9 自己紹介と先生
久々なので話が繋がっていないかも
この世界の曜日と、水姫の元居た世界での曜日はほとんど違う。
この世界では、土曜日、雷曜日、風曜日、火曜日、水曜日、土曜日……という風に進められ、土曜日が休日と言うことになっている。土は土属性を、雷は雷属性を、火は火属性を、水は氷属性を表している。
土曜日を休みとして、平日が四日ある。レミア魔術専門学院は四学年あり、一年生は雷曜日、二年生は風曜日……という様に授業を学年交代で受ける。その間他の生徒は、一対一で教えてもらったり、あるいは対戦したり、読書したり、技を磨いたり――とすることはたくさんある。
要するには、だらけずに練習をしろと言う事だ。
という事で、今日は雷曜日。入学式の次の日、一年生は初授業に望む。
「えー、今日は初授業なのですが――」
ルカと水姫が所属する事になった、一年二組担当のシルク・デイビスは、水姫の後ろの男子生徒の横の空き席を見て嘆息した。
ちなみに水姫は廊下側の一番の前に座っており、ルカはその横だ。
「一人いないですね」
そう、一人足りない。
まぁ、ここはお約束的に遅れて入ってくる女子生徒。息が荒い。走ってきたのだろう。
「ンナーシャさん、貴方は何故遅れてきたんですか?」
勿論先生は理由を尋ねる。
「ああ、それはですね。父から貰った鉢巻を着けていたら遅れたんです」
肩に付く程度の茶髪には、運動会で身に付けていそうな赤い鉢巻が付けられている。
「言い訳は要りません。早く席に座りなさい」
初っ端から小さな騒動はあったが、何とか始まるのだった。
自己紹介は、大抵恒例である様に、この学院でもあった。
遅刻の生徒が座ってから、先生が軽く自己紹介をして、皆の自己紹介に入っていく。
「改めて私の自己紹介です。私はシルク・デイビス。魔物学を担当しています。これから一年間、宜しく。夏休みに入るまでは、今座っている席で固定です」
何気なく断言された一言に、教室の所々から批判の声が聞こえた。
「……では、廊下側前から順番に。もしも有名な二つ名を持っていたら、恥ずかしがらず教えてくれると嬉しいです。年齢と名前は必須で。じゃあ若槻さんから」
二つ名。自分で名乗る事も出来るし、他人からいつの間にか付けられている事になる。ある程度認知されている二つ名があれば、それ程有名になっているという事だ。だがそれも、この国ではあまり意味をなさない。戦闘等があまりなく、日常生活で二つ名を持っていても特に意味は無い。
廊下側の一番前の席――といったら、水姫なので、そこから始まる。ゆっくりと立ち上がった。
「ええと、若槻水姫です。十五歳です。遠くの国で生まれたんですけど、色々あってこの国に流れ着いて、王女様に助けて貰って、ここに来ました。氷と召喚が得意です。宜しくお願いします」
この自己紹介は、朝にルカが考えた。この世界について等、色々な事情があるが、水姫が分からないままこの文で固定された。水姫がルカに尋ねると『二年生から始まる歴史の授業まで居れたら分かる』と言って無視した。異世界人にこれは辛いので、後で優しそうな人にでも聞こうと思った水姫だった。
頭を下げると、最初だからか分からないが、大きな拍手が起きた。拍手の中に紛れ込んでゆっくりと座った。
「グレイ・アーバスト。十五歳。……通称炎の鞭。宜しく」
金髪の少し逆立った髪と、緑目が特徴的な男子だ。実年齢よりも、二歳か一歳子供に見える。
面倒くさそうに軽く言って彼の自己紹介はあっさりと終了した。教室全体が通称を聞いて歓声に包まれる。
「ルカ、アーバストって有名なの?」
全体の反応で疑問が浮かんだ水姫は、(幼いくせに)物知りのルカに尋ねる。
「通称炎の鞭。元フロワティア王都東門警備隊火の鞭だったと思う。色々と有名だぞ」
「色々と?」
「ああ。逆らう者や騒がしい者は全て従わせ、大人しくさせて牢に突っ込んだらしい。炎の鞭の他に、教育上悪い言葉の通称もあるな。聞くか?」
「……」
もしも、後少しあの門に行くのが早かったら、どうなっていたかと思い身震いした水姫だった。
あれから四人くらいの自己紹介が終わり、前に帰ってきた。
ルカの番だ。
「ルカ・メルヴィス。六歳。通称は氷塊の神童。その名の通り氷魔法が得意だ」
ちなみに、ルカの席は丁度いい大きさだ。そこに席に座ったため、水姫はその隣を選んだという訳だ。
それにしても全員簡単だなー、某ハルヒさんみたいな人出てこないかなー、とか水姫は思いつつ、聞きいる。
「エド・ンナーシャ。渾名はエドゥー。気軽に呼んでねー。氷と風が多少得意です。宜しくー」
軽いノリで終えて、すぐに座って机に突っ伏した。
「ルカ、ここって氷の特化組だったりする?」
「いや、それは無いだろう」
「……ですかねー」
自己紹介は何だかんだで進み、何事も無く終了していった。
次の日――つまり風曜日。食堂で朝飯を食べた後に、水姫の魔術の授業が行われる事となった。
ちなみに、一人の魔術学担当教師が、一日で一人数時間で四、五人の相手をする事になる。この学院の生徒が二百五十人で、計算すれば魔術学担当教師だけで軽く六十人はいる事になる。
他の学の教師と比べれば膨大な仕事量だが、その教師達は見回りや他の仕事がある。とは言えども、あまり苦しくないので、給料もその分安くなるのだが。
「担当のルーク・デイビス」
何も無い部屋。魔術如きでは中々壊れないようにされた壁と、木製の床。それに、硝子の窓。これに机と椅子、黒板と出来れば教卓もあれば間違いなく教室になるだろう。つまりは、机と椅子等という、教室の物を全て取り除いた状態だ。
かくいうここは実習棟。最重要の科目、魔術学で一対一の授業をする為だけに作られた棟だ。その為、部屋の数は六十以上はあり、三階建てだ。廊下の東側にあるので、一階分に二十部屋ぐらいある事になる。水姫は一階の端っこ――それも、校舎とは遠い端っこだ。校舎の玄関から入り上靴(厚底パンプス)を履いて、着くまでに結構な時間を要する。入るなりその場に手を付いて息を荒らげた。ルークがまだ来ていないのが幸いだった。
「あ、はい。若槻水姫です」
「出身は隣国のアピティス。俺の専門分野は氷。副で召喚。宜しくな、異世界から来た若水。あ、一応学院長から事情は知らされてるからー。ほとんどの先生は知らないからねー」
名前を略された上に、質問したかった部分を全て喋ってしまったルーク。
水姫は顔を曇らせた。
「何や。言いたい全て言われたような顔して」
「……あの、一ついいですか」
シルク・デイビス。
ルーク・デイビス。
苗字が共通しているこの二人。何か共通しているのかと疑った。
「何や。シルクは俺の嫁さんやぞ」
「読心術でも使っているんですか……」
それを無視して、ルークはあぐらをかく。
座るように促されたので、少し距離を取って座った。
「今日は初日だから、魔術についての勉強で終わるな。明日から魔術をビシバシと教えていくからなー。じゃあ、魔法の構成から――」
眠くなりかけたのは言うまでもない。
曜日
この世界での曜日。土曜日を休み、週初めとする。土曜日、雷曜日、風曜日、火曜日、水曜日、土曜日……の順で進められる。土曜日は、『全ての生の源』という意味で休みであり、大地讃頌とは何ら関係ない。
魔術学(全学年)
最重要。実習棟で先生と一対一での実技。週一日の授業の日と、土曜日以外に毎日一回行われる。