13・四ノ宮青年の正体から
新 VARIATIONS*さくら*13(さくら編)
≪四ノ宮青年の正体から≫
ヘルメットを脱ぎながら、四ノ宮青年が言ったので、あたしたちは驚いた……。
素顔を初めて見た。渡辺謙を若くして、少しバタ臭くしたハーフっぽいイケメンだった。
「ああ、おれのお袋アメリカ人だから。ちょっととっつきにくいかもしれないけどよろしく」
なんで、こんなイケメンが、水道工事のガードマンやら測量助手をやっているのか、わけが分からなかった。声もテノールでイケてるし、背も高くてかっこいい。その気になればモデルだってやれるんじゃないかと思った。チラ見すると、米井さん以外の子も同じような顔で見ている。測量技師のオジサンはニヤニヤしている。
「ここ昔はうちの屋敷があったんだ……」
と、あっさり言った。
「……あの、聞いてる?」
「あ、はい。もちろん!」
あやうく上の空になるところだった。
「うちは昔ちっこい大名家でね、代々ここに上屋敷をもっていた。大名家って没落したとこが多いんだけど、うちのご先祖は上手く立ち回って明治からこっちは華族さまだった。帝都の創設者が友達でね、学校が移転するときにこの家屋敷を寄付した……といったらかっこいいけど、戦争に負けてニッチモサッチモ。で、国に取られてばら売りされるよりは、そのまま学校になった方がいいって、帝都女学院がここにあるわけ。で、上屋敷だったころは、ここ丑寅……北東のことで、魔物が入ってくるって鬼門だったんだ。実際不審火が出たり、庭師が怪我をしたりした。そこで、都から陰陽師を呼んで鬼門封じをやってもらったと……ここまでいい?」
みんな黙ってコックリした。イケメンの上にやんごとないお方なのだ。竹田さんて、元皇族の人よりずっとイケてる。
「で、将門塚から敷石を一つもらってきて。あの校舎の下あたりに埋めたんだ。それから、今みたいに坂の上の方に物が転がるようになった。どう、すごい話だろ?」
最後の方は、声を低めて言うもんだから、あたしたちはすっかりキミが悪くなった。
「ハハ、信じた?」
「え……え、ウソなの!?」
「本当さ。でもここから先は佐伯君に譲ろう」
「実は、重力異常の場所って、案外あるんだよ。うちみたいに建築会社やってると、たまにこういうところに出くわすんだ。地脈の異常とか、地下に大きな隕石が埋まってるとか、説はいろいろだけど、怪奇現象……にしていた方がいいかな。あ、由美、そろそろ時間じゃないか?」
佐伯君が、兄妹のニュアンスで米井さんに言った。
それから、あたしたちは、授業以外では、あまり立ち寄らない古い別館の三階は水洗い場に向かった。三つ蛇口が並んだ横に時代物の水飲み機があった。
「え、ここで何があんのん?」
大阪弁丸出しで里奈が聞く。
「待ってて、あと20秒ほどだから……」
みんな米井さんに従って、水飲み機を見つめた。
なんということ、誰も触らないのに、水飲み機から放物線を描いて水が飛び出した。まるで透明人間が水を飲んでいるように!




