41・ミステイクの一人ぼっち
新 VARIATIONS*さくら*41(さくら編)
≪ミステイクの一人ぼっち≫
コップに半分の水をどう表現するか?
もう半分しかない派と、まだ半分有る派に分かれる。
あたしは「まだ半分有る」派のお気楽人間。
だから、夏休みが半分過ぎても、小遣いが半分になっても「まだ半分有る」と、ポジティブに生きている。
でも、今度の中間テストでは逆だった。
「もう半分終わった!」と思って、マクサと恵里奈とついカラオケでハジケテしまった。
一応は、マクサの家でお勉強という名目だったけど、10分もたつとお喋りになってしまった。昨日日本史のテストで居眠りして蟻さんの夢の話をしたのがよくなかった。マクサも恵里奈もケラケラ笑って勉強にならない。
「ちょっと休憩にカラオケでもいこっか!」
お気楽が伝染した恵里奈が言いだした。言いだしべえは恵里奈だけど、三人とも同じように気が弛んでいたことは確かだ。けっきょくマクサんち近くのカラオケで5時まで遊んでしまった。夢の中の蟻さんが言ってたシンパシーなんだろうけど、気持ちの発信者はあたしだ。それくらいの自覚はある。
三人それぞれ家に帰ってから、今日のテスト勉強はしてるので、ノープロブレムっちゃ、それまでなんだ。
けども、あたしの気持ちはブルーだった。
高校二年にもなろうかと言うのに、あたしは一年先の自分も見えていない。で、マクサや恵里奈のようにクラブとかにどっぷり浸かって高校生活をエンジョイしきっているわけでもない。その時その時の面白いことに引きずられ騒いでいるだけだ。
お姉ちゃんは大学に行きながら出版社でバイト。近頃ではバイト以上の能力を発揮して記事のネタを拾っている。こないだの兵隊さんの髑髏ものがたりなんか、ヒットした記事だ。むろん編集責任は本業の編集者になっているけど、中身はお姉ちゃんが集めてきたものだ。
お姉ちゃんは、確実に自分の道を探り当てつつある。
そうニイは、海上自衛隊の幹部で、全身生き甲斐のカタマリ。
たまに帰ってくると、妹としてはとても眩しい。そうニイの前では相変わらず無邪気でわがままな妹一般で通している。兄貴は「相変わらずのガキンチョ」だと思ってるだろう。
『ゴンドラの唄』が少しブレイクしかけた。YouTubeのアクセスも沢山あって、スカウトなんかも少し来た。
でも、あれはひい祖母ちゃんが歌っているのといっしょ。けしてあたしの力なんかじゃない。それはあたしとひい祖母ちゃんだけの秘密なんだけど、お姉ちゃんは知ってか知らでか、あたしが、流れのままにそっちにいく道を閉ざしてくれている。
本当は、今日の午後はラジオ出演が決まっていたんだけど、お姉ちゃんがNGにしてくれた。
家の近所まで帰りながら、あたしは近所の公園のブランコに揺られている。子供のころから乗り付けたブランコ。あたしは、いつまでこうしているんだろう……。
足許を蟻さんが歩いている。じっと見つめていると、ふいに蟻さんが顔挙げてあたしを見たような気がした。
昨日の蟻さん? まさかね……。




