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While one World  作者: ナナ木
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今日のチャームポイントは右の頬

 目が覚めた瞬間、また戻って来たことを確信した。


 何度もこの部屋のこのベットの上で起床しているが、今日という日は特別違う。


 最初の頃は目が覚めた瞬間、日付をいちいち確認していたが、今となっては目が覚めた瞬間に戻ったか戻っていないかわかってしまう。そのためすぐに二度寝を敢行した。


 再び意識を睡魔に委ねたのだが、耳元で鳴った音に驚いた俺は何事かと目を覚ます。


「はい、そこ二度寝しなーい」


 ベットから体を起こせばいるのは、フライパンとお玉を手に持った妹の幸乃(ゆきの)


 すでに制服にエプロンを着ており、朝食の準備をし終えただろう。フライパンもお玉も汚れていた。


「いや、起こすのにそのアイテム使うときはせめてきれいなの使おうね? なんで朝食作り終え立てほやほやなキッチン用品使ってんの?」


「うるさい。いいから早く起きて」


 ジュッと妹は俺のほっぺにお玉をくっつける。


「あつぁ!?」


 俺のリアクションを見て嬉しいのか、にぃと笑うと、幸乃は部屋から出ていった。


 ひりひりする頬をさすりながら鏡を見てみると、きれいに丸の形をして赤くなっていた。


「えっ、これ割とシャレにならないんだが……」


 着替えたのち洗面所に向かうと腫れはさっきよりひどくなっていた。ていうかめちゃくちゃ痛い。じんじん来る系の痛みだ。どのくらい痛いかと言うと、血が出るほど思いっきり舌噛んだ直後くらい痛い。


 はい、ここで冷たい水で顔を洗ってみよう。7月だから冷たい水で顔を洗えば気持ちよくて、きっと目がさめるぞ〜。


「びゃああああああっ!!」


 ご覧の通り、激痛に両手で頬を抱えてしまう。そのあとも「ぐおおおおおっー!」とか「へむぅっ!」とか「はあっ、ひっふっへっ、ほおおおっ!!」とか叫び続けた。


「なんかアンパンマンみたいだね」


 俺の悲鳴が聞こえたからか、リビングから来た妹が俺の顔を見て笑う。しばきまわすぞ。


「誰のせいだと思ってるの?」


「時間になっても起きないお兄ちゃんのせい」


 どうやら幸乃の中では自分のせいではないらしい。今度仕返ししてやろう。


 もちろん同じことをするわけじゃないけどね! 妹の玉の肌を傷つけるとか軽く極刑だから。極刑に軽くも重くもないんだけれど。


 今日はマスクをつけて学校に行こう。じゃないと本当にクラス内でのアダ名がアンパンマンになってしまいそうだ。


 今日は夏休み前の最後の登校日。ループする度にすぐ夏休みになるため、最初頃ははしゃいだものだが、何度も繰り返せば遊ぶより家でダラダラしたい願望の方が強くなってくる。


 今年もほぼ答えを暗記している夏休みの宿題を終わらせて、惰眠を貪ることになるだろう。


 そんな怠惰な夏休み生活を予定しながらリビングへと向かった。


 ドアを開けるとちょうど出ようしたのか、幸乃が少し驚いた顔をした。しかしすぐにクスッと笑いすれ違うようにドアを通る。


「何笑ってんだよ」


「いや、ね。なんかお兄ちゃんが虫歯になった時とことを思い出して笑っちゃった。……授業中に思い出し笑いしてみんなに変な目で見られたらお兄ちゃんのせいだからね!」


 そんなことまで俺のせいにするなよ。


 幸乃が玄関に向かったのを見て、俺はリビングのドアを閉めて玄関へと向かう。もちろん見送るためだ。我が家では「いってらっしゃい」「ただいま」「おかえり」は必須となっている。


 玄関のドアを開けると幸乃は振り返った。


「じゃあ朝練あるから先行ってくるね」


「ああ、行ってら」


 今日はサボるか……。


「あっ、ちなみにお兄ちゃんのお弁当、幸乃が持ってるから。ちゃんと学校来てよね」


 そう言い残して玄関のドアを閉じた。


 お、おのれ卑怯だぞ! 弁当を人質にとりやがって!


 何年経とうが身体は常に成長期。弁当を逃すと餓死してしまう。


 仕方ない、行くか……。


 くっ、せっかく制服に着替えて、今日わては学校行きまっせ風出してたのに! なぜバレた!


 まあ過去に何回も休んでるからだけど……。


 妹が朝練に行くのは不定期だ。本人曰く気分らしい。そして決まって朝練に行く日は朝食を食べない。理由は教えてくれなかった。朝練こそ力が必要だろうに。


 所属している部活は吹奏楽部。ループ前は毎日朝練に参加していたが、最近では朝練は自主的にやるらしい。ループを繰り返し内に部活のモチベも下がるのだろう。


 うちの中学でも朝練を毎日やっていた運動部勢達も、朝練はやっていないことが多くなった。


 まあ俺は? 一応受験生だから引退してるし? 関係ないんだけどね?


 卓球部の幽霊部員だったけど……。


 一年生の時はちゃんと行っていたが、部活内の恋愛事情が変に(もつ)れてね……。この話はよそうか。もう50年くらい前の話だし……。


 俺はリビングに戻って妹が用意してくれた朝食を食べた。うん、美味しい。


  ♢


 時間ギリギリに学校に着くと、すぐにSHR(ショートホームルーム)が始まった。夏休み前最後の授業だから、今日は午前中授業ののち終業式でに帰れる。そのため担任の話している内容も夏休みに関することばかりだった。


 やれ夏休みは事故のないように気をつけろだとか、やれ宿題はきちんと終わらせるようにだとか言っている。毎回思うがよく同じことを言ってて疲れないな。まあ、気持ちはわかるんだけどね? 特に事故は。


 どうせなら「みんな宿題の答え覚えてるからやっても意味ないし、今年の夏休みの宿題はなしでーす!」とか言ってくれないかな。


 今のご時世、まじめに生きるよりも気楽に生きる方が正解だと思う。そう変わらないとこの先辛いのは自分だ。


 やっ、まじめな先生を馬鹿にしているわけではないけどね? ただの持論だよ持論。もしかしたら先生もプライベートではパァーリィーピィーポォーしてるかもしれないし。


「ようよう、幸介(こうすけ)。今日の午後暇か? ってなんでマスクなんかしてんだ?」


「……風邪引いたんだよ」


「嘘ならもっとましなのつけよ。お前がループ直後に風邪なんか引いてねぇことくらい知ってるぜ。妹にビンタされて腫れが引いてないって言う方が信憑性あるぞ」


 思わず無言になってしまった。


「はあ……。よく今日の朝一番にビンタなんかさせてんだよ。ご褒美かよ、ぶち殺すぞ」


「違うわ! お玉でジュッだ!」


 俺に話しかけてきたのは、前の席に座っている親友こと権藤遥人(けんどうはるひと)。小学校からの付き合いで家も近所だ。長身で体格もよく、運動神経抜群そうに見えて50メートル10秒台という破格の記録保持者である。


 しかし頭はよく回転も速い。ループ前もループ後も依然として成績は学年トップだ。


 人は見かけによらないというのは、こいつのためにある言葉ではないだろうか。


「で? 結局暇なのか?」


「まあ、これといった用事は特にないな」


「なら終業式終わったら俺ん家来てくれよ。超すごいこと思いついたんだ」


「またしょうもないことか……」


 自分でも自分の顔がげんなりしたことがわかった。頭はいいが毎回変なものばかり作ってしまう遥人にある意味同情してしまう。非常に残念な頭の構造をしているとしか思えない。


 例えば最近では、全自動流し素麺トラックといって、トラックの積み荷部分をキャンピングカーのように人が住めるように改造し、素麺をエスカレータのごとく回転させてくつろぎながら素麺が食べれるというものを発明した。


 遥人によると素麺を回転させるの必要な水の力は、走行中の風の力を利用してトラック後部についている水車がおこなっているらしい。つまり水道代がかからないのである、などと供述していたが、俺にはいまいちそのすごさがわからなかった。


 そもそも信号で水車が止まったら水車に素麺詰まりそうだし。わざわざ車の中で素麺食べる意味がわからない。


 馬鹿と天才は紙一重と最初に言った人物こそ、俺は真の天才だと思う。


「そう嫌そうな顔するなって。今回のアイデアはマジですごいから!」


「はいはい」


 手をしっしっと振って前を向かすよう促した。毎回意味がわからないものを作っている遥人に付き合うのもあれだが、どうせ俺も暇なのだ。無限にいろんなことが思いつく遥人に付き合うのは悪くない。

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