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俺が書く理想論ラブコメは現実にはねえ 完成版①

掲載日:2026/05/12

とにかく最後まで見てみて欲しいです!評価もお願いします励みになりますので。

ラブコメといえば、何が思い浮かぶだろうか。

 美少女転校生との新たな出会い、幼馴染との気持ちのすれ違い、陰キャの大逆転人生。確かにそれは世界のどこかに転がっていて、俺は見たことなんてないがそんなのは運勢の問題。じゃあ要は、俺に書けるラブコメってのは、大逆転もハーレムエンドもクソもない、平凡な恋愛話くらいだろう。



 「な〜にかいてんの恭弥!」


 高校2年の春、ある休み時間に俺はある女子に話しかけられていた。 

知ってるか?女子に話しかけられることなんて現実じゃずっと面倒臭いことだって。俺は目の前に立っている女子をすっと睨みつけた。


 「お前に関係ねえだろ。」

 「あっそ〜......。」


 呆れたように呟いて去っていく彼女にまた俺は呟いた。


 「お前には関係ねえんだよ。」


 


 そんなことがあったから、


 「付き合ってください!」


 だから放課後、あのシーンを見た時、今までに感じたことのなかった新たな興奮が、俺を襲ったのである。



 「よお恭弥きょうや、今日は珍しく随分と早い登校だな。」

 「いや〜、昨日寝れなくてさ。」


 佐藤淳也さとうあつや、俺の唯一の男友達。付き合いが長いので俺にとっては貴重な友達である。


 「寝れないって......。珍しいな。なんかあったのか?」

 「いや.......別に何にもなかったよ。」

 「何だよ面白そうだったのに、教えてくれてもいいだろ?」

 「いや、普通に無理。」


 桃李が告白されているのを見て変な興奮に包まれただなんて、そんな変態みたいなこと言えるわけがないだろ、まず自分でもよくわかんないし。

 でも、確かな興奮を感じて、昨日は徹夜で文章を書いちまったんだよな。


 「何だかおかしなやつだ。何グヘグヘ笑ってんだ?」

 「違うし、別に笑ってないし。」

 

 『変なやつ』。淳也の独り言は思いっきり俺に聞こえていた。ちなみに結構傷ついた。


 俺たちはいつもこんな感じ、互いに一番に気にかける仲の良い関係を作り上げることができていて、この親友がいるからこそ俺は安心してぼっちの学校生活を送れると言うわけだ。


 いつも通り登校しているわけだが珍しく無言の時間が続き、重い空気が流れた。淳也は何か悩んだ顔をしていたのだが心を決めたかのように俺に話しかけた。


 「そういえば恭弥、聞きたいことがあったんだ。」

 

 珍しいな質問なんて。

 神妙な顔つきをしている淳也によほど大事な話なんだろうと悟る。何の話だろうか。


 「ああ、どうした?」

 「その、昨日桃李が告白されてるのを見ちまってよ。」


 ぶふぉっ。

 昨日から心に留まっていた話を急に親友から出されつい口から汚いものが出ちまった。


 「あ、ああ。......そっか。まあやっぱあいつモテるもんな。」


 親友から話されるとは思っても見なかった急な話題に僕は平常心を保てず一旦立ち止まって呼吸を落ち着かせた。


 「どうした?やっぱ変だぞお前。」

 「いや、いいんだ。淳也話を続けてくれ。」


 これ以上攻められるとボロが出ちまいそうだ。


 「まあいいけど。そんでお前はどう思ったんだ?」

  

 何でこいつこんな鋭いんだよ!もしかして俺が寝不足な理由バレてんのか?

 

 「いや、別に何とも。」

 「.......ん、そっか。」


 淳也はやはり下を向いて何か考え込んでいる。もしや俺の興奮がバレたのかと思ったが違うようで少し安心だ。


 「俺、立花りっかが好きなんだ。」


 「.......は?」


 急な淳也の告白に俺は固まった。これか、さっきから思い悩んでたのは。いや......立花?あの立花が好きなのか?

  

 「正直立花はモテるだろ?めっちゃ告られてるし、いつも嫉妬しちまうんだ。多分これは好きってことなんだろうなと思って恭弥にも聞いてみたってわけだ。で、どうだ?やっぱ嫉妬とかしちまうか?幼馴染だから。」

 「俺と桃李はお前らほどの幼馴染ってわけじゃねえけどな。嫉妬とかはないよ。でもやっぱずっと小さい頃から一緒にいる恭弥と立花からしたら嫉妬しちまうってこともあるんじゃないか?」

 「じゃあ、俺はまだ立花が好きってわけじゃないかも知れねえってことか、そっか焦りすぎてたわ。」


 隣で納得する親友にこれでよかったのだろうかと思う。多分こいつは立花のことが好きだ、でも親友として立花と付き合うと言うのはやめてほしかった。立花は確かにいいやつだ。でも男癖が悪い。今までの男も浮気でつくづく振られてきたぐらいにしてあまりおすすめはできなかった。立花は告白を絶対受けると言うことでも有名だしとにかくおすすめはできなかった。


 「一旦、自分の気持ちを確かめ切れてからの方がいいんじゃないか?」

 「そうだな、そうするよ。」


 俺の一存でもしかしたら立花とカップルになっていたのかも知れない。そう思ったら何とも居た堪れなかったが、まだ時間はある。多分間違いない判断なはずだ。

 とぼとぼと歩く淳也に歩幅を合わせてゆっくり歩いていると前にうちの高校の制服の女子二人が見えた。


 「おい恭弥!淳也!遅いよもうっ!」

 「まあ、あいつらはいつものことだけどね。」


 そう、俺の昔からの女友達である、茶髪をいつもポニーテールにまとめ、運動神経抜群、明るく元気で活発の可愛い系女子、錦桃李にしきとうりと、先ほど話題に上がった金髪ロングでギャルっぽさがあるが成績優秀、大人で男グセの悪い橘立花たちばなりっか、その人である。


 「おはよ。」

 「うんおはよう。」

 

 何か圧を感じる挨拶だ。なんだ桃李のやつ。


 「桃李は遅刻したってのに謝罪の一つもないのか?って言ってるんだよ恭弥。」

 「な、何言ってんの立花!私ちょっとそれは思ったけどあえて言わなかったんじゃない!」

 「ふーん。態度にはめっちゃ出てたけどね。」


 朝、この交差点で合流すると一気に騒がしくなる。桃李はコミュ力お化けで通りがかりの先輩なんかにもよく挨拶するぐらいにして、それと聞き上手な立花が合わされば話題なんて尽きないのだ。


 「二人は本当に仲がいいよな。」

 

 何だか珍しく淳也がため息をついた。まあ言わんとしてることはわかるのだが。もうちょい俺に相談したいことがあったとか、そんなとこだろう。


 「なあに淳也?珍しく元気ないね、火曜の朝なんてめっちゃ気分あがんないんだからもっと元気に行こうよ元気に。」

 「淳也のことだし昨日徹夜でアニメでもみてたんじゃない?ずっと明かりついてたし。」

 「......そんなことねえよ。」

 「いやあ、そんなとこでしょう。淳也の生態なんて私たちにはお見通しなんだから。」

 「......あぁ?」

 「いや何でそんなに喧嘩腰なの!」


 淳也は立花と話すのに少し緊張していたようだったが普段通り話せたことで緊張が解けて元気が出たようだった。心配かけてくれんなよ本当。


 「それで恭弥の方は......それこそ寝不足そうだね〜。」

 「いや、そんなことはねえよ。」

 「とか言っちゃって!顔色悪いよ?」

 

 近い!桃李の顔が近くて不覚にもドキッとしてしまった。まあこんなのにも慣れたもので最近は何とも思わなくなっていたのだが、多分あれだ、昨日の告白の時の桃李の顔が脳裏にちらついてしまったからだ。


 「昨日桃李に強く言っちゃったの反省してて気まずいから話しづらそうにしてんじゃないの?」

 「.......いや流石に違うでしょ。あんなこと気にされても困るよ、だって学校で話しかけると同級生がうるさいとかで会話禁止されてる中で私が話しかけたんだから私が悪いんだし。」


 私が悪いなどと言いながら前を歩いている桃李はあまり反省してる感じはしなかったが......。昨日のは正直俺が悪い、昔から仲良くしてくれてる桃李相手だからといってあんなに突っぱねるのはよくなかった。

 親しき仲にも礼儀ありとはよく言ったものだ。実際昔から俺の青春に花を添えてくれているのはこいつだし。


 「いや、俺が悪かったよ。あんな突っぱねるつもりはなかった。」

 「ふ〜ん。」


 俺が素直に謝るとは思っていなかったのか何か俺を疑うような目線を向けてきた桃李だったが不意にニコッと笑ったので、つい目を逸らしてしまった。

  

 「今日は可愛いじゃんあんた。何の変化があったんだか知らないけど。」


 桃李は嫌なやつだ。男子高校生にとっちゃ可愛いだなんて一切褒め言葉ではない。


 「......何だお前。」


 俺は精一杯言い返したが


 「恭弥珍しいね。ガチで照れてんじゃん。」


 と、立花に笑われてしまった。


 やっぱ俺も昨日からおかしいのかも知れない。昨日桃李が告白されているのをみてからと言うものずっと心をギュッと握られている感触がしていた。

 桃李のあの顔、みたことない顔だったな。


 会話がひと段落して立花と話す桃李の顔を少しの間見ていた。やっぱり昨日の表情はあいつの今日の顔とは、いつもの顔とは少し違っていた。


 



 「恭弥、ご飯一緒に食べない?」

 「......立花。」


 昼休み、思ってもみなかったやつに声をかけられた。


 「何?恭弥もしかして誰か期待してた?」

 「......いや。」

 「何だ。冷たいやつ。」


 無言で立花は少しの間俺をじっと眺めていたが何か思い立ったかのように僕の手を取った。

 

 「ほら!行こう!」


 彼女に手を引かれ、やれやれとついていく。校庭からはサッカーをする元気な男子高校生の声が響いていた。


 「それで、どうしたの?こんな急に声かけてきて。」

 「いや、いっつも話してんじゃん別に不思議なことでもないよ?」

 「......まあ、互いにおまけみたいな。」

 「へえ?幼馴染愛強いもんね恭弥くんは。」

 「.......え?」

 「いやー桃李もいい幼馴染を持ったよな、私とは違って。」

 

 立花に連れられて屋上に来た。そしたら急に変なことを喋り出した。

 立花は遠く向こうを見て悲しそうに、誰か俺とは違う何かに語りかけるようにそんなことを口ずさんだ。


 「......で、そんなことで呼び出したの?というか実際違うよ、俺はそんなに桃李への愛なんてないし。」

 「ああ、そっか。」

 

 立花は残念そうに俺に目を向けた。何か普段とは違ういやらしい目線にが震えた。


 「......桃李、付き合うんだって。」

 「え?」


 何だかよくわからないが急に突きつけられた現実に驚きを隠せなかった。

 桃李に彼氏?いやそんな様子はなかったしあんな普段通りだなんてことあるのか?

 

 「......まさか、嘘でしょ桃李に限ってそんなわけないでしょ?」

 「へえ?やけに自信があるんだね。」


 立花は寂しそうに笑った。

 

 「昨日告白されているのを覗き見ていたようだけどね。」

 「......何でそんなことを知って!!」

 「やっぱりかー、だと思ったんだよね。」

 

 立花はまたしてやったりとこっちを見た。これは別にその場面を見たと言うわけではないようだ、はめられたと言うことだろう。


 「それで動揺してんでしょあんた。可愛いとこあるね。」

 「......そんなに態度に出てた?」

 「うん結構はっきりと。」

 「......まじか。」  


 よりにもよってこの女にバレるとは。嫌な予感しかしない。 

 

 「そんじゃーさ、手伝ってあげる。あんたが桃李と付き合うの。」

 「え?何で急にそんなこと。それに桃李は彼氏ができたんじゃないの?」

 「......な訳ないじゃん。嘘だよー??」


 こりゃまたなんだこいつは。訳のわからないことを言い出した。全くそんなしょうもない嘘をついて何がしたいと言うんだ。

 何が面白いのかよくわからないが笑っている立花を少しの間、美味しい外の空気を吸いながらじっと見ていた。

 いつもとは違う立花の様子。普段はこんな感じじゃない、もっと清楚系なやつなのだ。それが何でこんな話にになってるんだ。


 そして俺は思った。俺の周りの女子は、なぜこうもまともなのがいないのだろうか。と





 少し経って

 

 「おお、遅かったね恭弥。」

 「......ああ、少し遅れたよ。」


 ちなみにこいつだ。俺の周りで一番まともじゃない女。錦桃李にしきとうり、先ほど紹介したように俺の幼馴染、そして多重人格のひどいやつである。

 あのあと昼休みは弁当を食べて過ごして五、六時間目は何となく終わり、一直線に帰宅して今ここである。

 俺の幼馴染様は偉そうにうちの冷凍庫にあったであろうソーダ味の棒アイスを口に頬張っていた。絵面だけは本当に絵になる。やってることは下劣なのだが。


 「恭弥!」

 「いてっ......!何だよ。」

 

 急に背中をバシンっと殴られた、アイスを食べ終わってダル絡みにきたとか、そんなとこだろう。こいつの力は男並みなので俺は冷静に対応できるほどにまともではいない。ただ、俺には作戦があった

 

 「桃李っ!毎度毎度なんなんだよっ。」

 「あひゃひゃひゃひゃっ。くすぐったいって〜、恭弥〜勘弁して〜!」


 押し倒してこちょこちょしてやる。こいつはこちょこちょにめっちゃ弱い。反応もいいしやってやりたくなるのもそうなのだが、何かやられた時はいつもこうやってやり返してやっている。


 「......ふう〜、やっと終わったよもうこちょこちょ好きなんだから。」

 「桃李が俺の家で毎度毎度好き勝手するからだろうがっ!」


 ああ、特大な違和感の正体はこれか。俺はついに気づいてしまった。

 ここまで見てきて思っただろう、そう、俺が最初に桃李にあんな反応をしたのもあれが本当の桃李ではないと知っているからである。こんなクソガキ相手にしたくはない、学校で話しかけられたくないのもそんな理由だ。

 彼女の横顔を見て思う、何であの告白を見た後彼女のことが引っかかったのだろうって、でもそんなのはわかっている。確かに美しいがそう言う柄じゃない、そう、そうなのだ。俺が思い描くラブコメのヒロインはこいつじゃない、幼馴染の家に入り浸って勝手に冷凍庫を漁るようなやつじゃない、俺が描く理想論ラブコメのヒロインは、恋愛ってもんは、

 

 「こんなやつがやるもんじゃないっ!」

 「......急にどうしたん?」


 そう言うことなのだ。

 


 「......クソがっ。マジでなにこのゲーム!イライラする。」

 「まあまあ、落ち着けって。」


 やっぱりこんな幼馴染はラブコメじゃ見たことがない。俺が好きなラブコメの幼馴染はもうちょっと口が悪くなくて、他人の家であぐらかいたりスナックぼりぼりしない。後こんなのはヒロインでも見たことがない。


 「何?負けたことを哀れんでんならジロジロ見てねえで参加しろ。」

 「......いやめんどくさいし。」

 「早く横こい!」


 彼女は座っているベッドの隣のとこをぱんぱんっと叩いた。


 「......はい。」

 

 やれやれと思いながら隣に座ってやる。

 そうすると桃李は特別にアイスを分けてやろうと新たなパピコを開封し、どのパピコを半分にすると一本開封してその上の蓋の部分をジュッと飲むと下の部分を差し出してきた。

 

 「......は?」

 「何?文句でもあんの?」

 「いや何でこっち?上の小さいとこだけ貰って『何これ?普通一本くれるんじゃないの?』っていう流れじゃなかったの?」

 「......何言ってんの?」

 「案外桃李も一本くれるんだな、上の部分を吸ったのよく分からなかったけど。」

 「いや普通にこれあんたんちのやつだし。」

 「......お前がいうなよ。」


 そんなのわかってるけどもう慣れたんだよ。パピコで三回くらい上の小さい部分だけもらってんだよ!


 「......まあもう飽きたからたまには違う反応を見たいなって.....。」

 「じゃあもうちょい笑えることをやってくれ。」

 「いや無理だよ私、私のいいとこ顔くらいだし。」 

 「.....その通りだ。ごへっ。」


 桃李に思いっきり頭を殴打された。そろそろ護身術を習わなければ、死んでしまう。


 「......いいからやるよ?てか本当にやめて殴られて気持ちよさそうにしてんの、流石に幼馴染とは言ってもそんなの思春期女子に見せないで?」

 「別に喜んでねえよ。」 

 「......それならいいんだよ??でも明らかに顔が.....。」


 俺の顔は頬が赤く腫れていると言うのに酷くにこやかだった。


 「早くゲームするよゲーム。恭弥はいちいちゲーム始める前に色々儀式あるよね。」

 「......ああ。主にお前のせいでな?」

 「関係ないでしょ。」


 いやさっきからの茶番だいたいあなたのせいですよね?

 

 「......いいから早く!」


 俺の抗議の目線に何も言い返せなくなったのかそれ以上何を言うでもなくまた騒ぎ出した。俺はしゃあねえなとやれやれ系男子としてスマホをゆったりと取り出した。


 最近こいつがハマっているのはスマホでできるアクションゲームである。三人でチームを組んでできるのだが野良でやると戦犯が来て負けるからと恭弥を誘ってきたと言うことらしい。野良のせいでもないと思うがそれは黙っておこう。

 桃李は特段ゲームがすごく上手いと言うわけではない。楽しそうにゲームをするところはすごく良いのだがとにかく他責が激しい。特に恭弥に対してはかなり色々と言ってくるのであんまり気は進まなかったのだが仕方なくスマホを取り出した。と言うわけだ。ちなみに俺は結構ゲーム全般にセンスがある方なので活躍しすぎて尚更桃李にきれられている。


 「......やっときたんかい。じゃあ始めるよ?」

 「ああ別にいいよ、五戦くらいでやめような?」

 「勝敗次第ね?」


 ああ、もう嫌な予感がプンプンする。今日も彼女は泊まっていきそうだ。


 

 「......ああやっと15連勝!ったく野良が弱いのよ。私たちはずっといいプレイをしてたって言うのに。」

 「......達成できたから。よかったじゃないか。」

 「恭弥何でそんなに疲れてるの?せっかくだからもうちょいやらない?」

 「いや俺はギブで。」

 

 時計はもう20時を指している。それなのに未だ料理もお風呂もやってないのだ。寝るのが遅くなると明日のスタートダッシュに大いなる影響があるのでこれ以上続けるわけにはいかない。


 「......それじゃあ桃李はそろそろ帰るか。」 

 「何言ってんの?帰らないけど泊まるけど。」

 「......ソウデスヨネ」

 「何でそんなに嫌そう?」

 

 桃李は俺の顔を見て眉を顰める。いつものことなのに今更何なんだ?とでも言いたげである。


 「いやいや、いい加減思春期女子なんだしそういうのやめたらいいんじゃないかって思って。」

 「.へ〜、一体どんな心境の変化?」


 彼女は僕のベッドにバフンっと仰向けになると顔だけこっちを向いて静かに呟いた。

 そういうの気にするんだけどな、俺だって男子だし。てかこいつで興奮とかしたくないし、夜眠る時匂い嗅いでああっ。とかなりたくないし。

 それでも今までは確かに気になってなかった。だけどあいつがモテてるとなれば話は別なのではないかと思ったのだ、俺は彼女が幼馴染の家に入り浸っていたなんていう過去を持っているのは嫌だ。将来のこいつの彼氏たちのためにそう言うのはやめた方がいいって、立花のこともあるし、そう思ったのだ。


 「いやこの前見たんだよお前が告白されるとこ。」


 自分の率直な思いを告白しようと思い口を開いたが彼女はすごく驚いた様子だった。


 「......へ、へ〜。見たんだ。」


 何を動揺することがあるのか、不思議なものだ。こいつは大概どっしり構えていて隙のないやつだと思うのだが。


 「......それで、恭弥はどう思ったの?」


 と尋ねてきた。

 何を思ったのか、か。俺はなぜあのシーンを見た時今までにない胸の高鳴りを感じたのか、長い間考えてみたが未だうまく言語化できる気はしなかった、でも今日桃李を見て思ったことが桃李に言うこととして正解なのかもしれないと思った。


 「何で桃李なんだろって思ったかな。」

 「......は?」

 

 わけがわからないと言わんばかりに桃李は眉間に皺を寄せた。予想外の返答だったのか訳がわからなかったのか呆れたようにため息をついた。


 「あんたもそう言うことに興味ができたのかな?面白いなって思ったら、どう言うことだよ。

 「いやさ桃李って俺からしたら女友達って感じだから彼女なんて想像がつかなくて。」

 「.......ああ、そう言うこと。」


 桃李は一気に興味がなくなったようでそっぽをむいて漫画を読み始めた。


 「.......帰らないのか。」

 

 元はそう言う話だったはずだ。ただ桃李は漫画から一度も目を離さずに


 「女友達なので全く問題ありません。興味ないんでしょ?泊まっていきます。」


 と呟いた。



 翌朝、テーブルの上にはチーズとハムを乗せて焼かれた食パンと目玉焼きとレタスの乗った皿、そしてメモに連絡があった。泊めてもらったお礼だとでも言うんだろう案外律儀なやつなのだ。


 『ちゃんと起きた?遅刻しても知らないけど。ちなみにこれは私の分を作るついでね。」


 今日の朝はいつもの四人で行くんじゃないのかい?と思いながらも昨日はうまく寝付けなかったので彼女なりの気遣いなのだろう。

 まだ遅刻をするような時間ではない、普段はもう家を出ている時間ではあるが朝部活のある桃李と淳也に合わせているだけであって俺は本当はもっと遅く出ても大丈夫なのだ。


 とはいっても静かなのは何だか嫌だ。俺は物語に出てくる主人公のように目標を持って生きてはいない。ただ惰性で毎日を消費している。要はわからないのだ、なぜ告白シーンで心が動いたのか。俺の平穏な生活はあの一件で何の変化があったのか。俺は何をこんなに気にしているんだ。最近の自分に自分自身がイライラし始めていた。

 

 

 俺らは幼なじみなのでもちろん同じクラスではない。この高校は一学年8クラスに別れているのでそんな中中学校が同じやつが同じクラスになるわけはないのである。そしてちなみにもちろん俺に友達はあいつらの他いない。要は必然的にスマホをいじることになる、彼らがくる昼休みまでは。そしてスマホを開いて何をするかと言うともちろん文芸である。ゲームも漫画もあまり好きじゃない、連絡をするような相手もいない。要はぼっちなのでスマホでできることも限られてくるのである。


 「あ、今日も書いてんじゃん。」


 そんな僕が声をかけられると言う珍しいイベントが生じた。

 そういって俺の隣の席に腰掛けたのは松田世那まつだせな、クラスで唯一俺に声をかける変わり者である。現実離れしたピンク色の髪をすらっと肩まで下ろしている。そんな彼女はクラス、いや学年の人気者である。なぜ俺みたいなのに話しかけるのか......。 


「まあな。暇人だから。」

「そうだよね。休み時間に話すような友達いないもんね。」


 これがオタクに優しいギャルってやつだ。こう言うやつなんだよなラブコメのヒロインってのは、どっかの誰かさんとは違って優しさに溢れてる。


 「恭弥?珍しいね友達。」


 昼休みということで丁度桃李たちがやってきた。何を思ったのか松田をすんごい怪しんだ様子で体中を舐め回すように見た桃李は全部見て不思議そうに天井を少しの間見て俺の袖を掴んだ。


 「ごめん世那。用があったのかもしれないけど恭弥は私たちとご飯食べるから連れてくね。」


 彼女はいつも通りの愛想笑いでそう告げるとすんごい力で俺を教室から引っ張り出した。


 「.......何だよ。」

 「何その嫌そうな顔?世那とご飯食べたかったの?」

 「別にそんな話してないけど何となく何でそんなに俺にかまってくるんだろうなって。」

 「ああ〜世那はいい子だけどちょっと良くないところもあるからねえ。」


 立花はのほほんと俺らを見ながらご飯を食べ始めた。


 「立花の知り合いなんだ。」

 「ああ、てか有名だろ?」


 淳也も知っている様子だ。淳也が知っているだと?


 「何で淳也も知ってるの?」

 「彼女が有名人だからに決まってるだろ。学年一美少女だとか適当なこと言われてるんじゃねえか。」

 「可愛いとは思ってたけどそこまで言われてるの?だって立花がいるじゃん。」

 「.......こいつか?」


 淳也は眉を顰めた。


 「何その反応、失礼なやつ。恭弥くんありがとねそんな評価をもらっているとは。」

 「確かに外見は可愛いけど中身で可愛くないことしてるからな、世間はそうは評価してないってことだ。」

 「変な噂立っちゃったからね。」


 確かにラブコメのヒロインってのは性格が悪いやつだとか男癖が悪いやつだとかそんなのはいないもんだよな。そりゃあ世間の男子にとっても性格ってのは大事なもんなのか。


 「そうなると......なんか松田世那に興味が湧いてきたよ。」

 「......は?」


 三人とも俺の言葉に時が止まったような驚きを示した。


 「お前よく話を聞け。まだ本筋を話していない。」

 「なに本筋って?ちゃんと話は聞いていたけど。」

 「はやとちりすぎ。今からよくないとこってやつを話すとこだったの。」

 「......中身も外見もいいから学年一美少女だったんじゃないの?」

 「はいはい。立花説明知ってあげて。」

 「しょうがないなー別に興味を持ったならそれでもいい気がするけどね。」


 立花はゆっくりと弁当箱を閉じると話し出した。

 

 「えっとね。なにが問題かって世那は菊池先生が好きなんだよ。」

 「菊池先生.......。」

 「そう!あのハゲおじ。」


 何か恨みでもあるのか遠い目をしながら桃李が口を挟んできた。俺らの間で暴言吐くとこ見せちゃっていいんだか。

 

 「あはは。ハゲおじは言い過ぎだけど好きになる人としていい趣味だとはいえないよね。随分と年も離れてるし世間的にもアレだし。そんなとこ。」

 「......それこそ学年一美少女とはいえなそうだけど。」

 「立花よりはいいからってとこが大きいんでしょ。」

 「その通り!中身の悪さで負けるわけにはいいからね。」

 「はじれよその名誉。」


 淳也はあまり興味がなさそうにスマホをいじっていた。その態度に苛立ったのか立花は淳也をじっと睨みつけながら言った。


 「あと実はここだけの話なんだけど。淳也の元カノなんだよね?」


 立花の急な告白に場が凍りついた。

 珍しく淳也の目も動揺からか揺れていた。


 「立花......。何でそれを知って。」

 「世那から言われたんだよ。私たちまあまあ仲良いから。」


 立花にしては珍しく語気が強かった。何かこの裏に事情があるのだろう。でなければ立花はこんなことをみんなの前で急に告発するようなやつじゃない。

 

 「ああ付き合ってたよ。それがどうしたんだ。」

 「いや〜。あんなに私を好きとか言ってたやつが世那と付き合ってたなんて聞いたらね。私だって不快に感じるよ。」 


 怒涛の立花の告白。果たして俺はここにいていいのかという気持ちと共に創作意欲が自分の中でぐつぐつと湧き上がっていることを感じた。松田世那と橘立花。この二人は明らかにヒロインとしての素質を持ち合わせている。あまりの展開の興味深さ(おもしろさ)に目の前が輝くのを感じた。


 「.......。」


 黙りこくる二人とそれを眺める二人。うち一人は黙ってられなかったようだった。


 「立花?急にどうしたの?」

 「いや別にタイミングはどこでも良かったんだけど、なんか松田世那久しぶりに見たらむかついちゃった。」

 「.......何だよむかついたって別に悪いことはしてねえだろ。」

 「そうなんだ〜、人のこと好きって言っといて他の女子と付き合うって悪いことじゃないんだね〜。」

 

 嫌味くさくつぶやく立花。なぜなのかその目には涙が浮かんでいた。

 立花、どうしたんだろうか。普段の彼女らしくない情熱的な様子に俄然興味が湧いた。


 「......別に俺だって心が変わることだってあるんだよ。お前みたいな男好き好きな男なんてなかなかいねえよ!」


 淳也も感情的に返す。でもこれは明らかに言い過ぎだ。それも淳也、お前が立花が好きだって知ったのつい先日お前の口から聞いたからなんだが。


 「へえ、生意気になったね。」

 「ああガキ大将。」

 「......。」


 止まらない口論に二人気まずそうに見守る。こんな時僕は思う。ラブコメは真っ赤に熟れるまで見守るもんだけれどこんなに突拍子もなく感情が激突し合い始まるラブコメもあるんだって。俺は恋愛したことがないからわからない、でも確かにこんな恋愛の形もあるのだろう。


 「まあまあ、昼休みも終わるしやめときな?」


 桃李が二人を宥めていったんお開きとなったが何だかその後も亀裂を感じてこのメンツで初めて居心地が悪いと思ってしまった。


 今日は部活ない日だったのだが珍しく別れて帰宅。桃李と二人になった。


 「何なんだあいつら。私たちをほっぽいて喧嘩しちゃって。」

 「まあまあやむを得ぬ事情があったっぽいじゃんか。」

 「いじ張ってるだけだよ〜?だって互いに好きなのに互いに彼氏彼女作っちゃって。結局何を目指してるのって感じ。」

 「......案外単純な話なんだろうな。」

 「よくあることでしょ?手が届かなそうだからってすぐ他の人に乗り換えるの。恋愛ってそんなもんだよ。」

 「......桃李はラブコメを甘いって思うか。」


 何だか今日のこいつは話しやすくてつい聞いてしまった。彼女は珍しく何も言わずに受け止めるとまだ青い空を見上げた。

 

 「うん。すんごく甘いよ。」

 「そっか。」

 

 桃李も多少は経験しているのだろう。何かを思い出すような目をしていた。


 「好きになる理由ってさ。基本顔、性格、フェチ、そんなとこ。刺さる人には刺さって刺さらない人には刺さらなくってさ。だから多分生まれた時から決まってる。好きになれる人ってそんなもんだよ。」

 「......珍しくいいこと言うじゃん。」

 「松田世那のことどう思う?」

 「どう思うって、可愛いとか?」

 「じゃあ私は?」


 なんてことを聞くんだか。本人を前に言うのは躊躇われるに決まってる、でも俺らはそんな仲ではない。


 「可愛いとは思わないよ。やっぱ桃李は桃李だ。」

 「......そうだよね〜。」

 

 珍しく桃李のテンションは低くて、儚さがあって、そして寂しそうに笑っていた。


 「私が聞きたかったのはそんなことじゃなくてさ、菊池先生のこと!」

 「松田さんが菊池先生を好きってこと?」

 「そうだよ、それってさ恭弥が思う世那と私を見る目と同じなんじゃないかな。この前告白してきた佐藤くんは私が世那にとっての菊池先生と同じように見えてて、恭弥からしたら世那みたいに、魅力的に見えるんだよ。」

 「そんなもんか。」

 「そんなもんなんだよ。」


 こいつはヒロインじゃない、そんなふうに思っていたのは性格からじゃないのかもしれない。俺の目に魅力的に見えるのは元々桃李じゃない人で、松田さんが家にゲームしたり泊まったりしているのならそれはヒロインだって覆えるのかもしれない。やけに桃李の言葉がスッと心に入ってくる感覚がした。


 「うん。甘いな。」

 

 ラブコメは作者の最高のヒロインの形なのかもしれない。自分への甘やかし。結局最後にプレゼントしたいところは多分己の心で、それが可愛いんだって世間に認めて欲しいんだ。


 二人帰路を辿る。思ってしまった。俺にとって桃李は桃李だ。変えがきかない存在。あの告白シーンが心を揺らしたのは多分桃李だったから。俺がいつも書いてしまう作品はやはり一緒に笑い合ってくれる幼馴染が隣にいたりする。ヒロインでもヒロインじゃなくても自分の隣で笑ってくれる幼馴染が。


 俺の理想論ラブコメのヒロインは確かにこいつではないけれど、多分誰よりも大切に思えてる。


 「今日は帰ろうかな、なんかしんみりしちゃったし。じゃあね!」


 笑いながら駆け出していく桃李の背後で真赤な太陽が沈んでいく。主人公の成長はいつも誰かのおかげ。その誰かが誰なのかって、わからせられた気分になった。



 

 「おお、淳也。」

 「......ああ、恭弥。」

 

 あんなことがあった翌朝に全て忘れたかのように話せるわけなんてないってわかってた。その気だるげな姿の親友に少々アドバイスがしてやりたくなった。


 「桃李が告白されるのを見た時思ったことがあったんだよ。」


 何のことだって目でこちらを見る淳也に俺はしっかりと告げてやった。


 「あいつがヒロインだって、知ったんだ。」




 それから淳也様と淳也様のヒロインはどうなったのか、まだなかなか四人で集まれていない俺と桃李は知らない。

でも俺と桃李は一緒にいる。束縛したことなんてない、たまに集まる仲で、でもいつも集まっていて、こんな関係になれるのは互いに大好きだからに決まってる。何となく一緒にいる幼馴染なんて、普通は小学生で終わるもんだ、ラブコメが嘘つきなだけだ。


 だから俺らはわかっている。あの幼馴染達がいずれくっつくことも、ずっと俺の幼馴染が隣で楽しそうに笑ってくれることも。

 

 1%にも満たない確率のその先にあった、俺らの関係なんだから。


 

 

 

 


 

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