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新 VARIATIONS*さくら*  作者: 大橋むつお
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2・ゴジラの迫力

新 VARIATIONS*さくら*2 (さつき編)

≪ゴジラの迫力≫        



 また、やっつけだ……。


 久方ぶりに机に向かっている妹のさくらを見て思う。


 あたしの母校と同じ帝都女学院の二年生。選んだ理由が通学途中の渋谷、定期でいつでも遊びに行けるから。それと、あたしと同じ学校なら、表も裏も情報が良く分かる。で、要領よく高校生活を送りたいという横着な気持ちからで、けして、帝都女学院の伝統やら特色にほれ込んでのことではない。


 でも入ってからは、帝都の値打ちが少しは分かったみたい。その理由も一年のとき電車の中で痴漢にあい。がっちり腕捕まえて、駅員さんに引き渡してから。犯人の言い分が「帝都の制服に、ついクラっとして」だったから。

 痴漢を捕まえたことでも分かるけど、本質的に女子高生の「可愛い」とか「萌」とかからは縁遠い。見かけは、あたしの妹だけあって、そこそこ。でも、本人に、その自覚は乏しい。今も机には向かっているが、椅子の上に立膝ついて、体を正しい位置から90度、こっちに向いて本を読んでいる。人の目を気にしないというと美点のように聞こえるかもしれないけど、さくらの女としての自覚は小学校の二年生ぐらいで止まったままだ。


 ああ、またぐらを掻きだした。ショートパンツの隙間から下着が覗く。


「さくら、ちょっとはね……」

「ん……?」

「ショーパンの間からパンツ丸見え」

「ん」


 と膝を立て替える。右が左に替わっただけ。


「明日始業式なんだろ、読書感想なんて時間かけて本読まなきゃ書けないよ。去年も言ったけど……」


 もう耳に入っていない。よく見ると『はるか ワケあり転校生の7カ月』を読んでいる。大橋むつおの最新小説。悪くはないけど、この作者はマイナーで、ネットでしか手に入らない。注文して届くまでに10日ぐらいはかかる。逆算すると、盆前にやつは読書感想を書く気にはなったらしい。だったら図書館(父の惣次郎が勤めている)で借りるとか、定期で行ける渋谷で文庫買うときゃすればいいのに……。


 おっと、自分の副業が止まってる。あたしはパソコンに向き直った。


——― 楽しめる映像ではあります。ただし、色んな物を諦めるか無視すれば……と、条件付き。 画像の作りは良く出来ているのですが、残念ながら説得力に欠ける、そのままリアリズムと書いても良い。要するに“全く怖く無い”のです。困ったもんです。

 まず、音がいかん。ここは効果音やろ~と思う所に“音楽”が入ってます。マァジですかいのう。音楽にした所が、作曲家は伊福部さんのオリジナルを聞き込んで、オマージュを捧げたと言うておりましたが……どこが? 私、音楽素養全く0で、もっぱら聴くのみです。私には判らん何かがあるんかもしれませんが、聴いてる限りにおいて「どこがオマージュ?」です。オマージュなどと考えなければ、スリルを盛り上げる作品だと思えますが、いかんせん、使う場所を間違えています。54年のオリジナルにインスパイアされ、リスペクトしているのは、そこいら中に認められます……――


 映画に詳しい人なら分かると思うんだけど、これアメリカ版『ゴジラ』の映画評。あたしは、趣味の映画鑑賞が功を奏し、クラブの映画研究部の映画評が、さる雑誌に認められ月に3本ほど映画評論のGRゴーストライターをやっている。ギャラはコンビニで働いた方がいいけど、時間が自由になることと、映画がタダで観られることで、この副業に満足している。


「よっしゃー!」


 突然隣で妹の気合いが入る。

 どうやら読み切ったようだ。本立てから原稿用紙を取り出し、シャーペンを構えだした。

「余計なことかもしれないけど、その『はるか』には戯曲が何本か出てるでしょ。今から読めとは言わないけど、You Tubeに出てる上演作品ぐらい観といた方がいいよ。『すみれの花さくころ』なら50分もかからないし。

「そういや、これって坂東はるかのドキュメントでも……あれ、出てこないよ」

 お下がりのパソコンを叩きながら言う。

「作者名入れなきゃ。作者マイナーだから」

「なるへそ……」

 検索しながら、今度はTシャツたくしあげて、お腹をポリポリ。肉付きに無駄が無いのがうらやましい。ま、姉妹そろって、昼過ぎには終わりそう。


 女子バレーの、最終戦はライブで観られそうだ。


※:映画評は滝川浩一氏のを参考にさせていただきました。



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