報酬と準備
依頼を終えてギルドに戻ってきたが……朝よりだいぶ人が増えてるな。
窓口で依頼達成の報告をしている人や、カウンターになにやら角とか毛皮とかを積み上げている人も居るな、あそこは素材の買い取りカウンターらしいな覚えておこう。
左手のカフェ部分では食事をしている人たちでごった返している。
なんか明らかに冒険者とは思えないような、文系ぽい青年がいたりするし、もしかすると飯だけ食べに近所からも来ているのかもしれんな。
俺も依頼窓口へ進み、前の人が終わるのを並んで待っていると、程なく順番が回ってきた。
戻ってきたことに気がついていたのか、ウサ耳お姉さんが先ほどまで受付をしていたブルネットの女性と交代して、俺の前にやってきた。
「ロックさんお帰りなさい。ずいぶんと早かったんですね、あと2時間くらい掛かると思っていましたよ。」
お姉さんは、少し驚いた様子で話しかけてきた。
「ええ、ああいう作業は得意なんですよ。それに応急処置だけですから作業量も少なくすみましたしね。それとこれが受領書です。」
懐から取り出した受領書とギルドカードをお姉さんへと渡す。
「はい、確かに完了していますね。それではこちらが報酬となります。また、依頼達成により1ポイント加算されましたので、残り19ポイントでFランクに昇格いたします。がんばって下さいね。」
お姉さんから依頼料である銅貨30枚を受け取り、財布代わりの小袋へとしまいこむ。
依頼終了までの流れはこれで把握できたな、あとは準備と宿の確保だが………やっぱり地元の人に聞いたほうが確実だろうなぁ。
「ありがとうございます。それと、どこかご飯がおいしくて安全な宿を知りませんか?あまり安宿だと荷物が心配ですし(まぁ着替えくらいしかないけどな…)」
「そうですね、それでしたら『市街区 2番街 21』のあたりに、『微笑む親父亭』という宿があります。名前はその……ちょっと変ですけど、個室はすべて鍵付きですし、従業員もちゃんとした人ばかりですから安心だと思いますよ。」
えらく具体的だな?もしかして知り合いなんだろうか?まぁ、お姉さんのおすすめだし問題は無いだろう
「わかりました、それじゃあそこに行ってみますね。いろいろとお世話になりました。」
「あ、宿に着いたら『エマ=バートン』の紹介といえば、少しは優遇してもらえると思いますよ。」
俺はウサ耳お姉さん――エマさんに別れを告げると、ギルドを後にした。
■□■□■□■□■□■□■□
ここ……かな?看板にも『微笑む親父亭』って書いてあるし、なんか記号化された笑顔みたいな絵も描いてあるし間違いないだろう。
着いた宿は結構大きなものだった、4階建ての建物で一階部分は受付と食堂兼酒場のスペース、それから奥に厨房らしき入り口がある。
中に入ると、受付に座っていた女将さんらしい女性が、こちらに向かって笑顔で応対してくれた。
「いらっしゃい、ようこそ『微笑む親父亭』へ泊まりかい?それとも食事?うちの料理はこの辺じゃ一番だよ!」
「えーと、泊まりなんですが『エマ=バートン』さんから紹介されまして、とりあえず一週間の予定でお願いできますか?」
紹介されたことを伝えると、女将さんはにやりと笑って
「おや、エマからかい。それなら個室は朝・夕の食事つきで一泊銅貨50枚なんだけど、連泊とあわせて銀貨2枚と銅貨80枚だね。泊まるんなら宿帳に名前を書いてもらえるかい?」
おお、銅貨70枚も割引されたぞ、これなら準備にお金を回せるな。
宿帳に記帳し、財布から銀貨を3枚取り出すと女将さんへ手渡す。
「はいよ、じゃあお釣りは銅貨20枚だね。あんたの部屋は302号室だよ、階段を上がって3階にあるからね。これが部屋の鍵だよ、それから部屋には収納用の鍵付きの箱が置いてあるから、それに手荷物は入れておくといいよ。食事は朝は鐘3つから5つの間、夕方は9つから11の間だから食いっぱぐれないようね。」
俺は鍵を受け取ると、3階に上がり貰った鍵で扉を開ける。
部屋に入ると、ベッドと収納箱くらいしかない狭い部屋だが、基本的に寝るだけだし問題は無いだろう。
手早く荷物を箱に収め、付いていた鍵を掛けると、一階へと戻っていく。
「おや?出かけるのかい。なら部屋の鍵を預かるよ。受付はたいてい誰か居るから出かけるときは鍵を預けて行っておくれ。居なかったら奥の厨房に声を掛ければ旦那がいるからさ。」
料理担当はどうやら旦那さんらしいな、宿の名前のイメージみたいな優しい人だといいなぁ。
「はい、ではちょっと出かけてきます。」
宿を後にした俺は、『商業区』のほうへ向かっている。
ロベルトさんから聞いた冒険者の必需品を購入する為なんだが、そのときにいつも利用する店を教えてもらったのでそこに行ってみようと思ったわけだよ。
昼食を食べていなかったので、気になっていたカラカラの串焼きを2本ほど購入して食べながら歩いているんだが、美味いなこれ!少しピリ辛なタレが鶏肉に似た淡白な肉にマッチしている。
これで一本銅貨1枚なら安いもんだな、家だと肉なんてめったに食えねぇし………
内壁の門をくぐって『商業区』に入り、目的の店に向かっているんだが、さすが商業区と呼ばれるだけはあるよな。
小さな露店商から大店の老舗まで、そこらじゅうに店が立ち並んでいて、値段交渉や呼び込みの声などがひっきりなしに聞こえて来る。
しばらく店を眺めながら歩いていたんだが、どうやら目的地に着いたようだな。
店に入ると、中はさまざまな道具や衣類なども扱ってるようで所狭しと物が置かれている。
奥のカウンターには、髭面のドワーフらしきおっさんが座っており、こちらに気づくと暇だったのか声を掛けてきた。
「いらっしゃい。にーちゃん、ここは冒険者向けの店だぜ?普通の雑貨がほしいなら向かいの店に行ったほうがいいぞ?」
「いえ、今日から冒険者になったんです。それで必要な道具をそろえようと思いまして、知り合いの冒険者に教えてもらったんです。」
親父さんは意外そうな顔をしていたが、話を聞くと棚からいくつかの道具を取り出しカウンターに並べ始めた。
「何の準備もしてねぇってんなら。まずはこのあたりだな、綿の上着に皮のズボンこいつはとりあえず出したもんだから、後で試着してサイズを調整するか。それからブーツだなこれは底に鉄板が入っていて頑丈だ、それにハードレザー製でふくらはぎの半ばまで守る構造になってるからおすすめだぜ。」
うん、ロベルトさんのおすすめと同じだし、上着も森に入るなら肌を出すのは避けたほうがいいから当然か。
ブーツも軽く叩いてみたところ、かなり固い感触が返ってきたので、毒蛇の牙も大丈夫そうだな。
さらに大き目の背負い袋と布袋を二つ、それから手の保護に皮の手袋も購入することにする。
「あわせて銀貨2枚と銅貨70枚だな。端数はまけといてやるから、また何かいるときはうちに来いよ。」
購入した物を背負い袋につめると、親父さんに挨拶してから店を後にした。
本当はフードつきのマントも欲しかったんだが、ちょっと高かったので余裕が出来たら買いに来ることにするかねぇ。
後はダガーだが、さっきの店にも一応置いてあったが、武器屋も見ておきたかったのでこちらでは買わずにおいた。
親父さんに聞いた武器屋はすぐ向かいにある、親父さんの弟がやってる店らしい。
中に入ると、さっきの親父さんが居た……わけではなく、そっくりだが少しだけ声が高い為、別人だとわかる。
店主は別の客と話しているので、店内をじっくり見て回ることにするかねぇ。
広い店内には片手剣や両手剣をはじめ、槍や槌・斧などがそれぞれのグループごとに分けて展示されている。
壁にはその中でも高そうな武器が掛けられていて、他の客が物欲しそうに眺めているが、金額が桁違いだなぁ。
とりあえず忘れないうちにダガーを確保する為、短剣のエリアへと向かうとするかね。
銅貨50枚で売っているダガーと銀貨1枚のダガーがあったので、どう違うのか鑑定してみるか。
まずは銅貨50枚のほうから
-----------------------
名称:ダガー
材質:鉄
説明:何の変哲も無い鋳造のダガー
仕上げの研ぎが丁寧な為、切れ味はよい
-----------------------
つぎは銀貨1枚
-----------------------
名称:ダガー
材質:鉄
説明:鍛造により強度が高まったダガー
仕上げの研ぎが丁寧な為、切れ味はよい
-----------------------
ふむ、銀貨1枚のほうが頑丈らしいな、長く使えるほうがいいしこっちにするか。
ダガーを確保した後、壁に掛かった武器や棚の武器を鑑定してて気が付いたんだが、壁に掛かった武器は鑑定結果に製作者の欄があるんだよなぁ。
どういう基準化わかんねぇけど、いい武器の目安になるのかもな、あそこの大剣なんて、さっきからいろんな客が眺めちゃ財布を見てため息ついてるしな。
ちなみにこんな感じだ
-----------------------
名称:ツヴァイハンダー
材質:アダマンティン
説明:重量・硬度ともに最高クラスのアダマンティンを原料とし
鍛造によって鍛え上げた大剣
特徴である、重量を利用した上段からの斬撃が有効
製作者:ヨアヒム=ピッペン
-----------------------
外見は真っ黒な刃渡り2メートルの大剣だが、よく見ると壁掛けの留め金が重量に負けそうだったのか、他の武器よりも数が多い
ちなみにお値段は、金貨150枚だと……
とりあえず、ダガーだけ購入して店を後にした。
その後、銀貨2枚でレザーアーマーを購入したけど、特に語ることも無いので割愛しておくぜ。
日もだいぶ傾き始め、買い物客たちも家路に付く頃、ようやく買い物が終わった俺も、宿へと歩いていた。
そのとき、かなり大型の箱馬車とすれ違ったんだが、窓もないし後ろ側にだけ扉があるんで運搬用だとは思うんだが、わざわざ箱馬車にしているのが気になってその辺歩いてるおっちゃんに訊いてみた。
「なぁおっちゃん、あれは何の馬車か知ってるかい?」
「ありゃ、奴隷商人の馬車だな。だが奴隷商なら必ず国認定の商紋を描く義務があるんだが……無かったよなぁ?」
おっちゃんは首を傾げうなっていたが、見間違いだと思ったらしくそのまま帰っていった。
確かに何も書かれていなかった気がするけど、俺もじっと見てたわけじゃねぇからな。
気にしてもしかたねぇのかも知れねぇと思い、宿へと戻っていった。
■□■□■□■□■□■□■□
宿に戻った後、出迎えてくれたのはエマさんだった。
「あら、お帰りなさい。もうすぐ晩御飯の時間だから荷物を置いたら降りてきてね。」
一瞬固まった俺だが、再起動すると尋ねる。
「バートンさんがなぜここに?」
「あら、エマでいいわよ。ここは私の家だもの、居ないとおかしいでしょ?」
つまり……紹介は自宅の商売の為か……まぁ、美人が居るほうがうれしいし特に問題なくね?
「では、エマさんちょっと荷物置いてきますね。」
鍵を受け取り、部屋に戻ると荷物を置いて、食堂へと戻る。すると、エマさんの隣に誰か立っていた。
「あ、ロック君紹介するね。この宿の主人で私の父でもある、『ビル=バートン』よ。」
エマさんの父親は、2メートルを超える巨漢でつるっぱげなのに、何故か耳だけエマさんと同じふさふさのたれ耳を持つおっさんだった。
一瞬噴出しそうになるが、気合で堪えると挨拶する。
「今日からお世話になります。ロックといいます。お嬢さんにはギルドでお世話になりまして、この宿も紹介していただいたんです。」
「おう、さっき娘から話は聞いた。独り立ちしたばかりじゃ分からんことも多いだろう。困ったら遠慮なく相談してくれ。」
おお、いい人そうだ……何故か無表情だけど……そう思ってると親父さんが近づき耳元でささやく
「ただし、娘にてぇだしたらわかってんだろうな?」
……とりあえず全力で頷いておいた。
ちなみに、料理は母より更においしかったです。シチューうめぇ




