1 目を開けたら草原でした
「もーイヤッ!」
「ねぇ、水姫ちゃん、何で制服を通学鞄に詰めている訳?」
作戦第一個目。
「お母さんなんて嫌い!」
作戦二個目。
母の有無なしにリビングから飛び出した。荷物は衣服と本なんかの娯楽品とポーチと筆箱を詰め込んだ、学校指定の通学用鞄だけだ。
「二、三日で帰ってくるからーっ!」
「え、水姫ちゃん、本気なの……っ?」
作戦三個目。
もしかしたら、近所に響いて窓から水姫の家の方角を見るくらいの、声の大きさで言い放った後、黄昏に染まる道を走る。家出だ。母は追ってこない辺り、諦めたのだろう。
正直、水姫は母にウンザリしていた。未だに子ども扱いするし、呼び捨てで呼んでくれない。水姫が母に泣き泣き講義すると「親だから好きな呼び方でいいじゃない?」とスマイルの三乗で言われた。
水姫の向かう先は、最初から計画を立てていた亜美の家だ。教科書、ノート等は学校に置き勉し、歯ブラシなどの生活品は亜美に貸してもらう事になっている。
「それにしても」
水姫は、しばらく抜け出せる家での生活と、これから暮らす亜美の家への家出の事を考えて、走りながらも笑みをこぼした。
「案外あっさりと抜け出せたーっ!」
背伸びをしながら一回転する。学校指定の黒いブレザーの裾が、同色のスカートが舞う。漆黒の、艶やかで細く腰まである長い髪が同じようにフワリと舞った。
心が躍り、見る光景のすべてが微笑ましく思えた。ブランコで遊んでいる子供達。窓ガラスを割ったらしく、怒られている中学生達。自転車同士で正面衝突し、お互い無言で立ち去る買い物帰りのおばさんと高校生。若干おかしい部分もあったが、それらが微笑ましく思えるほどに心が躍っていたのだ。
住宅街を抜け、商店街を抜ける。ここまでは通学路。学校を通り過ぎて、そのまままっすぐ進むとまた住宅街に入る。その一角に亜美の家はあった。
「楽しみだなーっ!」
亜美の家が目前に迫ってきたところで、水姫は嬉しさのあまり、フィギュアスケートの如く一回転。安全を確認してから目を瞑り、ジャンプを加えてもう一度一回転した。計算上は亜美の家の前で止まっているはずなのだが――。
「あれれ?」
目を開けたら、そこには見覚え無しの草原が広がっていた。
黄昏に染まっていたはずの空は、見事な空色に塗り替えられていて、道や住宅があった場所は草が生えている。遠くには山が存在していた。町などは見当たらず、山や空もあったりはするが、見渡すとほとんどが草原で埋まっている。
「は、はぁぁっ?」
若槻水姫は、本日初めての絶叫をあげた。
本当は掲示板の話を入れるつもりでした。
まぁしかし、色々あってやめました。見たい方は、活動記録の「これから家出する」を参照して下さい。40~50くらいの間で↑の本文が入ります。