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水上の歯車  作者: 松下優雨紀
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第2話 リヴァイアサン

リヴァイアサンと呼ばれるモンスターが最近東京湾に現れるようになったという。ホオジロザメが体長5メートル伸び、そして足が進化して陸上で活動が可能、そしてヒレも発達してトビウオくらいに飛べるようになった生き物だ。一度は海上自衛隊によって駆除されたように見えたが実際は追い出すことが精いっぱいでそれから一年に一回は襲来するようになっていた。深海にもぐってしまうためソナーで検出するのも困難であり、海底には恐ろしい巨大な肉食動物も出現するようになってから駆除するのは地上に出てきたときのみだった。また、その子孫ともいえる体長10メートル級のリヴァイアサンがも毎年冬になると港町の魚を食い荒らし、工業地帯の配管を食い破って火災を起こしたりなどの多大な被害が出ているという。


 今回も火力発電所で火災が起きた原因がそのリヴァイアサンによるものだった。


 フロストを含め東京中にいるPMC達は報奨金がかけられたリヴァイアサン討伐を含む様々なミッションに挑もうととギルド集会に集まっていた。


「フロスト、リヴァイアサンの駆除行くか?」


「ああ、こいつは逃せないよ。これで新しい銃のパーツが手に入る」


 フロストに声をかけたのは新宿区出身の坊主頭で髭面のハンター、高遠克正。元はプロのバスケットボールプレイヤーだったが、たまたま寄ったクラブでドーピング入りのカクテルを飲み、健康診断にて薬剤の反応を指摘され、マスコミに拡散されて選手生命を絶たれてしまった不幸な人間である。その後取引でPMCになることを命じられ今に至る。

 フロストたちが登録しているPMC(民間軍事事業)は各都道府県に支部が存在しており警察や政府が介入をためらう汚れ仕事や怪物退治、テロリストの殲滅、要人の護衛などを名誉の代わりにお金で解決している組織だ。たとえPMCが世界を救っても評価されるのは彼らでは無く警察や政府、その名誉の代わりとなるのが莫大な報酬だった。


 またPMCには訳ありの人も多く、元犯罪者や終身刑の囚人、その他司法取引によってPMCになった者も少なからずいた。そのため仲間内でもめ事が起き、その際に殺されることもあった。


「募集は明後日までだそうだ」


「そうか。もし空いてたら俺も付き合うよ」


 高遠はフロストの尻尾をギュッと握った。ぶるっと震え上がり、捕まれた部分を慌てて撫でるように毛を元に戻した。


「コラ! 尻尾をつかむな!」


「へへ! 楽しいからよ。じゃあな」


 高遠はギルド集会場から姿をささっと消した。きっとフロストに殴られるのを恐れていたのだろう。気分がすぐれないせいかフロストは飲んでいたカンパリソーダをカウンターに戻すと「ごちそうさま」と言って集会場を後にした。


「ふふ、フロストちゃん。相変わらずあの反応が可愛いね」


「だよね。まあでもイヌ科の尻尾ってすっげえふわふわしてるんだぜ。さわりたくなるもんだ」


「あら、あたしの尻尾じゃダメ?」


「猫科は細いんだよ」


 フロストの後姿を眺めながら同じPMCであるクラーク夫妻が笑っていた。夫婦そろってPMCというのは珍しいもので、それに加えて夫のジョンは人間、妻のイレーナはメインクーンという種類の猫獣人だ。通常動物と人間では子は産まれないが獣人と人間では子供が生まれる。まだ科学的には明らかになっていないが同じ人間の遺伝子が関係しているのだろうということでつじつまが合わせられていた。


 現代では人間同士獣人同士が結婚することもあれば異種で結婚することも多かった。昔だったらバッシングされていたが今となってはごく普通の光景となっていた。時代の流れは常に人々進化させている。





「ただいま」


「フロストさんお帰り」


 鞄を放り投げるとフロストはリビングの椅子に座ってPCを開いてインターネットにつなぎ、ギルド専用のサイトへアクセスを始める。先ほどのリヴァイアサンに関する情報がいくつか流れていてその中でも早急に駆除を願うメッセージが書かれていたことに印象を受けた。


「ピアース、今日は出前を取ろうと思うんだがどうだ?」


「出前! 僕[来勝軒]のニラレバが食べたい!」


「ニラレバか。俺は酢豚を食おう。それから餃子も」


「あと卵スープ。杏仁豆腐も」


 フロストは来勝軒の出前のメニューに載ってる電話番号を入力し、通話ボタンを押す。呼び出し音が数秒鳴り続けると次に元気な声で「はい! 来勝軒です!」と男の声がした。


「こんばんは。ニラレバ炒めと酢豚定食、それから卵スープと杏仁豆腐をお願い」


“その声はフロストだな。いつもありがとよ。20分あれば届けられるから待っててくれ”

「よろしく」


 通話終了のボタンを押して電話をテーブルの上に置いた。出前が来る前にフロストは一杯晩酌をしたかった。冷蔵庫から瓶ビールを出してグラスに注ぎ、一気に飲み干す。


「美味しいなー」


「僕もそれ飲んでみたい」


「飲んでみるか?」


 グラスにもう一杯注ぎ、ピアースの口に近づける。ペロッと一口舐めた瞬間彼は「うえっ」と言って口を押えて台所へ走り、コップに残ってたリンゴジュースを飲み干した。


「苦いし辛いよ」


「はは、これはそういう飲み物なんだ」


 それから20分後、来勝軒の出前が届いた。今回届けてくれたのはその店の娘で、彼女はいつも頼んでくれるフロストにお礼としてサービス券を渡してくれた。いつでも使えるということで有効期限のスペースは空欄になっていた。


 空腹のせいかあっという間に酢豚定食を平らげると、テレビの電源を入れてチャンネルを海外ドラマ専用に切り替える。今日放送しているのが囚人が刑務所を脱獄する物語の「ブレイクプリズン」だ。このドラマはフロストが前から見ていた番組でシーズン2まで放映している。世界中で人気を誇り、カントリーコーヒーのお客たちもこの話題を時々出していた。今日放映する内容は脱獄した囚人たちがそれぞれの道を歩み始めるというストーリーから展開される。それを楽しみに待っていたのはピアースも同じだった。


「ブレイクプリズンだー! 僕これハマってるんだ。この前TSUDAYAに行って借りてきて今観てるよ」


「面白いだろ。俺もハマってしまってね。今日はネクソンが主人公みたいだ」


「ネクソン良いよね。悪い顔してるのに良いやつなんだよ。ギャップがありすぎる」


「なんだ、ピアースも同じこと思ってたのか」


 隣で放映をワクワクしながら待つピアースの頭を撫でてフロストは始まるのを楽しみに待っていた。しかしその直後、突然ニュースに切り替わってしまった。


“先ほどリヴァイアサンと思われるモンスターに巡視船が襲撃されました。この事故で乗組員3人が行方不明……”

 ニュースキャスターが同じことを繰り返し伝える作業を見ながらフロストは「やれやれ」と呟いた。


「リヴァイアサンかー。僕は分からないけどヤバいみたいだね」


「今度こいつを倒しに行くかもしれない」


「そうなの? でも凶暴でしょ?」


「君をラージローチから助けたけどあいつらだって凶暴さ。大丈夫」


「そう。不安だな」


「心配しすぎだ」


 突然のニュースの切り替わりに楽しみも少々冷めてしまったが再び放送されるのを待つ一人と一匹だった。

 食事とドラマが終わり、ピアースを寝床で寝かせるのを確認すると作業をするために工房へ向かった。カードでドアを開けて、電気をつけるとさらに奥の階段を下りていく。階段を下りてまた電気をつける。一斉に電気がつくと無機質なコンクリートの壁に囲まれたシューティングレンジがあった。本来父であるカイルフロストが銃の性質などを調べるために作ったもので同時に射撃の訓練用でもあった。フロストが物心がついた時には父親から様々な銃器の取り扱いをここで教えてもらっており、ピストルから狩猟ライフル、マシンガンを指導のもとで撃つ訓練をしていた。

 横のショーケースにしまってあるグロック17とそのマガジンを取出して9mm弾を詰め終えると後ろの操作盤を操作してシューティングモードに設定をし始める。今回は出てきたターゲットを撃つだけのモードで練習をすることにした。気分的に止まった的を撃ちたいだけである。スタートボタンを押してシューティングレンジの1番レーンに立ち、置いてあるイヤーマフを付けて銃を構える。


 ビーッとアラームが鳴ると同時にターゲットが現われ正確に狙いを定めてトリガーを弾く。初めて撃った時は手に走る重い衝撃で痛めたことがあったが慣れてくるとその痛みも無くなってくものだ。今ではよほど火力の強い銃を使わない限り手に負担がかかることは無かった。


「いつも通りか」


 人型のターゲットには撃った分だけの穴が開いており良くも悪くもない。印刷されたスコアシートを眺めながら拳銃を棚にしまった。次に大型の棚から取り出したのはセミオートマチックライフルのスプリングフィールドM14。7.62弾を使用するこのライフルは高いストッピングパワーと長い射程を持つが反動が大きく扱いには苦労した。しかもストックが木製のため、長く使っていると形が少しずつ変化してしまって狙ってもわずかなズレが生じてしまう。そのためこのライフルは単に撃つためだけの銃となってしまっていた。元は父が初めて撃たせてくれたライフルであり、父自身がこのライフルにかなり思いを込めていたのを幼い時から見ていたせいで実戦で使えなくてもとっておくことを決めた。今ではショーケースのなかでは先輩面をしているようにも見える。レバーアクションを一回だけ行うと再び棚に戻し、電気を消してシューティングレンジを後にした。

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