただけ書いたロボものVRゲームのお話です。突飛すぎて書き直しの余地もありひとまずこのような形で供養します。
まあ投稿中に創作意欲が沸けばあるいは……?
この作品を読んで喜んでいただければ幸いです。
ここはとある昼下がりの、どこにでもありふれた何の変哲もない普遍的な市街。
ある少年の学校帰りのひょんな出来事であった。人によってはとんでもないことなのかもしれないが、この少年にとっては気にするまでもない些細な出来事。
「君、このゲームのβテスターになってくれないかなぁ?」
人によってはこうやって知らぬ人に声をかけられることは忌避されたりすることであろう。実際それを少年の隣で見ていた友人はわずかに頬を引きつらせている。
だが、声をかけられた少年は足を止め、男の言葉に耳を傾けている。
「な、なぁ、流石に絶対詐欺だって。放っておこうぜ……?」
「いえいえ、そんなことはありません。こちらが私の名刺です。ぜひお見知り置きを」
声をかけてきた男は必死に食い下がるが、この友人の言っていることは誰もが頷ける事実ではある。突如としてまだ開発途中の完全没入式のVRゲームのβテスターにならないか、と言われたのである。当然プレイするにはそれ専用の機器が必要になるし、その価格は口にするのも憚られるほどに高価だ。
「それにこれって、最近巷で話題になってる抽選式のテスター募集やってる奴でしょ。それをこんな簡単にテスターやりませんか、だなんて馬鹿げてるってば」
それに抽選をした人達が不平等な思いをするだけである、と小声で付け加える。
「まあ、そうは言っても拒否権はないんですけどね……。そこにいる友人さんもご一緒にどうです?」
突然話題の矛先を自身に振られたのが驚いたのか、少年の友人は慌てふためきつつも苦笑を浮かべ黙り込む。
応募倍率も非常に高く、そんなものができる二度もない機会である。一介の学生には即一蹴することも難しい。
「……ねえ、拒否権がないってどう言うこと?」
今まで黙り込んでいた少年が口を開いた。それを聞いた男がニヤリと口を歪めて少年の言葉に食いつく。
「よくぞ、よくぞ聞いてくれた!」
男は呆れるくらいにオーバーにアクションを取ると少年とその友人の顔の間に顔を近づけ、小声で言う。
「君のお父さんなんだがね、この開発プロジェクトの中核を担っているんだよ。本人からは言うなと口止めされていたんだけどねー」
男の言葉通り、少年は自身の父が大それた計画に関わっていようなど耳にも挟んだことはなかった。そもそも父がどのような仕事をしているのかすらも聞き及んだことがないほどに。
「……へえ、そっか」
「ほぁ!? そうだったのかよ!?」
二者で大きな反応の差である。
とはいえ、初めて知った事実に本人はさも当然のように返答をし、何故か自身の事でもない方が驚いてはいるが。
「なんと。予想外なリアクションだな……」
男の方も双方の天と地ほどの反応の違いに先ほどまでの飄々としていた表情を引きつらせる。
それもそのはず、普通の高校生であるならば自身の親がビッグプロジェクトに関わっていると知ればオーバーなくらいのリアクションを示すはずだ。
まさに隣にいる友人みたいに。
「な、なあ昌疾!? マジなのかよ、それって!?」
「……さあね、僕の知るところじゃない」
自身の肉親の事であると言うのにサッパリとしたものである。流石に友人も毅然としすぎたその返答には苦笑すら返せず釈然としない顔をしている。
「まあこんな奴であることは分かってたが……」
まさかここまでとは……。口には出なかったがやりとりを見ていた男も同意見であった。
「ああ、……重症だな。これは」
男の奮闘の結果、どうにか少年達にβテストのチラシ+チケットを押し付けることに成功した。
友人の方は後半から乗り気になっていたのだが少年の方は最初から最後までを通して、一貫したあの姿勢を崩さずに骨が折れたらしい。
最後には折れて渋々受け取っていたらしいのだが。
・
少年こと、狗衣昌疾は自身のベッドの上にて深くため息をつく。それは当然ながら、一身上の問題である親の作ったゲームへの参加権への想いである。
「券、貰ったはいいんだけど……」
どうにも、行く気にはならない。否、これは正しくない。行きたい気持ちもあるが行きたくない気持ちに微妙に負けている、である。
今までの傾向からしてゲーム中にはとんでもない地雷が隠されていることはまず確定であろう。
昌疾自身の父がいやらしい笑みを浮かべているのが頭に浮かぶが、イライラしてその映像を無理やりかき消す。いつの間にやら勝手な事をしでかした事に自分の頭を殴る。続けて深呼吸をして冷静になろうと試みる。が、
『えっ、まさかここまで来て……?』
あの父の幻聴が聞こえて、再びあの笑みが思い浮かぶ。思わず声を上げてベッドの上で悶えるが状況は遅々として変わる様子はない。
『えっ、参加しないの……?』
「いやいや、あんたの作る奴は面倒だし……」
昌疾は幻聴に対して返答をする。
実際父が作ったシューティングゲームをやらせてもらったが初見殺しまみれで開始10分で投げた。
ステージのタイトルに殺されるわアイテムに殺されるわでやってられたものでは無い。
『ゲーム、面白いぞ?』
望外な事に返答が帰ってくる。
「それはあんたの意見でしょ」
つい堪らずに返事をする。
なんだかんだ言っているが昌疾は父のことは嫌いではない。もちろん、ゲームに関しても。
『えー、いいじゃない。やろう!』
「どうせまた仕込んでるんでしょ、地雷」
「アッハッハッハッハッ、面白いことを言う。仕込まないわけがないじゃないか!」
清々しいまでにはっきりと聞こえる返事だ。流石にここまで来ると賞賛の言葉さえ掛けたくなる。
「いや、だからね。それだとやる気力さえ起きないんだよ……」
「ひどいやー……」
「……」
違和感に気がついた昌疾が思わずドアを見るとドアを15センチ程開いた間から父の顔が見えている。
「いや、なんだか独り言言ってるみたいだったから……、ね?」
「~~……!?」
再びベッドの上で昌疾は悶える。
いつもならば文句の一つや二つを吐き捨ててその後に悶絶するところなのだが、今回は堪えられる恥ずかしさの限度をはるかに超えている。
どうやら、悶絶の方が先に来てしまったらしい。
「し、思春期真っ盛りの息子の部屋にノックもせずに入ってくるなよな!」
「え、はいってない……」
「領空侵害!!」
「そんなぁ……」
悶絶から復活した昌疾は父へ文句を捲し立てる。対する父は反論するが理不尽にも言葉の暴力に叩き落とされる。
「まあいいよ。今回のことはお父さんにも関わりあるし」
「そうなのか」
「うん」
昌疾は口をへの字に曲げ、父にチラシ(チケット付き)と一緒に貰った名刺を押し付ける。
「ん、これは俺の部下か。ここまでされたのなら仕方が無いか……っでぇっ」
昌疾は突如入ったスイッチに気が付きすぐに頭をスパンキングし、OFFの状態に抑え込む。
「……痛いぞ、狗衣昌疾」
「知るかボケ」
父の悪ふざけには慣れているようで、学校では見せない表情を以てツッコミを入れる。
そしたため息をついて全容を話そうとしない父に質問をする。
「あのさ、これって何?」
「あーそれは、まあ見たまんまだよ。俺がプロジェクトの副主任にはなってるけどそこまで驚くことでもなかっただろ?」
「驚くわ! 内心、何しでかすかわからないから人様に申し訳ない気持ちでいっぱいになったよ!?」
「あー、分かっちゃう?」
「分かっちゃう……!?」
このままではだめだということに気がつき、自身の父は毎度毎度こういうノリではぐらかされることも多いことを思い出す。
楽しければいいと考えている人種はこれだから困る。などとは思うが、一方では嫌いにはなれないなどとも考えている。
「それでね、とにかく詳しく」
「おや、その様子だと興味持ってくれた?」
ずいずずいと身を乗り出してくる父に対して昌疾は身を逸らす。
「お前、ロボットとか好きだったからやらせてあげたかったんだよねー」
より身を乗り出してくる父に対して身を逸らしきれずに後退りをする。そして父は僅かに前身をする。
「やっぱり昌疾なら、やるなら実物!とか言いそうだったけど俺がやれることと言ったらゲームを作ることじゃん?」
「う、うん」
確かにそうだなと納得はするが、如何せん父が前進することをやめないために後退を余儀なくされる昌疾。
遂には壁際まで追い詰められ顔が数10センチまで近づく。
「えっと、顔が……」
「お父さん〜、お母さんが……よん、で……」
妹の侵入によって、部屋の空気が氷点下まで凍りつく。ノックくらいして欲しいんだけど、と昌疾が小声で呟くがそれは後の祭りである。
突如の展開に腐った妹の頭は臨海寸前となる。そして声にもならぬ奇声を上げ、大量の鼻血を爆発させて倒れる。
何故に家族で興奮した。とツッコミたい衝動を昌疾は抑える。
「うおー!? 美鶴綺ー!?」
子供バカの昌疾の父が大量の血を出した昌疾の妹を介抱し、下から駆け上がってきた昌疾の母はパニクって階段を転げ落ちるわ、昌疾の家は阿鼻叫喚の形相を見せるのだがそれはまた別の話。
そんな独特な家族に囲まれながら、昌疾は現実から目をそらすべくチラシを見ていたのだった。
・
翌日。都内某所。
1台の青い乗用車がとあるビルの前に停まる。
自動運転のランプが消えた車から降りてきたのは10代後半の少年2人と40歳半ばの男性が1人。そして、男性はつぶやく。
「ここがあの女のハウスね」
「……ねえ、父さん。流石にそれは引く」
「昌疾、お前の父さんっていつもこんな感じなのか?」
ちなみに車から降りてきたのは昌疾達の3名である。
ちなみに友人の名前は草壁聖という。聖という部分にコンプレックスを感じていたらしいがそれは昔の話だ、と昌疾に語ったのは3年前らしい。とまあそんな情報は置いておく。
大事なことは昌疾と聖は中学時代からの長い付き合いの友人である。
「うん……認めたくないけど」
「あれ!?えも言えない何かが心に染みて目から汗が出てくるなー!」
昌疾は無駄に声色高らかに叫ぶ父をうんざりとした顔で見て、止まる気配も無いので昌疾は小さくため息をつく。
ここで突っ立っていても仕方ないので、父に肘打ちをしてビル内へと向かう。
「ねえ、父さんはここで働いてるの?」
ビルのエレベーター内で昌疾が言いづらそうに口を開く。それもそうであろう、昔ひどい言葉を投げかけた記憶が今更ながら彼の心のキズを刺激している。だが、昌疾の気にかける素振りを気にせずに少し考え込むと、
「違うね、ここにはテスター用の機材を置かせてもらってるだけだよ。まあ、本来働いてる場所の方が小さいけど設備は整ってるもんね!」
負け惜しみかよ、と小さくつぶやくと、そうじゃないよ!と返答が帰ってくる。
こだまだろうか。いや、この人ならではなのだろう。
そんなやりとりを見ながら聖は乾いた笑いを浮かべる。それもそのはず、一緒に来た意味があるのかも分からなくなっているのだ。もしかしなくても、この場に自分はいなくて良かったんじゃ……?と。
と、ここでフォローを入れるのは大人の役目……なのだがそれに気づかぬ役立たずでもある。
現実、それができる大人ならば息子に対してここまで変に意地を張り続けたりしないとは思うのだが……。
「……あ、着いたみたいだよ」
聖の半ば呆れたような声で親子は泥沼化した、地味な言い争い。要するに痴話喧嘩から戻ってくる。
「あ、ホントだ。……行こうか」
「待ってくれよー、昌疾ー!」
「茶番はもういい。わかるね?」
「アッハイ」
これを人は茶番という。と、心の中で聖はツッコミを入れる。
「とりあえず第三サーバールーム2には来ましたけども……」
「父さん、ここからどうするの?」
「ん? えっと、どうだっけな。久々の昌疾と一緒のお出掛けだから寝不足でな……」
聖は遠足前の小学生かよ!と声高らかにツッコミを入れる。心で。
「ありきたりなのにはもう突っ込まんからな……」
昌疾の言葉に少し恥ずかしくなった聖だったが、それは聖だけではなく集まっていた他の参加者もだったとかなんとか。
『まずは皆様、この度は我社の世界初の完全没入型VRゲームのβテスターにご応募頂きありがとうございます!』
見覚えのる顔だと昌疾と聖は思い、記憶と照らし合わせると司会をやっているのはチラシを押し付けてきた男であることが分かった。
どうやら聖としては正規の参加ではないため罪悪感を感じているらしく、なんだか複雑な表情をしている。
かくいう昌疾は身内が開発者だということもあって、とりあえずやってやるかといった気持ちが大きいようだ。
何はともあれ、ゲームについてのの説明は続く。
『まずは皆様に予めご用意いただいたアバターデータをマシンに挿して……』
「……父さん!?」
初耳の情報である。
「大丈夫だ、安心しろ。俺が既に用意している」
そう言って昌疾の父が取り出すのは三つのフラッシュメモリー。それぞれに名前のシールが貼ってあり、順に昌疾、聖、明と書いてあるのが分かる。
「えっ、父さんも参加するの……」
「まあ主催者側として、だが」
「ふぅん」
父が珍しくまともな返答をするのを昌疾つまらそうにながし、その反応に昌疾の父、明は口を尖らせる。
「それじゃ、こっちにはこっちで準備があるからな。俺は重役出勤且つ仕上げ役だし。また会えたら会おうなー。あ、メモリーをマシンに挿すのはカプセルの外でだぞー」
飄々とした感じで明はその場を立ち去る。昌疾は何かを言いたそうにしていたが、仕事があると言った明を呼び止めることはどうやら叶わなかったようだ。
「どうしたんだよ、昌疾。何か気がかりでもあるのか?」
「……いや、何でもないよ。あっても、ほんの些細な事かな」
「そっか」
聖は昌疾が自ずと語ってくれるのを待つことにした。逆に昌疾も、聖にいつかは話そうと決意していた。
そして係員の説明が終わり、機器の装着と接続を終えた昌疾は業務用のVR没入カプセルの中で、一人横になっていた。
カプセルの中は思いの外広く、成人男性が軽く2名は入るのではないかと思うほどである。
これが市販されるようになればどのように変わっていくんだろうか。はたまた変わることもなくそのままで発売されるのだろうか。
流石にこのままだと置くスペース的な意味で問題が発生しそうではあるが。
仮想現実へと没入する前、最後のアナウンスが入った。
『それでは皆さんに、最後の説明とさせていただきます。テストの時間は8時間となっていますが、こちらのビルに備え付けてある最新鋭の機材を以て思考時間を約10倍に加速し、合計84時間の体験を行ってもらいます。また、初期地点にはインストラクターを数名用意しておりますのでそちらを頼ってください』
インストラクターと聞き父の顔が浮かんだ。もしかするとインストラクターとして配置されている可能性もある、根掘り葉掘り聞いてやらなくては。
『没入開始まで……』
機械による開始前のカウントダウンが始まる。なんだろう、この緊張感を無駄に高めていく感じは。
『……3、2、1、リンケージ』
機械音声が一言、リンケージと言い放った瞬間、突如の目眩と頭痛が起こり……。僕は視界が真っ白に染まった。
投稿は明日の20時!




