護衛フラグ
今回は少々残酷な表現があります。
苦手な方は読み飛ばしをお願いします。
※ここから数話続くやも知れません
ゴトゴトと音を立てながら幌馬車が進んでいく。もっともランクが高い小次郎さんとペアの千鶴さんが森側を、俺とプミィさんが反対側を、そして御者台でジョーンズさんの直衛としてドルフさんが座っているという構成だ。
道といっても人通りがあるために、そこだけ草が生えていないだけといった風体で、座っている二人は結構尻が痛そうだ。積荷も多い為、1時間に一回の割合で馬を休憩させつつ、時速6キロ前後といったところか……
これで明日の昼頃に到着する予定というから、大体レスト村まで80キロくらいかね?
さすがに80キロもの道のりを地均しすると、異常としか言えないからな……痔になるかも知れんが諦めてくれ。
『アースソナー』と『インセンスドヒアー』は常時展開中だが、今のところ特に何も反応は無いねぇ。グラリアから近い場所はあまり魔獣も出ないからなぁ。森にはいくつかゴブリンらしき反応があるけれど、こちらの人数を見て引き返しているようだ。
「今のところは平和やねぇ。風はんも特に言わへんし」
プミィさんは少し高い位置から見回していたが、見える範囲では特に何も居なかったのか降りてきた。
「そうだなぁ、まだグラリアも見えてるぐらいだし、こんな位置じゃ盗賊も来ないだろ?」
プミィさんは腕を組み、少し考え込む
「そやねぇ、わしが盗賊やとしたら、もう半日位したとこで待つやろな。だいぶ歩きつかれて、集中力も落ちてるやろうし」
プミィさんの言葉には説得力があった。もしかしたら実体験かもしれないな、それにレスト村からグラリアへ行くときより、グラリアからレスト村へ行くときのほうが積荷の価値も高いと判断されるだろうから、狙うならレスト村に近いほうだよなぁ。
「ならプミィさんはしばらく俺の肩で休んでなよ。後半から風で警戒を頼む」
「そやね、二人同時に魔法使うよりずらした方が効率はええやろうし、そうさせてもらうで」
そう言ってプミィさんは俺の肩に止まり、座り込んだ。これが美少女の妖精なら絵になるんだろうが、いかんせん草臥れた中年だ……絵描きが居たら絶望するところだろうな
進んでは休みを繰り返し6時間ほどたった頃、俺と探索役を交代したプミィさんの網に何かが引っ掛かったらしい。地上から15メートルほどの高さに飛び上がったプミィさんが叫ぶ
「皆はん!!左前方の丘の影に待ち伏せや!!数は15、弓持ちが3人居るさかい気ぃつけてや!!」
その言葉を聞いて、俺と小次郎さんは馬車の前に、千鶴さんは背中に背負っていた弓を持ち馬車の陰に移動していく。ジョーンズさんが馬車を止め、ドルフさんが短槍を手にジョーンズさんを馬車の後ろに隠すように移動していく。
待ち伏せがばれた事で、ワラワラと丘の影から出てくる盗賊たちどいつもこいつも二月は水浴びもして無いんじゃないかと疑うくらい、小汚い格好をしている。そのうち一人が前に出てきてお約束の台詞を吐きやがった。
「おい、死にたくなけりゃ荷物と女を置いて失せな。そしたら男どもは命だけは助けてやるよ」
訂正……お約束じゃない部分があったわ、お頭はどうやら女のようだ。ぼさぼさの髪に眼帯、さらに盗賊の中でも一番でかい為、気がつかなかったが……胸と声だけは女だった。
既に剣を抜いている小次郎さんに、ちらりと目をやり聞いてみる。
「小次郎さん、盗賊って殺した場合と捕まえた場合で違いはありますか?」
小次郎さんは油断無く盗賊たちに目を光らせつつも答えてくれた。
「そうでござるな。どちらでも首を持って帰れば賞金が出るでござる。殺した場合はそれで終わりでござるが、捕まえた場合は犯罪奴隷として売却されるので、奴隷用の魔道具の金額を差し引いた分の半値が貰えるでござるな」
へぇ結構とるねぇ、捕まえれば殺すより儲かる可能性があるが、難易度は高いと……ついでに今は護衛中だから戻るわけにもいかないし……高そうなのだけ残すとかかねぇ
「小次郎さん、あのお頭とその周辺の偉そうなのだけ残してみませんか?上手くすれば多少の儲けになるかも知れないですし」
小次郎さんの耳がピクリと動く、あの動きは興味があるときの犬耳に似ているが……狼も同じなんだろうか?
「捕獲して隠れ家が近ければ溜め込んだお宝が手に入るかもしれませんし、確かほとんどの盗賊関連の犯罪奴隷は戦奴として売られるらしいから、強そうなのを残せば高く売れる確率が高いかと」
「ふむ、確かにそうでござるな。隠れ家まで行くかはジョーンズ殿次第ではござろうが、稼げるときに稼いでおきたいのは、拙者も同じこと。乗ったでござるよ」
こそこそと相談事をしていた俺たちを見て、痺れを切らしたのかお頭が怒鳴ってきた。
「何をごちゃごちゃとやってんだい!!いいからサッサと失せな!!」
ふむ、気の短いやつだ。とりあえずこちらもお約束の質問をしてみるかね?
「なぁ、あんた女だろ?女を捕まえてどうする積もりなんだよ?」
それを聞いたお頭は鼻で笑うと
「はっ!決まってんだろ。女はうちの連中のおもちゃにするのさ。さっきも二人ほど捕まえたけどアレだけじゃ足りないだろうねぇ」
………よし、手加減する必要はこれでなくなったな。小次郎さんも、千鶴さんがそういう目的で狙われたと知って、ヤル気に満ち溢れているし……潰すか
俺はハンドサインでプミィさんに指示を出す。それを見たプミィさんが千鶴さんに近づき耳打ちをしている。頷いた千鶴さんが矢を番えたタイミングで俺も駆け出す。
「てめぇらにくれてやる物なんかねぇよ!!」
僅かに遅れて小次郎さんも駆け出し、それを見たお頭が応戦を指示する。
「お前ら、やっちまいな!!」
相手の弓兵とほぼ同時に千鶴さんが矢を放つが、山なりの軌道で放たれた矢は右奥の弓兵よりも更に右に5メートルほどずれた位置に飛んでいく。弓兵はそれをみて馬鹿にしたような面をしたが……
「風よ!我が意を酌みて風の道となれ!『ウィンドロード』や!」
プミィさんの魔法が完成し、まるでジェットコースターのように矢が軌道を変える、そしてあらぬ方向から飛び込む矢にあっさりと喉を貫かれ弓兵は絶命した。
その光景に目を奪われ、動きを止めた前衛に矢をかわした小次郎さんが飛び込む。地に足が着いたと同時に足から腰、腰から肩へと捻るような動きを伝え野球のスイングのように振りぬかれたグレートソードは、皮鎧ごと相手の胴体を真っ二つに切り裂いた。
僅か数秒の間に2名もの死者を出し、お頭たちも混乱しているのか、新たな指示も出せずにいるようだ。俺自身も飛んできた矢を切り払い、動揺して動きが鈍くなった雑兵の剣を盾で受け止めると同時に、右足で相手の膝を内側に蹴り折る。バランスを崩した相手の首筋を薙ぐように切り裂き、命を刈り取る。
この世界に生まれて、初めて人を殺したが……今までの狩りと特に変わらないな。自らの欲望を制御できないこいつ等は、俺から言わせればただの獣だ……魔獣を狩るのとなんら違いがない
ようやくショックから立ち直ったのか、取り巻きの一人が周囲に指示を出そうと息を吸い込む。だが、遅いな……既に立ち位置は確認済みだ。
「仲良く落ちてろ。『ピット』」
お頭と二人の取り巻きの足元に落とし穴を作り、3メートル下まで落下させる。ちなみにこの落とし穴は、垂直かつ魔法で作ってるので壁がツルツルだ。鉤付きロープでもなけりゃ上るのはむりだな。
その後は3分ほどであっさりと盗賊は全滅した。落とした3人は『バインド』で縛り上げ、穴を下から埋め戻すことで地上に戻したが、さて誰に隠れ家を聞くかねぇ。だがその前に確認しないとなぁ。
「ジョーンズさん、先ほどのこいつ等の発言は聞いていたと思います。どうやら女性が攫われたようですが……俺たちの仕事はあくまでジョーンズさんの護衛です。貴方が否といえばそれまでなのですが……」
ジョーンズさんは頭をかきつつ
「ああ、確かにそうですが……この道を通る人なんて、レストかファーウッドの関係者位でしょう。あそこの人たちは殆どが顔見知りなんです。私からもお願いしますから助けていただけませんか?」
だろうなぁ。長いこと行商を任されていたらしいし、利だけではなく情もあるだろう……ならさっさと聞き出すかねぇ。
「さて、とりあえずお前でいいか……隠れ家の場所を早めに喋った方がいいぜ?」
取り巻きの一人に話しかけるが、こちらにも急ぐ理由が出来たため、交渉の余地ができたとでも思ったのか明らかに口元がニヤついている。
「へ、聞きたけりゃ条け、うごぉ!!」
時間が勿体無いので、早速左手の小指の骨をへし折る。
「3秒に一本な」
「な、何をいって…あがぁ!!」
更に薬指を折り砕く、ちょっと強く折りすぎて骨が見えてるが気にしない。更に中指、人差し指と折ったところで男が涙と鼻水だらけの顔で叫ぶ。
「た、頼む喋るからもう止めてくれ!!」
俺は親指を掴み、促す。
「なら、とっとと言え」
「後ろの林の奥だ!!あそこの獣道を入ると開けた場所に出る!!そこにある木小屋がアジトだ!!」
チラッと、残りの二人の反応を見るに、どうやら本当のようだ……指四本なら早いほうかね
プミィさんが苦笑いしながら、こちらへとやって来る。
「ロックはん、えげつないなぁ。まぁこいつ等相手に交渉なんぞ無駄やからな。さっさと聞き出すには一番かもなぁ」
千鶴さんとドルフさんは青い顔をしているが、小次郎さんは同意してるようで頷いている。
「さて、ドルフさんとプミィさんはここでジョーンズさんの護衛をお願いします。馬車では入れないし、ジョーンズさんを一人にするわけにもいかないですからね」
小次郎さんが方目を瞑りこちらへと問いただす。
「ふむ、千鶴を連れて行くのは何故でござるか?」
「攫われた女性以外にもいた場合、おそらく慰み物になっていると思います。その場合、女性がいたほうがまだ安心できるかと……」
小次郎さんと千鶴さんも理由に納得がいったのか頷く。あまりここで時間を掛ける訳にもいかないからな、すぐに行かないと……
念のため、盗賊の3人は地魔法で地面に埋めておいた。まぁコンクリで縛られているので逃げようも無いんだが……念のためにね
音で気づかれない様に、胸当ては置いてきた。どうやら外に見張りは置いてないようだな……『アースソナー』でみる限り内部には10名ほど、奥の角部屋に隅っこで動かない3名と隣の部屋に2名、一番広い居間に5名がいるようだ。
脱出用らしい裏口から小次郎さんが突入し、俺が表から同時に突入することにした。合図は俺が扉を蹴り破る音だ。
準備は完了し、今は壁に張り付いている状態だが……中から声が聞こえる。
「なぁ、あにきぃ何で味見しちゃ駄目なんだよぅ。ちょっと位いいじゃねぇかよぅ」
「ばっかやろ!お頭達に知られて見ろ!命はねぇぞ!!」
どうやら、攫われた方はまだ手を出されていないようだな。なら行きますか!!
外開きのドアを強引に蹴破る。ドアが吹き飛び一番近くにいた男の後頭部に直撃する。奥ではグレートソードで蝶番を両断した小次郎さんが突入している姿が見える。
「な、何だてめぇらは!!お前ら、敵襲だ!!迎え撃て!」
くっくっく地魔法の恐ろしさその身に受けるがいい!!
「砕け散れ!!『ボールクラッシャー』!!」
床から3人の足の間目掛けて岩の拳が飛び出し……文字通り二人の男を殴り潰した。ギリギリで避けた一人も仲間の末路を見て青ざめている……奥の一人を切った小次郎さんまで青ざめていたが……
口から泡を吹いて倒れた二人を無視し、避けた一人へと肉薄する。とっさに放たれた横薙ぎのカトラスを盾で受け止め、そのまま相手を壁に向かって押し込む。壁に挟まれ背中を強打した痛みで動きが止まった所に、ロングソードを鳩尾から突き入れ、心臓を断ち切ることで止めを刺す。
その間に倒れていた3人に小次郎さんが、止めを刺していた。
さて、結論から言おう……聞いていた二人は服を剥ぎ取られていたが何とか無事だった。そして奥にいた3人は……かろうじて無事だったのが二人、残りの一人は壊されていた。
女性は俺が楽にし、亡骸は丁寧に埋葬した。盗賊どもは首だけを残し小屋ごと焼き払った……溜め込んでいた財貨は結構な量があったので纏めて『無限の鞄』に放り込んでおいた。
小次郎さん達と相談し、財貨の半分と盗賊どもの報奨金や売却金は彼女らの見舞金として分配することに納得してもらった。現場を見ていないドルフさんも彼女たちの様子を見て察してくれたのがありがたかったな……




