覚悟
明けましておめでとうございます。お年玉代わりになるかは分かりませんが置いていきますね。
カッ!!
フラッシュライトのような光が俺の目を打つ……暗い部屋の中では、正直目が開けてられない。
「すみません。ビルさん眩しいです……というかどこから持ってきたんですかこれ?」
そう、光を当ててるのはビルさんだ。右手に持った発光灯の魔道具で俺の顔を照らしている。
「気にすんな。ちょっと借りてきただけだ。それよりもだ……なぜここに居るか分かってるよな?」
いえ、正直さっぱり分かんないんですが……ビルさんとエマさんの言い争いがヒートアップしかけたところで、女将さんがエマさんを連れて湯浴みに行った(自宅にお風呂がある家は貴族位だが、一般大衆用に蒸し風呂がある。クールダウンと拐われた汚れを落とすために連れて行ったようだ)
そして、ビルさんと二人で残された俺は、今こんな状態な訳なんだけど……なんで俺が尋問されてるんだ?
「いえ……それが…なんとなくさっきの発言が原因だとは思うんですが……何が不味かったのかまでは…」
ビルさんは、一瞬怒鳴りかけたが無理やり止めると質問をしてきた
「なんっ!!………いや、その前に聞くが、お前の所に獣人族は居なかったのか?」
俺は頷き
「ええ、うちの村は80人ほどで、他種族の人は居なかったですね、だからエルフやドワーフの人たちを見たのはグラリアが初めてです。獣人族の人は冒険者で猫族の人を見たことがあるくらいです」
「はぁ……それでか、それじゃほかの奴も獣人族には詳しくねぇだろ」
「そうですね。父も母も村の外に出ること無かったそうですから」
ビルさんは頭を抱えると、ぼそりと言い放つ
「さっきのお前の発言な、耳までなら何とかなった。だが尻尾はいけねぇよ」
え?やっぱり親しくないと触っちゃだめなのか!?顔見知り程度じゃ無理だったのか……あれ?でもエマさんはOKしたような?
「兎族以外は俺もよくは知らねぇが、耳を触れるのは親族や同姓の友人、あとは恋人ぐらいだ。だからお前が触った場合は、まぁ本当は認めたくはねぇが、お前は娘の恩人だ。付き合うぐらいは何とか許そう……」
ビルさんの顔がどんどん怖くなってるんですけど!?というか耳で恋人なのかよ!どんだけモフモフのハードル高いの!?
「あの……耳でそれだと尻尾は……」
ビルさんはすごく言いたくなさそうだったが
「ああ……尻尾はな夫婦か婚約者だな、といっても婚約者の場合も結婚まで秒読み段階みてぇなもんだが」
えーと……つまり俺はエマさんに求婚して、エマさんがOKしたってことなのか?……まじで!?吊橋効果にも程が無い!?
などと考えていると、ビルさんがどこからとも無く包丁を取り出し、机に突き立てた。
ダン!!
「確か言ったよなぁ。娘に手ぇ出したらただじゃおかねぇと」
無論、俺は高速で机に頭を打ち付ける勢いで謝罪する
「すみません!!そんなつもりじゃなかったんです」
「ああ!?俺の娘じゃ嫁にふさわしくねぇってのか!!!」
怒るとこそこなの!?てかじゃあどうすりゃ良いのさ!?
「いえ!エマさんが素敵な人なのは知ってます。ただ、その風習を知らなかっただけです!!」
「本来ならお前のナニを切り落としてやる所だが、娘が選んだ男だ……それに恩もある。仕方がねぇから認めてやらんことも無い」
なんか……外堀がどんどん埋まってる気がするんだが……
ビルさんはこっちを睨み
「だがその前にだ、ハウルガン様の令嬢とも婚約してるよな?その辺の整理をしねぇ限り、俺は認めねぇからな!!」
いや……途中で交代したのに何で知ってるの?それ以前に、その辺の事はかなり先の話の上にまだ確定もしてないんですけど……
俺がどう答えようか悩んでいると、部屋の扉が開き、女将さんがスタスタと入ってきたかと思うとビルさんの頭をフライパンでしばいた。
「あんた!未来の息子に何やってんだい!ちょっとこっちに来なさい!」
そういうとビルさんは女将さんに引きずられて、出て行った。なんかビルさんの叫びが聞こえた気がするけど……聞こえない。うん、俺には何にも聞こえないんだ。
部屋に取り残された俺は、ビルさんの無事を祈りつつ、自分の部屋に戻ることにした。階段を上がり、部屋の扉を開けると……なぜかエマさんがベッドに座っていた。
「あれ?エマさんどうして俺の部屋に?」
エマさんは微笑むと
「あら、私の耳と尻尾を触るんでしょ?だから待っていたのよ」
……どうやら退路は既に断たれたようだ。
「あの……俺、兎族の風習を知らずに言ってしまって、問題があれば断ると思ってたんですよね。だから」
「はい、そこまで。そうじゃないかとは思ってたのよ?でも私は良いって返事したわよね?それとも私とじゃ嫌なのかしら?」
エマさんが少し悲しそうな顔で呟く
「いえ!エマさんは素敵な人ですよ。美人だし、優しいし、働き者ですし……ただ、俺でいいのかなと思ったんです。今の俺はEランクなったばかりの新米ですし、エイナとのこともありますから」
エマさんは一瞬何のことかと首を傾げたが、ああと手を叩くと
「でもロック君はAランクになるんでしょ?だったら問題なんてないわ。貴族と高ランク冒険者は一夫多妻制ですもの」
なん…だと?
「貴族はそうだと知ってますが、冒険者もなんですか?」
「ええ、国王陛下が元冒険者なのは知ってるでしょ?陛下が即位した折に貴族の特権だった制度をAランク以上の冒険者にも適用したのよ、優秀な血を次代に多く残すためって事でね。まぁ噂だと陛下が冒険者時代に貴族じゃなかったせいで、ハーレムを作れなかった腹いせって話もあるわね」
つまり……俺がAランクになれば万事解決って……そういう問題でも無い気がするんだが
「あの……制度はともかく感情的にはエマさんは良いんですか?」
「そうねぇ、私はあの子の事、嫌いじゃないわ。あの子がどう思うかは聞かないと分からないけれど、あの時の態度を見る限り、あなた以外を夫にする気はないと見てるわ。だから後は私とあの子の間の問題ね」
あれ?いつの間にかどっちも嫁にする方向で纏まってる!?いや……そりゃ、エマさんもエイナも美人だし俺からすりゃご褒美だが、今の俺にそこまでの価値があるかは俺自身が疑問なんだがなぁ
「ふふふ、悩んでるロック君を見るのも楽しいけれど、今すぐに覚悟なんて決めれないでしょう?あの子との約束まで時間はあるんだから、それまでは私も待つわよ?」
そう微笑みながらエマさんが近づいてくる。
「それより、私の耳と尻尾を触るんでしょ?さあ、どうぞ」
うわあぁ、ピコピコ揺れる耳が俺を誘惑している!?欲望に負けそっと耳をなでると、ビロードのように滑らかなのに、フワフワとした触感がいつまでも撫でて居たくなる。それに少し低めの体温とふにふにとしたパフのような弾力がたまらない。夢中で撫でたり揉んでみたりしていると、なんか押し殺した声が聞こえる。
「ん……ふぁ…やっ……」
顔を真っ赤にして口を押さえているエマさんが見える。何これ?すげぇ可愛いんですけど……
撫でるのが止まったのに気が付いたのか、エマさんがこちらを上目遣いで見つめて聞いてきた。
「ん……み、耳はもういいの?だったら次は尻尾?」
尻尾か……耳とはまた違ったモフモフ感なのだろうか……だが待て、エマさんの尻尾って見たことねぇぞ?というか兎の尻尾って短いはず……
そう思いエマさんを見ると、着ていたエプロンドレスのボタンを外し、脱ごうとしていた。
「ちょ!エマさん何してるんですか!?」
「だって、尻尾を触るんでしょ?ならスカートを捲るか、脱ぐしか無いけれど、今日はコレだから、捲ると邪魔になっちゃうもの……それに、ロック君になら見られてもかまわないわ」
その後の展開は、書くといろいろ不味そうなんで割愛するが……一つだけ言える事は、すごい手触りでした。色々な意味で
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翌朝、食堂に下りるとビルさんに無言で右頬を殴られた。ええ、全力です。『ガードスキン』が発動しそうだったので、魔法を停止し甘んじて受け止めました。顎の骨が砕けるかと思ったが、骨に異常は無かったので案外俺は頑丈なのかも知れんな。
ちなみに、転がりながら目に入った他の宿泊客は目を点にしてたが、そりゃあ宿の主人が客をブン殴ったらビックリするわな。
気を取り直し、テーブルに着くとビルさんが大皿いっぱいに黒パンだけ(・・・・・)を盛って置いていった、ええ水もありませんとも。女将さんは静観、エマさんが水を持って来ようとしたが、手で止めた。これは父親であるビルさんと俺との問題だから、水を受け取るわけにはいかないだろう。
10個近くあった黒パンをひたすら食べ続け、何とか完食した。皿を持ってビルさんに手渡すと
「おいロック、娘を泣かすんじゃねぇぞ。いいな?」
俺は頷き、答える
「はい」
答えを聞くと、ビルさんは厨房に引っ込んでいった。そして後に残されたのは……展開についていけずポカンとした宿泊客と何事も無かったように給仕する女将さんだった。
宿を出る際にエマさんから声を掛けられた
「ロックくん、ギルドに行くなら、今日お休みするって伝えてもらえるかしら?」
「ええ、いいですよ。昨日の今日ですからゆっくり休んでください」
俺の返事を聞くと、エマさんは眉根を寄せて
「ねぇ、私に敬語なんて要らないのよ?」
「ああ、なんと言うか……会った時からこの口調でしたから、癖になってるというか……」
「出来れば私にもエイナちゃんと同じ様にしゃべって欲しいな」
俺は少し考え込むと
「そう……だな、普通に話すように……その、気をつけてみるよ」
そう言うとエマさんは嬉しそうに微笑んだ。あまりの可愛さに思わず抱きしめそうになったが、通路の奥でこちらを見ているビルさんと目が合ったので、何とか止まった。
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ギルドに到着すると、早速金髪ポニテさんが駆け寄ってきた。
「ねぇねぇ、エマが誘拐されかけたって本当なの!?」
「ええ、ですが無事に救出できましたよ。ただ、今日はお休みすると言ってました」
ポニテさんはうんうんと頷き
「そうよねぇ、ショックだったでしょうし、今日は仕方ないわね。わかったわマスターへは私から伝えておくから、君はいつものようにしてていいわよ」
伝えることも終わったので、俺は昨日から放置中のグラズさんのところへと向かう。
グラズさんはいつもの様に武具の手入れをしていたが、俺に気が付くと声を掛けてきた。
「ロックか昨日は大変だったようだな。ミリー殿から事情は聞いておる」
「そうですか、ですが無断で訓練を中止したことは事実ですから。すみませんでした」
そういって俺は頭を下げる。
「ふん、律儀な奴だな。で、早朝からここに来たということは、今日は一日訓練でいいのか?」
「はい、グラズさんさえよければお願いします」
グラズさんはにやりと笑い
「俺の訓練を受ける奴などお前ぐらいしか居らんわ。だが、その意気やよし、存分に可愛がってやろう」
こうして地獄の訓練12時間コースが開幕した。
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ふらふらになりながらも何とか宿にたどり着くと、そこにはなぜかエイナが座っていた。しかもエマさんとお茶してるし……
扉の開いた音で気がついたのだろう、俺を見つけると手招きしてきたので、俺もおとなしく席に座る。
「ロック君お帰りなさい。エイナちゃんと待ってたのよ?」
「ロック様、お邪魔しております。事情はエマさんからお聞きしました」
エマさん行動早いなぁ
「そうか、なら聞くけどエイナはどう思ってるんだ?」
「そう……ですね、私は貴族ですから、母からそういったお話は聞いておりますし、実際複数の奥方をお持ちの貴族とお会いしたこともありますから、そういった事にそれほど抵抗はありませんわ。それにエマ様は私に包み隠さず、ロック様へのお気持ちを伝えて下さった上で、私と共にロック様を支えたいと申し出てくださいました。ですので私個人と致しましてもエマ様はロック様の奥方の一人としてふさわしいと思っておりますわ」
どうやら二人ともお互いを認めているようだな、だがその前にだ
「なぁ、二人ともなんで俺がAランクになるのが当然のように会話してるんだ?もしかしたらなれずに終わるかもしれないし、死ぬかもしれないんだぞ?」
そう言うと、なぜか二人とも不思議そうな顔をして俺を見つめる
「ロック様がたかがAランクになれない訳が無いじゃないですか」
「そうね、それにロック君が死ぬ所が思い浮かばないのよねぇ」
……俺の評価高いなおい!しかも死ぬ気がしないって……はぁ、こんな美人に期待されちゃ頑張るしかないじゃねぇか
「わかったよ、必ずAランクに昇格して二人とも俺の嫁にするから期待して待ってろよ?」
「「ええ、まってます(わ)」」
誤字修正しました。ご報告ありがとうございます。




