パート13
— Finding Fear (恐怖の追求)
多賀谷さんは自宅で、散らばった書類や新聞の切り抜きを繋ぎ合わせていた。
「エージェントの報告が正しければ、大和内町にこそ、ゴラリの正体を知るための秘密が隠されているはずだ…」
そう心の中で呟き、多賀谷は集めた情報を新たな視点で整理し始める。煙草に火を灯し、仕事に没頭していく。
一方マヨラは、気分転換のためにアパートを出て夜の散歩に繰り出していた。
夜の街を照らすネオンライト。騒音はなく、人々は仕事帰りの家路を急いでいる。
歩いていると、小さな飲食店が目に留まった。客は一人もいないが、店主は熱心に掃除をしていた。マヨラはそこで注文をする。
「10分ほどお待ちください、お客さん…」
店主は作業に戻った。しばらくすると、一人の少女が店に現れ、注文を済ませた。やがてマヨラに料理が運ばれ、彼は食べ始める。続いて少女にも料理が届いた。
マヨラが食べていると、不意に奇妙な臭いが鼻をついた。店主の方を見ると、店主も異変に気づいたのか店の中を確認し始める。
「店主も俺もこの臭いに気づいている。なのに、この少女は平然としている…」
しばらくして、少女は料理を半分残したまま店を去った。マヨラはその様子をじっと見送る。
その時、多賀谷からメッセージが届いた。確認すると、先週起きた事件の報告だった。そこには一人の少年と少女が殺害されたと記されていた。
マヨラがその情報を読み、スマホをポケットにしまって食事を再開しようとした瞬間……あることに気づき、戦慄した。
手の震えが止まらない。持っているスプーンが、まるで鉄の塊のように重く感じられた。食べ物が喉を通らない。
なぜなら、その事件で殺されたはずの少女が、つい先ほどまでマヨラのすぐ隣で食事をしていたのだから。
「なんてことだ(What the F—)……俺は、あいつの隣に座っていたのか?」
「何かおっしゃいましたか?」
店主が尋ねるが、マヨラは無言で首を振り、急いで会計を済ませて少女を追いかけた。
マヨラは必死に周囲を見渡す。目は疲れ切り、心臓が激しく波打っていた。
「どこだ……? 多賀谷さんに報告すべきか、それとも俺が……?」
走りながら少女を捜し続ける。
すると、道端に同じ服を着た女性の背中が見えた。マヨラは一瞬、疑念を抱く。
「……いや、あの女性ではないかもしれない」
だが、足を進めると、例のあの臭いが漂ってきた。
確信はないが、拭いきれない違和感。
「すみません……(Excuse me)」
女性が立ち止まる。その瞳の虹彩は灰色で、肌は死人のように白く、唇だけが異常に赤かった。
マヨラは息を呑む。
なぜなら、呼び止めた女性の少し先を、例の少女が平然と歩き去っていくのが見えたからだ。
「……何か? あなたは誰?」
女性が問いかける。だが、マヨラの意識は先を行く少女に釘付けだった。女性が再び問いかけると、マヨラは我に返った。
「あ、すみません。あなたと同じ服を着た女の子を探していたんです……」
女性はいら立ちを見せながらも、そのまま歩き去っていった。
「バカね……(Fools)」
捨て台詞を残して彼女は消えた。マヨラはしばらく呆然と立ち尽くしていたが、ハッと気づいた時には少女の姿も見失っていた。
マヨラは踵を返し、歩き始める。あの臭いも消えていた。
全力で走ったせいで足が痛む。
マヨラは多賀谷に電話ですべてを報告した。多賀谷はすぐにアパートへ戻るよう指示し、マヨラは重い足取りで帰路についた。
その頃、多賀谷は渋谷エージェンシーの岡入警部に電話をかけ、状況を伝えていた。
家に向かっていたマヨラの足が震え始める。目の前に一台の車が止まり、ドアが開いた。最初は戸惑ったが、窓が下がるとそこには多賀谷の姿があった。マヨラは車に乗り込む。
「……どうだった?」
多賀谷が尋ねる。マヨラは目をこすりながら答えた。
「最悪です……」
多賀谷はマヨラが不満を漏らすだろうと察していた。
「いいか、マヨラ。拳を叩き込むには、まず拳を固めなきゃならん(準備が必要だ)」
マヨラは多賀谷を黙って見つめた。
一行は渋谷に到着する。そこにはすでに岡入が待っていた。
「ウィッシュマスター(WishMaster)から連絡やメッセージはあったか?」
多賀谷はその問いに首を横に振る。
マヨラが車を降りる。岡入の視線はマヨラに注がれていた。マヨラを外で待たせ、多賀谷と岡入は密談のためにホテルの部屋へと入った。
多賀谷はまず水を一口飲み、本題に入った。二人は向かい合って座る。
岡入が多賀谷の前に、数枚の書類と紙片を並べた。
「見ろ、ここにある3つの銃。我々が持っているものと同じだ。以前、ゴラリを仕留めるために使われた。……これらには数億円の価値がついている」
多賀谷はその事実に言葉を失った。手が震え始める。
外で待っていたマヨラは退屈しのぎにホテルの外へ出て、あてもなく歩き始めた。
その時、またあの臭いが漂ってきた。マヨラはハッとして周囲を見渡す。あの少女のことを考えるが、今回は……何かが違っていた。




