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俺が陽影を友達と認めてからも、陽影の態度は変わらなかった。
スミレを学校まで送り届けた後にしれっと現れて「乗ってくか」なんて言うのも(だったらせめて家に来てくんねえかな。自転車って結構体力使うんだけど)、手製の弁当で食べさせ合いっこを強要してくるのも、向こうが休みの日には遊びに誘われるのも、相変わらず。
あ、それから、たまに俺の勉強の面倒を見てくれるようになった。学校では目立つし陽影の家に向かうのはハードルが高いので、俺の家で。外国暮らしが長いこいつが、長い脚を折り曲げて慣れない様子で正座をしているのを見るのは楽しい。
頭がいい奴は教えるのが下手くそなんて話も聞くが、こいつに限ってはそんなことはなく、非常に分かりやすく教えてくれる。
残念ながら、「分かりやすい」ことと「理解できる」ことの間には大きな隔たりがあるのだけど。教科書を睨み、陽影の説明に首を傾げながら、俺は少しずつ、公式やら年表やらを頭に詰め込んでいく。んで、詰め込んだ先からぽろぽろと失っていく。
「前それ教えたはずだけど」と言われて「あれ、そうだったっけ?」なんて惚けて。陽影が呆れたって顔しながら、何度も根気強く同じ説明をしてくれるのが俺は嬉しい。
顔も頭もよけりゃ声もいい、ここまで来れば笑えてくるくらいイケメンなこの男が俺は結構好きなんだ(もちろん友情的な意味で)と気がついたのは、出会って1ヶ月くらいの時だった。
そりゃ、最初は嫉妬したよ。こいつは俺が努力で積み上げてきたことを全てサラッとやってのけちまうし、努力ではどうしようもないものの殆どを備えている。
俺が殆ど作ったハンバーグを陽影が作ったものだと勘違いしたアヤメを、いつも俺の自転車で学校まで行くくせに、嬉々として陽影の車に乗り込んだスミレを恨めしく思った。
俺の「役目」を奪っていく陽影という存在が、脅威に感じられた。
でも、何だろう。こいつ、悪い奴じゃねえんだよな。
弁当を全部作ってくるんじゃなくて互いに食べさせ合うという形式にしたのも、スミレを送ってから登場すんのも、陽影なりの奇妙な気遣いなんだろう。なんつーか、根本的なところでおかしいけど、それが帰国子女だからか元々の性格なのかは分からないけど、おかしいなりに俺に優しくしようとしているのが伝わってくる。
普通に立っているだけで人が寄ってくるこいつが、自分の意思で俺に「友達」として接そうとしてくる、その不器用さが段々と可愛らしく思えてきちまった。
俺さ、飢えてんのかな。親の仕事についてって転校してばかりの頃は、だからこそ友人を多く作ろうって躍起になってた。どこに行ってもそれなりに人と仲よくはできたけど、それでも引っ越した後も連絡を送ってくれる奴なんて殆どいない。
悪く言うつもりはないんだ。向こうだって、たぶん俺から連絡したら以前のように返事をしてくれるだろう。ただ、一度物理的に距離が離れちまうと互いに妙に奥手になっちまって、「今も友達って思ってんのは俺だけかな」とか「迷惑になんねえかな」とか思ってしまう。そうしているうちに段々と心の距離も離れていって、次第に思い出すこともなくなる。
この学校に来てからはご存じの通り周囲から浮いていて、友達なんてできるはずがなかった。だからさ、久々にできた友達って存在に、それも男に、俺は縋りついてんのかもしんない。
たとえ陽影のせいで嫌がらせが悪化したとしても、俺はもう陽影から離れるという選択はできなかった。悪いのは嫌がらせしてくる生意気な奴であって、陽影じゃない。それは俺も分かっているから、陽影に文句をぶつけるつもりもなかった。
もしかすると、陽影に精神的にべったりなのは俺の方なのかもしれない。
次回の更新は3月20日 17時10分投稿予定です。




