ギルド出張所
3話目です。
ヨロシクお願いします。
「シンバ、随分と早いな。もう巡回は終わったのか?」
村門に着くと〈シンバ〉と似た装備を着けた男が立っていた。〈シンバ〉よりも背が高く、身体の厚みもある。〈シンバ〉が豹なら此方は熊だな。ただ、身体全体の迫力に比べ、顔は柔和な造りである。
「グレン、迷い人を連れてきた。本人は旅人だと言っている。ギルドカードは持っていたから確認してくれ。」
〈グレン〉と呼ばれた男が笑っている様に細い目を此方に向ける。
いや、分かるよ?怪しさ満点だよね。でもさ、長閑な村の風景に比べてあんた達2人も相当怪しいよ。この森は魔物出ないって言ってたのに、その身体にその目付きは鋭過ぎるでしょ。まぁ、この世界の基準なんて知らないけどさ。
「〈ロスト〉といいます。此方の黒いのは眷属の〈トルテ〉です。」
自己紹介をしながらギルドカードを見せる。〈グレン〉は訝しげな目を〈トルテ〉へ向けると
「見たことの無い魔獣だな?眷属なら・・・問題無いか?」
と、首を捻りながら俺の腕に抱えられた〈トルテ〉を一瞥し、特に興味も持たずにギルドカードを受け取った。
「銀色のギルドカード?・・・シンバ、お前見たことあるか?」
「いや、無い。」
「う~ん、何処かで聞いた事があった気がするんだがな~。」
「出張所で見せれば良い。」
「そうだな!よしっ、ロストだったな。この村にはギルドの出張所しか無いが、カードの閲覧は出来るから一緒に来てくれ。シンバは此所を頼む。」
俺にギルドカードを返し、〈グレン〉はとっとと先を歩く。
村の入り口を潜ると其処は広場の様になっていて、周りを石で囲っていた。石の高さは50cm位だろうか。村の入り口からその広場を真っ直ぐ渡ると村の中へと続く道が有り、直ぐに〈冒険者ギルド出張所〉とこの世界の文字で書かれた看板のある小屋が・・・
(料金所にしか見えないんだけど。)
もしくはタバコ屋か。
奥には寝る程度のスペースはあるようだが掘っ立て小屋である。小屋と並んで掲示板があり、依頼書らしきものが掲示されていた。
「あれ?グレンさん、どうしたんですか?」
小屋の中から声をかけてきたのは年若い女性だった。窓口の向こうに座っているので身長は分からないが、スレンダーな女性である。明るい茶色の髪は緩いウェーブがかかっており、サイドに纏めて胸元へ流している。大きなタレ目がちの瞳が柔和な印象を与え、相手に警戒心を抱かせない。ギャルソンの様な服装はギルドの制服だろうか?・・・美人だね。
観察している間に〈グレン〉がその女性と話をつけたのか、俺に振り返って手招きをしてきた。
「その女性にギルドカードを提示すればいいんですか?」
「そうだ。アリサ、彼のギルドカードの確認をしてくれ。」
〈アリサ〉と呼ばれた女性は笑顔で挨拶をしようとしたようだが、俺に抱えられた〈トルテ〉に視線を向けたところでフリーズした。
「ん?どうしたんだアリサ。」
〈グレン〉が声をかけるが聞こえていないのか反応が無い。
〈トルテ〉が首を傾げて〈アリサ〉を見ている。
俺は差し出しかけたギルドカードをどうすればいいのだろうか?
「し、し、神獣!?いや、でも種族が分からっ・・・どの神の眷属かも、っていうか何で黒いの!!!?」
・・・どうやら〈トルテ〉の宿す能力、特性が見えているようだ・・・鑑定能力なのか、魔眼的な力か判らないが面倒だな。
「神獣って、この黒いのがか?神獣ってのは白だろ?」
〈グレン〉が呆れた様に言うが〈アリサ〉が視線を〈トルテ〉に向けたまま言葉を返す。
「そうです。どの神の眷属であろうと神獣は白色。唯一の例外は邪神の眷属。だけど・・・やっぱり纏っている神気は清らかなものです。」
「・・・で、その神の眷属を従えているお前は何者なんだ?」
雲行きが怪しくなってきたな。どう答えるのか正解に近いだろうか?〈グレン〉の細い眼の奥に覗く警戒の色が濃くなるのが見える。〈アリサ〉はまだ〈トルテ〉を凝視したままブツブツと呟いていた。
「何者か?・・・か、この村も相当に怪しいと思うけどな。俺は旅人だとさっき話したし、これからギルドカードを見てもらう予定だった。それよりも、随分と此方の個人情報を垂れ流しているそこのギルド職員。お前の《スキル》は鑑定か?それともその眼に宿る魔力が理由なのか?」
俺は眼差しに敵意を込める。
正直、異世界転移して最初からこんなにストレスの溜まるやりとりとか無理。基本気の長い方じゃないし。ただ、味方も居ない内から敵を作るなんて馬鹿な真似はしないでおこうとは思っていた。この馬鹿女が余計なことを口走らなければ。
「ヒッ!?」
馬鹿女が短い悲鳴を上げる。
やっと〈トルテ〉から視線を外したか。
「う~ん、怒る理由は分からなくもない・・・が、その殺気と魔力はどうするつもりだ?」
〈グレン〉が身体を斜に構え、〈アリサ〉と俺の間に立つ。腰の剣に手が添えられていた。
・・・おかしい。俺的にはちょっと睨み付ける程度だったのに、何この状況。殺気?魔力?そんなもの出した覚えは無い。
「ワンッワン‼『パパ怒ってるでしかっ!敵でしかっ!?』」
俺の殺気?に反応した〈トルテ〉は地面を踏みしめて巨大化すると、パシィと帯電状態になった。
「なっ!?」
「ええっ!?」
二人から驚きの声が上がる。それはそうだろう。プリチーなポメラニアンが巨大化し、2メートルのサモエド(一説にはポメラニアンの原種とされる白い大型犬)になったのだ。黒いけど。
ペットショップで買う時に「タヌキ顔ですよ。」と言われたが、成犬になってみればキツネ顔。騙されたと思ったが、巨大化した〈トルテ〉はそのおかげで凛々しい。
「〈トルテ〉待て。お座り。」
「わふ。『ハイでし。』」
呆然としている二人から視線を切り、村の入り口の方へ向ける。異常に気付いた〈シンバ〉が此方へ向かってきている様だ。
さて、ここからどうしたものか。
なんか・・・もう面倒臭くなってきたな。
未だに手の中にあるギルドカードを弄りながら〈トルテ〉の頭を撫でると、お座りの姿勢のまま尻尾をブンブン振っていた。
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