緊急事態
休み明けから5日間、午前中はゴブリンの討伐依頼を受けつつ、森の浅い箇所に生えている薬草の採取を行い。午後からはギルドで盾の使い方を習っていた。
説明はしていなかったが、ギルドの裏手には練習用のスペースがあり、新しく購入した武器の慣らしや、お金を払うことで教官役のベテラン冒険者や引退者に技術を習うことが出来る。ギルドとしては新米の生存率のUPと引退後の就職口の斡旋を兼ねているのだろう。
俺も元タンク役としてBランクチームを率いていたグラズさん(48歳嫁を諦めず募集中)に習っている。といっても基本はグラズさんの攻撃をひたすら盾で捌きつつ、未熟な部分を言葉でなく剣で指摘され殴られるという、スパルタ過ぎる気がしないでもない練習法だがな。そのせいか俺以外にグラズさんに習ってる奴を見たことがねぇ!!
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「えーと、ゴブリン15匹分の耳です。確認おねがいします」
そう言いつつカウンターに袋から耳を取り出す。
「はい、では確認いたしますね。………うん、すべてノーマルのようですね。では3回分の討伐で銀貨6枚となります。それから今回のポイントでE-ランクへと昇格いたしました。おめでとうございます」
おお!ついにE-になったか!たしかEからは近隣の町への配達や護衛の依頼も受けれるようになるんだったよな……配達はともかく護衛はチームで募集することが多いから、そろそろ俺も仲間を探さないとまずいかもなぁ。
報酬を受け取り、いつもの様に練習に向かおうとすると、金髪ポニテさんに呼び止められた。
「ねぇ、確かロック君だったっけ?君、エマの所に泊まってるはずよね?」
その発言は誤解を生みそうなのでやめて下さい。そこのスキンヘッドのお兄さんとかが怖い目で俺を見るんです……
「ええ!親父さんの経営する『宿屋』!に泊まってますよ」
ポニテさんはくすくす笑いつつ
「やーね、そんなに訂正しなくてもいいのよ?お姉さんはちゃんと分かってるんだから」
そうか……わかってて敢えてその言い方なのか……遊ぶのは勘弁してほしいなぁ
「それで、俺がエマさんとこの宿屋に泊まってたらどうかしましたか?」
ポニテさんは表情を改めると
「ちょっと聞きたいのだけど、エマは体調でもわるいの?朝見かけなかった?」
ん?確か普通に給仕してたと思うけど……
「いえ?いつも通りだったと思いますよ?」
「そうなの?おかしいわねぇ……エマはお昼から出勤なんだけどまだ来ていないのよ。悪いんだけど様子を見てきてくれないかしら?」
ふむ、お姉さんたちにはお世話になっているし、ちょうど良いから昼食をとって来るかねぇ。
「わかりました。じゃあ見てきますんで、グラズさんには今日は遅れると伝えておいて貰えますか?」
「ええ、お安い御用よ。それじゃあお願いね」
俺はギルドを後にし、『微笑む親父亭』へと向かった。
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宿に着くと、昼時なのに誰も客が居ないことに気づく、ついでに言うとビルさんも居ないようだ。
「おかしいな?昼を休むとは聞いていないんだけど……」
すると、奥からガタン!と音が鳴り、女将さんが飛び出してきた。
「あ、ああ……ロック君かい。今日は早いんだね……でもご覧のとおり今日はやってないんだよ」
「そうみたいですね。ところで女将さん、エマさん知りませんか?ギルドに来てないみたいで、様子を見てくるように頼まれたんですが」
そういった途端、女将さんの顔色が明らかに変わる
「そ、それがね……帰ってこないんだよ……」
「え?」
「足りない食材を買いに行かせたんだけど、まだ帰って来ないんだよ!それで旦那が迎えに行ったんだけどね?店のもんが言うにはとっくに帰ったって言うんだ。それで探してたら……買い物籠が路地の途中に落ちてたって……」
どんどん顔色が青ざめていく女将さんを支え
「それで……今はどうなっているんですか?」
「騎士団に届け出て、今は昼を食べに来た常連たちと手分けして探している最中だよ……あたしはエマが帰ってきた時の為に残ってたんだけどね……」
「状況は分かりました。俺も探すのを手伝いますよ。最後にどこで見かけたか分かりますか?」
女将さんは頷くと
「たしか……『商業区』の2番街 17辺りで見かけたって聞いたよ」
俺は頷き、まずはそこへと向かうことにする。
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現場に着くと、騎士団が現場検証をしていた。捜査状況を聞こうにも、それを聞く理由を証明する手段が無いため、怪しまれて拘束されると無意味に時間が過ぎてしまうだろう。情報はほしいが公権力は融通が利かない部分もあるので今回は敢えてパスする。
『グラウンドサーチャー』を使って、現場の僅かな凹凸から足跡を検出する。エマさんと思われる小さめの足跡が路地に向かって押し込まれるような不自然な形であった後、唐突に途切れている。その足跡の周囲にあった一つがいきなりに深く沈みこんでいる。そう……まるで人一人を担いだように(・・・・・・・・・・・・・)捜査範囲を広げて足跡を追跡すると、路地を抜けた先で足跡が消えた。
消えた位置には馬車と思われる轍があったので、周囲で聞き込みを行うことにした。
馬車があった近くで露店をしていた親父さんに話しかける。
「親父さん、串3本頂戴」
「あいよ!銅貨6枚だよ!」
金を渡し、串を受け取る。
「ところでさ、あの辺りに馬車が止まってなかったかい?」
「ん?ああ、そういえばあった気もするなぁ」
俺はカウンターに銀貨を一枚置き
「どんな馬車か思い出せないかな?」
銀貨を手に取った親父さんはにこやかに笑うと
「ああ、ありゃたしか奴隷用の箱馬車だったな。だがそのわりにゃ商紋が無かったと思うぞ」
商紋のない箱馬車……いつぞやのアレか……
「ありがとうな、邪魔して悪かった」
「おう!また来てくれよ!」
串を齧りつつ、親父さんに手を振ると、以前馬車を見かけた場所へと急ぐ
その後も聞き込みを続けつつ、馬車を探した結果ようやく目的の馬車が見つかった。一見すると大きめの邸宅のようだが……少なくとも店舗には見えんな。まずは『グラウンドサーチャー』で家の構造を確認する。地上1階、地下2階の構造となっていて、ずいぶんと地下の一部屋辺りの間取りが広いな……それと地下1階にはかなりでかい金属の箱があるが……これは金庫かな?少なくとも一般家庭ではなさそうな感じだな。
さらに重ねて『アースソナー』を使うと、地下2階に20人近い人の反応があった。1階の広間らしきスペースにも10人程度居るようだが、地上の反応に比べて地下の反応は移動範囲がほとんど無いようだ。ここで騎士団に通報する手もあるが、結局今のままでは限りなく黒に近い灰色なので、確認することにした。
家の裏に回り、地面へと掘削魔法『トンネル』で穴を掘り進み、地下2階の壁近くまで到達する。一応『アースソナー』で反応を見るが、大きく動くものが無いようだ。そっと壁にのぞき穴を開け、覗き込む。部屋の中には人に獣人、エルフなどが居た。そしてそれらに共通するのはすべて若いこと(エルフは見た目なんで微妙だが)そして首に『従属の輪』が付いていることだ。
彼らが居る部屋は牢屋になっているらしく、石壁がむき出しの部屋に直接座り込んでいる。この部屋にはエマさんが居ないので隣の部屋を覗く。3つ目の部屋を覗いたところ、見覚えのあるたれ耳があった。エマさんの居る位置まで土中を通って移動し、目の前に穴を開けると、エマさんが気がついたのか覗き込んできた。
「やあ、エマさん探しましたよ?」
「ロックさん!?なぜここに居るんですか?それに……床に穴を……ああ、そういえば地魔法が使えたんでしたね……」
うむ、俺の特技を思い出して多少落ち着いたところで、エマさんの首にあるモノに気づく
「エマさん、それは?借金なんかあったんですか?」
エマさんは首を振り
「違います、私が家に帰る途中、見知らぬ男性二人に路地に押し込まれたのですが……お腹を殴られた記憶が最後です。拐われたのだと思うのですが、気がつくと既にこれを着けられていました」
んん?『従属の輪』は相手の同意が必要だったはずだ……少し見てみるか
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名称:略奪の輪
効果:装着対象にマスターを設定し、命令を聞かせる。
装着者はマスターの命令に逆らおうとすると、痛覚神経を刺激され
激痛が走る。
説明:従属の輪を元に作られた魔道具、複製品ではあるが制約を解除したため効果はより
強くなっている。
隷属の輪に近い性能があり、解除方法は『金額の達成』『マスターによる解除命令』
『装着者の死亡』である。金額に達成は『返済額が設定されていること』が条件
輪を無理やり破壊した場合、マスター設定が永久に残る、身体に障害が発生する
などの症状が残るため注意
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こいつは……勝手に複製した物ってことか。ということは正規の商人じゃないのか?だがどうやって魔道具の複製なんてしたんだろうな?
考え込んでいると、エマさんが囁いてきた。
「ロックさん、出来れば騎士団に伝えてもらえませんか?どうやら今日売られる人たちが居るみたいなんです。先ほど上に何人か連れて行かれた様で……」
む……それだと今からじゃ間に合いそうに無いな、すんなり俺の言うことを信じたとしても、ここに来るまでに2時間は掛かる。既に準備中ならその頃には出発していてもおかしくないからな。
「エマさん、おそらくそれだと間に合わない可能性が高そうだ。ここは俺に任せてもらえないかな?」
先ほどの考えを伝えると納得したようで
「わかりました。ロックさんなら何とか出来そうな気がしますしね」
「じゃあ穴から出るんで周りに居る人に騒がないように伝えてくれますか?」
エマさんはコクリと頷き、周囲に伝えてくれた。
「皆さん、これからしばらく何があっても静かにしていただけますか?」
どうやら、聞いてもらえたらしく、エマさんがOKを出したので、まずは穴を移動し、通路側へと飛び出す。突然出てきた男に皆一瞬ざわつくが、すぐに静まったため、上までは届いていなさそうだ。
「皆さん、少しの間我慢しててください。すぐに助けが来ますから」
そういい残し、上へと続く扉を開けると、この部屋の人たちが人質に捕られないように、扉を壁に接着する。『アースソナー』で確認すると、地下1階で5人分の反応が周囲を4人に囲まれているようだ。この5人が連れて行かれた人たちかな?
扉近くの壁からトンネルで横に潜り、壁に穴を開けて室内を確認する。犬耳ぽい獣人が2人と若い人間の男女が3人いてその周囲にチンピラくさい男どもが手枷や足枷をつけている。着け終ったところで、少し5人から離れた所を見計らい、5人の周りに『ロックウォール』で壁を作り上げる。今回は天井近くまで高さを調整したので、乗り越えて入り込むスペースは無い。
「な!?なんだこりゃ!!くそっどうなってやがる!」
狼狽する男たちに向かい、今度は『バインド』を発動し、足と両腕、口を拘束する。縛り上げたところで、壁から出てきた俺を見て、男たちが驚愕の表情を浮かべるが無視し、腰から引き抜いたダガーを首筋に当てつつ囁く
「今から口の拘束を外すが、騒げば分かるよな?」
ダガーを当てた男はブンブンと首を縦に振るので、口を覆うコンクリをどかしてやる
「さて、あんたらに質問がある。お前らの主はモグリの奴隷商か?」
「い…いや、違う確か許可を受けているはずだ。お前こそこんな事をしてただで済むと思ってるのか?」
俺の眉がピクリと動くがそのまま質問を続ける
「ほう、正規の商人なのか……それにしては可笑しなことがあるもんだな。下の人たちの首輪は一見すると『従属の輪』に見えるが……金額の表示が無かったぞ?」
男の動きが止まる、こちらを信じられない目で見つめると
「ど、どういうことだ?借金奴隷に借金の設定が無いなんてありえないだろ!?」
ん?こいつは知らずに利用されてるのか……それともただの演技か……
「少なくとも俺は嘘は言ってないぜ?それよりもだ、お前たちの主はどこに居る?」
「ああ、旦那様は今は1階で護衛の方たちと、移動ルートの打ち合わせをしているはずだ」
ふむ、一階というとさっきの広間か……あそこは出口に近いから逃げられる可能性があるな。いったん地上から周囲を囲むか?
「ちなみにもう一つ聞くが、奴隷用の首輪はあそこの金庫で良いのか?」
俺が指差す先には、巨大な金庫が鎮座していた。厚みも数十センチありそうで、すさまじく頑丈そうだ
「確かに、魔道具なんかはあそこに保管しているが…アレを開けられるのは旦那様だけだぞ?」
いくつ入っているのか知らんが、ちょっと利用させてもらおうか……俺は金庫に近づき、左手を無造作に金庫に当てる。
『ディスインテグレート』
分解魔法が発動し、まるで砂を削るように金庫の扉が削れていく。鍵部分が完全に消滅したので、扉を開くと中には10個ほど首輪が置いてあった。大量の金貨もあったがこっちは今は関係ないので放置だ。
一つを手にとり男に近づくと、首にはめる。特に何の抵抗も無く、マスター設定の表示が出たので、とりあえず俺にしておく。金額設定はとりあえずパスだな。
男はあっさりとはめられたことに驚愕を通り越して放心しかけている。うん、相手の意思確認もないし、間違いないな……
男を再び拘束すると、連れてこられた5人の周りの『ロックウォール』を解除する。簡単に事情を説明した後、手枷と足枷を取り外し、しばらくここで待っているように伝える。首輪がある以上、上に行っても無理やり敵にされるだけだしな。
とりあえず次の行動に移ろうとしたところ、部屋の奥から俺を呼び止める声がした。
「ちょっとまってんか!そこの兄さん、わしも出して欲しいんやけど」
声のしたほうを見やると、鳥かごに人型の何かが居た。最初ソレを俺は生物と認識できなかった。30センチほどの身長に、柔らかな色合いの緑の服を纏っている。その服はいわゆるタイツのような物らしく、そのふくよかな腹を包み込んでいる。アクセントとして腰の辺りに赤いスカーフのようなものを巻いているのがおしゃれ?だ。
そしてその背中には、一対の美しい羽が広がっている、昔見た黒揚羽のように複雑な模様があり、標本収集家の気持ちが一瞬わかった気がした。そしてその頭部は……少し寂しくなった頭髪を横に流し、7:3で分けている。まさしくバーコードヘアって奴だ、その下にある顔は…酒やけで赤らんだ鼻に少し出っ歯、八の字眉毛と口ひげを持ち、なぜか頬に渦巻きのペイントがある。何の冗談かと思うような容姿と格好だが……まさか…いや…認めたくは無いが……妖精と言う奴なのだろうか?
あまりの衝撃に固まってしまったが、どうやらこいつも捕まっているらしいので、籠を開けてやる。
「おお、兄さんありがとなぁ。わしはプミィっちゅうんや!見てのとおりでフェアリーの揚羽族のもんや」
とりあえず笑うのも突っ込むのも失礼と判断し、鉄の意志で挨拶する。
「これはご丁寧にどうも、俺はロックといいます。種族は人間族です」
プミィさん?は感心したように
「はーー、あんさん、わしの名前聞いても笑わへんねんな。よう出来たおひとやなあ」
「人の名前を笑うなんて失礼極まりないでしょう?それに種によって常識なんて変わるんですから、俺たちの考えで馬鹿にするなどおかしい話です」
プミィさんは頷き
「あんさん若そうやのにしっかりしてはるなぁ。それはそうと何で来ないな所にきたんや?」
プミィさんに事情を話すと、どうやら協力してくれるらしい。フェアリーのため首輪が着けれなかったので、奴らの命令を聞かずにすむし、どうやらフェアリー族は風魔法が使えるらしいので、つかまった皆の護衛として残ってもらうことにした。
『トンネル』を使って一度地上に戻り、表口と裏口に石壁を重ねて退路を断っておく。あとは広間の奴らを何とかすれば終わりだな……
再び、地下に戻り階段を上ると、一気に奇襲を掛ける。
「な!?なんだてめぇは!」
護衛のリーダーらしき男が誰何するが、当然答えるわけが無い。石の代わりにバレーボールサイズの粘土を射出する『ストーンキャノン(非殺傷版)』を次々打ち込み、弓や槍を持った中遠距離タイプの敵を気絶させる。次におそらく主だろう、一番鈍そうなおっさんを『バインド』拘束しつつ、ようやく動き出した男たちに対し、膝を蹴り砕き、腕を掴んで投げ、背中から床に叩きつけることで動きを封じる。
あっさりと自分以外が倒されたのを見て、リーダーは狼狽するがすぐに状況をみて不利と判断し逃げ出した。……だが残念、そっちの扉の先は石壁なんだ、ゴン!という音が響き顔面を壁にぶつけて悶絶するリーダーが転がっているのが見えたので、そっと拘束してあげた。
とりあえず倒したのも含めてバインドで拘束しておいたので、商人らしきおっさんに近づく
「何だ貴様は!私にこんな事をしてただで済むと思っているのか!?」
「誘拐犯がずいぶんと面白いことをぬかすな。そんな貴様にこいつを着けてあげようじゃないか」
俺が、『略奪の輪』を見せると商人の顔色が変わる。どうにかして逃げようと床を這いずるが、押さえつけて首輪を装着した。
その後、いくつかの質問をしたところ、どうもこの件には貴族が関わっているようだ。それも騎士団の上層部に協力者が居るみたいだな……外からさらって来た人たちを乗せた馬車をそいつの権限で中身を調べさせず通していたらしい。首輪の作成についても関与しているようだな。
となると、このまま引き渡してももみ消されるか…最悪俺が犯人にされそうだな。知らせる前に、エイナを通じて領主に連絡を取るべきと思い、護衛と商人をバインドで入念に縛り上げた後、地下に下りて状況を説明し、開放をしばらく待ってもらうことにした。
何人かは不満そうだったが、もうしばらく我慢してくれ。
その後の展開は無事に何とかなった。領主に事情を説明し、近衛を連れて商人の家まで来てもらったあと、おそらく協力者が指示を出したのだろう……ぜんぜん見当違いの場所を捜索していた騎士団に場所を伝える。現場に到着すると既に拘束された犯人となぜか居る領主に騎士団は混乱していた。
領主に譲渡した奴隷商のマスター権限を使って、商人に今までの行いと協力者を白状させる。領主付きの魔道具職人に首輪を鑑定してもらうことで、これが不正に作られたものであることが証明された。騎士団の協力者もその場で拘束され、領主の命令で、さらわれた人たちの首輪も開放された。商人によって既に売却された奴隷たちも順次解放していくとのことだ。
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そして、エマさんをつれて『微笑む親父亭』に戻ると、ビルさんと女将さんが飛び出し、エマさんを抱きしめた。しばらく無事を確かめていたビルさんがこちらに向き直り、深々と頭を下げてきたので、慌てて押しとどめる。
「ビルさん、頭を上げてください。エマさんが無事だったんだからそれで良いじゃないですか」
「だが、君が居なけりゃエマは今頃……」
エマさんも頷き言葉を重ねる
「そうですよ。ロック君には感謝しても仕切れないわ。せめて何かお礼をさせてくれないかしら?」
お礼……か、もしかしてアレいけるかな?
「えっと、それじゃあエマさんの耳と尻尾がさわりたいなぁ……なんて」
それを言った瞬間、場の空気が止まったのを感じた……
女将さんは手を頬に当て困ったように笑い、ビルさんはなんとも形容しがたい顔で固まっている。そしてエマさんは顔を真っ赤にして固まっていたが……
「ええ、いいわよ」
「おい!?エマ本気か!?」
なに!?何なのこの空気は??俺はいったい何をやらかしたんだろう……そう思いつつ一人取り残された感じで、ビルさんとエマさんの遣り取りを見つめていた。




