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While one World  作者: ナナ木
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そうたいせいりろん

 蝉の音がうるさい。


 ミーミーミーと毎年この時期になると通例のごとく聞く音だが、今年も盛大だった。


 そして暑い……。


 もうとにかく暑い。昨日ももちろん暑かったのだが家にいたのは朝と夜だけだ。まだなんとか耐えることができた。


 しかし今日から夏休み。一日中家にいるためとにかく暑いのだ。特に昼間が。


 風邪をひいているわけでもないのに、おでこには熱さまシートが貼ってある。


 張った直後はいいのだが、数十分も経てば効果はほとんどなくなってしまう。


 一日に使える熱さまシートは二枚までと幸乃に言いつけられている。今が昼前なことを鑑みるにここで二枚目を使うのは愚行と言わざるを得ない。


 冷蔵庫から保冷剤を取り出して頬にあてる。これは暑いからではなく腫れがまだあるためだ。


 でもまだ暑い。


 窓を開け扇風機を強くしようと所詮気休めにしかならなかった。クーラーは電気代がかかりすぎる。一年乗り切るには最初から節約しなければならない。


 バイトでもしてお金を貯めようにも俺はまだ中学生だ。この時代でもどんな事情があれ中学生のバイトは禁止されている。


 幸乃は部活に行ってしまったし俺一人が家にいても暇でしょうがない。家にあるゲームや本は一通りすべてやっているし読んでいる。暇つぶしするものが夏休みの宿題くらいしかなかった。


 遥人の家に行ってもいいのだが昨日のことが衝撃的過ぎて少し冷静になれる時間が欲しかった。遥人もわかっているのかわからないが今日は誘ってこなかった。


 ……タイムマシン。現実にそんなものが作れるのだろうか。


 聞いた瞬間はそう思ったが遥人なら作れる気がした。あいつのすごさは俺がこの世で一番よく知っている。


 実際日本を含め先進国を中心に技術はかなり発展している。今はないが数か月も経てばAR端末が当たり前のように携帯できるようになっている。


 空で指を切るが何も起きない。ましてや端末の画面のようなものは出るはずもない。


「はぁ……」


 人間は便利なものを使った後にそれがなくなると少なからずストレスを感じてしまうものだ。


 例えば昔で言えばスマートフォン。もちろん今持っているがこれはすでに旧世代の産物だ。Switchの存在を知っているのに未だにGameBoyで遊んでいられるかって話になってくる。


 AR端末にはたくさんの機能があり、その中にもちろん電話やメールといった機能も付いている。だがそれを普及させるには一から作らないといけないため時間がどうしてもかかるのだ。


 --しょうがない。宿題済ませるか。


 答えはほぼ暗記している。適当にやっておけばある程度は進められるだろう。


 昨日の夜に少しだけ進めていたのでリビングのどこかにあるはずなんだが……。あれどこに置いたんだろう。机の上に置いていたはずなのに。


 おそらく幸乃が片付けてしまったか。だがわざわざ二回の俺の部屋までもっていったりしないだろう。ならどっか邪魔にならない適当なところにあると思うのだが。


 しばらく部屋の中を見渡しているといつも新聞紙をまとめているところに目が行った。そこには昨日遥人から借りた本が置いてある。その本をどけてみると下に宿題があった。そういえば同じ机に置いてたな。


 宿題をしようと思っていたが気が変わってしまった。少し読んでみるか。遥人曰く簡単らしいし。


 冒頭のはじめに的なものを読み飛ばしページをめくる。第一章と書かれた部分でページをめくる手を止めた。


 そこからしばらく集中して読んだ。さっきまであれだけ暑かったのに集中していたのか暑さもあまり感じずに夢中になって読み進めた。


 全五章の内、第三章まで読んだ感想は「へー」の連続だった。


 光のスピードに近いスピードで動いたら経過時間が短くなるだとか、その動いている物体は縮んで見えるだとかそんなことから始まっていた。


 光のスピードに近いスピードなど確認しようもないがこのような現象が起きているらしい。


 車で動いているときも車は歩いている人から見れば縮んで見えるらしいが人間の目には観測できないレベルの誤差とも書いてあった。


 経過時間は光時計なるもので説明されており、ここに中学で習うピタゴラスの定理を当てはめてどのくらい時間が短くなるか説明されていた。


 ほかにも光のスピードで動けるものは存在しないことや光速度不変の原理などあり、どれも俺にとって未知の世界の話だった。


 ところどころ曖昧に済ました部分はあるが概むね理解することはできたと思う。特に公式や数式で証明している部分はすべて読み飛ばした。


 個人的な結論になってしまうが特殊相対性理論は小学校で習う、道のり=速さ×時間 の公式が相対的に変化するという意味で相対性理論なのだろうか。


 この場合速さとは光のことだ。光は光速度不変の原理より座っていようとロケットに乗っていようと観測者から光の速度は30万km/sで観測されるから一定値。


 その代わり道のりや時間が相対的に変化するから、光に近いスピードで動くと空間が縮んでしまうし時間が遅れてしまうということが起きるようだ。


 また光に近いスピードで動くと質量も増え、歩くより走った方が体の質量が大きくなるらしい。


 そのため光のスピードを出そうとすると質量が大きくなりすぎてしまい、逆説的に光のスピードを出すことは不可能とのことだった。


「というのがざっくり特殊相対性理論らしいんだけどどうよ?」


「……お兄ちゃん。何やってんの?」


「だから、とくしゅーー」


「なんでそんな本読んでるの? って意味で聞いたんだよ」


 本を読み進めていくうちにいつの間にか昼間になっており幸乃が部活から帰ってきた。気づいたら目の前にいてこっちをじーっと見ていたので、少しおどけたように解説してみたのだが顔はムスッとしたまんまだ。


 おそらく「ただいま」と言っていたのだろうが俺も本に集中していたため気づかなかったのだ。


「お、おかえり」


「ん……。ただいま。二度寝してるかと思った」


「暑くて寝られんわ」


「だろうね。はいアイス」


「おおっ!」


 アイスと聞いて急いで取りに向かう。しかし幸乃の手から受け取ろうとした瞬間手をひょいと引っ込められてしまった。


「と、その前に昼ごはんにしないとね」


 そう言ってウインクしてきた。


「あざとい」


 かわいい。


 幸乃は鼻歌を歌いながらアイスを冷蔵庫にしまってしまう。あれはあとの楽しみにしておこう。


 本来なら夏場だろうとアイスもそんなに食べないのだが家計の管理はすべて幸乃がやっている。


「いいのか? いきなりアイスなんか買って?」


「う~ん。まあ貯金はあるし今日くらいいいんじゃない? というか幸乃が食べたかったから買ってきちゃった」


 幸乃が買ってきたということはそういうことらしい。


 貯金はあるとはいえあまり贅沢はできない。でも幸乃は気分で買った時などは俺も食べれるのだ。すべては妹にかかっている。


「あ、それと、ちゃんとおかえりって言ってよね。少なからず不安になるんだから……」


「悪い……」


 こればっかりは俺が悪い。素直に反省した。


「そこまでは怒ってないけど……ね。お兄ちゃんもなんかよくわからない本読むのに集中してたみたいだし」


「ああ。遥人から借りたんだ」


 しまった。この話はしない方がよかったか。


 だがよくよく考えたら相対性理論からタイムマシンに話を飛躍できるわけがない。むしろ動揺したほうが怪しまれそうだ。


「ふーん」


 そう言って表紙をはがす。表紙をはがしても表紙の色が薄くなったのが本に直接プリントされているだけだ。


「……エロ本じゃないぞ」


「命拾いしたね……」


 満面の笑みでそう言った妹に俺は直視することができなかった。


 遥人から借りたと言えば疑われるのも無理ないか。


 幸乃はペラペラ適当にめくって読んでいる。俺がいつもと違うことをしているのがそんなに気になるのか昼飯の準備は二の次になっている。


「光、時間、じゅう力、くうかん……。なんか理科っぽい本読んでるんだね。そんなに面白いの?」


「まあそこそこな。へーってなった。暇だから借りたんだ」


 適当にそう答えながら苦笑する。


 物理っぽい本を読んで理科っぽい本というのは中学生くらいだろう。理科が生物、化学、物理に別れる前の中学生だからこそ、延々と中学生を繰り返していからこその感想だ。


 その延々を脱出するためのタイムマシン。


 俺もその手伝いが少しでもできるなら、これはすごいことなんじゃないだろうか。


 それに幸乃の高校生姿も見てみたい。どんな制服だってきっと似合うだろう。


「何急に真剣な顔したかと思ったらニヤニヤし始めて……」


「幸乃の高校生姿をちょっと想像してみただけだ気にするな」


「気になるよ! なんでいきなりそんなこと考え始めたの!? 普通に気持ち悪いんだけど!!」


「それより昼飯なにー?」


「オムライスっ!! もう知らない!」


 マイペースな俺に向かって投げやるようにそう答えると、幸乃は台所に向かった。


 「またオムライスかい!」なんて言ったら負け。

途中に特殊相対性理論について書いてありますが、作者が適当にググって適当に書いてあるのであまり鵜呑みにしないようにお願いします。

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