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新 VARIATIONS*さくら*  作者: 大橋むつお
30/42

30・ねだめカンタービレ・7

新 VARIATIONS*さくら*30(さくら編)

≪ねだめカンタービレ・7≫



 タクシーの中ではずっと眠っていた。


 先週ひい祖母ちゃんの夢を見てから、おおげさじゃなく人生がおかしい。

 いくら寝ても寝たりない。そいで、今まで歌ったこともない『ゴンドラの唄』を音楽のテストで歌い始め、それが自分とは思えないほどうまくって、校長先生の耳に入り、校長先生のお母さんが本格的な機材を使って録画してYouTubeに投稿。あっという間にアクセスが3万件超えて、昨日は帝都テレビが昼のバラエティーの生中継にまで来た。


 昨夜寝る前にアクセス調べたら4万件を超えていた。


 で、今日は、こうして帝都テレビが差し向けたタクシーにお姉ちゃんといっしょに乗っている。

「ほら、さくら、着いたよ!」

 わき腹に衝撃。起こしてくれとは言ったけど、ボクシングみたくカマセとは言っていない。

「もー……」

 と、機嫌の悪い牛のような返事になってしまう。

「これくらいしないと、起きないでしょうが!」

 ごもっとも。

「行くよ、とりあえず控室……」

 受付で聞くと出演者の入り口は違うらしく、半分眠ったままお姉ちゃんに引っ張って行かれる『佐倉さくら様』と紙が貼られたドアを開けてもらったところまでは覚えている。


 気が付いたら、昨日中継のため学校にやってきた二階堂アナが目の前に座っている。


「……と言うわけで、あとはゲストの二輪さんと、MCの新保さんがいろいろ聞くから適当に返事、明るくね。じゃ、ボク仕事に戻るから」

 お姉ちゃんが頭下げてると、入れ違いにメイクさんが入ってきた。


 えと、なんで、こういう状況になってるかと言うと、夕べ帝都テレビから電話があって、日曜の『帝都の朝』って番組に急きょ出演することになったから。

「え、なんで!?」と聞いたら「あんたが自分でOKしちゃったんでしょうが!」とさつきネエに言われてです、はい。


 あたしって、こんなに可愛かったっけ! メイクさんの腕はたいしたもんだ。


 ADさんが、Q出し。番組のテーマが流れて、スタジオの真ん中でMCの新保康子と二輪明弘さんが上品に話している。

「では、話題の佐倉さくらさんに歌っていただきます『ゴンドラの唄』」と振られた。目の前のカメラのランプが赤になる。


 いのち短し 恋せよ乙女 あかき唇 あせぬ間に 熱き血潮の 冷えぬ間に 明日の月日は ないものを

 

 いのち短し 恋せよ乙女 いざ手をとりて かの舟に いざ燃ゆる頬を 君が頬に ここには誰れも 来ぬものを


 いのち短し 恋せよ乙女 波にただよう 舟のよに 君が柔わ手を 我が肩に ここには人目も 無いものを


 いのち短し 恋せよ乙女 黒髪の色 褪せぬ間に 心のほのお 消えぬ間に 今日はふたたび 来ぬものを


 歌い終わって、新保さんと二輪さんの間に座る。

「こうやって生で聴くと、とても高校生とはおもえませんね」

「え、高校生です。帝都女学院二年A組28番……」

 慌てて生徒手帳を出すと、新保さんも二輪さんも、スタッフまで笑い出した。

「なんなんでしょうね、この佐倉さくらさんのギャップは?」

 新保さんが、肩震わせながら笑った。

「ホホ、そういう性格なのよね」

 二輪さんがフォロー。でも微妙に視線が左右している……。

「ねえ、この曲も歌ってみないこと?」

 目の前のテーブルに楽譜がさしだされた。自慢じゃないがサバと空気と譜面は読めない。

「はい、喜んで!」

 心にもないことを口が勝手に喋る。で、二輪さんといっしょにピアノのとこへ。すると初めて聞くメロディーなんだけど、なんか懐かしく自然に歌詞が口をついて出てきた。


 待てど暮らせど 来ぬ人を 宵待草の やるせなさ 今宵は月も 出ぬそうな


 暮れて河原に 星一つ 宵待草の 花が散る 更けては風も 泣くそうな


「やっぱりね」二輪さんが満足そうに微笑んだ。

 あたしは、ただびっくり。初見で歌えて涙まで流れて、とても気持ちいい……。



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