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While one World  作者: ナナ木
6/33

Time Machine

  

  ♢


 今日俺が幸介を呼んだのはほかでもねぇ。俺はお前にもほかの執事やメイドにも黙っていたがずっとある実験をしていたんだ。


 それはズバリ! タイムマシンの開発だ!


 そんな「何言ってんのこいつ……」みたいな顔すんなよ。言っとくけどな、これはちょっと大マジの話だからな。

 

 原理とかそんなことは説明してもわかんねぇだろうから詳しくは言わねぇが、作ったちゃ作ったんだ。


 んで成功したから報告件、次の目標と最終的にどうするかの話をしようと思ったわけだ。


 おぉ!? 急にそんな大きな声上げるなよ。成功したってどういうことだって?


 ふっふっふっ。さすがの幸介も驚いたか。まあ成功つってもそんなにすごいことしたわけじゃねぇけどな。おそらくこんくらいなら世界中に俺以外にやっているやつ何人かいるだろ。


 このトランプわかるか。そうだそうだ。前回ループの手品したときに幸介がサインしたやつだ。あのときは世界で一枚だけの、今では存在しないはずのトランプだ。


 これを俺の部屋の机の上に未来から移動させた。移動させた装置は未来から送ったから今はない。指定した座標にものを送ることに成功したわけだ。


 ……いやいや。こんくらい誰かやってるって。過去に質量の小さいものを送るくらい俺以外にできてなきゃ、世界中の著名な天才たちは何してんだよって話になるだろ。


 じゃあなんで公表しないかだって? そりゃ当たり前だろ。ものを過去に送ることができたことはすごいことかもしれないが、それで何になるんだ? 一家に一台、未来のものを過去に送ろうってか? ループしてもものは引継ぎ可能ですってか? ゲームのセーブデータかよ。


 そんなことよりこのループから抜け出したいだろ、みんな……。


 だから、そんなに大きな声出すよ……。できるかってそんなことわかんねぇよ。俺がやらなくてほかの誰かがやってくれるかもな。でも俺は自分でやりたい。この実験の最終的な目標はそれだしな。


 俺は絶対このループし続ける、このくそみたいな世界を抜け出す。……お袋が死んだときにそう誓ったんだ。


 そしたら成年するまで適当に高校生活と大学生活を過ごして酒飲もうぜ。今のとこ俺の夢はみんなで楽しく酒を飲むことなんだ。


 誰にも言うなよ? しょうもない夢だなって笑われちまう。


 ……それで次の目標だが、次はこの部屋をまるまる過去に送ろうと思う。そのために部屋を改造する必要があるけどな。


 その準備はこの夏休みから始めるつもりだ。協力してくれといっても幸介は大した戦力にはーー。痛い痛いっ。冗談だって。協力頼むぜ?


 まあ今日話そうと思ったことはこんくらいだ。うん? ……確かにアイデアじゃなくてほぼ自分でやってるな。でもこのくらい自分で進めた状態じゃねぇと説得力ねぇだろ。だから証拠のトランプまで用意したんだ。


 いつからこの実験をやってるか、か……。そーだな。大体十年前からじゃねぇか。15は行ってなかった気がするぜ。多分な。


 ちなみに成功したのは今回が初めてだ。最初にタイムマシンを作ろうと思った時のループには、理論の組み立てはできてたんだが失敗してな。いきなり部屋ごとループさせようとした俺がいけないんだけどな。


 それから理論のどこに間違いがあったか論文のとかあさりまくって、結局最初に思いついた理論に間違いはなかったって結論になったんだ。


 それで質量の問題を軽視してたから今回は軽いトランプにしたら成功したわけだ。


 次は部屋ごとループさせる。つまり十年前のリベンジを今果たす時が来たみたいだな。


  ♢


 正直俺は言葉が出なかった。まさか知らぬ間に遥人がここまで色々やっていたとは。しかも十年前から。俺はその同じ時をダラダラ過ごしたいただけというのに。


 俺は自分が普通だと思っている。そして遥人のことは天才だと思っている。それは十分に理解しているが圧倒的差を感じてしまうと劣等感を抱かずにはいられない。


 そしてそんなことでくよくよしている自分が心底嫌になる。


 俺に何も特別で突出したものがないのは俺が一番わかっているはずなのに。


「おーい、幸介。なに急にボーッとしてんだ? 今後の予定今話してんにだぞ」


「ああ。聞いてる聞いてる。でなんだっけ?」


「聞いてねぇじゃねぇか。だから理解しろとは言わねぇけどある程度の知識はあった方がいいだろ? そのために本貸してやるから読んどけって」


 遥人は本をいくつか手に取ると俺の前に積み始めた。4、5、6……って何冊積む気だ!?


「おいおい、すしの皿じゃないんだからそんなにどんどん積むなよ! そんなに借りても読む気起きんわ!」


「そうか? じゃあこれでいいや」


 そう言って俺によこした本のタイトルは「特殊相対性理論の基礎」という本だった。


 うん、コウスケ知ってるよ。あれでしょ。あいんしゅたいんのやつでしょ。


「それ中高の数学で理解できる範囲だから余裕だぜ。小学生の俺でも理解できたし」


「まじ?」


 そう言われると読んでみようかなと思ってしまう俺。てかこいつさらっと小学生の時点で高校数学理解できてたみたいなこといいやがったな。イキリトかよ。


「これって特殊ってあるけど特殊じゃない相対性理論ってあんの?」


「あっ? ああ、一般相対性理論ってあるぜ。そこそこ難しいけどそれも貸しとこうか?」


「いや、やめとく……」


 こいつのそこそこ難しいは、俺からしたらスーパーアルティメット難しいからな。絶対ミジンコほども理解できない。


 その時西日が遥人にの部屋を照らした。ちょうど顔に当たったのか煩わしそうに眉を歪めると、遥人は夕日が当たらないところに移動した。


「もう夕方か……。今日の話はここまでだ。飯食ってくか?」


「いや、幸乃が準備しているだろうから遠慮しとく」


 残りの紅茶をずずーっと飲み干すと俺は立ち上がった。俺が部屋を出ると遥人もついてくる。玄関まで送ってくれるのだろう。


「そういや一応言っとくけどよ、今日の話は誰にもするなよ」


「遥人の将来の夢はみんなで酒を飲むことってやつか?」


「ちぃげぇよ。いや違うくわねぇけど、今言ったのはそれじゃねぇ。タイムマシンの話だ」


 遥人は周りを、主にヴィクトリアが近くにいないか確かめるために見渡している。そんなに聞かれたくないのか。変な夢ではないと思うが恥ずかしいのかもしれない。


「そう釘を刺すってことは、幸乃にも言うなってことか?」


「ああ。幸乃ちゃんを信用していないわけじゃねぇけど、知ってる人間は少ない方がいいからな。もしかしたら危険があるかもしれないから頼む」


 知っている人を極力少なくしたいというのも本当だろうが、どちらかというと幸乃の身を案じているのだろう。それなら俺も嫌だとは言えない。


「わかった」


「サンキュー。……それと帰る前にお袋の仏壇拝んでくれねぇか?」


 俺は無言で頷いた。確か仏壇があったのはこの屋敷で唯一の和室の、生前の遥人の母親の部屋だ。


 遥人の母親には俺も幸乃も世話になった。大恩人の一人だと言ってもいい。


 部屋に入ると和室独特の空気が俺を覆う。おじいちゃん、おばあちゃんの家に行ったときを思い出す感じだ。


 そしてすぐに線香の匂いが鼻をかすめた。香炉には何本もの線香が立てられている。屋敷の執事やメイド、遥人がすでに立てたのだろう。


 仏壇はても真新しくきれいだ。それもそのはず。この仏壇は今日この部屋に設置されたものだ。毎ループ遥人の指示で仏壇が運ばれてくる。同じくお墓も近日中には設置されるだろう。

 

 この家はカトリックのキリスト教だから本来なら仏壇なんてありえないが、遥人はこういう関係のことはすべて仏教に従っている。ジーヴィスさんも遥人の意思を尊重しているようだ。


 ロウソクに火を灯して線香を火に当てる。線香の先が火の光がついて煙が出始めたら香炉に刺した。残念ながら数珠はない。鈴を鳴らしてそのまま手を合わして拝んだ。


「じゃあ帰るわ」


「おう。気つけろよ」


「門までお見送り致します」


 玄関を出るとヴィクトリアさんが門まで先導してくれた。車で送ってくれると毎回言ってくれるのはありがたいが、遥人の家から俺の家まで徒歩五分くらいなんだよね。さすがにその距離の車は遠慮してしまう。


「またいらしてください。遥人様も喜びます」


「はい。お邪魔しました」


「ーーそれと」


 ヴィクトリアさんのそのときの顔を見て俺は驚いた。普段はほぼ無表情のヴィクトリアさんがほほ笑んでいたから。その眼差しはとても暖かく、美しかった。


「これからも遥人、様のことをよろしくお願いします」


「……はい」


 ヴィクトリアさんがお辞儀をして見送りをしてくれたので、俺もペコペコ頭を下げながら帰路ついた。


 車が一台が通れるくらいの広さの道を縫うように進んでいく。この辺りは住宅街のため家の塀に遮られて十字路やT字路はとても危険だ。まだ明るいが車には気を付けなければ。


 なんでヴィクトリアさんはあんなことを突然言ったのだろう。あのときのヴィクトリアさんはどこがいつもと違った。


 慈愛に満ちたあの表情は、俺ではなく遥人に向けられたもの。だとしたら。だとしたらーー。


 ぐぅ~~~。


 通りかかった家から夕食の支度をしているのかいい匂いがした。ほんとこの成長期の体だけはやめてほしい。すぐにお腹が空いてしまう。


「今日の晩飯何かなー」


「カレー!!」


「うぉ!?」


 後ろから声をかけてきたのは10人に、いや100人に聞いたら100人とも美少女だと答えるであろう、紛うことなき美少女が自転車に乗っていた。というかどう見ても妹だった。


 自転車のかごにはエコバックが入っておりその中にじゃがいもやにんじんなどが見える。


「びっくりした。急に変なやつに絡まれたと思ったわ」


「何それ。それよりどうどう?」


 そう言って自分の髪を指さす。腰あたりまであった髪の毛は今では肩口あたりまでで切りそろえられている。ショートボブ、だと……!


「どうどう? かわいい?」


「はいはい。かわいいかわいい」


「むーっ。ちょっとぞんざいすぎない? 髪は女の子の命なんだよ? そこはとりあえず褒めなきゃ」


 褒めたやん。


 何がいけなかったのだろう。うぅ~ん! すごくきゃわいいっ!? 萌え萌えきゅんっ!! くらい言った方が良かったのだろうか。


「それより早く早くっ!」


 いつの間にか自転車から降りていた幸乃はサドルをポンポン叩いている。漕げとのご命令らしい。


 俺がサドルに座るとすぐさま後ろの荷台に座り腰に手を回してきた。うん、危ないからね。このくらい普通普通。


「また遥人君の家いってたの?」


 遥人の家の前で幸乃とばったり会ったわけではないが、この辺りを歩いていればそうだとわかるのも無理はない。


「ああ」


「そう……」


「なんだよ」


「……お兄ちゃんも暇人だなって」


 暇人なのは重々承知しているが人から言われると少し傷ついてしまう。弁明しようと今日の話をしようかと思ったが遥人に口止めされているからそれもできない。


「暇人には無限の可能性が秘められているんだぞ」


「う~ん。……5点」


 俺の崇高な思想にはさすがの妹もついてこられなかったらしい。


「それより早く漕いで」


「へいへい」


 促され、家までペダルを回し続けた。もちろん安全運転で。

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