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目を開けたら草原でした  作者: 凍霜
1.入学までの話
2/11

0.5 ドSと神童と魔法殺しとワカメの場合

みかん絞り……オレンジジュース

題名のワカメは、髪型と色で。


時系列順です。

 風紀委員の日常~火遊び編~



「レミア魔術専門学院風紀委員です。大人しくしなさい」


 フロワティア王国の南側に位置する、ブレティア。その路地裏。レンガ造りの家が横に建てられていた。

 彼女の白いローブに、黒い腕章が目立っている。それは、風紀委員のみが着用を許される物であった。


「カワイイネーチャンじゃねぇか。どう? これから遊びに行かない? レミアって、今学年末の休暇なんだろ?」

「悪いですけど、お断りです。休暇中がどうとかは関係ありませんし」


 二人の少年が路地裏で火遊びをしていた。煙が見え、火事かと思い駆けつけたらこの有様だった。

 少年達は指の先に細い炎を灯し、それを藁に付けていた。藁は燃えており、近くには予備の藁もある。

 一通りの事態を確認した後、濃い緑の肩に付く程度の緩く波打った髪を後ろで束ねた。その時の顔は、毎度毎度の事で呆れていた表情だ。


「火遊びはいけませんよ……?」

「あぁん? お前もフツーに炎魔法程度使えるだろう? 遊んでいるようなモンじゃねぇか」


 一人の少年がポケットに手を突っ込み前かがみになり詰め寄る。

 もう一人の方は、それをニヤケ顔で見守っていた。


「遊んではいません。貴方は知っていますよね?」

「何をだ?」


 そうは言っても、少しながら危険を察知したらしかった。少年の動きが止まる。


「再度通告しましょう。わたしはレミア魔術学院風紀委員です。つまり簡潔に言えば、強いという事です」

「で、それがどうしたって?」


 どうやら反省の様子は無い。このまま見逃そうかと考えていたが、それ考えは撤回された。

 自らの背丈ほどの折りたたみ式の槍を取り出してから、その矢先を一心で見つめる。


「熱く燃え盛る炎よ。我が武器に宿いて、力になれ。燃える(バーニングファイアー)


 炎を身に纏った槍が、彼らの急所でない部分を突き刺す。勿論それを操っているのは風紀委員である彼女だった。

 少年達はその場に刺された部分を押さえながら倒れる。


「まったく。皐月頃には新一年生も風紀委員に入ってくるのに。こんなのでいいのかしら、私」


 溜息を付き、空を仰ぐ。

 槍の炎は既に消え失せていた。


「本当に治安、悪いのよね……」


 風が通り抜けた。

 そんな彼女に、レンガの硬い音を革靴で響かせながら駆け寄ってくる男がいた。こちらも同様に白いローブに黒い腕章という格好だ。髪は茶色の短髪で、瞳は左が青く、右が茶色というものだった。


「うわ、レンガを血で汚すんか。自分、少しは自重した方がいいんとちゃう?」

「あ、魔法殺しですか。今まで何を?」

「うっわー。貴方はあっちを、と自分が言っとったやん。それと、魔法殺しは禁句」


 彼は嫌そうに頭を掻いた。


「じゃあ、アピティス人ですか?」

「何かゆーたか? このフロワティア人」

「ええ言いました。虹彩異色症」

「さっきから差別用語使いすぎや!」


 互いに火花を散らして争おうとしていたが、無意味なので二人とも嘆息してやめてしまった。

 風紀委員達は、少年二人と燃えている藁を見やる。


「……ささ、どうぞ魔法殺し」


 火を消すように促した。


「いやいやいやいや! 禁句と言っとるやんか! それとな、自分で消せい!」

「……」

「無言のまま後退らないの! ……ああもう。やりにくいなぁ」


 後退った彼女に背を向けて藁に近づく。

 予備の藁を、燃えている藁の上に置き、一緒に燃やそうとしたが、それをつまらなさげに見下ろす風紀委員が一人。


「……この火を消せ、と」

「貴方の特技は存分に生かすべきです」

「このまま燃やしてもいいと思うんやけどなぁ」


 不屈そうにしていたが、結局彼は彼女の期待に応えるべく、左手で藁を踏み潰す。火は手に吸収されるようにして消えた。


「もうちょっと派手に出来ないものでしょうか」

「お前はワイに何を求めとるねん……」


 彼は肩を竦めた。




 ルカ・メルヴィスの場合~氷塊の神童~




「母よ、そろそろいい加減僕からどいて欲しいのだが……。苦しい」

「減るものじゃないし。いいじゃない」

「時間が減っている」

「冷たいわね~」


 一人の少女にその母が研究所の前で抱きしめていた。数年前建てられたような新しさだ。監禁塔等の施設を兼ね備えたこの研究所は、様々な研究が行われている。こうして親子の惜別を悲しんでいる間にも、中では人体実験やら新しい物作りに研究者が挑んでいる事だろう。


「取り敢えず、離してくれないか」

「むぅ」


 精神的には、少女の方が大人なのかもしれない。

 少女の母は、名残惜しそうに体を離した。


「父は、来ないのか」

「うん……。新薬の研究ですって。私も別れが終わったらそれに加わらないといけないの」

「約束……だからな。僕のせいだよな。ワガママで――」


 少女の母はしゃがみ、少女よりも低い姿勢になってゆっくりと首を振った。


「貴方は何も悪く無いわ。私の願いだから。苛めなんてあって欲しくないしね。だから、平等の学院に入れるんじゃないの。母親は貴方の安全を影からでも守ってあげないとね」


 その言って、無理矢理に笑いかけた。


「さあ、行きなさい。お母さんも頑張るから、あんたも頑張りなさいね。いい? 勝手に研究したりしない事。これが貴方への約束だからね」

「……母は、他の奴等に逆らうなよ。絶対だぞ。そうなったら、母も、父も殺されるし――僕は一生幽閉でこき使われる運命になる」


 少女は小さく身震いした。精神的には大人に近いが、やはり子供だ。死ぬのは怖いらしい。

 今の年齢で死を知っているのはどうかと思う母だった。


「ほら、馬車が来たわよ。行きなさい」


 門の前に小さな馬車が止まっている。


「また、夏休みだな」

「学んできなさいよ」

「……うん」


 少女は母の元を離れて、馬車へとしっかりとした足取りで向かって行った。




 グレイ・アーバストの場合~炎の鞭~




「行くのか?」

「そうだな。この仕事も金稼ぎでしかなかったし」


 少年は酒場の席を立ち、荷物を持って出て行こうとした。それを引き止めたのは、お酒を飲みながら少年と話していた、少年の先輩だった。


「まぁまぁ。後少しはいいんだろう。お前も飲むか?」


 彼はチピチピと飲んでいたせいか、まだ酔いが回っていない。ホロ酔いと言ったところだろうか。


「オレ未成年なんですけど。それにオレ、少し早めに――」

「じゃあ、お前の好きなみかん絞りを頼んでやるから。さっきも頼んでいただろうが」

「いやいやいや! ここでオレが飲める物それしか無かったから頼んだんですよ!」


 彼は大袈裟に溜息をつき、手元にあった料理一覧表を眺める。


「よし、サンドウィッチ食うか?」

「要りません!」

「じゃあ発泡酒」

「飲めません!」

「俺の焼死体いるか? 無いけど」

「食べれませんし、自らを殺さないでください!」

「お前の為に脱いでもいい」

「オレそっちの人間じゃないです!」


 このままだと店内に嫌な噂が立ってしまいそうな気がして、少年は渋々と元に席に着いた。彼はそうなる事を分かっていて、自分が勝ったように笑う。少年は不愉快そうだ。


「先輩、酔いが回っているんじゃないですか」

「何を言っているんだ」


 そう言いつつ、勢い良く酒を流し込む。


「先輩が飲んでいる所、今ここで始めて目撃したのですが」

「そうだったか? いやぁ、普段はちょぴちょぴとした飲まないからなー。こんなに飲んだのは初めてかなー、ヘヘッ」

「先輩……。オレ、もう行きますから」


 結構酔いやすかったらしい。先程から安酒の注文を繰り返している。


「そうか。じゃあな。フロワティア王都東門警備隊火の鞭の同士……炎の鞭さんよぉ……」

「……」


 彼の言葉には、哀しみが混ざっていた。少年も寂しい。ここは所詮金を貯めるだけの場所に過ぎなかったが、それでも仲間の事は心のどこかで大切に思っていた。


「寂しいんだよぉ。お前さー、チビのくせに頑張るしよぉ。お前をからかっているのが日々の楽し――グズビーッ」


 鼻を豪快にすする彼を振り返らずに、少年はこの王都に別れを告げた。

 

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