34・髑髏ものがたり・3
新 VARIATIONS*さくら*34(さつき編)
≪髑髏ものがたり・3≫
「さつき……さつき……」
と呼ぶ声で目が覚めた。
もう夜が明けかけているようで、外はほんのりと明るく、その光をバックライトにして帝都の制服を着た女の子が立っていた。一瞬さくらかと思った。だが、さくらがこんなに早く起きて身支度しているわけがない。という常識が頭をよぎった。
「あたしよ、あたし、桜子よ」
「桜子……ひいお祖母ちゃん!?」
「大きな声出さないで、さくらが起きてしまう」
「大丈夫、さくらは爆弾でも落ちてこない限り目が覚めないから。ねえ、さくら」
「う~ん……」
さくらは寝返りを打ったかと思うと、オナラで返事した。桜子ひい祖母ちゃんがお腹を押さえて笑うのを我慢している。
「でも、ひい祖母ちゃん。ひい祖母ちゃんは、さくら専門じゃなかったの?」
「ヒヒヒ……そのひい祖母ちゃんてのは止してくれる。せっかく、こんな女学生の時のナリで出てきてるんだから」
「じゃ、なんて?」
「さくらって呼ばれてたけど」
「それじゃ、さくらと区別つかないよ」
「じゃ、桜子。ちょっと呼びにくいけど」
「桜子……さん。御用はなーに? 言っとくけど、あたしに憑りついても、さくらみたいに上手く歌えないからね」
「そうじゃないわ。さつきが車の中に入れてる兵隊さん」
「あ……ああ!」
もしやと思って、サッシからポーチのホンダN360Zを見た。
すると、車の傍に、鉄兜の兵隊さんが立っていた。目が合ったような気がしたので、目礼すると折り目正しい敬礼が返ってきた。でも……鉄兜の下の顔が無かった。でも、不思議に怖さは湧いてはこない。
「恥だっておっしゃって、お顔も見せてくださらないし、名前もおっしゃってくださらないの。あたしが分かるのは、階級章で歩兵の中尉さんだってことぐらい。ご本人は日本に帰れただけで嬉しい。身元なんか探さずに、川の土手にでも埋めてもらえば結構だって……でも、それじゃ、あまりにお可哀想。今は科学が進歩してるんだろ。なんとか元のお顔を復元して身元を確認してご遺族のもとにお返ししてあげられないかしら」
「う~ん……そうだ、そうニイに相談してみる。自衛隊だから、なんとか面倒みてくれると思う!」
「ああ、それいいかもよ! あ、夜が明けるわ。名残惜しい、さつきとももっとお話ししたかったんだけど、あたし、あたしね……」
サッシから差し込んできた光を浴びて、ひい……桜子さんは消えてしまった。
そこで目が覚めた。横を向くと、さくらがお尻向けて寝ていた。カマされてはかなわないので、早々に起きる。
「あら、早いのね」
ダイニングにおりるとお母さんに言われた。お父さんが朝ごはんを食べていたので、久々に三人で朝食。あの話をしようかと思ったけど。車の中に髑髏があるなんて言ったら、お母さん卒倒しちゃう。まあ、あとでそうニイに電話で話そう。
「あ、そうそう、今日惣一、三日間の休暇で帰ってくるって」
渡りに船と思ったさつきでありました。




