豊穣祭へ向けて
ガサッ!!
正面のブラウンウルフを相手取っていた俺の横腹を突くように、茂みからブラウンウルフが飛び出してきた。普段であればブーツで牙を止める所だが……
「風よ!集いて切り裂く刃となれ『ウィンドカッター』や!」
上空からその動きを見ていたプミィさんが、風の刃でブラウンウルフの首を切り落とした。その光景に怯んだ前面の2匹を左手の盾で殴り飛ばし、動きが止まった所をロングソードで止めを刺していく。
「いやー、ロックはん硬いんやなぁ。ブラウン相手とはいえ、一撃ももらわんとはすごいなぁ」
プミィさんが感心したように言うが、俺としては全体を俯瞰的に見てくれるプミィさんのお陰だと思っている。背面や左右からの同時攻撃など、視界に収まらない攻撃を仕掛けられたら、いくらなんでも防ぎ切れないからな。
「プミィさんのお陰だよ。敵の接近を知らせてくれるだけで、これほど楽になるとは思わなかったしね」
プミィさんは腕を組み
「そやなぁ、こういうんがチームの利点ちゅう奴なんやろなぁ。ほんまは娘には冒険者になってほし無いけど、なるならせめて最初からチーム組んでもらわんとなぁ」
プミィさんは親ばかだなぁ。まぁ一人娘の上に愛する奥さんそっくりらしいから、可愛がりもするか……
「とりあえず、依頼分の5匹は倒したけど、もう少し狩っていくか?」
俺の言葉にプミィさんは頷く
「そやね、まだ魔力に余裕もあるし、他の戦い方も練習してみよか」
「そうだな、今度は俺の魔法で足止めをするから、矢を急所に打ち込む練習をしてみようか?」
「ロックはんの魔法にも興味あるしそれでいこか。あとは普通の矢じゃありえへん軌道を描く練習もしたいなぁ」
お、それも有効そうだな。風の道を作れるなら誘導できるだろうし、相手の守りをすり抜けて当てる練習もしたほうがいいか
休憩を挟みつつその日はブラウンウルフを30匹近く狩ることに成功したが、最後はプミィさんが魔力を使いきったため、俺の肩に乗って帰宅することになった。その辺の配分も今後の課題かねぇ
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「そういやロックはん、もう少しで大規模演習と豊穣祭があるやんか?その間は仕事どないするんや?」
そう、大規模演習は収穫の時期の警備もかねて、南半分をぐるりと周回しつつ警備を行う。もちろん野営などの練習も行うため、現地調達も実践するらしい。この演習時期は街道沿いの盗賊や魔獣が一掃されるため、護衛の依頼も激減する。それもあってか街中での依頼や採取系に需要が集中するため、割の良い仕事は激戦区になるらしい。
それが終われば、収穫を祝う豊穣祭が各町で行われるので、そちら方面の人手を求めてGランクの依頼が殺到するらしいのだが……相変わらずGランクは人気が無いから、募集期間が終わって依頼の取り下げになる率がかなり高いとエマさんが嘆いていたなぁ
「そうだなぁ。俺達は結構余裕があるから、Gランクの長期依頼を受けるとかどうだろう?」
プミィさんは腕を組み
「そやな、無理に依頼の奪い合いに参加して、いらん恨みを買うんも馬鹿らしいしなぁ」
意見が合ったところで、良さそうな依頼を探していると、先ほどの会話が聞こえていたのか、エマさんがこちらにやってきた。
「ロック君、Gランクの依頼を探しているなら少しいいかしら?」
「ああ、かまわないけど、何かあったのか?」
よくみるとエマさんの手元に一枚のメモが握られていた
「今から張ろうと思っていたんだけど、孤児院からの依頼があるのよ。ロック君の初めての依頼と同じ所なんだけどおぼえてる?」
ああ、あの神父さんの所か、つーことは豊穣祭に向けての露店か何かの手伝いかねぇ
「ああ、覚えてるがどんな内容なんだ?」
エマさんはメモを差し出しながら
「そうね内容はありふれてるものよ。豊穣祭の市に露店を出したいから、手伝いが欲しいって所ね。期間が豊穣祭の開始前までだから、受ける人が居なさそうなのよね」
プミィさんがメモを覗き込みながら
「そやなぁ、Gランクやったら金額は似たり寄ったりやし、期間が短いの選んでまた探すんも面倒やからこれでええんちゃうかな?」
「だな、面識もあるからちょうどいいか。エマさんこれ受けるよ」
エマさんはほっとした顔で
「ありがとうね。職員が代理でこなすのも限界があるから、この時期は辛いのよね。お礼に豊穣祭ではデートしてあげるわ」
その瞬間、冒険者達からの殺意の視線が突き刺さる。「あのやろう、俺達のエマさんに」「俺もGランクの依頼を受ける!」「爆発しろ!」……なんか怖いんだけど、路地裏とか気をつけるべきかねぇ
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孤児院に着くと、子供達が居間でそれぞれ木や布を使って小物を作っていた。ウェンストック神父に声をかけるとこちらへと駆け寄ってきた。どうやら以前の怪我は完治したようだな。
「ロックさんじゃないですか、もしかして依頼を受けていただけたんですか?」
俺は頷き
「ええ、それと同じチームのプミィです。一緒に依頼を受ける予定ですがいいですか?」
ウェンストック神父は少し難しそうな顔をして
「ロックさんもご存知と思いますが、屋根の修繕で冬に向けての蓄えがぎりぎりでして、二人分を出す余裕はあまり……」
プミィさんが言葉をさえぎって
「ああ、わかっとるて孤児院からの依頼やさかいな、懐事情は大体な。それにわしにも子供がいてるからな、今回はサービスちゅう事で」
プミィさんの言葉に俺も頷くと、ウェンストック神父は胸を撫で下ろした
「ああ、ありがとうございます。それで依頼の件ですが、少々男手が足りませんで、露天場所の申請や資材の購入に加えて子供達が刃物を使う作業をしますからね、こちらの監視にも人手が必要なんです。私が交渉をしようと思ってますので、お二人には子供達の面倒と、出来ればで良いので商品のアイデアがあれば言って頂きたいですね」
俺とプミィさんは頷き
「とりあえず、どんな商品を想定してるか教えてもらえますか?」
その後、ウェンストック神父から説明を受けたが、子供達が作る小物類、刺繍をしたハンカチや積み木、それから大人たちでホーンラビットのブルック(俺が薬師の所から帰るときに食べた奴らしい)の販売を考えているらしい。
とりあえず、子供達の作業は居間で集まってやるため、俺とシスターの二人で面倒を見ることにし、プミィさんには材料の仕入れや販売場所の申請なんかを担当して貰うようにした。
「任しといてや!そう言うんはわしの本職やさかいな。それにこっちにもわしの顔見知りはおるから、そっちの伝手もたどって見るわ。ほな神父はん行きましょか!」
そう言ってプミィさんはウェンストック神父を連れて出ていった。
さーてそれじゃ俺もやりますかねぇ。
子供達は手に職をつけるため、裁縫や刺繍、織物や木工、鍛冶などといった技術を学んでいるらしい、なのでまずはそれぞれが学んでいるグループに分かれて貰う事にした。その上でグループ毎に作ろうとしているものを出し合って貰い、作りやすさや売れやすさを考えて見ようという訳だな。
女の子のグループは刺繍のハンカチや、小物入れの袋なんかが多いみたいだな。結構裁縫が上手い子が多いので、ヌイグルミを作ってみてはどうかと提案してみた。俺は立体からの展開図を作るのは得意なので、ざっくりと型紙を作っていく。とりあえず用意したのはクマと犬猫をデフォルメしたものだが、どうやらこの世界にはこういった表現は無かったらしく子供たちがはしゃいでいた。
もう一つのアイデアとして、小袋にポプリを入れたらどうかと提案してみた。こちらの世界ではお風呂に入る習慣が無いため、貴族などは香水や香油を庶民はポプリを使うことが多いので、どこの家庭でもオリジナルのポプリを作っている。それを小袋に入れて、匂い袋として販売してみたらどうかと思ったわけだ。
それと平行して、俺が人形を作ることになったので、そちらの衣装の作成もしてもらう事になった。女の子達が集まってデザインした衣装の下書きを見て、こういったのはやはり女の子が上手いよなぁと、感心する。
男の子の方は、やっぱり大雑把だな。木工は適当に切った木片を詰め合わせたりと、あまり見栄えもよくないし。鍛冶の方はそもそも材料費が高くてあまり大きなものが作れないそうだ。
うーん、どうすっかなぁ………そうだ!日本の玩具を再現してみるか。とりあえず手元にあった木材を使って、いくつか作ってみる「竹とんぼ(材質は木だが)」に「けん玉」「ヨーヨー」「コマ」といった基本的なものから、10種類ほどの動物を象ったパズル(全部はめ込むと正方形に収まるアレ)や積み木も何種類か形を整えて作ってみたが、どうだろな?遊び方を子供達に教えてみた所、好評だった(一番人気は竹とんぼだった)のでこれを元に男の子には量産させてみる事にした。
鍛冶をやってた子には、それぞれの玩具の軸受けを作ってもらっていたが、プミィさんの伝手で少量だが銀が手に入ったので、それを使ってペンダントトップを細工してもらう事にした。プミィさんに教えてもらった、フェアリー族のお守りを元にデザインすれば珍しさも相まって売れるんじゃねぇかな?
皆それぞれ作るものが明確になったためか、最初よりも集中して作業できているようだ。刃物を使ってるし、怪我しねぇように注意しつつ俺も人形を作ることにしますかねぇ。
足りない木材や麻紐などの資材はプミィさん経由で仕入れてもらい、露店で売る分は確保できたようだ。子供達が作ったためか、形はやや不揃いだが、こういうのは自分で作ったからこそ売るのにも力が入るってもんだ。ウェンストック神父さんやシスター達からも過剰に手伝わないように言われているし、その意見には俺も賛成だな。
ちなみに俺の人形の方は、期日の2日前には終わっていたので、こっそりプミィさんに追加の資材を自費で購入してもらい、子供達へのご褒美のヌイグルミや人形、玩具を作ってウェンストック神父さんに渡しておいた。豊穣祭が終わった後、子供達に渡して貰える様に頼んでおいたのは、秘密だぜ?




