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胎動

長くなりましたので、3つに分割いたしました。

暗く深い森の奥、不自然に拓けた場所がある。人工的に空間を広げた証拠に、幾つもの切り株が残っている。そこは……オーク達のキャンプだった。

100や200ではきかない程のオークがそれぞれの部隊毎に集まり食事をしている。

食らっているのは道中で捕らえたホーンラビットやジャイアント・ボア、グレイベアなどの魔獣やゴブリンだ。

ゴブリンはすぐに食べられる者も居れば、人足として物資の運搬に酷使される者も居る。現にキャンプの端では、大きな荷物をヨロヨロと運び込むゴブリンの姿が見える。力尽き倒れればそのまま食料となるし、その前にオーク達に嬲り殺しになる固体も多く居る。オーク達からすれば、死ねばまた捕まえればいい程度の認識のため容赦が無い。稀に脱走するゴブリンも居るが、追われて殺されるか、他の要因(魔獣や冒険者との遭遇、体力の低下による衰弱死など)で無事に集落まで戻れるものは少ない。ロック達が出会ったのも、どうやらそう言った固体であった様だ。


オーク達の腹が十分に満たされた頃、一体のオークがキャンプの中央に立つ。通常のオークと比べても明らかに体格が異なる。オーガにも匹敵するほどの4メートル近い体躯と分厚い肉の鎧、その皮膚は通常のオークと異なり灰色の皮膚をしており、鎧で隠されているが、顔の右側から右腕の甲に掛けて黒い文様が走っている。

またその身に纏う装備もオークとは思えないほど立派だった。黄金色に輝く兜は要所に宝石が散りばめられ、人の王が戴く冠にも引けを取らないほどだ。鎧は漆黒の金属で出来たプレートアーマーで、まるで誂えた様にオークの体をぴったりと覆っている。実際この鎧は魔道具の一種であり、装着者の体に合わせて大きさが変わる機能を有している。

背負う大斧はオークの身の丈ほどもあり、オークの筋力で振るえば大岩も容易く砕けるであろう。


巨大なオーク――オーク・キングは周囲を睥睨すると、口を開く。


「我が同胞達よ、これより我等は脆弱な人間共の住処を襲撃する!!奴等は頑丈な物を作るのが得意なだけの小賢しい生き物よ。我等の力の前ではその様な物、塵にも等しいと教えてやれ!!ゴブリン共は失敗したようだが、我等とゴブリンでは格が違うことを見せ付けてやろうではないか!!」


オーク・キングの演説にオーク達は立ち上がり、一斉に斧を振り上げ足を踏み鳴らす。そこかしこで歓声が上がり、これから行われる襲撃の後を想像しているのか興奮が高まっているようだ……


オーク・キングは満足そうに頷くと、将軍達を呼び寄せ進軍の指示を出す。オーク・キングは自らも進軍のために愛亀(あいき)である、『オブシディアンタートル』に乗り込むと玉座に腰を落ち着けた。暫くすると準備が整ったのか将軍達がオーク・キングの前に整列する。オーク・キングは鷹揚に頷くと、進軍の号令を右手を上げて下したのだった。



■□■□■□■□■□■□■□



パチッ パチッ


城壁に据えられた篝火が燃える中、見張りの兵士があくび交じりに職務を遂行している。夜明け直前のこの時間帯はもっとも眠気が強い時間ではあるが、それ故に居眠りをする訳にはいかないと、互いに注意し合うのが通例となっている。


「ふあーー、おいスミス、もう少しで交代だからよ、居眠りすんじゃねぇぞ?」


その言葉に声を掛けられた兵士が笑って答える。


「はは、お前こそ大きなあくびをしやがって。そっちこそ寝るんじゃねぇぞ」


この10年というもの、グラリアを襲撃するような魔獣や山賊団も無いとは云え、森からの侵略を押さえる要所であるグラリアの警戒を弛める事は在ってはならない。一般の兵士とはいえ、その重要性はしっかりと頭に叩き込まれている二人は、軽口を叩いてはいるが目は真剣に森へと注がれている。


夜明け前特有のシンッと静まり返った空気の中、ふと兵士の耳が何かを捕らえた。


「おい、何か聞こえないか?」


「あん?……いや?何も聞こえないが……」


「いや、森から何かが近づいてきている……」


兵士達は耳を澄ますと、森の奥からガサガサと茂みを掻き分け、枝を折る音が段々とはっきり聞こえてきた。二人は目配せをすると、スミスと呼ばれた兵士はすぐさま詰め所へと駆け出した。残された一人は、近づいてくるモノを少しでも早く確認しようと目を凝らす。

森から現れたオークの集団を残された兵士が確認したのは、詰め所から駆けつけた小隊長が到着するのとほぼ同時だった。


「隊長!!敵はオークの集団!数は不明、森よりどんどん出てきています!」


その報告に小隊長は顔を歪める。その脳裏に蘇るのは10年前のゴブリンの襲撃だった。自らも城壁から乗り出す様に見下ろすと、報告の通り数え切れないほどのオークが森から溢れ出す様に現れている。


「くっ!!おい、宿舎に行って兵達を叩き起こして来い!!私は閣下に報告する!!」


命令に即座に反応し、飛び出すように駆けていった兵士を見送りつつ、小隊長は懐より小型の魔道具を取り出す。『伝令貝』と呼ばれるこの魔道具は対となる貝とのみではあるが、100キロ近い距離があっても連絡を取ることが出来る魔道具だ。もちろん魔道具のため、高価な品ではあるが小隊長以上の役職にあるものは、直属の上司と領主への連絡手段として持たされている。

焦る気持ちを押し殺し『伝令貝』を起動させる。永遠にも感じられた数秒後、応答があった。


「私だ、何があった?」


「はっ!南砦警備小隊長のザーグであります!森よりオークの集団が現れ、こちらに向かっております!なお、数は少なくとも500以上、現在も森より出現し続けております!!」


「そうか、こちらもすぐに騎士団を纏めて応援に駆けつける。城門を閉鎖し防備を固めよ。到着前に攻めてきた場合は訓練どおり応戦せよ」


ギリアム=コールフィードの落ち着いた声と指示に、自らも冷静さを取り戻した小隊長は了解の意を返すと通信を切った。そうだ……どのような相手だろうと私の仕事に変わりは無い、冷静に訓練どおりにやれば良いだけだ。そう思い直すと、主の指示を忠実にこなすため階段を下っていった。



■□■□■□■□■□■□■□



戦いは夜明けと共に始まり、昼を過ぎてなお激しく続いていた。

最初はオーク達を戦術も無い力押しの集団だと思っていたグラリア側だが、東西と南の城門に取り付こうとするオーク達を石弓と投石で撃退していた所、意外な物を見ることになる。それは枝葉を切り落とし先端を尖らせただけの丸太ではあったが、まさしく破城槌であった。

グラリア側はオーク達が単純ではあるが攻城兵器を持ち出すとは思っても見なかった。その事に動揺し慌てる将兵達をコールフィード卿は一喝し立ち直らせると、すぐさま一手を打つ。


「魔法兵団を投入し、城門に取り付くオークを殲滅せよ」


もともと数が少なく、冒険者ギルドからの参加者を含めても100に満たない人数ではあるが、それぞれの威力は高い。一人一人がまさに砲台と言えるほどの威力を備えているのだ。無論燃費が悪いなどの欠点も存在するが、城門を破られるわけには行かないため、早期の投入を決断した。


「炎よ!爆ぜる火球となりて敵を討て!『ファイアーボール』」

「風よ!集いて切り裂く刃となれ『ウィンドカッター』」

「水よ!穢れしモノを押し流す濁流となれ『アクアプレッシャー』」


炸裂する火球が、切り裂く疾風が、押しつぶす濁流が、門を破ろうと突き進むオーク達を破城槌ごと吹き飛ばす。その光景に歓声を上げる兵士達。門を守ることに成功し、持久戦の構えを取るグラリア側……それを見てオーク・キングは不気味にニヤリと笑うのだった。


日が暮れる頃、いまだオーク達は破城槌を持って門を破ろうと突撃を繰り返していた。オーク・アーチャーより放たれる矢を防ぎつつ石弓や投石、魔法による迎撃を繰り返してきたが、魔法兵団の約半数がすでに魔力切れとなっていた。小山を作るほどの犠牲を出しながらもオーク達はただ愚直に破城槌を打ち込もうとするため、魔法兵に十分な休息を与えることが困難だったのだ。

だが、守備兵たちは思う。あと少しすれば日が暮れる、そうすれば突撃も止まる筈だと……先のゴブリンとの戦のときも、夜になれば自然休戦となり、夜が明ければ再開していた。今回もそうなるだろうと誰もが思っていた……しかし、それは叶わなかった。


辺りが夜の帳に覆われてもオーク達の突撃は緩むことは無かった。まるで砦を落とすまで戦いは終わらないとでも言うかの様に、門をこじ開けようと突撃を繰り返す。コールフィード卿が限界となった魔法兵を下がらせ、予備兵力と交代させようとした時、事態は急変した。


暗闇を切り裂くようにオークの群れより火球が飛び出し、城壁やソレを飛び越えて民家を焼き焦がした。これこそがオーク・キングの自信の一つ……オーク・ソーサラーだ。オークの突然変異種とも言えるこの種は、蛮勇を旨とするオーク達の中にあって時に迫害の対象ともなる。だがこと遠距離での火力ともなれば、その威力は絶大だ。

それを知るが故にオーク・キングはソーサラーを保護し、自らの直属部隊とした。元来魔法を不得手とするオークではあるが、火球の威力は十分にグラリアの守備兵を混乱させ、冷静さを奪っていく。さらにワザと城壁を跳び越すように火球を打ち込むことによって、消火に人手を割かせることにも成功した。


オーク・キングは、自らの戦術がうまく機能していることにニヤニヤと笑い、グラリアを落とした後の狂宴に思いを馳せる。だがその余裕も長くは続くことは無かった。


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