ポロック村
ゴトゴトと馬車を走らせてはや4日、ついにポロック村が見えてきた。
ああ、ちなみにその間の飯は、ジョッシュさんが作ってくれた。
俺に前世の料理とか期待すんなよ?親父や弟もそうだったんだが、カップめんにお湯注ぐのが精一杯だよ。
蛇足だが、ジョッシュさんが作ってくれたスープはかなり美味かった。
母と遜色ないくらいで、一年の大半を行商している哀愁が感じられる一品だった。
もちろん、俺も冒険者になったら自分で作ることも必要になると思い、ジョッシュさんの手伝いをしながら、作り方のコツを教えてもらった。
今後は思い出しながら実践で慣れていくしかないだろうねぇ。
ポロックの村は、周囲を木の柵で囲み正面の門には、武装した村人と思しき二人の男が立っていた。
「止まれ!名前と身分証を提示してもらおう。」
ん?身分証?んなもん持ってねぇんだけどどうすりゃ良いんだ?
困ってジョッシュさんを見ると、にこりと笑って
「大丈夫だよ。私のギルドカードで通れるから、それとロック君の身分証だが、生憎とトト村には身分証を作るための魔道具が無いからねぇ。いつもトト村から出る人は、私が保証人となってここで作るんだよ。」
そういうことなら、ジョッシュさんに任せて俺はおとなしくして置くかねぇ。
ジョッシュさんと門番とのやり取りを眺めながら、待っているといつもの事でもあるのかあっさりと通してくれた。
そのまま場所を村の広場まで進めると、50代くらいの立派なひげを生やした男性が、こちらに手を上げて挨拶してきた。
「おお、ジョッシュさんお帰りなさい。今回も何事も無く戻ってこれたようですな。」
「ええ、お陰様で良い品を運ぶことが出来ましたよ。トト村で仕入れた物も有りますからいつものように、ここで取引してもかまいませんかな?」
「ああ、かまわんよ。それで其方の青年は?」
どうやら、此方に気づいたらしく、ジョッシュさんに聞いてきた。
「ああ、彼は私の息子の嫁の弟さんでね、成人したので街に出て冒険者になるつもりなんだそうです。それでお手数をかけますが、いつもの様に彼の身分証を発行していただけますかな?」
「おお、そりゃあ目出度いのう、では君、わしに付いて来てくれるかね。」
そういうと、村長さんは一際大きな建物(おそらく村長の自宅だろう)に向かって歩いていったので、慌ててついていった。
家に入ると、村長は家の奥から大き目の水晶玉のような物体を運んできて、机の上に置くと
「それでは、この玉の上に手を置いて、名前と村の名前を言ってくれるかね?」
「はい、ロック トト村」
俺が名前と出身を言うと、水晶玉が淡く光り一枚のカードを吐き出した。
それを村長が手に取り、うむうむと頷くと俺に手渡してきたので見てみる。
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名前:ロック
性別:男
年齢:15
出身地:トト村
特記事項:なし
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ん?名前と出身しか言ってないのに、何で年齢が書いて有るんだ?
俺が眉根を寄せてカードを眺めていると、村長が笑って説明をしてくれた。
この魔道具は、主神である【天空神 アルメイア】の加護を利用した物であり、偽りの名前や出身地を言うとそもそもカードが出来ないらしい。
更に、名前から個人情報を割り出し、犯罪歴などがあれば、特記事項に記入されるため(しかもカード作成後は、自動更新らしい)犯罪を誤魔化すことが出来ない仕組みになっているそうだ。
ともあれこれで俺にも晴れて身分証が作られたので、街の出入りも問題なく出来るようになるとの事で一安心だな。
その後、ジョッシュさんがトト村で仕入れた積荷をいくつか売り。ポロック村の特産品(主に木材や漆器)などを仕入れた後、今夜の宿である「踊る子豚亭」に向かうことにする。
中には既に出来上がった村人が何人かと、数名の冒険者らしき人影があった。
その冒険者はどうやらジョッシュさんを待っていたらしく、こちらに手を上げて合図してきた。
「待ってたぜジョッシュの旦那、その坊主が言ってたやつかい?」
「ええ、彼はロックくんと言います。ロック君こちらは、『グローリーハンド』のリーダーでD+ランクの冒険者ロベルトさんです。」
ジョッシュさんが紹介してくれたので、俺も頭を下げて挨拶をする。
これは前世で叩き込まれた、『目上の相手には最大限の敬意を払え!だが、年食ってるだけで偉ぶる奴はその限りじゃねぇ!』の教えによる物だ。
ジョッシュさんの知り合いで有るなら、敬意を払うに値すると判断したわけだな。
「初めまして、俺はロックって言います。よろしくお願いします。」
「ん?おお、冒険者志望にしちゃあ礼儀正しいやつだな。まぁここからグラリアまでは、間にもう一つ村もあるし滅多に盗賊どももいねぇからな。あまり危険度はねぇから、安心しな」
ロベルトさんは30手前くらいの男性で、綺麗に刈り込まれた顎鬚と、頬に走る爪痕が印象的なこれがいぶし銀かと納得するような男前だった。
腰には幅広の剣とダガーを差し、ブレストプレートに身を包んでいる。
その後、『グローリーハンド』のメンバーである大剣使いのグレッグさんと弓使いのウィムさんを紹介してもらい、ジョッシュさんの奢りで宴会になだれ込んだのは恒例行事のような物らしい。
いつの間にか人数が倍に増えてた上に、その後の嫁さんたちによる説教大会は地獄絵図だったが。