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目を開けたら草原でした  作者: 凍霜
1.入学までの話
4/11

2 白や灰じゃない。銀だ

(落ち着け自分。私は幻覚を見ているのだ。うん、そうだ幻覚だ)


 水姫の周りには、膝につくほどの草が生えていた。幻覚ではなく本物なのだが、パニックを起こした水姫は自らに言い聞かせている。

 暫くして、鞄が足元に落ちている事が分かった途端、中を探る。替えの制服、本、携帯電話――。

 水姫は携帯電話を取り出し、しゃがんだ状態で開いて確認する。


 圏外


 電話を亜美にかけたら、そういう表示があった。これは流石に焦る。今度はよくあるように頬を片手で摘む。普通に痛い。

 幻覚じゃない。


「え、何これ。夢?」


 幻覚じゃないと分かったらこれは夢だと考えた。普通は先に夢のほうを考えると思うのだが、それさえできないほどの思考に陥っていたらしい。

 だが、一気に思考回路が戻った。というよりは、余計に上がった。


「チョ、チョットォォッ! 何コレ! 可愛い割に唸ってる!」


 草よりも少し高い生き物の姿が目に入る。茶色く毛が生えた動物、熊だ。まだ小さいが、獲物(みずき)を見ると本能が疼くほどに成長しているようだ。

 水姫が携帯を入れ、鞄のチャックを慎重に閉めて逃げようと思ったところで熊が突進してくる。

 縄文人でも弥生人でもホモ・サピエンスでもない、現代っ子でインドアな水姫は突進する姿を確認すると、疾走した。インドアでも、足はトップクラスだ。高校生である水姫は、部活動というものに所属しており、その所属している部活は陸上部という、走る事を専門とした部活に入っていた。レギュラーになれるほど足が速い水姫は、草の中を縦横無尽に走る。

 巻いたところで、仰向けになり空を見上げながら喘いだ。


「何よ、ココッ……ハァハァ」


 息は荒いが、時々愚痴を吐く。

 匂いをかいで来ないうちによろめきながら立ち上がり、無我夢中で走り続けた。

 飲み物が無い状態で喉が乾ききるまで走った時、気がついたら家が見えていた。


 小さな農村だ。


 そこまで動かない脚を動かし、乾いた喉で呼吸をしつつその村まで行く。

 熊は追ってきていない。

 空は黄昏に染まっている頃だった。


「た、助けてくださ――」


 水姫は近くに居た村人に助けを求めた後、膝をついてその場に崩れ落ち、意識を失った。






 目覚めると、水姫は木製のベッドに寝かされていた。まだ意識がボンヤリしている。

 いつもの癖で、手で髪を梳く。絡まっていない細い髪が存在していた。手で一部を手繰り寄せる。何かが違った。


「ぎん……?」


 窓から差し込む陽の光。白銀色の髪は、その光で輝いている。銀の延べ棒の上に髪を置いたら、全く見分けがつかないほどに見事だった。しかし、元々水姫の髪は漆黒だったはずなのだが――。

 水姫の上に覆い被さっていたシーツが微かに動いた。


「ん……」


 少年がベッドの端の方で、手を枕にして寝ていた。勿論驚く水姫。

 

「起きた?」


 彼はさっきの一言で起きたようだった。やんわりとした笑みを浮かべ、怖がる水姫に問いかける。

 水姫はその笑顔に信頼した。この人は危害を加えない、と。


「キミ、僕に助けを求めてから倒れちゃって。村中の大騒ぎだったよ? 十日間位ずーっと寝ちゃってて」


 思い出し笑いをする少年。水姫はよく見るために体を起こそうとした。

 その光景を見て腹を抱えこむ少年。水姫は未だに起きるのに奮闘していた。左手の辺りで何かが邪魔している。


「駄目だよ。一応危険人物だし、逃げられても困るしね。フフッ」

「え、何で……」


 片手が頭の上辺りに置かれていて、ベッドに麻の縄で括り付けられていた。いつも梳く右手と反対の左手だった為、梳く際に気が付かなかったのだ。

 信頼感が一気に消えた。


「そんな髪の人、初めて見るし、聞いた事も無い。その服は民族衣装かな? 何をされるかも分からないし、どんな魔術を使うかも分からない。キミがこの村に何をやりにきたかも分からない。僕達を殺しにきたのかもしれないしね。キミは良い人なのかもしれないけれど、僕達にはそれも分からないし。しばらくその状態かな」


 確かに、水姫はこの世界(・・・・)の人にとっては、珍しいの他にならない。草原からやって来た少女。何者か分からないのだ。


「……わ、私は何も――」

「そう言って逃げる訳?」


 笑顔の裏で何を考えているのか分からない少年。だんだんと悲しみがこみ上げてくる。

 これでは完全に悪者扱いだ。


「に、逃げるなんてしな――」

「僕にはその言葉信頼できないな」


 水姫が信じていないのなら、少年のほうも信じていない。お互い何者かも分からない。

 体を横にして抜け出そうとする水姫を見ると、慌てて少年が押さえ込む。そして、もう片手にも同じように麻の縄で括り付けた。


「――っ! な、何を……!」

「キミは手も綺麗だし、僕達農民とは思えない。貴族に見えないこともないけど、僕達からすれば危険なんだよ。ゴメンね。村長からこうするように言い付けられているんだ」


 村中の大騒ぎ、というのは事実らしい。

 首を少年の方に向けると、姿が見えた。赤毛に赤い瞳を持つ、それを除けばごく普通の少年だ。歳は十三歳辺りだ。


「キミは魔術を使えるのかな?」


 そう呟くと、水姫の腕に金属光沢がある腕輪を装着した。一つだけでかなりの重量がある。

 脚を動かそうとすると、こちらも麻の縄で括り付けられている。ソックスが間にあるとはいえ、カサカサと感覚が気持ち悪い。


「まじゅつ?」


 水姫にとっては聞き覚えない単語だ。

 少年は不思議に思う。


「記憶がないのかな? キミ、名前は?」

「……若槻水姫」

「ワカツキ・ミズキ? 珍しいね」


 首をかしげる少年。自分だけ名乗っておいて少年が名乗らないというのは理不尽なので、水姫は問う。


「名前は?」

「僕かい? 僕はウィル」


 この世界では、一般に農民と言われる人々には苗字が無い。苗字を名乗れるのは、平民以降の階級だ。


「ウィル……君?」

「やだな、呼び捨てでいいよ」


 ウィルは笑いかけたが、水姫は別に笑いを返そうとしなかった。ウィルの笑顔が引きつっていく。

 と、その時だ。扉が開いて、白い髭を生やしたお爺さんが入ってきた。後に数人が続いて入ってくる。


「君が倒れていた子かね? 何をしに来た?」


 二人して振り返る。


「あ、村長」

「え、ええと……」


 戸惑う水姫、無表情のウィル。


「何か危害を加えに来たのか?」


 そして、彼女の手を見る村長。興味深げに見つめた後、ウィルに告げる。


「ふむ、ウィルよ。言い付け通りにやったか」

「あ、はい。術封じの腕輪、はめておきましたよ。術を使う気配は無かったです」


 立ち上がり敬礼するウィル。横に避けると、村長は水姫の元に歩み寄る。


「訊くぞ。何か危害を加えに参ったのか?」


 村長の眼が引き締まっている。後ろで見ている人たちも同じようだった。


「いいえ、そういう訳じゃないんです! そ、その……気が付いたら草原の真ん中辺りに居て……熊が追ってきて、逃げたらここに辿り着いたんです。ベ、別に危害を加えようとかそういうのじゃなくて……」


 必死に弁解すると、村長達の目つきがより一層厳しくなった。


「草原の真ん中、だと?」

「住宅街に居たんですけど、その、気がついたら草原の真ん中に居て……」

「住宅街? 草原にそのようなものはない」

「あ、あの……!」


 これは私の元居た世界じゃない。――水姫は初めてそれを認識した。水姫はインドア派で、結構ゲームや漫画などと言った物を読んだりしたりする。異世界に紛れ込むなんかしないよねー、とは認識していたが、やっぱりあったのなら行ってみたい気持ちも少しあった。でも、実際に行くと価値観とかの違いで大パニックだ。


「わ、私は魔術と言う物を知りません! それがどのような物であるかも分かりません! 危害を加える物もありません! 私を危険人物扱いするなら、す、すぐにここを出て行きますっ!」


 口早にそう喋った。


「……まぁいい。なら、ここを立ち去るが良い」

「そ、村長! いいんですか?」


 氷柱は反論した。頑固者の村長がそう折れるのは中々無い事だ。


「ウィルよ。彼女は本当に何も知らないように見える。それに――」


 チラリと水姫を見る。水姫は体をビクつかせた。

 

「もしも有名な貴族だったらどうするのだ? 手も綺麗で、農作業をしているような手付きじゃない。髪も細く、サラサラじゃないか。とても農民には見えない。どこかの国の王女かもしれない。そうだったらワシ等は村中全員が処刑だぞ。――いや、戦争にさえなるかもしれない」


 村長の発言に、部屋中の人間が騒ぎ出す。

 水姫は普通の人間だし、王女などでもないのだが――。


「……そういうなら、縄を解いてくださいよ。私が王女だったらどうするんです?」


 話に便乗すると、部屋の人間が今度は震え上がった。嫌味を言うほど怒っていた。

 怒りの捌け口を見つけると同時に、一気に喋る。


「大体、何で私をこういう状態にする訳? 事情も聞かずに何やってるの? 相手は女性よ? もっと丁寧に扱えなかったの? それとも何、私が男だとでも思った訳? たっ、確かに胸はあまり無いけど、顔とか服装とかで分かりなさい。女だと認識していてこんな扱いだったら承知しないよ? 言っておくけど、私はどこにでもいそうな『見逃してやる』って言うタイプじゃないよ?」


 自爆行為発言も混ざっていたが、今は気にする場合でも無かった。

 ちなみに水姫は、口走っておきながら、『見逃してやる』というタイプだ。


「す、すみませんでした。ウィルがこんな事に――」

「村長、指示したのは貴方でしょう! 僕は指示に従っただけですっ!」


 いつの間にか全員が土下座をしていた。

 ウィルはその中、立ち上がって脚の縄を解き、手の縄を解いた後術封じの腕輪を取り外した。


「ええと、ゴメンね。こんな事にしちゃって。はい、コレ、君の持ち物と靴」


 そう言って、鞄と黒靴を手渡す。水姫は満足げに微笑んだ。


「ありがとう。じゃあ、出て行くから」


 ベッドの横にある窓に足をかけて飛び降りる。一階だったらしく、すぐに地に足が着いた。下は草だ。

 靴を履き、辺りを見渡す。畑と家とが所々にあった。

術封じの腕輪(金属光沢がどうたらのアレ)

 魔力を封じる腕輪。また後で詳しく


草原の真ん中

 もしも村と反対側に行ってたら物語は180度変わっていただろう。熊ナイス。


鞄の中身

 キーアイテムがあったりなかったり


ウィル

 作中時間で来年にでも登場させるつもり

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