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ゴラリ・エージェント  作者: Adrashika
第一章:絆の血 — 最初の遭遇
5/9

パート5

「恐怖の限界点に立っている気分だ……だが、昔の傷が俺に力を貸してくれている。……約束はできない。すまない」

そう言い残し、ジンカイは穴の闇へと消えていった。マヨラは魂が抜けたように座り込み、その目から静かに涙がこぼれ落ちた。

穴の底は巨大な洞窟になっていた。ジンカイは銃を構え、足音を殺して慎重に進む。懐中電灯の細い光が湿った岩肌をなめる。彼は立ち止まり、目を閉じ、洞窟の静寂に耳を澄ませた。

……気配がない。

ジンカイは安堵の溜息をつき、体の震えを抑えて引き返そうとした。だが、ロープを目前にして、彼は致命的な違和感に足を止めた。ゆっくりと、頭上の天井を見上げた。

「……しっ(Shhhh...)」

地上で待つマヨラの静寂を、突如として響いた一発の銃声が切り裂いた。全身を貫く戦慄。マヨラは必死にロープを引き上げ、ジンカイは間一髪で地上へ飛び出した。二人は死に物狂いで逃走し、マヨラは追手の気を引くため、自らのナイフで脚を深く切り裂いた。鮮血の匂いが森に漂う。

館に駆け込むなり、ジンカイが絶叫した。「……配置につけ!!」

ジンカイが奥へ入り、マヨラは正面玄関に一人立ち尽くした。滴る血がゴラリを呼び寄せる。怪物が近づくのを確認し、彼は門を閉めずに中へ入った。そこでジンカイから銃を受け取る。マヨラは手際よくバレルを調整し、弾を装填すると、ホールの中心に鎮座した。両脇のエージェントは火炎瓶を構え、震える手でその時を待つ。

静寂の中、門が軋む音がした。全員の総毛が立つ。そして、全長16フィート(約5メートル)の異形が姿を現した。その圧倒的な邪悪さに、マヨラの右隣にいた男は恐怖に耐えきれず、自らの銃で喉を撃ち抜いて果てた。

その直後、ゴラリが目の前に現れた。マヨラは凍りついた。人間を模したような歪な体に、ワニのような鱗、四足歩行の怪物。

マヨラは理性を振り絞り、引き金を引いた。猛烈な空圧と衝撃が彼の体を打ち据える。弾丸は怪物の喉元を抉り、左のエージェントが投じた火炎瓶がその背中で爆発した。炎に包まれた怪物は激昂し、瓶を投げた男の喉を噛みちぎった。

「……残り、四人か」

マヨラは銃をスガロウへ投げ渡す。スガロウが反撃を試みるが、放たれた弾丸はマヨラの腕をかすめ、怪物の怒りを買った。壁ごと粉砕された部屋の中で、スガロウは再装填の暇もなく、その頭部を巨大な手に握りつぶされた。

外ではジンカイが窓越しに怪物を挑発していた。屋上のタカオが必死に叫ぶ。「逃げろ!」だが、ジンカイは不敵な笑みを浮かべたまま動かない。マヨラは合流地点へ走るが、そこにはスガロウの姿はない。ゴラリはマヨラを執拗に追い詰める。

追い込まれたマヨラが窓から飛び降り、着地の衝撃で足を挫いたその時、ジンカイが動いた。彼は背後の巨大なハンマーを、足元に仕掛けたランドマインへと叩きつけた。

凄まじい爆光と衝撃波が辺りを吹き飛ばした。

傷ついたゴラリが這い上がる。タカオは崩れた壁の隙間にスガロウの銃と一発の弾丸を見つけ、それを手に取った。マヨラを守るように銃を構えるタカオ。だが、至近距離から放たれた一撃を、怪物は僅かに首を逸らして避けた。

「弾が、もうない……!」マヨラが絶望的にポケットを探ると、最後の一発が見つかった。だが、それを装填した直後の一撃も、狙いを外した。

怪物がマヨラの目の前に迫る。その時、タカオが壊れた窓から怪物の背後に飛び降りた。落下する刹那、タカオはキッチンから持ち出した二本のフォークを怪物の両目に深く突き刺した。

「……やった!」

一瞬の安堵。だが次の瞬間、ゴラリの巨大な拳がタカオを打ち抜いた。肋骨は砕け散り、脊椎は真っ二つに断裂した。タカオの口から鮮血が噴き出す。

「この……化け物がぁぁ!!」

マヨラの絶叫が響く。視力を失い、爆発で皮膚が脆くなった怪物の脳天に、マヨラは銃のバレルを力任せに突き立て、最後の引き金を引いた。

「……ボォォォン!!」

静寂が戻った。破壊された館、血に染まった庭、そして死体の山。

マヨラは這いずり、タカオの亡骸に縋り付いた。

「おい……聞いてるか。立てよ! お前はジカシ家の希望だろ……!」

だが、タカオの瞳に光は戻らない。マヨラは、メカニックになりたかったという少年のささやかな夢を思い出し、夜の冷気の中で慟哭した。

2ヶ月後——。

東京の片隅にあるカフェ。ニキンが恋人と共に訪れる。

オーダーを取り、コーヒーを運んできたウェイター……それは、マヨラだった。

仕事を終え、雨に濡れる東京の街を歩くマヨラ。そこへタガヤ警視が現れる。

二人は再びカフェに入り、警視はタカオの母の遺体写真を取り出した。

「見てくれ。タカオの母の体にあるのは、鋭い刃物による切り傷だ。まるで、コーヒーに砂糖を混ぜるように、体内を何度も、何度もかき回して引き裂いたような……」

マヨラは凍りついた。

「つまり……あの怪物は、もう一体いるということか?」

タガヤ警視は立ち上がり、去り際に告げた。

「早く戻ってこい。……待っているぞ」

第一章 完

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