戦
分割その2です
全速力でレスト村から戻ってきたが……街が燃えてやがる……ゴブリン相手の時は3ヶ月もの間耐え抜いたグラリアがこうも早く損害を受けるとは……すぐにオークを潰すつもりだったが、先にエイナとエマさんの安否を確認するか……だがその前にさっきから門に突っ込んでるアレを何とかするか……
『グラウンドサーチャー』で三つの門の位置を正確に把握し、魔力を集中する。幅は門とほぼ同等、厚みは城壁と同様、高さは5メートルもあればいいか……防げ、『アイアンウォール』
幾度目か数え切れないほどの再突撃を行おうと、丸太を抱えたオークが駆け出すと同時に足元より巨大な鉄の壁が勢い良く屹立した。真下からかち上げられたオーク達は、丸太ごと宙を舞うと地面に叩きつけられ動かなくなった。門の前に聳え(そびえ)立つ鋼鉄の壁にオーク達は戸惑い、指示を仰ごうと将軍を振り返った。とりあえずこれで暫く時間が稼げるだろう……今のうちにグラリアに入るかねぇ
トンネルを掘り、グラリアの内側へと移動する。地中より這い出すと、門近くの家屋が燃えているようだ、懸命に消火を試みているが……バケツじゃ焼け石に水だよなぁ。どうやら避難は出来ているようだが、あのままだと延焼しそうだな……
「おい!燃えてる建物を内側に倒して延焼を防ぐぞ!少し離れてくれ」
声をかけると、消火に当たっていた人々が半信半疑ながらも建物から離れてくれた。鉄の刃を生成し屋根を支える梁の中央部を叩き切り、屋内に屋根を落とす。さらに壁を内側に倒れ込む様に操作することで火炎を土壁で押しつぶす。押しつぶしたことで大分火の勢いも弱まったようだな……これなら延焼もしないだろう。そう思い、現場を離れてギルドへと向かう。途中でさらに3件ほど火災があったが同様に対処しておいた。
ギルドの中に入ると負傷者の手当てに職員が駆け回っている。いくら城壁があるとはいえ、無傷という訳にはいかない様だ。それにポーションは数も限られているため、重傷者に優先的に回されているらしく、ここに居る面々は軽傷者が中心の様だ。
そう思い周りを見渡すと、駆け回る職員の中にエマさんを発見した。
「エマさん!無事だったか」
俺の声に反応し、こちらを振り返るエマさん。手に持った水桶を取り落としそうになるが、寸での所で持ち直すとこちらに駆け寄ってきた。
「ロックくん!無事だったのね。でも門は閉ざされているはずなのにどうやって入ってきたの?」
俺は人差し指を口に当てると
「エマさんを助けた時と同じだよ。グラリアがオークに襲われていると聞いてね、エマさんとエイナを守るために帰ってきたのさ」
エマさんはその言葉に嬉しそうに微笑む。
「あら、だったらエイナちゃんにもその言葉を掛けてあげてね。あの子ついさっきまで物資管理の雑用で駆け回っていたから……休ませるために家に帰したのよ。私もあと一人手当てしたら交代するから一緒に戻ってくれる?」
「ああ、エマさんを一人にする訳には行かないからね。その間に少しギルドマスターと話したいんだが出来るかな?」
エマさんは小首を傾げて考え込むと
「うーん、今ならマスターは執務室に居るから会えるとは思うわよ?でも何の話を?」
「ああ、俺がオークを叩き潰すから大目に見てもらうのさ」
その言葉にエマさんが目を丸くするが、意味を悟って心配そうな目でこちらを見てくる。その頭を慰めるように撫でると
「大丈夫だよ、エマさんもエイナも俺も……俺の家族を守るために全力を出すと決めたんだ……だからギルドマスターに話をつけるのさ」
エマさんはこくんと頷くと、執務室へと先導してくれた。執務室の扉をノックし、許可を得て中に入る。中には大量の書類と格闘するギルドマスターが居た。こちらをチラリと見やると何事かと訊ねてくる。
「何じゃ、ハウルガンの時の小僧か、見ての通りワシは忙しいんじゃ、用があるなら手短にな」
「ああ、なら単刀直入に言うが、オークを叩き潰すから国から守ってくれないか?」
ギルドマスターは怪訝な顔をしてこちらを改めて見る。
「おぬし何を言うておる。あれは一人でどうにかなるもんじゃないぞ、用がそれだけならさっさと帰れ」
まぁ普通ならそう言うわな……だがここで帰ると後々面倒になりそうだしなぁ。
「いや、俺は本気だ……事後でも構わないから、俺がオークを撃退したら国からのちょっかいを牽制すると約束してくれ」
ギルドマスターは俺の言葉に本気を感じ取ったのか、書類から顔を上げてこちらを見つめると訊ねてきた。
「ふむ、それが出来る根拠はなんじゃ?まさか、それも無しに言うとりゃせんじゃろう?」
「そう……だな、三つの門の前に壁が出来たのは聞いてるよな?」
俺の言葉にギルドマスターは再び眉根を寄せる。
「ああ、いきなり地面から生えたとか言うとったが……まさか、あれはお主が?」
俺は静かに頷くと
「そうだ、3箇所同時にアレを生み出す程度の魔法は使えるって事だよ。それとあの壁は地面に立ってる訳じゃない、倒れない様に地中に地上部分の倍は埋まってる」
ギルドマスターは口をあんぐりと空けて呆けている。そりゃそうだ、俺の言葉通りなら幅12メートル、高さ15メートル、厚み4メートルの鉄板を数秒で生み出すような魔法が使えるって事だからなぁ。
だが、呆けて貰ってちゃ困るんだよなぁ。これからギルドマスターにはコールフィード卿に連絡を取って貰わなけりゃならないんだから……
その後、いくつかの話をギルドマスターとした後、エマさんを連れてハウルガン邸に戻った。
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館には明かりが灯っており、まだ起きている事が伺える。エマさんが先に中に入ると、エイナが出迎えてきた。
「エマ様!遅いから心配致しましたわ。こういう時にロック様が居ないのは不安ですが、私達で家をお守り致しませんと……」
最後の方で俺に気が付いたらしく、声が小さくなっていたが……俺が軽く手を上げると、驚きに開いた口元を両手で隠し、目の端に涙が溜まる。我慢できなくなったのかエイナが飛付いてきた。こういう所は年相応と言うか……幼いと言うか……ぽんぽんと背中を軽く叩いて落ち着かせると、エイナを抱き上げて中へと入る。
居間にはビルさん夫婦とモルガナさんが座っていた。どうやらこちらに避難してきたようだな。俺がエイナとエマさんを抱き上げて入って来た(何故か途中でエマさんも抱きついてきた……なんか羨ましかったらしい)のを見て目を丸くしている……ビルさんだけ殺気を漂わせているが……
「や、皆無事だった様ですね。とりあえずは良かった……」
ソファに座り、二人を撫でつつ現状と防備を確認して行く。と言ってもハウルガン邸には、未だ防衛用の人員は居ないため、ビルさんぐらいしか男手が居ないんだけどな……
とりあえず俺がオークの集団を何とかするつもりな事、またそれによって今後新たな面倒が降りかかるかもしれない事なども含めて説明すると、何故か皆して今更何を?見たいな顔をされたんだけど……
「最近、皆の評価がひどい気がする……まぁ、それは置いておくとしてだ。まずここの防備と言うか、エイナとエマさんの安全を確保しないとな」
以前アインをエイナに潜ませて付けようとした事があったが、二階などの場合潜っていられない事も在って断念したしたんだよなぁ。なら最初から居ても気にならない護衛を付ければ良いじゃないかと思ったわけだ。
まず、核となる魔宝石を作り上げる。アインやツヴァイと同じワンオフ物を作る積もりなので、エイナ用はルビーで、エマさん用はエメラルドでそれぞれ核を作り上げる。外装は街にいても違和感が無いように柴の子犬を模して見た。(結構犬や猫を飼う人は中流から上流階級に多いんだわ)ミスリルとアダマンティンの複合装甲に極細のヒヒイロカネを植毛して全身を毛皮の様に覆わせた。見た目や手触りはちょっとタワシな手触りの毛とふわふわな巻尾を持つ柴犬だ。
もちろん可愛いだけでは護衛は勤まらない。こいつ等は戦闘時は核の魔力を使って、追加装甲を作り上げ、大型の熊ほどのサイズまで巨大化することが出来る。そしてその戦闘力はアインやツヴァイと同等と言えば納得できるだろうか。
出来上がった犬型ゴーレムを見て二人が歓声を上げる。
「きゃー、なにこれ!すごく可愛いですわーー」
「うふふ、ほらおねぇさんの所にいらっしゃい?」
どうやら気に入ったらしいな……エイナが抱っこしている赤柴が『チロ丸』、エマさんが抱っこしている黒柴が『北斗』どちらも俺が子供の頃に飼っていた犬達だ……柴犬らしく家族以外には懐かなかったが、可愛いやつらだった。
二人をサブマスターに登録し、モルガナさんやビルさん夫婦を護衛対象として登録したので、これで万が一オークがここに来ても安全だ……いざとなったら全員乗せて逃げることも出来るからな。
「さて、それじゃそろそろオークに退場してもらってくるかねぇ」
俺が立ち上がり、そう呟くとエイナとエマさんは並んで立ち上がりスッと頭を下げる。
「ロック様、ご無事をお祈り致しておりますわ」
「ロックくん、無理しないで危なくなったら帰ってくるのよ?」
顔は微笑んでいるが、やはり心配なのだろう……瞳が揺れている二人を抱き寄せ頬に唇を落とす。
「大丈夫、ちゃんと帰ってくるから、美味いメシでも用意しておいてくれ」
俺の希望に二人は笑顔で返事をしてくれた。なら、食前の運動と行きますかねぇ。
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再びグラリアを望む丘に立った俺は、戦場を確認する。鋼鉄の壁をどうにかして倒そうと丸太を何本もぶつけている様だが、むなしく撥ね返った丸太がオークの頭上に落ちるだけの様だ。オーク・キングは相変わらず軍の中央から動いていないようだなぁ。
何を考えているのか知らんが、まずは東門のオークから何とかするか……
「我が求めるは忠実なる僕、鋼から成る無敵の軍勢、集いて我が敵を蹂躙せよ『クリエイト・ウォーレギオン』」
久々に感じる魔力が体から抜け出ていく感触……流石にこの規模の魔法となると、詠唱を交えた方が魔力の消費量が少なくてすむしな……丘の上に鋼鉄のゴーレム達が次々と現れる。巨大な軍馬に跨った突撃騎兵型が300、大型の合成弓を携えた猟兵型が200でそれぞれをアインとツヴァイが指揮する。
ゴーレム達の装甲は艶消しのマットブラックのため、オーク達も夜目が利くとはいえ、まだこちらには気が付いていないようだ……俺自身も馬ゴーレムに飛び乗ると『ガードスキン』で全身を覆う。流石に戦場で全ての流れ矢を防ぐのは難しいからな……
アインに目を向け指示を飛ばす。騎兵を率いて、丘より東門を攻めているオークの集団目掛けて突撃を敢行する。駆け出す轟音で漸くこちらに気が付いたオークだが、もはや逃げることが出来る距離ではない。ゴーレムに跳ね飛ばされ、ランスに刺し貫かれ、集団はあっさりと背後から噛み破られた。
集団の中央をぶち抜かれ、真っ二つに引き裂かれたオーク達の片割れにさらに不幸が舞い降りる。ツヴァイ率いる猟兵から豪雨のような矢の弾丸(もはや威力が高すぎて矢というよりライフルのようだ)に次々と打ち抜かれ、自ら作り出した血の海へと沈んでいく。残った片割れも反転してきた騎兵に、再度突き破られてもみ潰された。
俺は城壁へと目を遣り、そこにコールフィード卿が居ることを確認すると合図を送る。ギルドマスターからの連絡は無事届いていたようで、重々しく頷くとマントを翻し城壁の奥へと消えて行った。聳え立つ鋼鉄の壁をさっくりと消し去ると、東門が音を立てて開き、そこには準備万端で騎士達が並んでいる。コールフィード卿の号令に従い騎士団が出撃していく。
俺自身はアイン達と共に中央のオーク達に向かって再度突撃を行うため、すでに駆け出していた。
加速を付け、楔形陣形で相手の横腹を食い破る。何匹ものオークが突撃を止めようと向かってくるが、騎兵型ゴーレムの一騎辺りの総重量は3トン近い……オーク達はせいぜいが200~300キロ程度、その上駆けてくる者とその場に立っている者とではぶつかった時どうなるかは自明の理だ。
紙を切り裂くように中央に大穴を空けていくゴーレム部隊、その傷口にグラリア騎士団が食らい付く。混乱をきたした前線部隊は持ち味の腕力を発揮することが出来ず、じりじりと削り取られて行った。
オーク・キングの咆哮が戦場に響く、少し遅れて俺達に向けて無数の火球が飛び込んできた。どうやら味方ごと巻き込んででも吹き飛ばす積もりだったようだが……『ガードスキン』によって火球の威力を無効化した俺は言うに及ばず、騎兵型ゴーレム達も表面がわずかに焦げただけで被害は無かった。むしろ火球を放った事で位置を探られたオーク・ソーサラーにツヴァイからの反撃が降り注ぎ、以後火球による攻撃は発生することは無かった。
一度オークの軍を突き抜け、反転して更に突撃を行う。今度はオーク・キングの咆哮が響いた場所を目指しての突撃だ。流石に陣の奥は層が分厚く、敵も軽装なオーク・ウォリアーから重装のオーク・ナイトが多くなって来た。
アインからとある攻撃の許可を求められたので、即座に了承する。以前にも言ったが、ゴーレム達は俺と技能を共有している。つまり核の魔力を使用して魔法を使うことも可能なのだ。300体のゴーレムが発動させたのは『ペネトレーションドリル』、構えたランスに掘削用の刃が発生し、高速で回転を始める。ドリルに触れたオークは、鉄の鎧を抉り取るように削られ、回転の反動で吹き飛んで行った。
自慢のオーク・ナイトですら時間稼ぎにもならないと、業を煮やしたのかオブシディアンタートルを駆りオーク・キングが突撃してきた。流石にアレには質量で負けるな……仕方ない
「アイン!!叩き潰せ!」
騎馬の先頭を駆けていたアインがオブシディアンタートルと対峙する。馬の背を蹴り空中に舞い上がると、ハルバートを大上段に構える。振り上げたハルバートに魔力が集中し、刃が巨大化していく。武装巨大化魔法『ギガンティックウェポン』により2メートル近い刃とそれに伴う質量を獲得したハルバートをアインは軽々と振り下ろした。
空気を切り裂く轟音を立て、アインのハルバートが甲羅に接触した瞬間、硬い鉱石が砕け散る甲高い音が響き……オブシディアンタートルは真っ二つに裂け、割れていた。
アインの一撃でオブシディアンタートルより転がり落ちたオーク・キングを、ゴーレムが囲うように包囲する。中央の拓けたスペースには俺とオーク・キングだけが残る……
さぁて、貴様が起こした戦で死んでいった者達に地獄でわび続けて貰おうか!!




