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旅立ちの時

ついにこの時が来た!15の誕生日を明日に控え、俺は今森の中を歩いている。


成人と独り立ちの祝いのために、何か獲物が欲しいと思い村長に頼んで本来なら狩人しか行えない、狩を特別に認めてもらった。

狩人であれば、その経験から獣道や痕跡・足跡を追跡して獲物を狩るんだろうが、俺には生憎そんなスキルは無い、じゃあどうやって狩るつもりかと言うとだ。


まず、広域探査魔法『アースソナー』

こいつは任意の方向に魔力の波を流し、サイズなんかによってそれぞれ減衰率の異なる反応を分析することにより、接地している生き物の位置と距離を知ることが出来る魔法だ。

更に、嗅覚強化魔法『インセンスドスメル』によって通常の30倍ほどに強化された嗅覚で獲物の匂いを追っている。



今狙っているのは、前方300メートルほどで、山芋を掘っているイノシシだ。

くっくっく、待っていろ牡丹鍋め、今俺がいくからなぁ。



■□■□■□■□■□■□■□


ロックが茂みからイノシシの様子を伺うと、ようやく掘り当てたのか山芋を引っ張り出し美味そうに齧っている。

食事に夢中なせいか、背後のロックに気づく様子はなさそうだ。


掘り出した一部を食べ終わったらしく、残りを更に深い場所から掘り出そうと穴に頭を突っ込んだのを確認したロックは、茂みから飛び出しイノシシに向かってまっすぐに駆け出していく。

無論、声を上げるなどという愚かな真似はせず、足元の土を足が接地する瞬間のみ柔らかくすることで足音も極限まで減らしている。


ロックがイノシシから50メートルまで迫ったところで、イノシシが山芋の残りを引き抜き顔を上げる。

かすかな足音と気配にイノシシが振り返るが、あと10歩ほどのところまでロックは迫っていた。


食事を邪魔された怒りか、イノシシはロックに向かって突撃を敢行した。

鈍く光る牙がロックの腹部めがけて突き刺さろうとするが、ロックは回避するそぶりを見せない。


なんと、そのままイノシシの突撃を腹に受け、その勢いに両足が後ろに滑るが、足元の土を固めることで衝撃を受け止める。


だが片や野生生物であり牙をつき立てたモノ、片や人間であり鎧すら身に着けず薄い布一枚で牙の一撃を受けた者、結果は火を見るより明らかだ。

崩れ落ちるかと思われたその時、ロックがイノシシの前足を掴み、背筋から腰、足にいたるまでの筋力を強化し叫んだ。


「最終原爆式粉砕投げ!!」


前足から引っこ抜くようにイノシシを持ち上げると、そのまま美しいアーチを描き、頭を地面にたたきつける。


「ブギィ!?」


その衝撃から抜け切らぬうちに、首を支点に両足を振り上げイノシシの背後に降り立つと、背中側からイノシシを頭を下に持ち上げ再度地面に叩きつける。


「ブギュ!!」


止めとばかりに、動きが鈍くなったイノシシを抱え込み、強化した脚力を使って高く舞い上がる。

更に空中で回転を加えることで勢いを増し、イノシシの自重とロック自身の体重をイノシシの頭にかけて、地面に叩きつけた。

このとき落下地点を地魔法でコンクリート並みに硬くしておく事も忘れない。


強烈な3連続の投げをすべて頭に食らい、イノシシは息絶えたのだった。



「ふぅ、強化したら出来るかと思ってやってみたが、マジで出来るとはなぁ」


目方で100キロ近くあるイノシシを抱えて3メートル近くジャンプするなど、どういう身体能力をしているのか常識を問いたいところだが、今それを突っ込む人影は存在しなかった。


「よっしゃ。これで今夜の飯は豪華だぜぇ」

ロックは獲物の足を掴むと、気負いも無く肩に担ぎ家へ帰っていった。


■□■□■□■□■□■□■□


盛大な誕生会の翌日、商人のおっちゃんの馬車に乗せてもらう約束をしていた俺は、商品の搬入作業のあいだ家族との別れを惜しんでいた。


「父さん、母さん、今まで育ててくれてありがとう。必ずなにか掴んで見せるから」


「うん、体には気をつけてな、無理をせずきちんと段階を踏んで行くんだぞ。焦ってもけして、いいことは無いんだからな」


「ロックったら本当に行くのねぇ。貴方のことだからあまり心配はしていないけれど、昔みたいに見たこと無い茸をいきなり食べたりしないのよ?子供の頃なら良いけれどいまアレをやったら犯罪なんだから…」


父の言うことは最もだ、やっぱり親父ってのは人生の先達なんだなぁとしみじみ思っていたら、母から思い出したくない黒歴史をかまされた、毒キノコを中途半端にスキルで中和したせいで、なぜか服を脱いで踊りだす混乱状態に陥ると言う事件があった。

くそ!忘れたくても完全記憶のせいで忘れられねぇ。


「母さん、ロックももう子供じゃないんだから……まぁお前のことだ、どこに行っても元気でやれるとは思うが身を固める気になったら一度は戻ってこいよ?」


「アレイド兄ちゃんこそそろそろ覚悟を決めるべきなんじゃねぇの?去年の収穫祭でもシュラウの花を5人から貰ってたろ?」

収穫祭で女性から男性へ送るシュラウの花は、愛の告白みたいなもんだ。

それに答えて男からリルの花を返すと、めでたくカップル成立って言うかそのまま結婚になる。


「いや……返す気はあるんだが、まだ早いって言うか……」


え?早いってまさか成人してないって事?このロリコンが!!


「グス ちい兄ちゃんほんとに行っちゃうの?すぐ会えるよね?」


ああ、アリアは本当に可愛いなぁ。

だが兄ちゃんは夢を叶えるためにもそう簡単に帰るわけにはいかねぇんだ。

アリアに求婚するような奴がいたら、とりあえず殴りに帰ってくるけどな!


「おおーい、ロックくんそろそろ出発するよー」


俺はアリアの頭を撫でると、安心させるように笑いかけると、最後に挨拶をした。


「じゃあ皆!いってきます!!」


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