第1話 桜そして始まり
僕は今日から高校で2回目の春が始まる。全てをリセットしよう。真の友人を作ろう。ともに何も遠慮をすることのない。そんな友人を。ここに宣言しようわたくし田中裕也はこれからの日々を謳歌すると。
朝、何も予定を立てているわけでもないのにいきり立った自分を早速公開している。やっちまったな。どうしよう。何か夢があるわけでもなく。毎日の生活にただ飽き飽きしているだけなのに。とぼとぼと学校に向かう僕に話しかけてくるような幼馴染もいない。ほとんど何も予定を立てることなく学校に着いてしまった。いつも通りに何もかもが今の所すすんでいる。いきなりは難しいかなと思いながら教室に入る。
さて一時間目が始まる前に準備をしなくちゃ。あれ?一時間目はなんだけ。
「ねえ、一時間目なんだっけ」
隣の席にいる女子に問いかける。
「古典だよ」
普通に答えが返ってくる。
「ありがとう」
普通にお礼を言う。なんて流れ作業のようなやりとり。いつも通りだ。
一時間目の古典は、2年になって初めての授業なので説明だけで終わるだろうし。ぼーーーーーーーと、窓の外を見る、外は道路に沿って桜が咲き乱れ、街を綺麗に彩っているのだが、今の僕にはその景色で素直に感動できない。桜は一年に一度しか咲かないから人生でほんの少しの時間しか見れないなんてよく言うけど、今の世の中写真で見れるし。僕には街の風景に新鮮さが感じられない。この街の風景は僕の中で当たり前であり季節によって変わる景色も見慣れたようにそこにある。この景色を見て感動できる人を正直うらやましいと思う。その人はきっと純粋に生きて、すべてのものが新鮮で、鮮やかさの中に生きているのだろう。僕だって昔は、このような桜の景色を見て、綺麗だと感じ、感動した。純粋だったんだろう。でも、たった16年で僕は僕の人生に飽きてしまったんだ。いやになってしまったんだ。人生の中に楽しさを見つけられず、何もない退屈なそこにあることが当たり前になってしまった人生。だから、人生を変えてみようと思った。そしたら、人とのつながりに当たり前しかないことに気がついた。だから僕は、新鮮でドキドキするような関係。真の友人が欲しくなったんだろうな。
「ねえ、外に何があるの?」
隣の席の笠野菜子が話しかけて来た。うちのクラスは初めから席替えをしたので、僕は窓側で隣が笠野になった、なんだかんだで隣になったから軽く話すような関係にはなったもののそれ以外では話したことがないな。笠野は一年の頃は自分のクラスと一番離れたところにあるクラスにいたから存在すら知らなかった。
「いや、ただ景色をみてただけ」
「へえ、桜を見てるの、綺麗だよね」
「そう?僕には見飽きたよ」
「えー!桜はいつ見ても綺麗だよ」
「へえ、感性が豊かだね」
「そんなことないよ」
「そこ!授業中に話すな」
先生に怒られた
「すいませーん」
「ごめんなさい」
これでたまにある、女の子とのお話しタイムが終わってしまった。ちっ。あのセンコーめ。恨んでやる。でもまあ、こんな身近に桜の景色を綺麗だと思える人がいるとは。まあ、ひねくれていなかったらそう思えるのかな。
すべての授業が終わった。やっと帰れると思ったら掃除当番だった。あ〜あ、面倒くさい。ぱぱっと終わらせて早く帰ろうっと。光の速さのごとく掃除を終わらせて下駄箱で靴を履き替え、帰っていると。前に笠野菜子が一人で自転車でを押しながら歩いていた。何しているんだろうと思っていると。向こうが僕に気付いた。
「あ、田中くん今帰り?」
「うんそう、ところでいったい何をしているんだ?自転車壊れたの?」
「ううん違うよ、桜を見てたの」
「桜か、よく見飽きないな」
「そう?田中くんは桜を見ても綺麗と思わないんだっけ。でも桜の花が満開に咲くのってほんの一瞬だし。今みたいに花が散り始めて、緑の葉っぱが生えそうな時もこの一瞬だけだし、その瞬間を見ることができるのはその時しかないんだよ。だから、私は桜はいつでも綺麗に見えるんだ。」
その一瞬か。
「田中くんが見ているのは桜の花だけで、私が見ているのは桜の全体なんだよ。桜に同じ形の木はないしね。」
「じゃあ、笠野が見ているのは桜を景色の一部としてじゃなく、表情とか?」
「はは、上手いこと言うね。そうかもね、桜の表情か〜。じゃあ田中くんは今の桜がどんな表情をしていると思う。」
「そうだな今この桜は疲れた表情をしているように見えるよ」
「なんで?」
「頑張って花を咲かせて疲れたからかな」
「なるほどね、でもさこんな風には見えないかな、花を咲かせるってことは、子孫を残すために必要でしょ。だからきっと子供が生まれるよう心配している表情をしている。どう?」
「いいと思う。僕には考えられないような発想だよ」
「でしょ。桜はね人によって見え方は変わるの、だから田中くんも桜を違う見方をしてみたらきっと桜の見え方が変わるよ。それはきっと今まで見たことのないような桜を見れるよ」
「そうか、笠野は桜が好きなんだな」
「うん、そうだね。それじゃあ田中くんの悩みを解決できたし帰るね。ばいばい」
と言って笠野は自転車に乗り颯爽と坂道を下っていった。
そう言えば今日笠野と少しだけ仲良くなれただけで何も変わってないな。でもまあ、ゆっくりでもいいかな。
僕はまた歩き出した。その時吹いてきた風は桜を揺らし暖かく僕を包むように感じられた。やっぱり今日ものの見え方が変わったな。