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森のゴブさん

初めての依頼達成から今日で5日目、薬草の採取とGランクの雑用を交互にこなして(Gランクを受ける理由は、街中での作業が主なため地理の把握や、何処にどんな人が住んでるかを早めに覚えるためだ)昨日ついに、F+までランクアップした。


これでE-の仕事が請けれるようになったから、今日はゴブリンの討伐でもやってみようかと思う。


いつもの様に朝の支度をした後、ふと思い立ってギルドカードを確認すると、今日の運勢は『凶』だった。朝からちょっとテンションが下がるよなぁ。

気を取り直し、ビルさんが持ってきた朝食を頂く。ん?なんかいつもよりまずい様な……指摘しようとしたその時、俺の脳裏に運勢がチラつく……そういえば、作ってるはずのビルさんがなぜ給仕をしているんだ……

そっとアースソナーを使って厨房を探索すると、エマさんの反応が返ってきた……しかもこっちを窺ってるし…


何事もなかったかのように朝食を平らげると、ビルさんに向かっていつもより美味しかったと伝えておいた。そしたら舌打ちしやがったあの親父……罠かよ!!


宿を後にした俺の後方で、おそらく文句を付けたであろう客が悲鳴を上げながら倒れる音がしたが、聞かなかったことにしておいた。




■□■□■□■□■□■□■□



ギルドに到着すると、いつもの様にクエストボードへと向かう。Eランクの依頼が張ってある辺りを見ると、お目当てのゴブリン討伐依頼があったので、それを剥がして窓口へと歩いていく。


ちなみにゴブリンと一言で言っても、その種類はさまざまだ。

もっとも弱いのが、グリーンゴブリン種で名前の通り、緑色の肌に長い鷲鼻、やせた体に申し訳程度の布切れをまとっている。武器も死亡した冒険者から奪ったものや拾った棒などで、単独ではそれほど脅威ではない。

ただゴブリンは常に3~5匹程度の集団で行動しているため、最下級のノーマルグリーンゴブリンでも初心者では厄介な相手だ。


ゴブリンには上位種として、グレイゴブリンやレッドゴブリン、ブラックゴブリンなどがいて、最上級のブラックゴブリンにいたっては、Cランク以上の冒険者でなければ勝つことは難しいと言われている。

さらに生き延びて力をつけたゴブリンは、特技を得ることで更に強化される。それがゴブリンアーチャーやメイジ、ウォーリアーなどと呼ばれる個体であるらしい。



今回の狙いはノーマルのグリーンゴブリンだが、窓口の金髪ポニテのお姉さんに受諾を渋られた。武器がなくても戦えるとは言ったけど、安物でも良いから剣のひとつも持っておいた方がいいのかも知れんなぁ。



門番に挨拶をし、南門から森へと向かっていると、なにやら背後から気配がする。ちらりと後ろを見ると、隠れているつもりではあるんだろうが……この間の赤毛の頭が見えている。

ここ何日か薬草採取で銀貨10枚近くの稼ぎを出していたからなぁ。後をつけて群生地を知ろうって魂胆なのかねぇ。まぁ今日は森に入るから、そこまでは付いてこねぇだろう。




森に踏み込んでしばらく、『アースソナー』と今回は聴覚強化魔法『インセンスドヒアー』を使用して、ゴブリンを探しているんだが……あの赤毛…エイナといったか、なんで森に入ってるんだ?薬草目当てじゃねぇのか?

まさか……群生地が森にあると思って、付いて来てるのか……


うーん、帰れと言おうにも、偶然同じ方向に向かってただけと言われりゃ、返す言葉もねぇしなぁ。しゃあねぇさっきと同じで居ないものとするか……



10分ほど奥に進むと、右前方に反応があった。数は5匹、耳障りなギャ!ッギャ!という叫びが聞こえてくる。俺は音を立てないように注意しながら近づき、木の影から様子を伺うと、どうやらホーンラビットを捕まえたらしく生で齧っていた。5匹が奪い合うようにホーンラビットに齧りつき、辺りは血のにおいで充満している。


これなら、不意が討てると思っていたら……


がさっ!


「やぁー!!」


後ろで窺っていたエイナが飛び出しやがった!!

結構後ろのほうに居たから、問題ないと思ってたんだが……まさか叫びながら突撃するとは思ってなかったぜ……

レイピアを引き抜き、手前のゴブリンへと突き出すが、何だあのへっぴり腰は……まっすぐに突き出すことができず、ゴブリンに刺さりはしたものの余計な力が掛かったせいで大きく撓み、歪んでしまった様だ。

剣が歪み呆然としてる赤毛に、怒り狂ったゴブリンが棍棒を叩きつけようとしたところで、翡翠髪――レインの方が横からエイナを押し倒して何とかかわしていた。


はっ!あまりの展開に傍観していたけど、あれってピンチなんだろうか?エイナは武器が歪んだし、レインはもともと武器もってねぇし……

でも、他人の獲物を横取りするのもあれだしなぁ……とか考えてたら、レインが涙目でこっちを見てた。


「横取りされといて何だが。助けがいるか?」

レインに訊くと、すごい勢いで頷かれた。


まぁ後で説教するとして、今はゴブリンだな。俺は二人へと襲いかかろうとしている、ゴブリンへ向けて駆け出した。


まずは、二人の安全を確保するため、ゴブリンとの間に『ロックウォール』で高さ幅ともに2メートルほどの半円の壁を作る。なんかエイナが叫んでるが無視だ。

一番手前のゴブリンに駆け寄り、こちらへ棍棒をぶつけようと踏み込んでいる左膝を、斜め上から踏み砕く。痛みに動きが止まったゴブリンの左腕を掴み、後ろに続いていたゴブリンめがけて投げつける。投げ飛ばしたゴブリンにぶつかった2匹目は重量と勢いに負け転倒する。


「寝てろ、『バインド!』」


転倒した2匹をまとめて、速乾セメントの触手で縛り上げる。『バインド』自体の効果時間は30分ほどだが、ちょうどその頃にセメントが硬化するため継続的に縛っておける。

とりあえず、縛った2匹は無視し、こちらへ同時に向かってきた2匹へと対する。左のゴブリンは鉈のような肉厚の刃物を、袈裟切りにするように振りかぶり、右のゴブリンはどこかで拾ったのか、錆びた鉄槍をなぜか真上から振り下ろそうとしてる。

俺は左のゴブリンの右手側に向かって踏み込み、袈裟切りをかわしつつ右手で鉈を上から押してやる。勢いを増した鉈に振り回されるようにゴブリンの体が左へと流れ、槍ゴブリンの振り下ろした槍に殴られる。


「ゲギャ!?」


殴られ、蹲るゴブリンの延髄をめがけて右足のつま先を蹴りこむ。頚椎の折れる感触が伝わりゴブリンの体から力が抜けていく。槍を構えなおしたゴブリンが今度は突いてきた為、サイドステップで右に避け槍を左手で掴み取ると、こちらに向かって引き寄せる。

槍に引っ張られ、体勢を崩したゴブリンの顎を力いっぱい打ち抜く。…ゴブリンの頭が180度回転し崩れ落ちた。


そして最後の一匹は、まだホーンラビットを齧ってやがった。いや……動かねぇとは思ってけど、まさか食ってるとは。取り合えず『ピット』で穴に落としてから槍で突いておいた。


拘束した2匹にも止めを刺してから、魔法で作った壁や穴を消していく。壁を消したらなんか驚いた顔してたけど、なんでだろうな?何はともあれ説教といこうか。




■□■□■□■□■□■□■□


討伐証明の右耳を切り取り袋に入れると、いったん森から出ることにする。さすがにここで話をするのは危険すぎるしな。


武器を失ったエイナもさすがに今の状況はまずいと思ったのか、おとなしく付いて来る。レインの方はどうやら腰が立たなくなったらしく、歩けそうになかったので、俺が背負って移動中だ。


しばらく歩いていると、後ろからエイナが声を掛けてきた。


「ねぇ…さっきのアレはなに?」


アレって言われても…どれだよ?岩壁のことか、それを消したことか……それともゴブリンが使ってた武器を魔法で分解してインゴットに変えたことかね?錆びてるから使い物にならねぇし、放置してまたゴブリンが拾ったら何だから、鉄の元素まで戻して錆を抜いてから一まとめにしたんだが、なんかまずかったかね?


「アレってなぁなんのことだ?」

特定できないのでとりあえず聞き返してみる。


「どれもこれもよ!あんな岩壁を出す魔法なんて見たことないし、一度出した地魔法の産物が消えるなんて聞いた事もないわ!それに何でゴブリンの武器が消えたと思ったらインゴットがあんたの手にあるのよ!?」


「出来るんだからしょうがねぇじゃねぇか。それとも何か?お前さんが知らないことはこの世にはないのかい?」


でも常識が…とかぶつぶつ言い始めたが、とりあえず森を抜けるほうを優先させてもらおうか。背中のレインもなんか言いたそうだが、とりあえず無視だな。



森を抜けた後、ある程度はなれた場所まで戻ると、レインを下ろすとエイナも座らせる。さぁ事情を訊こうか……くだらない事ならギルドに行くがな。


エイナを見やるとまずは理由を訊く。

「さて、なぜあんな真似をした?まだ交戦前とはいえ明らかに、俺が準備してたのは気づいていたよな?」


エイナは気まずそうに目をそらしつつ

「お、お金よ…お金が必要だったの、自分のランク以上の討伐でも偶然会った場合はお金が出るでしょ。ゴブリンはホーンラビットの3倍くらい貰えるもの」


「金ねぇ……お前さんたちの格好を見る限り、あんまり困ってそうには見えねぇんだけどな?」


実際、エイナとレインの服装はかなり仕立てがいい、特にエイナは一部に絹らしき素材も使っているように見える。エイナが持っていたレイピアも刀身は実戦での傷が見受けられるが鞘やグリップガードの装飾はかなりのものだ。

これで金がないって言ったら、俺らはドンだけ底辺なんだよ……


どうやら、格好を見られていることに気づいたらしく更に言葉を重ねる。

「こ、この服は家にあっただけで新しく買ったわけじゃないわ。それにこの剣もお父様の物だし……壊れちゃったけど直すお金なんてもう……」


ふむ?資産はあれど現金が無いって事かね?

「それでなぜ金が要る?正直に答えないなら、これからギルドで事情を話さにゃならんのだが……おそらく今度は資格停止になるぞ?」


エイナは青ざめているが、なかなか話そうとしない。しかたなしに事情を知ってそうなレインへ水を向ける。

「そっちのレインといったか?あんたは知ってるのか?」


レインはこくりと頷き。エイナをちらっと見たが、ぽつりぽつりと話を始めた。


「えっと、まずエイナの家には借金があるんです。それで返済期限が5日後に迫っていて……」



その後、ようやく話す決心が付いたエイナも加わり事情を聞くことができた。


まずエイナの名は『エルフィーナ=ハウルガン』という。ハウルガン子爵家の一人娘だそうだ。レインとの関係はエイナの乳母の娘がレインだそうで、いわゆる幼馴染らしい。10年前のゴブリン侵攻の際に、父親が騎士として参戦し東門を守って戦死したらしい。

その際、勤めによる俸給こそ停止したものの、領主から多額の見舞金をもらい、エイナが成人して婿を取るくらいなら何とかなりそうだと思っていたらしい。だが1年前母親が原因不明の病に倒れ、八方手を尽くしたが一向に症状は改善せず弱り果てていたところ、治療薬をとある商人が持っていると持ちかけてきた。

怪しいことこの上ないが、追い詰められていたエイナは、その商人から薬を買ったらしい。薬自体は本物だったらしく、母親は現在は快方に向かっているそうだ。


ちなみに、その薬の値段を聞いて、俺は固まった。

「おい……金貨300枚ってどんなぼったくりだ?俺の知ってる相場でもそれだけあれば『霊薬』が買えるぞ?」


エイナはこちらをにらみつつ

「霊薬なんて1年にひとつ売りに出されればいいほうじゃない。そんなの待ってられなかったのよ!」



で、今の問題ってのがその薬の購入代金の支払いについてだ。エイナは当初家屋敷を手放して返済に充てるつもりだったそうだが。その商人が再度やってきてとんでもない事を言い出したそうだ。家屋敷を差し押さえても返済には足りないため、証文にある通り商人の指定した人物とエイナには結婚してもらう。

結婚することで、その人物に借金を肩代わりしてもらうと。もちろんエイナが証文にサインしたときはそんなことは書いてなかったそうだ。

なんか聞いてると、エイナの家嵌められてないか?都合よく誰も治せなかった薬を持ってたり、借金の肩代わりしてくれる人が居たり……爵位目当てかね?


「わ、私だってこんな事したって、もうだめだって分かってるわよ…でも何もしないままなんて嫌なんだもん……うぅ」


なんか泣き出したんですけど……レインも泣いてるし、傍から見ると俺が泣かしてるように見えるじゃねぇか!



目立ちたくはねぇんだけどなぁ……だが、フィーリ姉ちゃんの教え第2条『困ってる女の子がお前の力で救えるなら、後の面倒など知ったことか!全力でいけ!(だが毎度困るような馬鹿は知らん!!)』は絶対の掟なのだ……

さすがに俺一人では決断できねぇ……人生の先達に相談してみるか。

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