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第4話 惨劇回避の回

 よろしくお願いします



 燦々と輝く太陽が、じりじりと肌を焼く。


 コウは、荒野を歩いていた。


 昨日までとは違って、岩の転がる小道。まばらに生い茂る雑草、そして木々。あの草原程の爽快感はないが、前に進むに連れて移り変わる景色を、コウは楽しんでいた。草原は嫌いではない、寧ろ好きではあるのだが、ああ何日も代わり映えの無い景色には、正直言って飽きてしまっていた。だから、新しい景色が楽しいのだ。相変わらず、生き物は見当たらないが。


 向かう先は、行く手に聳える推定5000m級の高山だ。その外観は、中腹までは森があるが、その上からは、岩山だ。山頂付近には雪が積もっている。

 初登山には、少し厳しいかもしれない。


 そんなことを、思う。


 実はコウには、旅のお供がいた。山頂のそのまた上を見れば、島が浮いている。この距離からだと、とても小さく見える。あれは、我が家だ。コウの目覚めた場所だ。今日までずっと、目に見える範囲に浮いていたけども、山を越える頃には、きっと遠くへと行ってしまうだろう。その時が、本当の別れである。だからといって、二度と帰るつもりが無い訳じゃない。いつかは帰ろうと思う。それが、いつかは分からないけども。


 あと少しだけ、よろしくな。


 山を登るなら、空を見上げている余裕はそう無いだろう。だから今のうちに、心のなかで別れを告げておく。


 

 コウは、足を止めること無く、山へ向かって進む。その行く手を、遮るものなど何もない。


 コウは、鼻唄を軽快にならしながら歩いていく。



 

 ちょうど御昼時であろうか。コウは、山の下半分の表面を覆う、森の入り口に立っていた。

 そのまま森へ、突入するのかと思いきや、コウはそこに立ち尽くしたまま、動かない。

 何故コウは、そんなことをしているのかと言うと、ちゃんとした理由があった。


 それは


 ─────ピカッ!!   ピカッ!!


 と連続的に、森の方から発せられる白い光と


 ─────バリバリバリィィイッ!!


 とその光に合わせて、同じく森から発せられる、耳を(つんざ)くような大きな音にあった。


 これはどういうことなのだろうか。今、森の中で起きている現象に、コウは心当たりがあった。コウの知識の中では『落雷』というものに当てはまる気がする。その名の通り、悪天候のなか空から雷が落ちる現象だ。しかし、空は雲一つ無い青空であるし、雷が落ちる、なんて要素は何処にも無いように思われる。


 一体、森の中では何が起きているのか。


 コウはそれが、気になった。例え、それが危険なものであっても、一目見たいと思った。単純な、好奇心だ。(なまじ)っか、何もなかったとはいえ、アイとの最初のやり取りで死の恐怖を感じていたから、中途半端な度胸がついてしまっていた。


 ─────ピカッ ! 


 ─────バリリリィッ!!


 再び発せられる、光と音。


 

 それから、暫くじっとしていたが、さっきの現象が最後だったようで、もう森から光と音が発せられることは無くなってしまった。


 コウは意を決して、鬱蒼と生い茂る森の中へと足を踏み入れた。


 向かう先は、音のした方向だ。極力足音を出さないように、静かに移動する。中々の緊張感である。


 

 四半時程歩いただろうか。一応、この森も山の中ではあるから、緩やかな上り坂になっている。しかしある程度木が開けて道のようになっているので、歩きにくいことはなかった。

 そして、途中から嗅覚を刺激していた、辺りに立ち込める肉の焼け焦げたような異臭。それも、かなりきつい臭いだ。進めば進むほど強くなるので、確実に何かがあった所へと近づいているのだろう。

 これは、やばいんじゃないか、なんて思ってしまうコウ。


 この様子からして、何かがあったのは確実だ。しかも、戦闘かそれに近いことが。


 コウは、勢いでこの場に来たのを少し後悔していたが、すぐに考え直す。

 この山を越えるのだから、自分にとって脅威となり得るものは、予め知っておいた方がいいだろう、と。

 

 いざというときに素早く逃げ出せるように、心構えだけはしておく。銃を構えるのも忘れない。


 そうして、ゆっくりと慎重に足を進めていけば、視界は開け、目測30m四方の平らな空地に出た。


 そこにあった惨状に、思わず目を見開く。


 赤黒い液体を垂れ流した真っ黒な物体が、少なくとも十以上辺りに転がっていた。焦げ臭さも一層強烈なものになる。


 臭いから判断して恐らく、あの液体は血だろう。そして、真っ黒な物体は黒焦げになった″生き物″だったもの。


 地面に転がっているそれらを見て、呆然としてしまったものの、すぐに周囲を見回す。

 しかし、目に見える限りでは、この惨状の元凶たるものは何も見つけられなかった。


 一先ず安心だ、と一息つくコウ。


 そして恐る恐る、その異臭の発生源である真っ黒な物体の一つに近づいて、観察する。

 その際に、全体的に黒焦げで輪郭が分かり難かったので、その中でも比較的損傷が激しくないものを選ぶ。


 既に息絶えているそれは、辛うじて犬のような生き物であったのだろうと判別出来た。そして特徴的なのは、尻の方から生えている二本の尻尾だ。この特徴から、恐らくこの死骸は″魔物″であったのだろうと推測する。


 しかし、その″魔物″がどうしてこうなってしまったのかは、分からない。

 しかし、あの光と音が、雷かそれに似たものであったとして、この黒焦げの死骸。これらの要素は、結び付けられないこともない。

 ″雷″を浴びて、その時の熱で黒焦げになった、という考えが一番しっくり来る。しかしそれだと、その″雷″の発生源は何なのかという疑問が出てくる。まあ、予測は付くのだが。

  

 恐らく、それも″魔物″だ。″魔物″の中には″魔法″を使える種類もいるという。

 そもそも、この世界を自分の世界の常識で考えるのが、非常識なのだ。言い方は悪いが、不可解な現象は全て″魔物″のせいにしてしまえば、大体の説明は付いてしまう。

 例えば、この広場の状況からなら、あの犬の″魔物″が別の″魔物X″に襲い掛かかったが、″雷″の″魔法″を使われて返り討ちにされ全滅した、とか。逆に、″魔物X″が犬の″魔物″に襲い掛かり、犬の″魔物″は抵抗虚しく全滅した、とか。色々と推論は立てられる。

 しかし、どちらにせよ、相手を消し炭にできてしまうほどの超強力な″魔法″を使える″魔物″がこの森、()いては山に居るということなので、推論が正しかった場合、コウにとっては危険なだけで何も良いことがない。寧ろ悪いことだけだ。


 そして、その推論は当たっているのだと、コウの普段全く役に立たない勘が激しく訴えてくる。それはもう、ビンビンに。

 コウは今までの経験上、この感覚が絶対に無視してはいけないものだと分かっていた。

 

 故にコウは判断する。この山を登らずに、そのまま麓の森を突っ切ると。まあ、こんなおぞましい光景を見た時点で、既に山を登るのは殆んど諦めてはいたのだが。


 そうと決めたら、コウの行動は早かった。この山を迂回するため、すぐにルート変更をする。森を出て、遠回りをするしかない。とはいえ、掛かる時間はこちらの方が早いだろう。何故なら、山を登った方が確実に時間は掛かるのだろうから。


 拳銃を手に、周囲への警戒を忘れずに、コウは来た道を引き返していった。



 さて、コウは引き返したはいいが、来た時と一つ道の様子が違っていた。


 生き物がいたのだ。灰色がかった茶色の塊が、木の側で蹲っていた。そこから動かずにじっとしているが、頭はこちらをずっと凝視していた。頭には小さな角が生えており、鹿のような生き物だと思った。″魔物″かどうかは判別できなかった。

 

 コウは一定の距離を保って、その生き物を中心に回り込むように移動する。その際も、生き物の視線はコウに固定されていた。


 コウは、その視線を受け止めながらも観察をしていたのだが、そこであるものを発見してしまう。その生き物の足元に、小さな血だまりが出来ているのを。その出所を探せば、後ろ脚に小さいとは言えない傷があった。よく見れば、その目も怯えの色が濃いように思われた。


 それを確認した瞬間、コウはその生き物に近づいていった。その傷を治療するためだ。なんとなく、助けたいと思ってしまったのだ。もしかしたら、昔飼っていたペットのことを思い出したのかもしれない。

 側に寄れば、その生き物は小刻みに身体を震わせていた。しかし、その傷では逃げることが出来ないのだろう。木の側にじっとしたまま動かない。

 傷を診る。何かに噛まれたような傷痕だ。もしかしたら、さっきの″魔物″に襲われたのかもしれない。


 そこまで考えて、しまったと思った。もしかしたら、目の前の生き物は、さっきの事態を引き起こした原因かもしれないと気付いたからだ。しかし、その考えを即座に否定する。何故なら、この生き物の怯えた様子や、身体の小ささと相まって、あんなことを引き起こせるとは思えなかったからだ。それに、出来るのなら自分は既に消し炭だろう。


 そう思い、気を取り直したコウは傷の治療を始める。とはいっても、ただ傷口に手持ちの包帯を巻くだけである。しかしその処置を侮るなかれ。コウは実際にこの包帯を使って、それが持つ効果を実感していた。実はこの包帯は、擦り傷や切り傷等の患部に巻いておくと、あっという間に怪我が治癒してしまうのだ。以前コウが使った所によると、治るのに一週間くらい掛かるかな、と思った怪我も10分くらいで治ってしまったのだ。何の気なしに患部に包帯を巻いていたのだが、すぐに痛みが無くなり、不思議に思って包帯を取ってみれば見事に傷が無くなっていた。コウはそんなとんでも効果を持つものを、生き物の傷に巻いていった。その間にも、生き物は動くことはなかった。というよりは動けないのかも知れないが。


 包帯を巻き終え、暫く時間を置く。生き物が少し脚を動かし始めたので、そろそろいいかなと思い、包帯を外していく。そして、包帯を全て外せば、先程まであった怪我は、綺麗さっぱりと無くなっていた。

 それを見て満足したコウは、その生き物から離れようと腰を上げた。


 その時、背筋に悪寒が走った。


 咄嗟にその場を飛び退く。


 白い光。


 コウのいた場所を、何かが通り過ぎた。


 そして、すぐ後にあの耳を劈くような音。


 

 コウがそれを避ける事が出来たのは、単なる偶然だ。コウの勘が、再び働いただけのこと。そのお陰で、消し炭にはならずに済んだ。それに関しては、幸運だったと言えるだろう。

 しかし、その後のことはどうしようもなかった。


 突然、弾けるように飛び退いたため、コウの姿勢は完全に崩れていた。


 そこに、強烈な一撃が入る。


 今まで感じたことの無い衝撃を、コウの身体は受け止め吹き飛ばされる。


 ボキボキッ


 嫌な音が、コウの脳内に響く。


 そして、吹き飛ばされた先には木があった。


 幹に身体を打ち付け、更なる衝撃がコウを襲う。



 辛うじて保っていた意識も、そこで手放してしまったのだった。


 

 

 

 


 

ありがと

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