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Say my name.  作者: 雷仙キリト


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7/13

2-3

 今日も今日とて俺はスミレを学校に送り届け、息も絶え絶えになりながら来た道を戻っていた。


 疲れのあまり、頭がクラクラする。坂道を降りながら、今日はちょっとヤベェかも、と思った。昨晩睡眠時間を削って新作のゲームに熱中していたせいで、寝不足なのだ。


 ええ、ええ。完全に自業自得ですとも。でもさ、ずっと狙ってたゲームがセールで安売りされてたら、そりゃ買うしやるだろ。


 こんなことならちゃんと寝ればよかった。そんなことを思いながら、ふらふらと歩く。


 足が地に着いていないような浮遊感。目の前が白くなり、ヤバいと思った俺は咄嗟にしゃがみ込んだ。自転車が音を立てて倒れる。


 通りすがる人は、いつものように俺を見て見ぬフリをして通り過ぎていく。おい、ちょっとくらい、助けてくれる人がいたっていいんじゃないですかねえ。今助けてくれたら我が家の有名人紹介してやるぞ、なんて。そんなわけないけど。


楓太(ふうた)!」


 名前を呼ばれ、顔を上げる。視界が白くボヤけているが、楓太、と俺の名前を呼ぶのは家族以外には現状一人しかいない。


 姉ちゃん達はいないんだから、わざわざ、下の名前で呼ばなくたっていいだろ。なんて言ったこともあったが、「呼びたいように呼んでるだけだ」と返されてしまった。


 それが、半月前のことだ。


 俺は、自分の数倍イケメンなこの男に絶賛ストーキングされている。アヤメのアドバイスには乗るなと忠告したにもかかわらずだ。

 俺のこれまでの言動から勝機を見出し、猛攻撃を仕掛けることにしたらしい。


「楓太、大丈夫か? 顔色が悪い」

「へ、へーきへーき。ゲームのやり過ぎで寝不足なだけだから。しばらくうずくまっときゃ治る」


 語尾には「と嬉しいんだけど」が付く。俺ってば病弱らしく、寝不足だとすぐに体調崩すし、その上長引くのだ。


「車で送っていく。家に帰る?」

「んー……学校行くよ。まだ姉ちゃんいるだろうし、心配かけたくねえ」

「分かった。ちょっとでも悪化したら、保健室に行けよ」

「おう……」


 陽影(ひかげ)は自転車を軽々と持ち上げ、車のトランクに詰め込む。肩を貸されながら後部座席に乗り込み、今や顔見知りとなったお手伝いさんに挨拶をする。


「学校に着くまで眠ってろ。少しはマシになる」

「……分かった」


 頭を撫でられ、言われた通りに目を閉じる。


 こいつの言うことに従ってしまう俺自身も、何を考えているのかさっぱり分からん。


 こういうところがチョロいって思われてんのかなあ。



 着くまで、と言っても5分くらいのことで、だけど5分間目を閉じていただけでも、だいぶ気分はよくなった。

 心配そうな眼差しを受けながら下駄箱まで辿り着き、自分の上履きが置いてある場所を覗き込む。


「……っ」


 やはり、そこには予想通りの惨状が広がっている。唇を引き結び、笑みの形を作る。


「ははっ……うーわ、これまたなんつー情熱的な」


 その情熱をもっと別のベクトルに向けてほしいぜ。下駄箱にはラブレターと相場が決まってるだろ?


 上履きを掴みひっくり返すと、出てくる出てくる。大量の画鋲が。ここまでくると怪我をさせる目的というよりは、とにかく敵意をアピールしたいんだろう。


 陽影が画鋲をひとつひとつ丁寧に拾い上げる。その所作は無駄がなく美しい。図らずもこいつと過ごした時間が長いせいか、無表情の中に明らかな怒りを感じる。

 美人は黙っているだけでも怖いのだから、怒れば尚更恐ろしい。敵には回したくねえな。


「陽影」

「……」

「ひかげ。俺は大丈夫だから」


 もう慣れてる。取ってつけたように言えば、男の眉間に刻まれた皺が深くなる。


「姉ちゃん達には絶対に言うなよ」


 陽影は顰めっ面で辺りを睨みつけた。どこかで、人影がサッと動くのが見える。俺の視界が捕らえたのは物陰に隠れる瞬間のスカートだった。


 女だ。恐らく。女に罪を擦りつけるために女装する手の込んだ大馬鹿野郎でない限りは、この画鋲はそいつが仕込んだんだろう。


 俺ってば、平凡な癖に無駄に学校で名が知れているのだ。しかし、悲しいかな。親にひっついて引っ越しまくっていた数年前の方が友達は多かった。

 

 姉ちゃん達目当てで近づいてくる奴は全員遠ざけた。男は割とあっさりと引いていったが、女子は割と粘着質な奴が多く、こうして八つ当たり気味に報復を受けている。それでも1年前は陰口を叩かれるのが殆どで、ここ最近悪化した。陽影が俺に付きまとうようになってから。


 よくあるイジメだ。靴に画鋲仕込まれたり、物隠されたり、トイレ入ってたら上から水が降ってきたり。お嬢さん、男子トイレに入ってくるのはセクハラっすよ。訴えるぞ! ついでに陽影、お前もストーカーの罪で訴える。


「その画鋲、どうすんの?」

「証拠としてとっておく」

「証拠って?」

「……」


 陽影はそれ以上は何も言わなかった。靴の中を確認して、画鋲がそれ以上入っていないことを確認すると、俺の足元に跪く。


「履いて」

「いや、恥ずいんだけど」

「いいから、履いて」

「……はい」


 靴を差し出され、そろそろと足を突っ込む。サイズはぴったりだ。当たり前だろ、俺の靴なんだから。


 片足を履き終えると、今度はもう片方の足。そうして両足を履き終えると、陽影は何事もなかったみたいに俺の隣に並び立つ。


 制服の片膝が汚れていることに微かな喜びを感じてしまう俺はおかしいのかもしれない。


「お前……」

「何?」

「いや、なんでもない」


 シンデレラの王子様みたいだな、なんて言えば、俺のことが好きでたまらないらしいこいつは調子づくだろうから、言わないでおく。


 こいつ、何で俺なんか好きなんだろうな。


「体調は?」

「大丈夫だって。つか、本当に自業自得だから。そんなに心配されると逆に恥ずい」

「でも、調子が悪いことに変わりはないだろ」

「もう治った」

「本当に?」

「……ほんと、ほんと」

「今、間があったな」


 手を差し伸べられ、危うくいつぞやの姉ちゃんのように姫抱きにされかけたので、俺は慌てて逃げる。


「楓太!」


 追いかけてくる陽影に俺は笑いかけた。


「心配してくれてありがとな! 昼飯、後で一緒に食べような!」


 こう言えば、それ以上文句は返ってこないことは分かっていた。


 俺もこいつの扱いには慣れたもんだぜ。

次の話は3月12日 17時10分更新します。

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