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新 VARIATIONS*さくら*  作者: 大橋むつお
33/42

33・髑髏ものがたり・2

新 VARIATIONS*さくら*33(さつき編)

≪髑髏ものがたり・2≫         



 大学とは言え、キャフェテリアには全然似つかわしくない物だった。なんたって本物の頭蓋骨なんだから!


 トムの話は、こうだった。

 

 アレクのひい祖父ちゃんが、ニューギニアで戦っていたとき、オーストラリアの兵隊とポーカーをやって巻き上げたのが、この髑髏。ここまで聞いたところで、あたしはニューギニアなんかで昔行われていた首狩りの戦利品、それを土産代わりにオーストラリアの兵隊が現地の人からつかまされたガセだと思った。


 ところが、話は想像を超えていた。


 ニューギニアのラム河谷というところで、日本軍とオーストラリア軍の大激戦が行われ、数日間の戦いで日本軍は全滅した。オーストラリア兵は、戦場の異常心理なんだろう……日本兵の死体から首を切り落とし、ドラム缶の鍋で煮詰めて髑髏の標本のようにしたらしい。戦争も末期になって、連合軍に余裕が出てくると、こういう残虐な行為は禁止されるようになったけど、激戦が多かった中期には、よくあったことらしい。

 ひい祖父ちゃんは、アメリカに持ち帰ったが、戦争が終わって復員すると、日々の忙しさにかまけて忘れてしまった。アメリカでも、戦後の復員兵の再就職は難しい時期があったようだ。


 それが、80歳を超えて、自分の持ち物を整理していると、これが出てきた。むごいことをしたと思ったそうだ。たとえ自分はポーカーの戦利品としてオーストラリア兵から巻き上げたものだとはいえ、良心が痛んだ。そこで日本に留学する曾孫のアレクにこれを預けた。


「できたら遺族の方に返してあげて欲しい」


 アレクは留学費用の半分をひい祖父ちゃんの世話になっているので、断ることもできず持ってきてしまったが「いつかやろう」が一日延ばしになってしまい、とうとうアメリカに帰る前日になり。スコットランドの独立騒ぎで半分酔っぱらっていたトムに押し付けていったそうだ。

「高坂先生に相談してみたら?」とトムは言ったらしいが、アレクは首を横に振った。そのわけは、実際に相談に行って分かった。


「こんなものガセにきまってるじゃないか。クジラ獲るのにも目くじらたてる国だぜ。オーストラリアが、こんな非人道的なことするわけないじゃないか。それに本物の骨というのも怪しい。最近のレプリカはよくできてるからね。まあジャンク屋にでも持っていけば、ちょっとした値段で買い取ってくれるかもしれないぞ。あ、今のクジラと目くじらのギャグ気が付いた?」


 高坂先生はけして悪い人じゃないけど、根っからの市民派。日本人の非道はたとえ朝日新聞が撤回しても信じてやまないけど、外国人が日本に非道なことをするわけがないと信じ込んでいる。アレクもオチャラケたアメリカ人だったけど、なかなか人を見る目はあったようだ。


「分かった、あたしが預かる」


 江戸っ子の心意気で引き受けてしまった。でも、さすがに家の中に入れるのは気が引け、ホンダN360Zの座席の後ろに置きっぱにした。



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