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希望と気合

悪夢から覚め、飛び起きる……ひどい寝汗だ……


ファーウッド村に最初から居れば助けられたのに……と言う後悔と、俺さえ居ればと言う傲慢、そしてもしかしたら俺の村が襲われるかも知れないと言う不安から見た夢なんだろうか……

この村の惨状を思うたび、結局は多少強い力を持つだけの人間でしかないと思い知らされる。確かにレスト村で城壁を作った後、俺が単独でこの村まで移動していれば被害は最小限に抑えられたかもしれない。

だが、それでも時間を考えれば犠牲者は出ただろうし、神ならぬ身ではそんな判断はあり得ないだろう……出来もしないことをうじうじと悩むのは嫌いなんだが、こればっかりは後悔が過ぎってしょうがねぇ。

―――後に、トト村の防備のために山に守護神を埋めに行ったのはまた別の話だが―――


できる限りの物資を積み込もうと荷馬車への積み方を工夫している女性達と、その指示に従って荷物を積み込んでいる男達……この分なら1時間もすれば出発出来そうだ。

俺も積み込みを手伝おうと、馬車に近づくとふと呼び止められた。


「あんたがロックさんかい?」


声のした方に振り向くと、4歳くらいの男の子を抱き上げ、胸から腹にかけて包帯を巻いた男性が立っていた。


「ああ、そうだけど……何か用かい?」


俺が答えると男は深く頭を下げる。突然のことに戸惑うが、子供の左腕を見て思い出す。ああ、あの時の子供か、と……


「……あんたが来てくれて本当に助かった……息子を助けてくれてありがとう」


頭を上げ、そう言葉を口にする男の目には涙が浮かんでいた。抱きかかえながらも子供の頭を撫でているその表情は、偽りの無い物だと感じられる。


「いや……俺がもっと早く来れれば、その子の腕だって無事だったかもしれないんだ。それに子供を助けるのに理由なんて要らないだろ?」


男は俺の言葉に首を振る。


「生きていてくれただけでも十分だよ……あんたは十分以上にやってくれたさ。それを否定するようなやつは俺や村の連中がゆるさねぇよ」


そうか……すべてを救うことは出来なかったけれど、それでも少しは役に立つことが出来たと思っていいのか……


「そうか……こちらこそありがとう。そう言ってくれて助かる」


俺と男はどちらからとも無く笑い合い、握手する。そして改めて子供を見て顔が赤いことに気がつく。


「ん?この子熱が出ているのか?」


男は心配そうな顔をして


「ああ、腕の傷が原因でな。あんたから貰ったポーションを使わせて貰ったお陰で、怪我の大きさにしては熱は低いけどな」


ふむ、子供の額に手を当てるとやはり微熱があるようだ……安静にしていれば問題無いんだろうが、これから馬車で移動となると少しまずいな……この子の年だと着く頃には悪化しかねん。


「この子に治癒の魔法を掛けたいが構わないだろうか?」


男に顔を向け確認を取る。男は俺が地魔法を使える事は聞いていたようだが、複数種の魔法が使えるとは思っていなかったのだろう、目を丸くして頷いてきた。


「といっても部位の欠損まで直すような物は使えないが、体力を回復させて微熱を取るくらいなら……『錬気回生』」


俺が毎日のように練り上げ、丹田に溜め込んでいる精気を気魔法によって男の子へ譲渡していく。高密度の気は小周天を巡りながら細胞を活性化させ、体力を増加させていく。男の子の顔から熱による赤みが消え、健康的な肌色に変わると手を額から離し様子を伺う。

男の子は薄っすらと目を開くと、次いでパチパチと瞬きをし辺りを見渡す。自分が父親に抱き上げられていると知ると、安心したようにまた眠りに就いた様だ。


「うん、よくなった様だな。これなら馬車の旅も問題ないだろう」


そう言って笑うと男はまた深々と頭を下げた。


「重ね重ねありがとう……あんたは命の恩人だ。何か俺達に出来ることがあれば何時でもいってくれ」


「ああ、その時はお願いするよ。それよりあんたも怪我が治りきっていないようだが……ポーションが足りなかったのか?」


男は自分の、まだ血が滲む包帯を見下ろすと苦笑する。


「ああ、これか……息子に一本残して全て使っちまったんだ。俺なんかよりこいつが助かるほうがずっと大事だったからな……」


「そうか……ならあんたも出発前に治療を受けてもらおうか。じゃないと子供が守れないだろう(・・・・・・・)?」


そう言って笑うと、男も釣られて笑う。


「ああ、そうだな。こいつを守るためなら仕方ないな」



■□■□■□■□■□■□■□



レスト村までの道のりは概ね平和なものだった。20人以上を乗せてもまったく問題なく馬車を引っ張る馬ゴーレムと、通常の馬車と比べ物にならないほど強力なサスペンションによって、間に合わせの荷馬車とは思えないほどの乗り心地の馬車は子供や老人、女性達が居眠りをしてしまうほど快適だった。

周囲を歩く男達が時折羨ましそうにしていたが、男は甘やかさない主義だ!!


そして、運悪く(・・・)襲ってしまった山賊達(ユーリや俺の時は全速力の馬に乗って居たため追いつけなかったらしい)は不意打ちの積もりで放った矢を重騎士型ゴーレム(シールダー)によってあっさりと防がれ、ツヴァイが率いる猟兵型ゴーレム(イエーガー)による一斉射撃により崩され、アイン率いる突撃騎兵型ゴーレム(アサルト)による突撃であっさりと瓦解した。

もはや一方的な蹂躙と呼ぶべき戦闘はわずか2分で決着が付き、大将首だけ布で包んで鞄に放り込んでおいた。流石にこの人数を俺一人で守るのは手が回らないので、ゴーレムを使うのもやむなしとして置こう……


その後は特に問題も無くレスト村への道程を消化することが出来、夕方には城壁が見える場所まで来る事が出来た。今まで無かった城壁に村人たちは戸惑っていたが、数秒後には俺に視線が集中し……何も言ってないのに何故か皆納得したように頷いたのだった……


なんつうか……だんだんと変な意味で信頼されている気がするなぁ。


レスト村に入ると広場に皆が集まっていることに気づく。ただその雰囲気が少々おかしい……追加のオークも来ていなさそうなのに、皆不安そうな顔をしているのだ……


見張りから報告を受けた村長が、ファーウッド村の人たちを誘導し馬車を一角に止めると、見覚えのある青年がレスト村の集団から飛び出してきた。青年=ユーリは生き残った人たちの無事を喜ぶが、その中に身内がいないことに気がついたようだ……肩を落とし涙を堪えている。そしてファーウッド村の村長に向かい口を開いた。


「村長、すみません。指示された騎士団への報告は叶いませんでした」


その言葉を聞き村長を含めた皆が驚き、ざわめく。


詳しい説明を聞いたところ……ユーリはあの後レスト村のベイルとグラリアの少し手前で追いつき合流したそうだ。そして手前の丘を登ったところで信じられない光景を目の当たりにした。


それは森から溢れ出す様に飛び出し、グラリアを包囲するオーク達の群れだった。正確な数はわからないが南門から西・東門までを半包囲するほどの数は居たそうで、グラリアに入ることを諦めるしか無かったとユーリとベイルは悔しそうに語った。

オーク達は黒地に赤い月を描いたような旗を持ち、まるで軍隊の様だったらしい……規律の取れたオークの集団ねぇ……レスト村を襲ったのも、もしかするとその一部だったのかも知れねぇな。この時期なら収穫物をまだ税として収めていないから、食料の補給狙いだった可能性が高そうだなぁ……


また、集団の一番奥には高さが5メートルほどもある大亀(色が真っ黒だったらしいので、『オブシディアンタートル』ぽいな)に玉座を据付け、黄金色の兜を被った一際大きなオークが居たそうだ……そのオークが一声吼えると、興奮し今にも襲いかかろうとしていたオーク達が一斉に陣形を整え始めたらしい。このことから鑑みるにオーク・キング自らが氏族を率いて攻めて来たと見てよさそうだなぁ。


そうなると騎士達をこちらに寄越す余裕はおそらく無いだろう……どちらが勝つにしろ、決着が付くまでレスト村は警戒態勢で行くしかないだろうなぁ。とりあえず両村長による話し合いに任せ、本来の依頼者であるジョーンズさんの元へと戻る。俺が帰ってきたことに気が付いたプミィさんが真っ先に飛び出してきた。


「ロックはん!!大丈夫やとは思とったけど、無事でよかったで!!グラリアの話はもう聞いたんか?」


俺が頷くと、プミィさんはジョーンズさんたちを振り返り


「わしらもそれで相談しとったんやけど、わしらはともかくロックはんはグラリアに行ったほうがええんや無いかと思うねん」


その言葉に小次郎さんが頷き


「そうで御座る。この事態は緊急招集に値すると思うで御座るが、現状拙者は護衛依頼中のため連絡網から除外されてるで御座る。この緊急招集はDランク以上になると対象となるため、このメンバーでは拙者だけが対象となるで御座るがロック殿はEランクどころではない戦力と考えられ申す。そのためここに留まるよりグラリアにて戦に参加するほうがよいと思うで御座る」


そんなモノがあるのか……ギルドに入った時には説明されていないから、Dランクになった際に説明される事なのかもしれないな……だが、グラリアには騎士団や強固な城砦があるのに対してここは城壁はあるものの、兵といえるのはジョーンズさんの護衛メンバーくらいだ。その上で俺が抜けて問題は無いのだろうか……

そんな事を考えていると、ジョーンズさんが意を決した表情でこちらに語りかけてきた。


「確かにロックさんの力は手放しがたいですが、グラリアが落ちればこの南部地域全てがお終いです。それならば多少の危険は承知で、ロックさんにはグラリアに行ってもらったほうが良いと……私は思うのです」


周囲を見回すと、皆同意見の様だ……軍隊相手に一人の冒険者が追加されたところで普通なら意味が無いはずだ。だが皆は俺を軍隊でも相手に出来ると確信しているようだなぁ。すでに二つの村を救うために力を使ったんだ……今更目立つのどうのと言ってられないか……


「わかりました。なら俺はグラリアへと行きましょう。あそこには俺の嫁が居ますからね。豚どもに好きにさせるわけにはいきませんから」


その言葉を聞いたプミィさんは笑って


「そやな!嫁はんを守るんは夫の役目や!わしかてグラリアに嫁が居ったら今すぐ飛んでいくで!」


その台詞に皆が笑う。そうだな、何も難しい事はねぇ。ただ豚を蹴散らしてエイナとエマさんを安心させてやれば良いだけだ。そのために全力でぶちかませば良いだけだな!!



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