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新 VARIATIONS*さくら*  作者: 大橋むつお
40/42

40・さくらの中間テスト・中日

新 VARIATIONS*さくら*40(さくら編)

≪さくらの中間テスト・中日≫



 朝からやってもちゅうかん(昼間)テスト……なんて親父ギャグが出てくる。


 要は退屈なんだ。


 今は二限目の日本史。日本史って暗記科目。だから暗記したことをみんな書いたら、あとは退屈なだけ。

 終わりのベルが鳴るまで、あと15分……ちょっと長い。


 気づくと机の上に蟻が歩いている……消しゴムのカスに出会って、触角で何ものなのか確かめている。

「バカね、それは消しゴムのカスで食べ物じゃないわよ」

 教えてやると、まるで、それが聞こえたみたいに蟻が触角を止めてこちらを見たような気がした。


「そんなこと分かってるわよ」


 蟻が口をきいた。


「え?」とは思ったけど、さほどには驚かない。あたしはひい祖母ちゃんの霊とだって話ができる。

「じゃ、どうして、そんなカスに興味があるわけ?」

「考えてるのよ、なんの役に立つか」

「蟻さんが考える?」

「バカにしちゃいけない。蟻だって考えるわ。ただ人間とは考え方が違うけど」


「どう違うの?」


 蟻さんは、直射日光が苦手なようで、机の日陰になっている方に移動した。

「蟻はね、情報を共有して、何万匹って蟻が一斉に考えてるの。それぞれ何万分の一かの脳みそ使って」

「なんだか、あなたって話し方や、言葉が女っぽいけど、女の子?」

「そんなことも知らないの? 蟻はみんな女の子よ」

「へえ、女の子ばっかでたいへんなんだ。そうだ、昔から不思議だったんだけど『アリとキリギリス』の結論て二つあるじゃん。どっちが正しいの?」

「ああ、最後に蟻がキリギリスを助けるか見捨てるかね?」

「そうそう。保育所のころは、助けるって聞いたんだけど、お父さんの図書館で調べたら、蟻はキリギリスを見捨てるの。どっち?」

「両方とも不正解よ」

「両方とも!?」

 あやうく大きな声になるところだった。

「蟻とキリギリスはコミニケーションなんかとらないの。死んだキリギリスは解体して食糧にするけどね」

「へえ、そうなんだ……」

「ちなみに、イソップ童話のもとは見捨てることになってるけど、あれは寓話だからね。それと人間だって蟻が持ってる能力が少し残ってるのよ」

「ほんと?」

「サッカーとか野球とかバレーボールとかの団体競技、なんか全員で一つみたいになることあるじゃない。あれって、蟻同士のシンパシーといっしょね」

「ああ……なるほどね」

「さくら、あなた答え間違ってるわよ」

「え、どこ?」

「硫黄島の読みは『いおうとう』太平洋戦争は『大東亜戦争』が正しいの」

「え、だって、こう習ったよ」

「教えてる方が間違えてるの。注釈付けて書き直す。ほらほら!」

「でも、だって……」

 意志が弱いので書き直すけど、口ごたえしてしまう。

「その読み方と、呼び方は戦後アメリカが日本に強制した呼び方。日本人なら正しい表現をしましょう」

「蟻さんが、どうして、そんな昔のことまで知ってるの?」

「言ったじゃない、蟻は情報を共有してるって。共有って横だけじゃなくて縦にもね……」

「縦って……むかしむかしのこととか?」

「そう、さくらだってひい祖母ちゃんとお話しできるじゃん。それの、もっとすごいの。さあ、もう時間ないわよ急いで急いで!」


 あたしは急いで書き直した。最後の(。)を打ったところで鐘が鳴った。


 鐘が鳴ったら目が覚めた。答案は……ちゃんと書き直してある。消しゴムのカスもきれいに無くなっていた。


 カスにも使い道はあるらしい。



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