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豊穣祭にて

豊穣祭の数日前まで話はさかのぼる。


モルガナさんの件で引き伸ばされていた、エイナのデビュタントが豊穣祭での夜会に決まり、現在はドレスの最終調整を行っている所だ。マリーゴールドを思わせる黄色の花のような形状(Aラインと言うらしいが細かいことはよくわからんな)で胸元や裾のシルクの刺繍が素晴らしい一品だ。エイナの希望で胸元を見せないようハイネックとしたらしく、露出はほぼないと言ってよい。

今はお針子さんが、最後の調整として、腰周りや脇などの確認をしているんだが……男の俺がなぜここにいるんだろうなぁ


どうやら最後のチェックが終わったらしく、エイナがこちらへとやって来た。何か言いたい事があるのか、眉根を寄せつつもこちらをチラリと見てくるので、促してみた。


「どうした?よく似合っているけど、何か不満な所があるのか?」


エイナは首を振り

「いいえ、ドレスはとても気に入っていますわ。ですが本当によろしいのかと思いまして」


ふむ、まだ納得していないのか……エイナは最初、新しくドレスを仕立てずモルガナさんの使っていたものを改造して着るつもりだったらしい。それをモルガナさんから聞いた俺が一度しかないデビュタントなのだからとドレスを仕立てるよう勧めたのだ。

「それについては何度も言ったろう?一度しかない晴れ舞台なんだから、気にするなと」


「ですが、ハウルガンの財産はすべてロック様の物ですもの、私達の出費は最低限に抑えるべきですわ。確かに貴族としての体裁を整えるために有る程度の出費は必要ですけれど、私の為に新しくドレスを仕立てるのは出費のし過ぎではないかと……」


エイナのこう云う真面目な所は美点ではあるが、少し頑固すぎるなぁ。節約もし過ぎれば、ただのケチになっちまうぞ?


「なら、こう考えたらどうだ?エイナに粗末な物を着せることで、俺がケチだと恥をかくことになると」


エイナはそのことには考えが至らなかったのか、ハッとしたように手を口元に当てる

「それは……申し訳ありませんわ。そうですわね、ロック様に恥をかかせる訳には参りませんもの。ですが出来るだけ出費を抑える努力をすることだけはお許しくださいますか?」


そう言いつつエイナが上目遣いでこちらを見てくる。なんと言うか、甘えてくる子犬を見ているようで断りづらいな……

「そうだな……モルガナさんと相談して、問題ないようならいいと思うぞ。あまり無理に切り詰めるのも問題があるだろうしな」


その言葉を聞いたエイナはにっこりと笑うと

「わかりましたわ。ロック様のおっしゃる通りに致しますわ」


その後、ドレスを見に来たエマさんとモルガナさんを交えて、お茶を楽しんだ。会話の中でエマさんにも服を買う約束をさせられたが、まぁこの位はいいだろう。



■□■□■□■□■□■□■□



豊穣祭の当日、エイナとモルガナさんは朝から準備に忙しいらしく、レインと共に動き回っている。プミィさんはウェンストック神父と意気投合したのか、露店を手伝うと言っていたので、俺はエマさんと祭りを楽しむことにした。


「じゃあ俺達は行ってくるけど、エイナは変な奴に絡まれないように気をつけろよ?出来るだけモルガナさんか友人と一緒にいるようにな?」


エイナは微笑んで

「わかっておりますわ。私はロック様のものですから、他の殿方に声をかけられてもちゃんと断りますのよ?」


「そうだな、困ってる時に無視して置いて、問題が解決したら手を出すような恥知らずなんぞ相手にする価値も無いからな」


そう、ここの所エイナにはいくつかの縁談の話が来ている。どれも次男や三男だがそのほとんどが、エイナが援助を頼んだ時やんわりとだが断ってきた所ばかりだ。どう見ても爵位狙いとしか思えんよなぁ。


なんか保護者みたいな心配をしてしまったが、まぁモルガナさんも居るんだし、きっと大丈夫だろう。一緒に行けないのだから過剰に心配しても意味が無いしなぁ

(こっそり護衛にアインを配置しようかとも思ったが、場所が2階とのことで断念した。さすがに隠れる場所がねぇからな)



■□■□■□■□■□■□■□



エマさんと一緒に豊穣祭を回っているが、やはり人が多いなぁ。近隣の村や町からも来ているらしく、中央通りは露天と人でごった返している。普段は食べ物関係が多いが、今日はアクセサリーや衣類なんかの露天商も『商業区』から出てきているようだな。


エマさんは俺とはぐれない様にか、俺の左手を抱えるように組んでいるが……その組み方だと胸がダイレクトに当たってるんです……さっきチラッとエマさんを見たらすげぇニコニコ顔だったので、もしかしたらわざとなのかも知れんな。

俺はグラリアの豊穣祭は初めてなので、情けないがエマさんのおススメの店へと足を向けつつ、露天を冷やかしている。


「ねぇねぇ、ロック君これとかどうかなぁ?」


エマさんが見せてきたのは、銀の台座に赤い宝石のような物が組み合わされたペンダントだった。パッと見だとルビーのようにも見えるが、値段が銅貨50枚とかなり安い。石英か何かを色付けした物かと思い鑑定してみる。


-----------------------

名前:ルベライトトルマリン

種別:宝石


説明:赤やピンクのカラーのトルマリンの中でも

   選り優れたカラーを持つ種類。

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どうやら商人が気づいてないだけか?おそらく綺麗な石程度の認識なんだろうが……まぁわざわざ教えてやって値段を引き上げるのもあれだしな。

試しにエマさんの首にかけてあげる。うん、エマさんの薄茶色の髪や、エメラルドグリーンの瞳によく似合っている。銀細工もかなり精密だ。よくこれを銅貨50枚で売ろうと思ったな……


「うん、エマさんによく似合ってるよ。親父さんこいつを貰うよ」


そう言って、財布からお金を出そうとするとエマさんが止めてきた

「ああ、いいのよロック君、自分で出すわよ」


俺は首を振り

「いや、これくらいプレゼントさせてくれ。可愛い婚約者に贈り物をするのは当然だろう?」


そう言うとエマさんは真っ赤になって俯いてしまった。ああ、可愛いなぁと思わず顔がにやける。露店の親父さんが口から砂を吐きそうになってたが、これも商売だから我慢してくれ。


エマさんのおススメの店は、中央通りに店を構える『森のクマさん』だった。なんつーか店の名前がことごとくメルヘンチックなのはどうかと思うんだが……

予約済みのため、店員に案内してもらって席へと向かう。歩いている間、俺の背中に突き刺さるような視線が痛かった。(そこらじゅうにギルドで見た顔がいるのは、偶然……じゃあねぇだろなぁ)


席に座って、まずはここの人気メニューの『ワイルドボアの煮込み』とエールを注文する。周りの客はまだ昼だと言うのに、完全に出来上がっているらしく、結構騒がしい。


「エマさんはこの店によく来るんですか?」


「ええ、父がこの店の店主さんと友人なの、だから小さい頃からよく来てたのよ。席を案内してくれた子は、店主さんの娘さんで私の幼馴染でもあるの」


さっきの女性か、戻り際にエマさんになにやら耳打ちしてたけど、何を話したのやら……エマさんが頬を染めてたので、なんとなくわかるけどな。


「お待たせしましたー、こちら『ワイルドボアの煮込み』とエール、それから『ブラウンベアの腸詰め』ですー」


「ルシェ?腸詰めは頼んでないと思ったけど?」


案内してくれた女性――ルシェさんは、手を口に当てているがバレバレのにやにや顔で

「うふふ、決まってるじゃないー、サービスよサービス!せっかくエマにいい人が出来たんだものお祝いくらいするわよー」


その声が店内に響いた瞬間、一部のテーブルから声が途絶え数瞬後、なぜか泣きながら店を飛び出していく者が続出した。まぁ支払いはきっちり回収してたようだが……

ルシェさんはそれを眺めつつ

「あららー、予想以上に人気モノだったのねー。まぁ、気づかれて無い時点で諦めるべきよねー」


とカラカラと笑っていた。エマさんは何のことかわからない顔をしていたが……あれ全部エマさんのファンかよ……


その後、エマさんとの約束どおり服飾店で、服を選んだり(店員が張り切って着せ替えを楽しんでいたが、どれも似合うので絞り込むのが大変だった)、プミィさんの所へ行ってみたり(ブルックだけでなく、なにやらお好み焼きのような食べ物も売っていた。プミィさんの里の伝統食らしいが……大阪?)と楽しいひと時を過ごすことが出来た。



■□■□■□■□■□■□■□



屋敷に戻ると、見た目では分からなかったが大分疲れていたようで、エマさんはソファに座ってぐったりとしてしまった。仕方が無いので、部屋まで運んでやり服のボタンを外しておいた。これで少しは楽になるだろう……はぁ、もう少し気配りできるようにならんとなぁ。


エマさんの部屋から居間に戻ると、どうやらエイナたちも戻ってきたようだ。予定より大分早いようだけど……なんかあったのかねぇ?


エイナは帰ってくるなり、俺を見つけるとタックルするように抱きついてきた。まぁその直後にモルガナさんにはしたないと注意されていたが……

俺は落ち着かせるようにエイナの頭を撫でつつ質問する


「どうしたエイナ?何かあったのか?」


エイナは涙目でこちらを見上げつつ

「だって、酷いのですわ!ロック様が貴族でないというだけで馬鹿にして!!」


少々興奮状態のエイナから少しずつ聞き出した所によると、まぁ案の定縁談を断ったはずの男どもが懲りもせず近づいてきたらしい。相手をしない訳にもいかないので、話だけはしていると、どうやら貴族連中の噂では平民の俺がエイナを借金を盾に自分に有利な貴族へ売り込むための道具にする……みたいな感じになっているらしい。

それで男どもが、俺に連名で借金の放棄を勧告するなどと言い出したそうだ。えーと……あほなのか?そんなことが出来ちまったら契約なんぞ何の意味も無いだろうに……無論、当主や跡取りはその辺は弁えているはずなので、実際にそんなことが起きる事は無いだろうが……

それでも、馬鹿どもから決闘が挑まれる可能性はありそうだなぁ(貴族による決闘は、上位の貴族によって承認され行われる。その際、当事者によって交わされる約束はたとえ国王だとしても覆すことは出来ないらしい)


「大丈夫だエイナ。お前はもう俺の物だからな、絶対にアホどもには渡さないさ」


ようやく落ち着いてきたのか、泣き止んだエイナが俺の胸に顔を埋めつつも小さく返事をしてきた。


「はい、私はずっとロック様のお傍にいますわ」


その後、エイナの部屋で何があったかは………書けそうに無いな。

さて、エイナについて金目当てみたいな批判がありますが、この世界での結婚相手の第一条件は甲斐性です。まず家族を養えるだけの力がないと、どれだけ好きだろうが結婚できません。

ぶっちゃけソコをクリアできないと結婚自体できませんから、それを気にするような人は基本この世界には居ません。

その上でロックは、姉に似た容姿とちょっとおバカだが一生懸命な性格を気に入っています。

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