25・ねだめカンタービレ・2
新 VARIATIONS*さくら*25(さくら編)
≪ねだめカンタービレ・2≫
昨日の学校はさんざんだった。
教室の席に座る時は、うちでの体験があるので、尾てい骨を庇うように座れる。
だけど授業中にノートをとろうとして顔を上げた拍子に姿勢が真っ直ぐになって、もろに尾てい骨に響く。
さすがに家にいるときのように気軽に叫んだり唸ったりはできず、その分表情になる。
「佐倉、おれの授業、そんなにつまんないか?」
数学の先生は、三度目に目が合ったときに言われた。
「いえ、そんなことはありません」
「……だったらいいんだけどな」
で、授業の後半、ムズイ数学の公式の説明のときに、またやらかした。論理的な思考が苦手なんで、説明はじっくり聞かなければ全然わからない。で、つい身を乗り出したところで、まともに尾てい骨に響いた。
「……!!」
声にこそ出なかったけど、痛みはマックスで、我ながら怒った顔のようになったと自覚した。
「あのなあ、佐倉、数学なんて、つまんねえよ。教えてる自分でもそう思うよ。数学なんて、買い物に行った時にお釣りの計算出来りゃ十分だ。微分なんて微かに分かったでいいし、積分なんて分かった積りでいいんだ。要は数学を通じて、論理的な説明に慣れるようにすることが重要なわけ。分かるか? そうすれば将来結婚しようかなって相手に出会った時に、惚れた晴れたってこと以外に互いの所得や月々の経費、ローンの計算なんかがきちんとできるわけさ。そうすりゃ、つまらん家庭争議なんか起こさずにすむんだよ! いいか、佐倉……」
そのお説教の最中に、悪気はないんだろうけど「だいじょうぶ?」よいう気持ちで、マクサがシャーペンであたしのお尻をつついてきた。
「ウググ……!!」
「あ、ひょっとして、こんな愚痴こぼすおれのことバカにしてんだろ! いいよ、どうせお前らは、おれのこと……おれのこと……今日は、もうこれでおしまいだ!!」
八分も早く数学が終わってしまった。ちょっとクラスは騒ぎになった。「先生、昨日彼女と一悶着あったんだよ」「え、フラれたとか!?」「フラれるってことは、フッテくれる彼女がいたってことでしょ」「でも、さっきのさくらは、やっぱ変だよ……」
マクサや、恵里奈が聞いてきたのなら「うるさい、あんたたちに関係ない!」と開き直れるんだけど、あろうことか、由美と吉永さんという、クラス一番と二番の清純真面目コンビに聞かれたから、つい喋ってしまった。
「じつは……」
「え、尾てい骨骨折!?」
で、クラスのみんなに知られてしまった。二人に悪気はない「骨折」というところにアクセント感じて共感の叫びをあげただけ。恵里奈は女バレだけあって、尾てい骨骨折のなんたるかを知っているんだろう。こいつも悪気なく爆笑。とんだ人気者になってしまった。
で、二時間目以降は、例の睡魔と尾てい骨の痛みが 交互にやってきて地獄の一日だった。
昨夜夢を見た。夢の中にあたしに似た女学生が出てきた。制服はスカートが長めだったけど、同じ帝都だ。
――あなただれ……?――
――佐倉桜子よ――
――え……?――
――あなたのひいばあちゃん――
――え、ひいばあちゃんが、どうして、そんな若い格好で……?――
――実はね……――
なんだか長い物語を聞かされた。で、最後にとんでもないことを頼まれた。
おかげで、今日もねだめカンタービレになってしまった……。




