35・髑髏ものがたり・4
新 VARIATIONS*さくら*35(惣一編)
≪髑髏ものがたり・4≫
自衛隊員たる者、常住坐臥。機に臨み変に応じ沈着冷静でなければならない。そうである自信もある。
だが、これには驚いた。
久々の上陸休暇で豪徳寺の自宅に帰ると、玄関の框で上の妹さつきが待っていて、そのまま狭いカーポートに連れていかれた。
「ホンダN360Zじゃないか、こんなレトロな車に乗ってるのか!?」
「車は、どうでもいいの。ちょっと中に入って」
180に近いガタイを無理やり助手席に収めると、さつきがシートの後ろから、なにやら小汚い箱を取り出した。
さつきは怖い顔をして蓋を開けた。
で、常住坐臥など吹っ飛んで、驚いた。
そこには、一目で人間のそれと分かる頭蓋骨が入っていた。
「さつき、おまえ、これ……!?」
「そう、髑髏よ。それも旧帝国陸軍中尉の……」
それから、さつきは、その頭蓋骨にまつわる話と、夢にひい祖母ちゃんが出てきて話したことなどをまくし立てた。
「要するに、この中尉殿の身元を明らかにして遺族にお返ししたい。ついては、オレになんとかしろってことだな……?」
さつきは、黙ったまま頷いた。
「……分かった」
当てがあっての返事ではない。激戦のニューギニアで戦死し、その首を刈り取られ、骨格標本のようにされた旧軍人を、自衛隊員としては放置しておくわけにはいかない。
「こんな車の中に放置しておいちゃいけない。仏壇の前に安置しよう」
「でも、お母さん、こういうの苦手だからいやがるよ」
「そういう問題じゃない。車を出せ!」
オレはさつきに命じて、豪徳寺近くの仏具屋に行き、新しい骨箱と4寸用の骨箱覆いを買って入れなおした。
「母さん、殉職した先輩の遺骨を預かってきたんだ、今夜一晩仏壇の前に置かせてくれ」
大きな意味では間違っていない理由を言って納得してもらった。それでも渋い顔をするので話題を変えた。
「さくらのやつ、なんだか急に歌で有名になったな。艦の中でも聞いてるやつがいてさ。『佐倉さくらってのは、君の妹さんじゃないか?』って艦長に聞かれて返事のしように困ったよ」
「困ることないじゃないか、ちょっと曲は古いけど、アイドルの『ア』ぐらいにはなってるんだから自慢しときゃいいじゃない」
「自慢はしないけど、艦長に聞かれて白も切れないから、そうですって返事したよ」
「それでよろしい」
「おかげで、こんなにサイン頼まれちまったよ」
白地に碇のマークやあかぎのロゴの入ったハンカチの束を出した。
「で、さくらは? そろそろ帰ってくる時間じゃないの?」
「フフ、それがラジオに出演するって……あら、そろそろ時間!」
おふくろは古いCDラジカセを出して、無邪気に末娘の紙屑が燃えるようなバカ話に、うんうん頷いて、さつきといっしょに喜んでいる。
オレは、その間、残った休暇で大先輩の身元確認に頭を悩ませるのだった……。




