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ねる○る○るね

俺は今、クエストボードの前で非常に悩んでいる………エイナの問題を解決し、5日ぶりにギルドで仕事をしようと来てみたのだが、二つほどやってみたい依頼があり、そのどちらかしか選べない状況と言うのはなかなかにもどかしいものだなぁ


一つ目は、『ポーション作成のお手伝い』で、毎年恒例となっている秋の大規模演習に向けて、備蓄のポーション補充の大量注文が来ているらしい。そのため、簡単なポーションが作れる人を募集しているらしい。ばっちゃに習っていた薬師のスキル上げや新しいレシピが覚えれるかも知れないのがメリットだな。


もう一つは、一つ目の絡みで、『五葉草』の大量需要があり、常時依頼で集まる分では足りないらしい。その為、五枚あたり銅貨60枚と割高の依頼が出ている。つまり儲けるチャンスだ!


ただし、どちらも納期が迫っているため、期限が今日までの依頼となっておりどっちも請けるというのは少々厳しいと思う。(採取してから手伝いに行けばいいと思うだろうが、その場合昼過ぎからの参加となるため、それまで残ってるかは怪しいところだな)


悩んでいるとどんどん『五葉草』の依頼メモを持って受付を済ませていくので、今回は『ポーション作成のお手伝い』を請けることにしようか!


メモを剥がしカウンターへと持って行くと、エマさんが対応してくれた。


「あら?ロック君はポーションの方なの?君なら採取のほうが儲かるでしょうに?」


俺は笑いながら

「久しぶりに作りたくなったのもありますが、田舎には無かったレシピが見れるかもしれないですからね」


エマさんは微笑んで

「あら?意外と勉強熱心なのね。薬師の人たちも職人気質に見て覚えろ!じゃなくて少しはレシピをまとめればいいのに」


エマさんがぶつぶつ言ってるが、これはある意味では仕方の無い面もあるのだ。簡単なポーション類であれば、正確な分量を混ぜることさえ出来ればど素人でも作ることが出来る。だがこの世界で最も需要が高いのは、その一番簡単なポーションなのだ。

まぁそりゃそうだよな、この世界に住むほとんどの人は冒険者ではないのでLV0だ。そして薬師でなければ作れないような高度なポーションは、一般的な生活レベルでは不要というか……過剰なのだ。普通に生活していて受ける怪我など、せいぜいが手が滑って鉈で切ったとかの裂傷クラスだろう。

そして簡単なポーション――面倒なのでポーションと呼ぶか、は一本で一箇所の長さ15センチまでの裂傷の完全治癒か、それ以上の長さの傷の出血停止、もしくは単純骨折から骨のひびへの軽減くらいの効果がある。


こんなものが何と銀貨1枚と銅貨50枚ほどで買えるのだ。ひどくても2本も飲めばあらかた直ってしまうし、これで足りないのはほとんど瀕死の重傷なので、その場合は教会か城砦に常駐している光魔法の使い手に治癒を頼むほうが早いのだ。

その為、高度なポーション――ハイポーションでいいか、が必要な人種は自ずと、高ランクの冒険者か軍隊位しかないのである。


そこで話が戻るが、薬師はどうやって収入を得ているのか。答えは簡単だ、ポーションの売り上げで飯を食っている。なので公開すると、それこそ生き残れるのは、貴族との専属契約でもしているような高名な薬師くらいだろうね。そう意味もあって、基本的には自らのレシピは他人には教えないようになっている。例外は同じ薬師が目で見て分量を盗むくらいか。


「まぁまぁ、確かに数量も多くありませんし、値は張りますが、それで生活している人達もいることですから……」


エマさんの耳がへにょんと横にたれて

「そうね……もう少し数が増えればとは思うのだけれど……こればかりは仕方の無いことなのかもね。うん!はい、依頼の受諾が完了したわ。場所はメモにあった通りだから問題ないわね?」


俺は頷き

「ええ、ではいってきます」


「いってらっしゃい。気をつけてね」


ああ、なんかこういう会話いいなぁ……とか思ってたら、何本か突き刺さるような視線が飛んできた、エマさん人気あるなぁ



■□■□■□■□■□■□■□



うむ、工房はここの様だな。火を使うこともある為、レンガと耐火性のある漆喰をベースに造られた工房には、既に6人ほどが忙しく動き回っている。


「すみません。依頼を受けて来ました、ロックと言います」


工房の責任者であろう、初老の男性がこちらの声に振りむき、手を止めて駆け寄ってくる。

「おお、待っていたよ。請けてくれたということは『五葉草』を使ったポーションの作成は出来るんだよね?」


「ええ、田舎では薬師の手伝いもしていましたから、簡単なものであれば作れます」


男性――ウマクさんはうむうむと首を振り

「助かるよ、人手が足りないときに頼むのだが、たまに全く未経験の者が来ることもあるからねぇ。薬師の技術を伝える事を拒みはしないがねぇ、知りたいのならばきちんと弟子入りして欲しいものだよ」


確かにそうだな、ギルドへの依頼の場合は即戦力の一時確保が狙いなんだからいちいち教えてられるわけないもんなぁ

「それでは早速はじめましょうか。どの機材を使ってどのくらい作ればいいですか?」


「そうだね……あそこの空いている机で作業をしてくれるかい?乳鉢なんかはそこの棚の物を使ってくれればいい、加える蒸留水はかまどで私の弟子の一人が大量生産中だから、右奥の瓶に入っているのを使ってくれたまえ。それから……作る量だが申し訳ないがかなりの量を請けていてね、一人当たり100束分をお願いしているんだが、大丈夫かね?」


100回分か……大体8時間くらいで作れるな、まぁ問題ないだろう

「はい、大丈夫ですよ。念のため一回目の品質を確認してもらえると安心ですね」


ウマクさんは感心したようにこちらを見やる

「ほう、その若さでそこまで気が回るとはね。もちろん確認させてもらうとしよう」



俺は積まれた『五葉草』と薬草の効果を上げる『ナイル草』(これはどの薬草調合でも、ほぼ加えることになる)を手に取ると、空いていたスペースへと置き、乳鉢とすりこぎ、それから小型のコンロ(これも魔道具の一種だ)と手鍋を用意する。

そして、調合に絶対に必要なのが秤だ。調合は正確な分量で行わないと効果が変化する。多少の低下ならともかく大きく間違えると、魔力中毒を引き起こす毒薬に変化することもある為、薬師で秤を使わないやつは信用するなとばっちゃにも言われている。


まずは『五葉草』(見た目は大きな緑色のもみじに似ている)を包丁で葉に付いたままの茎の部分を取り除き、細かく刻む。刻んだ葉を秤に乗せ20グラムぴったりになるように調整する。ちなみに何故そうなるのかは、いまだ誰も知らないが一度に作れるポーションの限界はこの20グラムである。

その昔、大量生産を目的に100束分を、一度に大なべに投入し作ろうとした薬師の家は、眩い閃光と共に屋根が消し飛んだそうだ……なべの中身ごと


いちいち5枚ずつ100回に分けて作らねばならないため、手間の掛かる作業になる。

まずはひたすらに『五葉草』の処理を進める。刻んでは量り、小さなカップに放り込み小分けにしていく。取りあえず持ってきた10束分を処理したところで、今度は笹にそっくりな『ナイル草』、これも同じく刻む。一本分で5グラムになるように調整しつつ量り、先ほどのカップに加えて放り込む。

サンプルを作成するために、ひとまず処理を中断し、『五葉草』と『ナイル草』を入れたカップを手に取り、中身を乳鉢に投入しすり潰していく。すりつぶした薬草を蒸留水185CCと合わせて手鍋に投入、沸騰する直前まで混ぜつつ加熱する。ここで沸騰させると、これまた効力が下がるので注意だ。後はしばらく冷ますと液体の色が鮮やかな黄色に変化する、この時色に濁りや濃淡が出ると品質が下がっていると分かる。


うん、きれいに澄んだ黄色だ。鑑定もしておいたが問題はなさそうだ。


-----------------------

名称:レッサー・ライフポーション(高品質)

効能:外傷を2箇所まで修復する。また、微量ながら体力の回復効果もある。


説明:分量、手順ともに完璧にこなした一品

   通常よりも品質が良いため、効能が増している。


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冷ましたポーションを小瓶3本に分けて入れて完成だ。早速出来たポーションを依頼主に見せに行く。


「一つ目が出来たので、品質の確認をお願いします」


ウマクさんは、受け取ったポーションを翳してみたり、少量舐めてみたりして確認すると、満足そうに頷く

「うむ、大変すばらしい。これなら問題ないでしょう。この調子で作業を続けてくれるかね」


俺は頷き

「はい、では作業を続けます」


それから9時間、昼食の休憩を挟みつつ、ひたすら作業を続け、ようやく100束分のポーション作成を行った。……うう、刻みすぎて手がだるい


「いやはや、本当に100束分こなせるとは。おかげで作業が捗ったよ、これなら納期に間に合いそうだ」


俺は笑いつつ

「はは、お役に立てたなら幸いですよ」


「依頼の受領書だが、ギルド宛に報酬の上乗せを提示しておいたから、受け取ってくれたまえ。予想以上に働いてくれたからね」


「ありがとうございます。また機会があればお手伝いに来ますよ」


別れの挨拶を済ませ、ギルドへともどる。夕日が照らす帰り道をのんびりと歩いていると、屋台からいい匂いがしてきた。宿に帰れば夕食が待っているが、みっちりと働いた腹には、この匂いは凶器も同然だ。

結局誘惑に負け、購入してしまう。二つ折りにした薄いパンに、葉物野菜とたまねぎそっくりなピカル、それから薄切りにしたホーンラビットの肉を挟んで特製タレを掛けた、タコスに似た食べ物はあっという間に俺の腹に収まった。



■□■□■□■□■□■□■□


ギルドに戻ると、なんか空気が微妙だった。何人かエールに手をつけずにボーっとしたり、考え込んでるやつもいるな……


カウンターで依頼料を受け取りつつ、ちょうどエマさんが居たので、訊ねてみた。


「エマさん、なんかあったんですか?ちょっと変な空気ですけど」


エマさんはこちらに気づくと

「ああ、ロック君お帰りなさい。ほらあの娘が引退手続きに来たんだけどね。その前に迷惑を掛けた人たちに謝りたいって言い出して、あそこに居る人たちに謝罪して回ったのよ」


ふむ、だが謝るだけでなぜこんな空気になるんだ?俺がいぶかしんでいると、それを察したのかエマさんが言葉を続ける

「一応冒険者の時の格好で来てたのだけど、あの中に貴族区であの娘を見たことがある人が居てね、貴族だってばれちゃったのよ。それで一部の酔っ払いが悪乗りでしょうけど、謝る気があるなら土下座しろ、なんて言い出してね。そうしたら本当に土下座しちゃったものだから、言い出したほうが慌てちゃってね」


ああ、小娘とはいえ貴族に土下座なんぞさせたらそりゃ後が怖いもんなぁ

「でも、まだ引退手続きの前だったんでしょう?それならギルド内じゃ冒険者のランクが優先されるから問題ないんじゃ?」


ギルドの規約上、ギルド内と依頼活動中はあらゆる身分の権威は停止し、ただギルドランクのみが優先される事となる。そうしないと、たとえば入りたての貴族のボンボンが、権力を利用してチームを乗っ取ったり、集団戦闘時に指揮経験も無い様な未熟者に命を預けるなんて事態が発生しうるからだ。


「そうなんだけどねぇ、中には引退後に難癖をつけられるかも、なんて考える人も居るかも知れないし、ばれちゃったから長居せずに帰らせたのだけど、まだ納得していない人も居るでしょうね」


んー、その辺はエイナのやらかした結果だからなぁ。あいつ自身が何とかするべき問題だろうし、放っとくしかないかな?


そう思いつつ、ギルドの扉をくぐり、宿へと帰っていった。

12/25 吝かの表現について指摘がありましたので修正を、ウマクさんとしては、教えてもかまわないけど、知りたいのなら薬師の職に就く位真剣にやれというのが、言いたい感じですね。

お手軽にポーションの作り方だけ聞きに来るなといいたい訳です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私はピットホールが最強の魔法だと思うよ? 陸上生物にとって致命的でしょう? 底に石槍を生やすと100%死ねるよ?下手すると大軍が 壊滅するよ?地下に巨大空洞を作り軍団が来たら 柱を消せば?下…
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