表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新 VARIATIONS*さくら*  作者: 大橋むつお
9/42

9・大容量メモリー

新 VARIATIONS*さくら*9(惣一編)

≪大容量メモリー≫    



 船を降りるとアキバで潮っけを抜いて帰る。


 といっても一杯ひっかけるわけじゃない。ちょっと遠回りして秋葉原に寄る。ラジオ会館を主にうろうろする。


 オレの乗っている船は「あかぎ」という海自最大最新のヘリ搭載護衛艦で、やっと慣熟公試が終わったところである。新造艦の公試というのは、並の転属艦の倍はくたびれる。

 ラジオ会館は、天下に名の知れたオタクのビルである。昔は名前の通りラジオから電子部品まで扱う電子部品や電器会社のアンテナショップが入っていたが、今世紀に入って漫画、トレーディングカード、フィギュアを扱う店ばかりになった。

 この7月に新館がオープンしたというので、楽しみに寄ってみた。イベントフロアーでは懐かしのウルトラマンショーをやっていた。童心に帰って30分のイベントを観た後、いざ目的のフィギュアの店に寄る。


 キャストのフィギュアを横目に殺し、可動フィギュアの陳列棚を見る。「あかぎ」に関わるようになってからロクに情報を集められていなので、新製品の人形たちにびっくりする。陸自の災害出動の可動フィギュアがあった。今までドイツ兵やアメリカ兵のはあったが自衛隊のそれは初めて見た。それも災害出動仕様。まだ癒えない震災体験と自衛隊への認識が変わったことの現れだろう。顔を見ると、うちの砲雷長に似ているので笑いそうになった。まあ海自や空自のフィギュアは出ないだろうが、少し嬉しくなる。しかし、こんなのが目当てではない。


 あくまでも女性のフィギュアである。オレには「さつき」と「さくら」という二人の妹がいるが、妹とは言え生身の女は手を焼く。正直苦手……というわけではないが、女性の、それもシリコンの可動フィギュアに目が行くF社が1/6で、ころあいのものを出している。

 内部に強化プラスチックの骨格が入っていて、間接が30以上も稼働する。「あかぎ」の前の「しらなみ」の時にハマった。なんせ人並みの姿勢を保持できるので、以前ハマっていたキャストのフィギュアよりも格納という点で優れている。小さな姿勢をとらせると、ショ-トケーキほどの小ささになってかさばらない。4体ほど持っているが、2体は関節を壊してしまった。別にいやらしいポーズをさせていたわけではない。関節にラチェットが組み込まれていて、動かすたびにカチカチと音がする。それが硬くて、少し角度を間違えると骨折してしまう。二体壊してやっと扱いに慣れた。


 それは新製品の棚の上にあった。


 シリコンの宿命である静電気を帯電しにくく、したがって汚れにくい。そしてなにより関節がステンレスになり、動きもスムーズで骨折の心配がない。三種あったが、もっとも日本人的な顔をしているやつ。それと『ルパン三世』の実写版のルパンを買って帰る。


 豪徳寺の駅を降りるころには、佐倉惣一二等海尉から、ただの惣一に戻っていた。


「あれ、見慣れない車があるなあ……」

 そう独り言を言うと、車の向こうからホースを握ったさつきが顔を出した。

「あ、ソーニーお帰り。半年ぶりだね」

「いや、7カ月だ。これお前の車か?」

「うん、バイト先から押し付けられたのホンダのN360Z。これで命拾いしたんだよ」

 さつきは、試運転の時に交差点で当て逃げされかけた話をした。

「このケツの短さで助かったか、良かったじゃないか。しかし、これってほとんどクラシックカーだろ?」

「あちこち手が入ってるから、ただのポンコツ。ヤフオクで似たようなのが8万で落札されてた」

「まあ、今時クーペに乗る奴なんて、ちょっとオタクだろうな」

「ソーニーに言われたかないわよ」


「お帰りソーニー!」


 さくらが抱き付いてきた。昔と変わらないオニイチャン子だが、抱き付かれた背中に胸のふくらみを感じるのには閉口だ。

「あ、デニーズのテイクアウト!」

「ああ、土産だ。みんなで食うんだぞ!」

「はーい!」

 お土産の袋だけ持って、さっさと家の中に消えてしまった。やっぱり十二分にガキだ。

「駅前のデニーズで済ますなんて、ソーニーらしいわ」

「前の日から予約してたんだぞ……なんだこりゃ?」

 後ろのバンパーに大きめのチューインガムのようなものが付いていた。

「やだ、ガムなんか着いてる!」

「ん……こりゃシリコンだな……なかなかとれない。これ、かなりの勢いで貼りつけられたんだな」

「ソーニー、取ってよ」

「うん……」

 こういうところで、シリコンの扱いが役に立つとは思わなかった。


「ソーニー、やらしい。また、こんな人形買ってきて!」


 リビングから、さくらが叫ぶのが、両親の笑い声とともに聞こえた。

「シリコンの中に何か入ってるぞ」

「え、なに?」

 オレは慎重にシリコンをはがした。

「……なんで、こんなもんが?」


 それは、大容量のメモリーだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ