パート6
静まり返った密林。
崩れ落ちた屋敷。それは、あまりにも凄惨な光景だった。
マヨラの腕の中には、変わり果てた弟の亡骸。そして目の前には、この全ての元凶。
辺りは静寂に包まれているはずなのに、耳の奥では絶え間ない喧騒が渦巻いていた。
彼は立ち上がり、タカオの遺体を屋敷の壁にそっと立てかける。
タカオに「真実」を伝えられなかったことへの、ひどい後悔。
彼のすすり泣きだけが、静かな森の闇へと溶けていった……。
東京都、図斎カフェ
「お待たせいたしました……」
マヨラがテーブルにコーヒーを置く。そして、手慣れた様子で他のテーブルから空いたマグカップを片付け始めた。
夕暮れ時。
他のスタッフたちは着替え室におり、ホールにはマヨラと他に二人のスタッフだけが残っていた。
そこへ、さらに二人の客が入ってくる。
「おい、接客代わってくれるか?」
「ああ……」
マヨラは振り返ることもなく短く答え、手際よくチョコレートコーヒーを二杯淹れた。
しばらくして客が去り、マヨラは「営業中」の看板を裏返す。着替えを済ませて外に出ると、手の中にある今日のチップを数え始めた。
「277円……たったこれだけか」
小雨が降る中、マヨラは帰路についていた。心の中には奇妙な静寂があり、表情には深い疲れが滲んでいた。
その時、目の前のビルにある巨大な広告ディスプレイの表示が切り替わった。
赤。
その色が視界に入った瞬間、彼の全身が激しく震えた。
心が、奥底から揺さぶられる。頭の中が空っぽになり、奇妙な旋律だけが鳴り響いていた。
「ちょっと、どいてくれ」
通りすがりの男が彼を咎めるが、マヨラは動くことさえできない。
「おい、聞こえてるのか?」
「……ああ」
マヨラは力なく横に退く。傘を閉じ、空を見上げた。都会の光に照らされた雨粒が、まるで光る棒のように降り注いでいる。
だが、彼にとってそれは、ほんの一瞬の休息に過ぎなかった。その瞬間が過ぎ去ると、マヨラは再び自分の家へと歩き出した。
東京駅の近くにある、質素なアパート。
ドアを開け、小銭とジャケットを放り出すと、彼はそのまま浴室へと向かった。
シャツを脱ぎ捨てると、その体には痛々しい包帯が幾重にも巻かれていた。マヨラは鏡の中に映る自分を見つめる。
「俺、チューニングショップの整備士になりたいんだ……」
その言葉が、何度も何度も脳裏に響く。
その時、ドアをノックする音が響いた。
マヨラは急いでシャツを羽織り、ドアを開ける。そこに立っていたのは、タガヤ警部だった。
「息災か……機関少佐、ジンカイ・マヨラ」
マヨラは彼を部屋に招き入れ、二人の会話が始まった。
「あのエンカウンター(遭遇戦)以来、お前はまるで別人のようだな……ジカシ」
「……渋谷へ行くと言っていたのでは?」
「ああ、だが例の会議は二日延期になった」
二人は言葉を交わし続ける。
深夜、タガヤとマヨラはアパートの外に立っていた。
「分かっている……。我々だけでなく、他の機関にとっても、あれが最初のエンカウンターだった。我々は、奴らがどれほど強大で、どれほど残虐かという膨大な情報を得た」
「ですが、あれはまだ『正門』が開いただけに過ぎません。屋敷全体は、まだ目の前に広がっている。我々が戦った個体は『殴打』と『圧殺』を繰り返していましたが、タカオの母親……いや、タカオの母の遺体には、刃物による傷跡がありました。奴らは、個体ごとに異なる戦い方をするのかもしれません……」




