山道にて
狭い山道を一台の馬車が、進んでいく。
往路と異なり、復路の今は、積荷も半分ほどのため、馬たちも調子がよさそうだ。
「ジョッシュさん無理を言ってすみません。」
「いやいや、フィーリちゃんの弟さんのお願いだ、それにいつもは私一人だからねぇ、問題なんぞありゃあしないさ」
商人のおっちゃん――ジョッシュさんがにこやかにそう言ってくれた。
「フィーリ姉ちゃんはあの性格ですから、義兄さんも苦労してるでしょう?」
幼い頃の数々の理不尽な思い出が甦るが、妙な悪寒がしたので記憶の底に再度封印しておく。
「とんでもない!あの娘のお陰で、息子はずいぶん逞しくなったよ。お陰で安心して店を任せられているくらいだ。」
どうやら義兄だけでなく、ジョッシュさん達にもきちんと受け入れられているようで安心だな。
まぁフィーリ姉ちゃんは誰とでも仲良くなれる不思議な特技があるから心配はしてねぇけど、両親は嫁に行くときにかなり心配してたしなぁ。
「そういえば、いつもは一人って言ってましたけど護衛は雇わないんですか?俺は村から出たことが無いから分からないんですが、魔獣とか危ないんじゃ?」
先ほどの会話で疑問に思ったので、いい機会だから聞いてみることにする。
村では魔獣を殆ど見かけないため、外ではどの程度の頻度か分からないからな。
「あーそうだねぇ、一番近いポロック村までは殆ど山道でねぇ、その上人通りがまったくと言って良いほどないんだ。だからわざわざ山道に出てまで襲うような魔獣もいないし、盗賊なんかもこの辺じゃ生きていけないからねぇ。」
「うちの村ってそこまでド田舎だったんですか………」
結構ショックだ、山賊は兎も角魔獣からも人がいないと認識されているとは……
ジョッシュさんは困った顔で
「それにここだけの話、トト村は儲けなしに近い位の値段で卸しているからねぇ。護衛なんて雇ったら、大赤字だよ」
その後も、いくつかの疑問や外の世界のことを話しつつ、馬車での旅を続けていく。
ちなみに、隣村のポロックまでは、馬車で4日の距離だったりする。
どんだけ遠いねん!!とか似非関西弁で突っ込みたくなるくらいだぜ
聞いた話をまとめると、まずここは、二つの大陸が縦に並び、運河で繋がっている南の大陸側、一介の冒険者から王となった、『赤竜の剣』ジルファロス=フィ=ルーグが治める、【傭兵王国 ルーグ】
その領地の南西の端に近い山と森に囲まれた場所にあるのが、俺が住んでいた【トト村】になる。
そこから北に向かって4日ほど進んだ場所にあるのが【ポロック村】だ。
一般的にはここが南西の最後の村って認識らしい、なんか悲しくなってくるなぁ。
んでポロック村から更に北東へ5日ほど進むと、俺の目的地でもある【城塞都市 グラリア】に着くって訳だ。
流石にポロックからグラリアまでは護衛を雇うらしいが、その辺の出費はポロックで仕入れたものをグラリアで卸すことで賄うらしい。
俺はグラリアで降ろしてもらうが、その後ジョッシュさんはそのまま北に向かって移動し、店がある【王都 ルーグハルト】へ向かう。
その後隣国の【キルサント商国】へと渡るらしい。
このルートを定期巡回しているため、うちの村には2ヶ月に一度くらいの頻度で来ることになるって寸法だな。
それと旅の間の旅費については、ありがたい事にジョッシュさんが出してくれるため、俺はジョッシュさんを崇めておく事に決めた。
木工の手伝いや、人形作成の代金を貯めたお金は銅貨で1000枚ほどあったので、これもジョッシュさんが荷物にならない様に両替してくれた。
両替ついでに、この世界の通貨についてもレクチャーしてくれたのでまじでありがてぇよなぁ。
ちなみに俺が、銅貨以上を知らない事については、そもそもお金を使わないトト村の生活が原因だと言い訳してみる。
通貨についてだが、
まず最小の単位は小銅貨で、これが10枚で銅貨に、銅貨100枚で銀貨に、銀貨20枚で大銀貨に、大銀貨5枚で金貨になる。
これ以上の通貨については、大きな商売をする豪商や貴族くらいしか見ることは無いが、金貨100枚で白金貨、白金貨10枚で虹昌貨となるらしい。
ちなみに虹昌とは、暗闇で虹色に発光する特殊な水晶で、大変貴重な鉱物らしい。
小銅貨の価値としては一枚で買える物は殆ど無く、ポリッシュの実というりんごによく似た果実が5枚前後で買えるらしい。
パンひとつが銅貨1枚くらいで買えるらしいので
小銅貨 = 10円
銅貨 = 100円
銀貨 = 10,000円
大銀貨 = 200,000円
金貨 = 1,000,000円
白金貨 = 100,000,000円
虹昌貨 = 1,000,000,000円
みたいな感じかねぇ、1億とか10億の価値のある貨幣って、そりゃ普通はみねぇよなぁ。
ちなみに、ジョッシュさんの店の金庫には白金貨が緊急時の買い付け用に保持されているらしいと聞いて、え?フィーリ姉ちゃん滅茶苦茶玉の輿じゃね?と思ったのは秘密だ。