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目を開けたら草原でした  作者: 凍霜
1.入学までの話
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4 0だからって飛ばした方は一旦戻ってください

 別れた後、少女の事を不思議に思いつつも王都への道をしっかりと一歩一歩踏み締めて行く。

 黄昏頃、頑丈に作られた門と塀とが見えてきた。

 奇声を上げながら突っ走る水姫。腹の中の事は気にせずに走る。


 で――。


「怪しい奴だな。おい、何か用があるのか?」


 門番に槍を喉に突きつけられる水姫。さっきの興奮した笑顔が消え去って、冷や汗が出ていた。後一歩間違えば、血を噴出し死んでいる状態だ。


「い、いえ、何も……」


 水姫は恐ろしくて身を引いた。が、後ろから妙な気配を感じる。そこには、赤いローブを羽織ったもう一人の門番が立っている。

 片手を斜め下に向け、小さく呟く門番。


「……しなやかに曲がり、優雅に振るえ。火の鞭(ファイアーウィップ)

「え……!」


 顔だけ向けた水姫は、手に握られている物に驚愕した。

 赤く燃える、二メートルほどの鞭が握られており、門番はその鞭を引っ張りまた呟く。熱さは感じないらしい。


「……銀髪、怪しい。用がないにしろ、あるにしろ、捕まえて牢に放り込んでおく」


 鞭が、水姫の手と胴体を巻き込んで巻かれる。

 熱さは感じないが、きつくしめられる感じはある。


「動きを止めよ。凍結(フリーズ)

「何をす――」


 二本の脚が揃えられた状態のまま凍らされる。これも冷たさは感じないが、足がまったく動かないので、バランスを崩して横に倒れる。


「私は何も……ッ! コラーッ! 放しなさい! 私が何をしたって言うのよー!」


 魔術は解かれたが、術封じの腕輪をはめられ、駆けつけた二人の兵士に連行されていった。






 水姫が連れて来られたのは、古びた建物だった。留置場、刑務所として使われる、フロワティア王都刑務所である。

 外が古びているのなら中もそれ相当に古びており、悪臭を感じさせる。

 水姫は、その中の一室に放り込まれた。無情にも扉は閉められ、錠が掛けられる。


「いきなり何なの……」


 もう諦めたのか、それとも目の前のご飯で妥協したのか、すっかりやる気を無くしていた。ちなみに鞄は没収されている。

 ()れられてからついでに投げ入れられたサンドウィッチに噛り付き、平らげた後、水姫は眠りについた。




          ☆




「さて、ここらで今日は泊まりましょう」


 王都を馬車で出てから、揺られて数刻。もう日は落ちており、辺りは闇と化していた。


「何故? 今からでも行けるはずだ」

「なりません。夜は危険ですので、今日はクネ村の宿で休みます」

「……」


 王女の執事は止まった馬車を降り、王女にも降りるように促した。渋々と降りて、辺りを見渡すと、田舎にいる事に少々呆れた。


「こんな田舎……。フン、物騒ね。ここで泊まる方が危険じゃないか?」

「中には剣士も居りますし、大丈夫です。いざとなったら守ります」

「ああ、そう」


 執事は敬礼をしたが、王女はそれから目を逸らした。

 

「さて、入りますよ」


 執事が馬車に積んであった荷物を持ってから王女の後ろに立つ。王女は静かに中への扉を開けた。

 そこには、酒場があり、数十人の大男が酒を飲んでいた。クネ村の近くには、クネ湖と呼ばれる魚が大量に獲れる湖があり、そこでは漁師達が網で魚を獲り、売って生活の足しにしていた。その漁師達は、夜に時々酒場で酒を飲んでいるのである。


「暑苦しい。早く部屋に連れて行け」

「その前に食事だけしておきましょう」


 一応カウンターで部屋を確保してから、カウンター席に着いた。ここは情報も溢れており、色々な情報が聞ける。


「ブレティスの道中の村で寝泊りする事になったか。うーん、明日から新しい職場なのにな。早く行かないとな、新しい職場の仲間?」

「ああ、そうだな。というか、俺の名前を早く覚えろ。フィスだっての」

「すまないな、フィス。どうも記憶に残っていなかった様で」

「早く覚えろよ。で、今日捕まったとか言うあの少女、誰なんだろうな」

「何でも、銀髪だったらしいぞ」


 どこからか、二人の会話が聞こえてくる。もっとも王女にとっては、周りの雑音が五月蝿く中々聞こえなかったのだが、かなり興味のある話題だった。

 執事は王国の伝統料理を二人分頼んだ。


「へぇ、それは珍しいよな。相当可愛いらしいぞ?」

「よく分からない物も持っていたそうだ」

「今はフロワティアの留置所だってよ。身分証明者がいないと出せないよな……」

「お前、何する気だよ!」

「何もしないって!」


 口喧嘩に達していた二人の会話を聴いていて、王女は思い当たる節があった。



『我が名の下において銀の人間(・・)を召喚する。召喚(サモン)!』



 新学年に進級する前に、どうせなら召喚魔法の一つでもできるようにとやってみた天使召喚。別のことを考えていた王女は、天使の部分を人間を間違えてしまった。

 この世界に銀髪の者は居ない。白髪ならありえるからいいものの、銀髪はありえないのだ。


「ヘイ、お待ち!」


 料理人が、王女達の前のカウンターテーブルに、サンドウィッチと呼ばれる伝統料理の乗せられた皿を置いた。二人で厳かに食べた後、荷物を持って二階の客室まで移動する。


「ねぇ、執事。アンタ、あたしを連れて行ってから王都に戻るよな? その時に、捕まったとか言う少女を兵士達にでも学院に連れてきなさい」


 食事で眠くなったのか、荷物の中から寝間着を取り出し着替えた後、寝台の布団を被る王女。


「何故です?」

「あたしにもいろいろ事情がある」

「……はぁ。畏まりました」

「お休み。今日は色々ありすぎて疲れた」

「王女様が脱走したお陰様ですね」


 軽く皮肉を言う執事を無視して、窓の方を見る王女。酷く落ち込んだ様子だった。


「……お休みなさいませ。明日は早いので、しっかり体をお休め下さい」


 王女は眠りに着いた。

火の鞭(ファイヤーウィップ)

 人間は熱さを感じない。魔物は感じる。

 でも、自分が燃えているように見えるから怖い。


サンドウィッチ

 この国の伝統料理らしい。


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