15・たぬきそばって変だよね・1
新 VARIATIONS*さくら*15(さくら編)
≪たぬきそばって変だよね・1≫
迫りくる何十という足音に心臓が口から飛び出しそうだった!
あたしたちがグランドを一周して戻ってくる。数秒遅れて足音たちもゴールして消えた。
「なんなの、今の!?」
先頭を走っていた恵里奈が、バレー部のくせして、肩で息をしながら叫んだ。特に誰かを非難しているわけじゃない。ひたすら怖かったのだ。で、そそっかしい。
去年の文化祭でも、部活の合間にクラスの取り組みを手伝いにきて、立て看板を作っていた。立て看板は一年生ながら一等賞をとった優れもので、看板の文字やデコレーションが3Dになってる。要は文字やらオブジェを立体に作って接着剤や釘で打ち付けてある。恵里奈は、そんなオブジェが二重に重なるところを釘で打っていた。
「オーシ、ばっちし。じゃ、部活に戻るね」
「ありが……」
と言いかけたマクサが、ソプラノで悲鳴を上げた。なんとマクサのスカートが脱げて、下半身がおパンツ一丁になってしまっていた。急いでスカートを引き上げるが、看板がいっしょに付いてくる! 部活に戻りかけていた恵里奈も、何か怪奇現象がおこったように驚いていた。
原因は恵里奈自身だった。オブジェといっしょにマクサのスカートを打ち付けてしまっていた。マクサしゃがんでオブジェをくっつけていたので、立ち上がってスカートが引きずりおろされるまで気が付かなかった。でも、これがもとでバレーと茶道という関係180度違う二人が友達になるきっかけにはなった。
まあ、そういうやつなので、一番に逃げたことも、非難がましい叫び声をあげたのも悪気はない。
「で、原因は?」
「分からない。ただ不思議だから候補に挙げといたの。今の映像バッチリだったわよさ」
米井さん自身は他人事のよう。
どうも、米井さんは、こういう方面については怖いという神経を置いて生まれてきた人のようだ。
恵里奈が、仕込みのために残っていた食堂のオジサンから塩を借りてきてグランドに撒きだした。
「そこまでする?」
マクサが咎める。
「だって怖いんだもん……でも原因らしいことは食堂のオジサンが教えてくれたよ」
「え、なになに!?」
「食堂のオジサンも、仕込みで遅くなったときグラウンド横切るときに足音が付いてくるんやて。あのおじさんて、阪神大震災でこっちにきて食堂やってるのん知ってた?」
「ううん」
オジサンが恵里奈と同じ関西訛であることは知ってるけど、事情までは分からなかった。
「震災のあと、街が復興して立ち直りかけてきたときも、神戸で似たようなことがあったんやて」
「それは、どうして?」
「震災で亡くなった人らの足音や言うてた」
「え!?」
「仲間やから怖いことはなんにもないて。ちょっとしたきっかけで死んだり生き残ったり。せやから小さな声で挨拶しとくんやて。そんなら消えるらしいわ」
怖がりの恵里奈が平気そうにいうので気持ちが悪い。
「で、恵里奈、怖くないの?」
「うん、原因が分かったら怖ない。それに、もう一つ原因らしいもんがあるんやて」
「なによ、それ?」
米井さんたちが、恵里奈に詰め寄った。
「足音の周波数とか、音の高さがちょうど、この辺のビルの外壁に合うて、反射してるのかも知れへんねんて。ワッ!」
「もう、びっくりするじゃん!」
「な、声やったら反射せえへんやろ」
で、今度は走り出した。もう一人遅れて足音がする。
「な、こんな感じ」
ところが、今度の足音は止まなかった、あたしたちに近づいて、すぐそばで止まった。
「なんで、うちの食堂のたぬきそばは、アゲさんが乗ってるか分かるか!?」
それは、歳の割に無邪気な食堂のおじさんだった……。




