6 優しい王女シエル、皮肉の王女ネム
全話を上げた覚えが全く無い。
レミア魔術専門学院。
深夜の談話室にて、王女と異世界人の話しが始まろうとしていた――。
「兵士も追っ払ったし、取り敢えず座らない?」
王女が手本を示すように木製の椅子に腰掛けた。水姫もそれに習って続く。
鞄は椅子の横に置いた。
「あたしは、シエルティス・フロワティア。通称シエル。王女候補よ。この学院の二年生」
「若槻水姫です。この世界では、ミズキ・ワカツキなのでしょうか?」
「砕けていい。あんまり、王女様扱いされるの嫌いで」
薄ら笑いを浮かべたシエルは、どこか憂いを含んでいた。
「さてと、一つ謝らせてね。多分、あたしの手違いだから」
「手違い?」
「学年末に致命的な間違いを犯してね。それについて」
シエルは諦めて、腹を括った様に肩をすぼめた。
「学年末に、何でもいいから召喚したいと思って、銀色の天使を呼び出そうとした。でも、間違えて天使の部分を人間って言っちゃって。その後に、銀髪の貴方の情報を入手した。もしかして、と思って、執事に頼んで、兵士に連れて来させた訳」
『我が名の下において銀の人間を召喚する。召喚』
「多分ね、途中で空間がねじれたのね。水姫、貴方はここの世界の住民じゃないよな?」
「あ、はい」
素直に頷いた。
元は、宇宙の中の地球の中の日本という国に居た訳で。
「やっぱり。魔法陣は現れたのに、肝心の召喚獣が出てこない。貴方のような人間を召喚する事って、あまりない。だから、ちょっと世界を繋げる空間が困惑でもしたんだろう。で、何処に落ちた訳?」
記憶を辿っていく。辿り着いたのは草原だ。獣に追われたあの記憶が鮮明に思い出させられて、水姫は少し表情に出してしまった。
「えと、草原です」
「あの、大きい草原に? 大変だな、あそこは。国境だから」
草原を越えた先には、この国と主義が違うために対立している国がある。研究が盛んで、人体実験なども行われていたりする、色々と危険な国だ。
「でね、あたしの方で、ちゃんと貴方を還してあげないと」
そう言って立ち上がろうとする彼女を、水姫が指差して叫ぶ。
「あ、あの光線を発していた人……」
「ん?」
水姫を元の世界に還す為に消去を使おうとしていたシエルは、少しの間固まった。
「赤い獣を倒していた……」
「あ、あれ! 今、声で思い出した。ごめんな、王女だって知られたら、マズかったし、顔見せるわけにはいけなかった」
ちなみに、見つかった場合は、即王都まで連行される。
城が息苦しいシエルは、よく監視の門を潜り抜けて、近くの山などへ行き暇潰しに魔物を倒していた。
「じゃあ、行くぞ。我が召喚した者よ、元居た世界へと還れ。消去」
静かに佇み、一つ一つの語句を間違えぬように、力強く詠唱する。シエルの足元に魔法陣が展開されると、水姫の足元にも同じ魔法陣が展開され――
「あれ、おかしい」
――消えなかった。
この世界と水姫の世界との繋がりはあまり無い為に、不安定だ。だから、中々空間が繋がらない。
「……ごめん、無理だ」
「はぁっ?」
つい帰れると思っていた水姫は、相手が王女にも拘らず講義した。
「え、それって……」
「もうちょっと召喚魔力があったら、水姫を元の世界に還す事も出来たかも知れないのに……。空間の捻れ補正に、魔力が足りない――」
悔しそうに唇を噛む。
そして、思考をした後、王女は提案をする。
「そうだ。水姫、手掛かりを見つけるために、取り敢えず魔力計測でもしてみない? 貴方のいた世界では、魔法あった?」
「無かったです」
「敬語じゃなくてもいいのに。まぁ、大船に乗った気持ちで。生活は保証するから」
そうは言われても、水姫には王女である事が既に分かっているし、やはり敬語を外す気にはなれなかた。
「……ええと、まりょく……? のある人で私を元に戻して貰う事は――」
「『我が名の下に』『我が召喚した者』。召喚した人物でないと、出来ない」
「そうですか……」
水姫は肩を落とした。
「あの、シエルティス様――」
「様はいらないから。愛称のシエルと呼び捨てで呼びなさい」
威厳があったので、素直にそれに従う。
ランプも付けられていない部屋。月の光が窓辺から差し込んでいる。
「ええと、シエル。ここは……」
「何って、あたしの部屋よ」
「それはいいんですけど、この人誰なんですか?」
夜中で生徒は既に寝ている時間だ。
その時間帯にもかかわらずに、一階シエルの部屋にて、一人の少女が待ち構えていた。
少女はシエルの後ろに恥ずかしそうに隠れる、水姫を興味津々と見つめた。
「あら、このわたくしをご存知でなくて?」
「そうよ。あたしが召喚したんだから」
「……そういえば、何この某使い魔小説風の展開」
「そうでしたの。大体、貴方が知りもしない召喚魔法を使うからでなくてよ?」
「五月蝿いわね。今日は、ここに泊めるわよ」
強い意志を瞳に燈したシエルは、仁王立ちで少女に歯向かう。
「紹介が遅れましたわ。わたくしは隣国……アピティス王国の王女、ネム・グラウクスと申しますわ。どうも、わたくしの同室の者が失礼をお掛けしましたわね」
片足を引きドレスを持ち上げる代わりに、優しげに微笑む。
隣国とは言っても、人体実験が行われていない、また別の国だ。
「まぁ、ここにいられるのも後少しでしょうけどねぇ。魔力の無さそうな娘さんですのね」
皮肉混じりに、ネムがシエルに挑発を仕掛ける。
「あら、悪かったわね。そういうアンタはどうなのよ?」
「銀色の天使さえも召喚出来ませんのよね? 残念ですが、わたくしはユニコーン程度は召喚出来ますわよ?」
「ユニコーン? ただ走るだけに特化しただけじゃない」
「舐めてもらっては困りますわ。ユニコーンとは――」
「はいはい、もうキリが無いし、水姫も困っているじゃないの」
子供に叱るように語ろうとすると、シエルの方から、いつも聞かされていて呆れた様に歯止めをかけた。
「あら、そういえばお名前を聞いていませんわ」
「ミ、ミズキ・ワカツキ?」
この国にあわせて名前を言ったので、慣れないためか疑問形になってしまった。
「何故疑問形なんですの? ……まぁ、たったの一晩ですが、宜しくですわ、ミズキさん」
「フン、きっと強い魔力を持っているに違いないわ。早く寝ましょう。……水姫、あたしの寝台使っていいわよ」
「あら、王女ともあろう者が落ちぶれたのですね」
「ここで譲らないと。あたしは優しい王女って事を見せ付けないとね」
水姫は躊躇ったが、シエルの強烈な目つきには逆らえずに、寝台に潜り込み寝息を立てて寝てしまった。馬車の中で何時間も寝てはいたが、それから疲れてしまったのだ。
水姫の寝顔が可愛くて、無防御で、シエル達は思わず二人してクスリと笑った。
「意外と可愛いものね」
「意外と言うのは、相手に聞こえてないからって失礼よ、ネル?」
……結局、シエルはネムのベッドで一緒に寝るという事になった。
☆
その国は、人体実験をする国として、周りの国から非難を浴びていた。
「失礼します」
「どーぞっ」
桃色で埋め尽くされた部屋に、ベランダが石造りで外にあり、とても異様な雰囲気を放っていた。その部屋に、一人の――いや、二人の少女がいた。
一人の少女は王座に座らされており、もう一人の少女に櫛で髪を梳かれていた。髪を梳かされている少女は、操られているかのように、目から光が失われている。――精気が無い。
「楽しいよねぇ。好きよ、人形で遊ぶの」
「……はぁ」
少女の行動を見つつ、男が部屋に入り、少女の近くで跪いた。
「報告です。ルカ・メルヴィスを失ってしまったのは誤算でしたが、計画はあまり狂いません」
「あの親達は使える? 子供に負ける頭脳って、本当に笑えるわよね」
「まぁ……。使えなくは無いです」
「そう」
これから先の未来を描いて、少女はどこか壊れたように微笑んだ。
「『国家の犬』計画――実験が上手くいくといいわよねぇ。祈っているよっ」
「ありがとうございます……」
少女は男を見下ろし、王座の子の髪を梳きながら、心から愉しそうに笑った。
王座の少女
俺妹の黒猫みたいなイメージが昔からあった。まぁ、髪が長ければ第5ドールでも姫路さんでも霧島さんでも真冬ちゃんでも何でもいいや。勝手に想像して下さいな。
何か位の高そうな少女
銀様でいいや。もう。
ユニコーン
ぶっちゃけて言うと、角が生えた馬。走る事ぐらいしかしてくれないが、その走りは一級。
意外と~
言わせとけ言わせとけ。どーせ嫉妬なんだから